夢幻×動物×月アジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
12.7万円
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参加人数 |
9人
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サポート |
0人
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期間 |
09/08〜09/10
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●本文
時空が混じり『ありえるはずのない場所』へと連れて来られた者たち‥。
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これはありえるはずがない物語――‥
『夢幻界廊』
『動物使い』
『LUNA』
この3シリーズの住人達が異空間『無』に呼び寄せられ、現実世界から隔離されてしまった。
「皆様、お初にお目にかかります‥私―‥ナナキと申します、我らがご主人の為にあなた方は此処で果てていただく事になります」
「な――っ‥」
突然の言葉に連れられて来た者たちは驚きで目を見開いた。
「なお、別に監禁するつもりはありませんので自由に部屋から出ていただいても結構です―――ですが、此処の造りは迷路のようになっていますので迷う危険が高いです」
迷いたくなかったら大人しくしていてくださいね、ナナキはそういい残してドアノブに手をかけた。
「迷うだけか、特に危険性はなさそうだ」
一人の男が呟くと「あ、言い忘れておりました」と立ち止まり、振り返りながら続きを話し始める。
「此処には多くの怪物が飼われています、ほとんどが肉食凶暴ですのでお気をつけ下さいね」
突然連れられた異空間『無』
此処から脱出するには全員が協力するしかない――?
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●募集事項
◎映画「夢幻×動物×月」では出演者の皆様を募集しています。
◎それぞれの映画で演じた役でも、新規役でも結構です。
◎ナナキが『ご主人』と呼ぶ者もNPCで対応できます。
※ナナキはユリアナが演じます。
◎何か質問があればユリアナに聞いてやってください。
(その際は別スレを立てていただけるとありがたいです)
●リプレイ本文
この話は決して知られる事のない物語――‥。
住む場所も何もかもが違う者達が集められ、そして戦う話――‥。
●邂逅‥相容れぬ者達が出会う時
「ふざけんなよっ!何が悲しくって夢喰い共と一緒に死ななきゃいけないんだよっ!?」
ドアを強く蹴りながら叫ぶのはアリス(真紅櫻(fa4961))だった。
どうやら、彼女の怒りの原因は『連れて来られた事』ではなく『夢喰いと一緒に殺られる』という事のようだ。その隣では泰牙(天霧 浮谷(fa1024))が頭を抱えながら「これは悪い夢だ」と唸っている。
「俺の不運も此処まで来ると‥ある意味才能だよな‥」
夢なのだと思い込もうとした泰牙だったが、頬を思い切り抓って夢ではないという事を知るとがっくりと項垂れ、現実逃避を諦めた。
「お前もいたのか‥」
ため息を交えて泰牙に話しかけるのは月鬼の朱櫻(ヴォルフェ(fa0612))である。
「き――さまぁ‥」
朱櫻の顔を見るなり、泰牙は突然表情を一変させる。月鬼なら『腐獣化』したのだと分かるが、他の人物にはそれが分からず「‥二重人格?」と哀れまれている。
「は、俺ぁ先に行かせてもらうぜ、月鬼と行動なんて胸くそ悪くて堪らないからな」
そう言って出て行こうとする泰牙を「待ちなさい」と呼び止めるのは朱櫻と同じ月鬼の朔夜(月 美鈴(fa3366))だった。
「こんなワケの分からない場所で単独行動を取るなんて危険だと気づかないのかしら?」
「フン!俺には腐獣がいるんでね、仲間なんぞいらん!」
そう言い残すと泰牙は部屋の外へと出て行ってしまった。
「アンタは行かないのか?」
泰牙が出て行った後、部屋内に残る腐獣・黒耀(ベイル・アスト(fa5757))に朱櫻が問いかける。
「彼女‥ナナキ(ユリアナ・マクレイン(fz1039))の言う通りに殺しあうのも構わないが‥此処は一つ、協力して脱出を模索するのは如何だ?」
黒耀の言葉に「確かに‥此処から脱出が最優先だな」と久樹(橘・月兎(fa0470))が口元に手を置きながら呟いた。
「泰牙とは考え方が違うのね」
朔夜の言葉に「夢だよ」と黒耀は短く答える。
「所詮は仮初、協力するのは此処を出るまでの話、泡沫の夢と同じだ」
黒耀の言葉に「‥なるほどね」と朔夜は呟いた。
「ちょっと落ち着いて状況を考えて見ましょう」
芙蓉(紅雪(fa0607))が椅子に腰掛けながら状況を冷静に分析し始める。
「状況を分析して考えると‥つまりアレね」
芙蓉はため息を吐き、言葉を続ける。
「此処で飢え死にするか、同士討ちするかで全滅しろとナナキは言いたいのね」
冗談じゃない、そう言って立ち上がったのは翠嵐(レイス・アゲート(fa4728))だった。
「大人しくしていろ、そう言われて大人しくしていられるかよ!行動あるのみだ!」
「私も翠嵐の意見に賛成ですね、此処で大人しくしていても状況は変わりませんから」
そうでしょう?と自分の主に問いかけているのは氷煉(ユフィア・ドール(fa4031))だった。
「何かいると思ったら‥動物使いに月鬼、そして腐獣かよ‥」
少し落ち着きを取り戻したのか、アリスが夢喰い以外に目を向けながら呟く。
「こんな所で死にたくないし、仕方ないから僕も手伝ってやるよ、感謝しろよ、お前等」
高飛車な態度で他のメンバーにアリスは話す、かなり上から目線だが他のメンバーは大人らしく耐えていた。
さて、こんな9人の脱出劇――‥どんな結末を迎える?
