地下に降る日の光アジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
5Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
27万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
08/10〜08/12
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●本文
「英雄とは、戦争が終わったら恐怖の対象となる――‥」
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強い者が支配した世界を救った三人の勇者が存在した。
しかし、世界が平和になった後‥彼らの消息を知る者はいない。
※※
世界が平和になってから数十年が経ち、黒い暗雲を率いて新たな支配者が現れた。
そして、その支配者に姉を殺された少年は‥かつての勇者の居場所を突き止め、再び世界を救うようにと懇願した。
「お前は何も分かっちゃいないな」
一人の男性が剣の切っ先を少年に向けながら低い声で呟く。
「そうね、分かっていないわ」
男性に賛同するように女性も頷きながら呟いた。
「あたし達は魔物と契約、あるいは聖霊と契約して『人』を捨ててまで世界を救った」
奥から少年と変わらぬ程度の少女が現れる。
「‥けれど、世界を救った後‥お前達人間が俺たちに何をしたと思う?」
「え――?」
突然問いかけられ、少年は困惑しながら男性達を見比べる。
世界を救ったのだから、きっと色々な人に誉められて、沢山のお金を貰ったんだろう。
少年の答えはそれだった。だけど、お金を沢山貰っていたならもう少し良い場所に住めばいいのに‥と貧乏臭い住処を見ながら心の中で呟いた。
「ワインを貰ったわね、毒入りワイン」
「その次は刺客が送られて来たな」
「とどめは俺達が帰る場所を焼き払ってくれたな」
勇者達の口から語られる残酷な事実に少年は「‥え?」と顔を蒼くしながら答えた。
「お前らは世界が平和になって終わり、とでも思ってたんだろ‥あれから三十年‥俺達は毎日を怯えながら過ごしていたよ」
男性は「分かったら帰れ」と剣を少年の顔の横、壁に突きたてながら叫んだ。
「大人しくお帰りなさい、私達は世界を救う気はさらさらないわ―――‥むしろ滅んでしまえばいいのよ」
「そう、あたし達の最大の汚点は世界を‥お前等を救ったことだ、死にたくなければ帰れ!」
少年を突き飛ばしながら少女は叫び、住処のドアを固く閉ざした。
勇敢に語られてきた勇者達の伝説‥その裏には残酷なもう一つの語られざる悲劇が存在していた――‥。
さぁ‥どうやって世界を救う?
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●募集事項
◎映画「地下に降る日の光」では出演者を募集しています。
◎今回の話に必要な必須配役は以下の通りです。
・OPの少年(必須/男性一名)
・勇者の男性(必須/男性一名)
・勇者の女性(必須/女性一名)
・勇者の少女(必須/女性一名)
※勇者三人は魔物・聖霊と契約している為、年をとることがありません。
◎話は白紙状態です。決めることが沢山ありますが、皆様で良い話にしてくださいませ。
◎何か質問がありましたらユリアナに聞いてください。
(その際は別スレをたてていただけると有難いです)
●リプレイ本文
●始まり――‥英雄なんて肩書きはいらない
世界を救うには再び勇者の力を借りなければならなかった‥。
だけど‥僕・デフィエ(大海 結(fa0074))は知らなかったんだ‥、世界を救った勇者達があんな酷い目にあっていたなんて‥。
再び世界を救ってくれ、そう頼んできたデフィエに勇者達は冷たい表情と言葉で少年を突き放した。
「‥アンタ、まだいたの」
住処から出てきたキリア(千音鈴(fa3887))がデフィエを見ながら呟く。
「何時までいても考えは変わらないわ、無駄な事はやめるのね」
そう言ってキリアは住処へと戻って行った。
「‥そうよ、考えは変わらない‥こんな世界など滅びてしまえ」
忌々しげに呟くキリアの影から、彼女が契約している魔物・メルダ(エルティナ(fa0595))が湧き上がるように姿を現した。
「キリア‥昔の貴方は弱き者を見捨てるようなことはしなかった‥」
メルダの言葉に「じゃあどうすればいいのよ!」とキリアが少し声を荒げる。
「昔、世界を救った私達は何をされた?命を狙われ、帰る場所すら焼き払われ!今度世界を救ったら私達は何をされるって言うの!」
息を切らすキリアに「落ち着け」と同じ勇者のエラン(希蝶(fa5316))が彼女に話す。
「相変わらず人間って言うのは勝手な奴らだね‥ねぇ、どうしてあんな子供を此処に招きいれたの?」
エランと契約している聖霊・サラン(真紅櫻(fa4961))がエランに問いかける。
「新たな支配者が現れたんだってさ、ホントに勝手な奴ら‥」
奥の部屋からもう一人の勇者・イリス(ベス(fa0877))が答えながら姿を現した。
「そうだ‥良い事を思いついたわ――‥世界を私達が支配すればいいのよ‥」
キリアの言葉にエランが「そうだな‥」と暫く考え込んだ後に小さく呟いた。
「世界を救う気など、さらさらないが自分達が支配者になるってのは良い考えだな」
「待って‥キリア、お願い‥どうかこれ以上貴方が傷つくような事はやめてちょうだい‥」
メルダが縋るようにキリアに呟くが「もう、嫌なのよ」と消え入りそうな声でキリアは答える。
「こんな場所でひっそりと隠れて暮らす事に耐えられない、私達が何をしたって言うの?メルダ、私と一緒に来たくないなら‥構わないわ」
キリアの言葉が本気だと言うことを悟り、メルダは「分かったわ‥」と短く言葉を返す。
「貴方が望むのなら‥望みのままに私の力を貸しましょう」
キリアに向かって跪くメルダに「そ、宜しくね」と笑顔を見せた。
「お前はどうするんだ?」
キリアとメルダの二人を見て、エランはサランに同行するのかを問いかける。
「私は行くよ、別にエランたちが何をしようと構わないから」
白い着物のような服を翻し、サランが答える。
「イリス、フィリア(あずさ&お兄さん(fa2132))はどうするんだ?」
「もちろん、一緒に来てもらうよ‥契約した聖霊や魔物はあたし達の数少ない理解者だからね」
イリスは答えると契約している聖霊・フィリアを呼び出した。
「フィリア、世界の支配者を倒しに行くけど‥一緒に来てくれる?」
イリスの言葉にフィリアは心から嬉しそうな表情を見せた。勇者に救われたはずの『世界』からの裏切り行為に深い悲しみを抱きつつ、今まで勇者達を見守っていた。悲しみ、絶望した彼らが再び『勇者』として動き出す事が嬉しかったのだ。
「わ‥」
突然、住処の扉が開いて聖霊・魔物を連れた勇者達が姿を現した。
「あの――‥酷いことをされたのは分かるけれど‥でもどうしてもお願いします!」
懸命に頭を下げるデフィエに「いいわ」とイリスが言葉を返した。
「え?」
「気が変わったわ、支配者を倒して仇を取ってあげる」
本当に、とデフィエが嬉しそうな顔をして「だけど」とイリスが言葉を続ける。
「変な気を起こして後であたし達をコロそうなんて思わないことね」
やはり信用できないのか、念押しするようにイリスが呟いた。
●支配者――‥それは人間が生み出した悲しき者たち
俺・グレン(烈飛龍(fa0225))の知っている勇者達はいつでも輝いていた。
その姿に憧れ、焦がれ、子供ながらいつか自分も勇者達のようになろうとしていた。
だが――‥真実はどうだ?
自らの保身の為に、味方すら裏切る――そのような世界の何処に大儀がある?
このような世界など―――‥滅びてしまったほうがいいのだ。
蜜柑の籠の中、一つでも腐ったものがあれば、それは伝染する。全てに伝染した時には既にどうしようもなく、全てを捨てるしかないのだ。
「だから‥この世界も一度なくなればいい」
グレンが小さく呟くと「その通りです」と支配者・アゼル(弥栄三十郎(fa1323))が狂気染みた声で話しかけてきた。
「世界が姉に何をしたのか、私は決して忘れません」
そう、アゼルは勇者の一人・キリアの実弟である。姉達に起きた悲劇を知り、彼は世界を呪い、何も出来なかった無力な自分を呪った。
そして血の滲むような努力をして今の力を手にした。
「そういえば‥何者かがアゼルを倒す為に立ち上がったと報告を受けているが‥」
グレンの報告に「勇者気取りですか」と冷たい口調で答えた。
「私達を倒し、その勇者達はどんな目に合うのでしょうね。ククク‥脆き正義などかざすと姉上のようになる‥」
アゼルは空を見上げ、自分を打ち倒そうとする者がやってくるのを居城にて待つことにした――‥。