●迷宮‥出口の見えない迷路で迷う者達
「悪いわね‥貴方、好みじゃないの。それ以上近寄らないで!」
そう叫びながら『風』の能力で部屋の外にいた肉食凶暴な獣を吹き飛ばすのは芙蓉、吹き飛ばされた獣は外見に相応しい醜い声をあげながら壁へと叩きつけられた。
「あー、もう嫌‥」
気持ち悪い、芙蓉はそう言いながら手を叩く。それを見ていた朱櫻は「まだ腐獣よりかは可愛げもあるかな?」としみじみ呟いていた。
「腐獣?そういえば彼の事もそう呼んでいましたね?」
氷煉は黒耀に視線を向けながら問いかけた。
「黒耀は感染タイプで姿形は人間と何ら変わりはないよ、俺が言っている『腐獣』は自然発生タイプ、どろどろしていて結構見た目もグロいんだ」
へぇ、氷煉は呟きながら黒耀を見ていた。
「(それよりも俺はヤバいんだ‥明日の朝飯の準備を何もしていないんだよな‥)」
早く脱出しないと仕事を終えて帰って来た妻の反応が怖い。そんな事を考えていると背後から獣が一匹朱櫻へと襲いかかってきた。
「危ない!」
翠嵐が叫ぶ、しかし朱櫻は動じる様子もなく『影使い』の能力を使い、獣を影で攻撃する。
「まぁ‥ナナキの言う通り、確かに凶暴で獰猛ではあるが‥‥まだまだ動きも鈍いし、甘すぎるな」
影で獣の体を貫きながら「伊達に月鬼の名を語っているワケじゃないんでね」と呟いた。
「待て」
獣を倒した後に出口を探して動き出すメンバーに久樹が呼び止める。
「その角を曲がった所に二匹、其処から少し離れた場所に一匹‥どれも強いというわけではなさそうだ」
呟く久樹に「へぇ、凄いじゃん」とアリスが感心したように言葉を漏らした。
「確か目が見えなくなってる筈だけど、本当に見えないわけ?」
久樹の前で手を振りながらアリスが問いかけると「空気の流れや音で状況は把握できる」とアリスの手を払いながら答えた。
「そういえば泰牙は大丈夫かしら?迷ってなければいいけどね」
「大丈夫だろう、彼はアレでも腐獣だからな」
黒耀の言葉に「それもそうね」と朔夜は答え、先へと進み始めた。
(「それよりも‥あのナナキという女は『我らが主』と言うからには同様の存在が複数いるという事か‥?まぁいい‥その主とやらには存分に思い知らせてやるとしよう――‥甘く見すぎだとな」)
心の中で黒耀は呟き、浮かべる笑みは冷たく邪悪なものだった。
●迷宮‥出口の見えない迷路で迷う者・そして合流
「っつーか‥此処は何処だ」
一人、独断行動で部屋を飛び出した泰牙は‥他のメンバーの予想通りに迷っていた。連れて来られた場所はどうやら円形状の建物らしく、先ほどから同じ場所をぐるぐると回っている。
「さて‥どうしたものか―――な?」
呟いた後、不審な気配を感じて後ろを向くと‥口から涎をたらして唸る獣の姿があった。
「うげ‥何だよ、お前‥」
呟きながら泰牙は『穢れ纏い』の能力で腐獣を生み出す――のだが‥獣に泰牙が生み出した腐獣は簡単にやられてしまう。
「ちっ‥最近穢れを使いすぎたからな‥ストックがねぇのか‥」
舌打ちをしながら泰牙は自身が攻撃に向かうが、元来直接攻撃型ではないので獣に敵うはずもなかった。
「このままじゃ分が悪いな‥何とか生き延びろよ、宿主さんよ」
腐獣の泰牙はそう呟くと、自分の意識を主人格の意識下に隠した。
「‥へ?何で俺こんな所に‥いいいいっ!?」
ふと気がつくと、先ほどの部屋ではなく何処かの廊下、そして目の前には何故か自分を美味しそうに見る獣の姿。
「うおおおおおおおおっ!何で俺はこんなに不幸なんだああああっ!!」
叫びながら走る泰牙、その悲痛な叫び声に気がついたのか、目の前に立っていたのは黒耀と月鬼達だった。
「泰牙‥人間の方か‥?俺が行く、退け」
朱櫻が呟くと「人間?何の事だ?」と首を傾げた。