●誰が悪かったのか、誰を憎めばいいのか‥
「あんたの姉さんってどんな人だったの?」
イリスがデフィエに問いかけると「‥優しい姉さんでした」と涙混じりの声で呟く。
「ユリ(ユリアナ・マクレイン(fz1039))って言って‥いつも優しくて、正義感が強くて‥なのに――」
ぐっと唇を噛み締めるデフィエに「莫迦らしい」とキリアが呟く。
「優しい?正義感が強い?そんな人間だから早死にするのよ、いい事を教えてあげる。世界はそういう人間を嫌うのよ―――私達みたいにね」
ふん、そう呟いてキリアは先を急ぐ。
「お願い‥気を悪くしないで‥キリアも裏切られる前までは優しく、自分よりも他人を優先する子だった‥世界が彼女達にした仕打ちが彼女達を変えてしまったのよ‥」
メルダは寂しそうに呟く。その言葉に「相変わらずだね、メルダは」とサランが可笑しそうに答えた。
「人間は臆病だからね、少しばかり強い奴がいると怖いんだよ、だから魔物とも聖霊とも相容れることがない、素敵だよ、人間」
「サラン」
あはは、と笑うサランを止めるようにエランが彼女の名を呼ぶ。
「何さ、エランだってそう思ってるんじゃないの?良い事教えてあげるよ、少年」
サランがデフィエに向き直りながら呟く。
「世界が平和になる一番の方法は人間がいなくなる事だね、人間だけなんだよ、他の種族を認めようとしないのはさ、人間がいなくなれば世界は絶対に平和になるね」
「サラン」
エランが今度は少し低い声で呟く。それを見て「怖い怖い」と言ってサランはスッと姿を消したのだった。
「あの‥貴方もそう思ってるんです‥か?」
デフィエがエランに問いかける。
「さぁな―‥ただ、人間がいなければ俺たちはこんな目に合う事もなかっただろうな」
エランの否定のない言葉にデフィエは悲しそうに下を俯いてしまう。
「本当は‥僕自身で姉さんの仇を取れたら‥って思うけど‥出来ないから‥」
だから支配者を倒してください、心からそう願う少年にエランはかつての自分を思い出しそうになった。
自分達にもこんな時があった――‥悪を憎み、世界の為に戦う、それが正しいことだと思っていたけれど、そうじゃないんだ‥エランは心の中で呟くと支配者の居城を目指し歩き出した。
●三十年ぶりの再会――討たれる側と討つ側として
「此処が居城ね、どうして支配者の城っていつも悪趣味なのかしらね」
イリスが呟くとキリアとエランも苦笑して「確かに」と納得するような言葉を呟いた。
「此度の勇者はどんな者かと思っていたら‥貴様らか‥」
階段の上から勇者達を見下ろすのはアゼルの腹心・グレンだった。
「この世界を憎んでいるはずの貴様らがアゼルを倒しに来るとは‥滑稽だな」
「‥‥‥アゼル?」
キリアが聞きなれた言葉に眉を顰めながら問い返す。
「勇者・エラン、俺が最も焦がれた剣士よ!手合わせ願おうか」
漆黒の甲冑を身に纏い、大剣を携えながらグレンの前に立つ。
「エラン――‥」
「此処は俺が引き受けた、お前達は支配者の所まで行け――コイツを倒してから俺もすぐに行く」
サランとの契約の証である翼を出しながら「サラン、行くぞ」と呟く。最初は白かった翼も絶望に満ちた今では鈍い闇色をしていた。
「援護は任せてよ」
グレンとエランが戦いを始めると「すぐに来なさいよ」とキリアが呟き、イリスと共に城の最上階を目指した。
途中で色々な敵と遭遇したが、かつての勇者達に敵うはずもなく難なく最上階まで辿り着くことが出来た。
「‥やっぱりアゼルってアンタの事だったのね」
最上階で待ち構えていた支配者・アゼルの姿を見てキリアは「老けたわね」と淡々とした口調で問いかけた。
一方、アゼルの方はといえば「何故貴方なのだ!」と憤怒したように叫んだ。
「部下からの報告を受けてまさかとは思ったが‥」
「部下?あぁ‥下にいた雑魚たちの事?あんな弱い奴らが部下だなんてアンタの力も高が知れるわね」
キリアが嘲るように言うと「いつまで‥」と言葉を紡ぎだす。
「いつまで勇者などという偽善に縛られておいでか!己が命を賭けるべきものなど、この腐りきった世界にありはしないのに!何故その事に目をお瞑りあるか!姉上!」
アゼルが叫ぶとキリアはけたたましく笑い出した。
「聞いた?イリス、勇者の名に縛られているですって、縛られているのは人間達でしょうに」
キリアの言葉に「冗談じゃないわね」とイリスも忌々しげに呟いた。
「勇者の名に興味なんてないわ―――私は世界が欲しいだけ。もう隠れて暮らすのは沢山なのよ、だから――消えてちょうだい」
魔法と剣術を使うキリアはメルダを呼び出し、自分に力を貸すように呟いた。
「キリア、本気なの?貴方の目の前にいるのは‥かつて貴方が守りたいと願った家族でしょう?」
「メルダ、私は世界が欲しいのよ――自分達のために――三十年、長かった‥その間にアゼルが私に何をしてくれたと言うの?」
かつて、アゼルは大国の宮廷魔術師であったが王を裏切り、腹心・グレンと共に国を乗っ取ると暗黒魔法と異界から召喚した魔獣を駆使して世界を手中に収めた。闇の力を使う事から己の事を『闇王』と呼んで、人間達から畏怖される存在となったのだ。
「この三十年、アンタに何があったのかは知らない。アンタも私達のことなんか分かりっこない――――お前も魔物と契約し、私を助けてくれたらよかったのよ」
そう呟いてキリアはアゼルに向かって攻撃を始めた‥。
●かつて憧れた・焦がれた勇者との戦い――それは彼に何を与えるのか
「三十年という時間が貴様の力を退化させているのだな!動きが鈍い!」
キン、と剣と剣がぶつかりあう音を響かせながらグレンがエランを嘲るように笑いながら叫ぶ。
「エランに‥怪我させるなってば!」
風の魔法を駆使しながらサランがエランの手助けをする、確かにグレンの言う通りかもしれない、三十年という時間は戦士にとって衰えさせるには十分すぎるほどの時間なのだから。
「こんなものか!俺が憧れた勇者というのは!平和ボケしているのは貴様らの方ではないのか!」
グレンは剛の者であり、激しい攻撃にエランも押されつつあったが‥激しい攻撃というのは単調なものが多く、見切るのにさほどの時間は掛からない。
その証拠に押されつつあったエランがグレンに攻撃を仕掛けるようにまでになっているのだから。
「‥お前の剣は熱を放つほどに熱いな、だが俺の心の氷は‥この程度では消せやしない‥何故なら‥絶望という名の氷なのだからな!」
ガキン、とエランの剣がグレンの剣を押す。
「‥‥そう!これでなくては!この強さ!これこそが幼い日に恋焦がれたエラン殿の力!もっと、もっと、この俺にその力を見せてくれ!」
互いの剣が互いを貫く、グレンの剣はエランの肩を――、そしてエランの剣はグレンに致命傷を与えた。
「‥後悔はない。アゼルと共に国を滅ぼしたその時から‥死は覚悟している、まさかこんな‥形、で‥死を、迎えるこ、とが‥」
本望だ、最後にグレンはそう呟いて死んでいった。その顔は何故かやり遂げた戦士の顔だった。
「動ける?きっと上では戦いが始まってる、強い力のぶつかり合いを感じるよ」
サランが呟き、エランも「急ごう」と答えて二人は最上階へと向かっていった。
●姉と弟の戦い、そして――
「火の玉がいい?それとも雷の魔法がいいかしら?」
両手に雷と炎を繰り出しながらイリスが楽しげに呟く。そしてキリアも魔法剣でアゼルに斬りかかる。
「おのれ‥いつまでも幻想に縛られし愚者共!その思いを抱いたまま滅せよ!」
魔物を召喚し、禁術を放てる状態のままアゼルは吼える。
かつては家族を・世界を守りたいと願いながら戦った女性・キリア
そして姉の復讐の為に闇へと足を踏み入れた男・アゼル
「何を間違ってしまったのだろう‥」
実の家族同士が討ち合う姿を見てメルダは悲しそうに目を伏せる。けれどどんなに悲しくても自分だけはキリアを裏切ってはならないと言う思いから、メルダは彼女に力を貸し与え続ける。
「安心して死になさいな、世界は私達が支配してあげる」
キリアが妖しく笑み、魔法で力を強化した剣でアゼルを貫いた。世界の支配、それこそが彼女の心を救う唯一の手立てだという事を知ったアゼルは「我事成れり」と呟き、満足そうに塵へと還っていった。
アゼルの塵が風に舞い、無くなった頃にエランが最上階に到着する。
「戦いは終わったんだね」
サランが呟き「出番がなかったな」とエランも苦笑した‥。
●告げられた真実・打ち砕かれた心
「ありがとうございます!」
アゼルを倒した後で、デフィエが満面の笑みを浮かべながら勇者達に近寄った。
「これで姉さんもうかばれます‥本当にありがとう」
涙を流しながらお礼を言うデフィエに勇者達はけたたましく笑い出した。
「俺たちがアゼルを倒した理由は只一つ、この世界を支配する為だ」
え、とデフィエは表情を凍りつかせ三人の勇者達を見比べる。