「力の差も窺えない獣如きが‥お前等こそ退いていろ、月の鬼共よ、貴様らの能力は戦闘特化と言うわけではないだろう?それに‥私も加減はしない」
そう呟き、黒耀は獣の前に立つ。
「総ては無の静寂に停止する―――砕け散れ」
黒耀は『霜穢の劫火』を獣に向けて発動させる。一応後ろにいる月鬼達、そして今日会ったばかりの夢喰いや動物使いが攻撃の余波を受けないように能力を調節する。
本来は敵同士だからどうなっても構わないのだが、今だけは『仲間』であるかるから仕方ない。
霜穢の劫火を受けた獣は瞬時に氷付けと化し、次の瞬間には崩れるように粉々に砕け散ってしまった。
「牙を向けたことを悔いながら死すがいい‥」
「すっげーな!何?超能力者なわけ?あんた、とにかく助かったよ!」
黒耀の背中をバシバシ叩きながら礼を言う泰牙に黒耀と月鬼以外の人間は疑問に感じていた。
「あの人、自分が腐獣だって言う自覚がないのよね」
朔夜が苦笑しながら呟くと「なるほど‥」と翠嵐が納得したように呟いた。
「とりあえずお前も死にたくないだろうし、一緒に来たらどうだ?」
翠嵐の言葉に泰牙はこくこくと首を縦に振った。
「夢とはいえ、死ぬのは嫌だし‥あぁ、どうか助けてください」
泰牙が呟いたその時――‥目の前に一人の男性が現れ「部屋から出たのか、馬鹿な奴らだ」と冷たい笑みを浮かべながら呟いた。
「俺の名はウナ‥我が主の為、此処でお前等の首を狩って主に献上するとしよう」
そう言ってウナと名乗った男はメンバーに攻撃を仕掛けてきた。
「か、かわいくない‥なんか、もう絶望的に駄目っぽい‥」
芙蓉がため息を吐きながら『風』の能力を使い、ウナに攻撃を仕掛ける。どうでもいいが、先ほどの獣より言葉が酷いのは何故だろう?と久樹は心の中で呟いた。
「だーっ!もうしつこいんだよ!お前等!次から次に湧いて出やがって‥俺、護るの苦手なんだぞ!」
ウナの攻撃から泰牙を『風』の能力で護りながら翠嵐が叫ぶ。
「人を生贄代わりにして力を得る‥ウチの馬鹿親父以外にもこんな馬鹿な真似をする奴がいたとはな‥」
他の皆には聞こえぬ程度の声で翠嵐が呟く。その表情はとても忌々しげなものであった。
「こんな事になるから俺は結界付きの部屋で閉じ込めておけといったんだ‥此処から出ようなどと無駄な足掻きをするからな!」
ウナは呟き、水を操り夢喰い達に攻撃をする。
「お前らが此処から出られては困るんだよ、俺たちが―――‥」
ウナは悲しげに呟き「いや、やめよう」と言葉を止めた。
「そう、お前らにどんな理由があろうと僕たちに関係ない―――五月蝿いし邪魔だし、いい加減‥僕の前から消えやがれ!」
アリスは火球を掌に出し、ウナへと投げつける。咄嗟の事でウナはそれを避けきれず、直撃してしまう。
「くそ‥何でよりによってお前等みたいな奴らを呼び寄せてしまったんだ‥」
ウナは呟き、よろめく体を起こして壁に背を預けた。
「甘いな――‥お前ほどの力の使い手ならば塵も残さぬほどに燃やし尽くす事もできただろうに」
「‥僕は確かにこんな所に連れて来られて頭にきてるけど、殺したいわけじゃないんだよ」
アリスは黒耀をキッと強く睨むと「出口は何処さ」とウナに問いかける。
「あの子、夢魔にしては変わった思想の持ち主ねぇ‥皆があの子みたいだったらきっと夢喰いと夢魔の間に争いなんて起きなかったでしょうし」
芙蓉が「そう思わない?」と久樹に問いかける。
「皆がアイツみたいな夢魔だったら騒がしくて敵わんな」
久樹の短い言葉に「ふふ、確かにそうね」と芙蓉は言い残し、ウナの元へと歩く。
「生憎とまだ新作のチョコレート食べていないから、大人しく死んであげるわけにはいかないの」
出口は何処、芙蓉は逆らうことは許さないといった雰囲気のままウナに問いかける。
「俺とナナキは囚われ人だ――‥次の囚われ人が現れるまでの哀れな‥下僕に成り下がった‥」
その言葉にメンバー達は驚く、ウナの言葉が本当ならば彼・そしてナナキと名乗った女性もまた無理矢理に連れて来られた『犠牲者』なのだ。
「ナナキは主のお気に入りだ‥俺は――」
ウナが話している最中にもかかわらずメンバーは立ち上がる。
「主とやらの部屋は何処だ、俺たちの、そしてお前達の為にも主を倒して終わりにするんだ」
朱櫻の言葉に「これを持っていけ」とペンダントを投げ渡してきた。
「この奥に開かない扉がある‥そのペンダントは扉を開ける為の鍵だ‥」
ナナキを救ってくれ‥ウナはそう言って隠し持っていたナイフで喉を突こうとする。
「馬鹿野郎!」
それを止めたのは意外にも泰牙だった。彼はこの異常とも言える状況を上手く把握出来ていない、それでも目の前で誰かが死んでしますのは耐えられなかったのだ。
「ナナキって人が大事なら何で‥自分で助けようって思わないんだ!」
泰牙の言葉にウナは下を俯く、その行動に『まだ他にも言えない事』あがあるのだろうと朔夜と翠嵐は思う。
●決着‥扉の向こうへ
「これ、鍵穴がないわね」
ウナが教えてくれた『開かない扉』の前に立ち、朔夜が呟く。その扉には鍵穴は見当たらず、あるはずのドアノブすら見当たらない。
「ウナはこのペンダントで扉が開くといっていたが‥」
朱櫻がペンダントを取り出し、ドアの前に掲げるとドア自体が光り始め、すぅ‥とドアが消えていく。
「こういう仕掛けだったのですね」
氷煉が感心したように呟き「このドアの向こうにナナキがいます、匂いがします」と鼻を鳴らしながら答えた。
「何故‥来てしまったの?」
扉の向こうから慌てたようにナナキが走ってきた。
「少し部屋で大人しくしていたら、いつもみたいに逃がしてあげたのに‥」
彼女の口ぶりを聞くと、以前も連れて来られてきた人間がいて、それをいつも逃がしていたのだろう。
「‥そういえばどうやって此処へ来れたの?鍵は――ウナが持っていたはずよ‥」
彼を殺してしまったの?そう呟くナナキの怒りが急激にあがり、赤い瞳の色が一層強く輝きだした。
「違う!あいつは――‥」
いきてるよ、翠嵐の代わりに答えたのはウナ本人だった。
「‥‥‥いっそのこと、彼を殺してくれていたら私も貴方達を躊躇う事なく殺してしまえるのに‥」
涙を流しながらナナキは震える声で呟いた。
「私達は逃れることはできない‥だって私達の――‥」
呟くと同時にナナキは胸の辺りを押さえて蹲る。
「そう、ナナキとウナは僕に逆らうことは出来ない―――だって、彼らの心臓は僕が持っているんだからね」
部屋の奥から現れたのはコスプレ‥もといナナキ達が『主』と呼ぶ男だった。
「心臓を持ってる?どういう事かしら?」
朔夜が胸を痛がるナナキの近くで『主』に問いかける。
「僕を裏切れないように彼らの心臓は僕が奪い、此処にある」
そう言って『主』は自分の胸を指す、つまり自分の体の中にナナキとウナ、二人の心臓を封印しているのだろう。
「卑劣な‥」
翠嵐が呟くと「僕が強くなる為の尊い犠牲と言って欲しいね」と答えた。
「そんな理由で―――‥」
低い声で呟く久樹はそのまま『主』の前へと歩いて行き、思い切り頭にゲンコツを食らわした。
「いぃったああっ!」
何するんだ!と『主』は少し涙目になりながら「暴力的な奴だな」と吐き捨てた。
「久樹、今は違うとはいえ‥教師だったのでしょう、体罰になるんじゃない?」
芙蓉はクスクスと笑いながら呟く。
「体罰ではなく、教育的指導と言ってもらおうか、間違いに気づかない生徒に年齢など関係あるか!」
久樹の言葉に「確かにな」と朱櫻も納得したように頷く。