「そんな‥皆の為にしたんじゃないの?嘘‥だよね」
問いかけるが三人の表情は真剣そのもので「酷いよ!」とデフィエは泣きながら叫ぶ。
「酷い?冗談じゃないわ!世界を救った時はあたしたちをコロそうとしておいて、新たな支配者が現れたら、またあたし達に泣きつく。また利用されるくらいならいっそ世界を支配してやる!」
イリスが叫び、デフィエは驚きで言葉が出なかった。
そしてデフィエと同じように驚いていたのが、イリスと契約しているフィリアだった。
「死にたくなければ此処から立ち去りなさい、今だけは命を見逃してあげる」
剣の切っ先をデフィエに向けながらキリアが呟く。デフィエはあまりの出来事にその場から逃げ出すように立ち去った。
「どうして‥?」
イリスに問いかけるのはフィリアだった。
「あの少年はあなた達を信じていた‥‥それなのに、どうして?誰よりも人に裏切られる辛さを知っているはずの貴方がどうして‥‥‥?」
フィリアの言葉を聞き、少し冷静さを取り戻したイリスは自分がしたことの恐ろしさで身が竦んだ。
自分達がした事、それと人間達がした事、どこが違うというのだろう?負の感情に身を任せすぎてイリスはそんな簡単なことすら分からないほどに激昂していたのだ。
「‥キリア、エラン、やっぱり世界を支配なんてやめよう?こんな事しても人間達は‥」
イリスの言葉に「何を言ってるんだ」とエランが怒りを露にして呟く。
「もう、遅いんだよ」
「そうよ‥私達はもう勇者ではない、ただの‥共犯よ」
あくまで考えを変えない二人にイリスは力ずくで考えを改めさせようとするが、力を仕えないことに気づく。
「‥フィリア‥?」
気がつくとフィリアとの契約の証も消えており、フィリアの気配すら感じることは出来なかった。
「どうして‥どうしてなの?フィリア‥あなたの力を支配の為に使ったから‥‥?」
何処にいるの、やや虚ろな瞳でイリスはフィリアを探す。
しかし、もう既に後戻りできない所まで来ているのだと彼女は知る由もなかった。
●そして‥全ては繰り返す‥
「キリア‥ごめんなさい‥私のせいよね?私が貴方と契約を交わさなければ貴方がこんなにも傷つくこともなかったのに――‥」
泣きながらキリアに呟くメルダに「何を言ってるのよ」とキリアは笑って答えた。
「これで私達を迫害する奴らがいなくなる、正義で人の心は掴めない、恐怖こそが従わせる唯一のすべなんだから」
そう言って笑う彼女にかつての優しい笑顔は存在しない。
「ごめんなさい‥どうか、出来る事なら昔の優しい貴方に戻って‥‥‥」
そう呟いてメルダはキリアの前から姿を消した。
しかしフィリアのように契約を破棄せずに姿だけを消したのは、彼女なりの優しさだったのだろうか‥。
「何で、何でメルダまで私を裏切るのよ!何で――――っ!!!」
「お前もいなくなっていいんだぞ」
自分と契約しているパートナーを失った二人を見て、エランはサランに小さく呟いた。
「俺たちはもう分かってるんだ、これが正しいことじゃないって‥だけど、他にどんな道を選べたんだろう?この道しか俺たちには残されてなかったんだ」
遠くを見つめながら呟くエランを見て、サランは悲しそうに目を伏せる。
「エラン‥エラン‥どうして、キミがそこまで人間に傷つけられなければならないの?」
サランはエランの導き出した答えに従っていたが、傷ついていく勇者達を見て人間の存在に悲観していく。
「あんなの勇者なんかじゃない‥」
あれからデフィエは自分が住む村に帰ってきた。確かに魔物たちの攻撃はなくなったが、かつての勇者達がいつ攻撃を仕掛けてくるかと思うと、怖くて夜も眠れなかった。
だけど、彼らが支配するようになって、彼らの話は聞かなくなったな‥と心の中で呟く。
しかし、あんな冷たい目をした彼らなど今後どうなっても関係ないと思い、怖さを紛らわすように無理矢理に目を閉じて眠りに落ちた。
「やはり歴史は繰り返すのでしょうか‥‥いえ、きっと今度こそは‥」
同じ結末を迎えてもフィリアは一筋の希望を抱いて、新たな『支配者』から世界を開放する『勇者』を探す旅に出ていた。
ただ一途に信じている、それだけがフィリアの心にあるものだった。
これより数十年後――新たな勇者が立ち上がり、支配者から世界を開放する為の旅に出る人間が存在した。
歴史は繰り返すのだろうか?
今度は彼らが討たれる側として―――。
きっと、それはまだ誰も知らない事――‥。
END