「それに『凶暴な獣』があちこちに散在していたけれど、あの程度の雑魚数匹で私達をどうにかしようだなんて甘いのよ!」
芙蓉の言葉に「同意見ね、覚悟は出来てる?」と黒いオーラをかもし出しながら朔夜が『主』の前に立つ。
「お前の遊びに付き合ってやったんだ、それなりの覚悟はもちろん出来てるよなぁ?」
翠嵐は手をボキボキと鳴らしながら朔夜と同じく黒い笑顔で『主』の前に立つ。
「ぼ、僕を殺したり傷つければ其処の二人の心臓にも負担がかかるんだぞ!?」
苦し紛れの『主』の言葉に三人は攻撃の手を止める。
「それに関しては問題ないよ、僕の能力を使えばね」
アリスはそう呟くと『森羅万象』の能力を使い、ウナとナナキの心臓を元の場所へと導いた。森羅万象は状況を無視して本来あるべき場所に戻すという破天荒な能力なのだ。
「さぁ、これで問題ない――思う存分ボコれるね」
火球を繰り出しながらアリスも楽しそうな顔を見せた。
しばらくお待ち下さい
メンバー総動員によるボコりタイムが終わり、連れられて来た人間はナナキたちの案内によってもとの世界へと戻ることが出来た。
「まったく!いい迷惑だよ!」
アリスは夢幻壊廊に戻った後、アリスが尊敬する姉に経緯を話していた。
「ああっ!新作チョコ売り切れてるじゃないの!」
芙蓉はコンビニの中で少し大きめな声で叫び「踏んだり蹴ったりだわ!」と収まらない気持ちを「そうでしょう!?」と久樹にぶつける。
「落ち着けって‥また入荷するのを待てばいいだろう‥」
目頭を押さえながらため息を吐く久樹に「う、それはそうだけど‥」と拗ねたように答えた。
「そういえば‥いっそのこと‥その眼もアリスに治してもらえばよかったね?」
芙蓉の言葉に「別に不便は感じていないから問題ない」と久樹は自宅に戻る為に歩き始めた。
「ナギ、翠嵐、漸く戻って来れましたね」
黒の動物使いの本拠地にて氷煉が二人に問いかける。
「あー‥無駄な労力使ってだりぃ‥」
欠伸をしながら翠嵐は「寝る」と呟き、自室へと戻っていった。
「これでメデタシメデタシ‥でいいんでしょうか?」
氷煉は苦笑しながらナギに問いかけ「無事に戻ってこられただけでも良かったですね」と彼女もナギの最愛の人の世話をする為に歩き出した。
「それにしても‥ウナとナナキが月鬼だったとはな‥気づかなかった自分が情けなくなるな」
朱櫻が立ち去る前の二人を思いながら苦笑する。
「私達を解放してくれてありがとう、私達の助けが必要になったら遠慮なく私達の名を呼んでね、同じ月鬼達―――」
「げ、まずい‥もうこんな時間かよ‥」
時計を見て朱櫻は顔を青ざめる、もうすぐ彼の妻が帰宅する時間だ。
これから飯を作ろうにもきっと間に合わないだろう。
「‥‥どんなイイワケするかな‥」
そう言いながら朱櫻は哀愁を漂わせながら自宅へと帰っていった。
「さてと‥月の鬼共とこれ以上行動するのは不本意なのでな、これで失礼するよ」
黒耀はそう呟くと「次会った時は敵だ、容赦はしない」と言い残して消えていった。
「いい奴なのか、そうじゃないのか分からないわね」
朔夜は消えていく黒耀を見つめながら苦笑した。
「えーと‥俺はどうすれば?」
ぽつんと取り残された泰牙は朔夜に問いかけると「帰ればいいんじゃない?」という冷たい言葉を受ける。
「じゃ、じゃあ帰って寝ることにするか――いや、夢から覚めるとするか」
あくまでも『夢』と言い張る彼に朔夜は呆れ顔で「知らぬが仏とはよく言ったものね」と呟いた。
これで『在りえる筈のない話』は終わる‥。
だけど、これが終わりだと誰が言えるだろう?
もしかしたら――新たな敵が彼らを再び引き合わせるかもしれない――‥
その話はまた今度――――‥‥。
END