東雲風雲記アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
5.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/11〜09/13
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●本文
東雲一族、それは――‥不可視存在と戦い続けるうんめいを義務付けられた者達‥。
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「伊織、仕事じゃ‥」
盲目の老婆が伊織と呼んだ少年に話しかける。
「分かっています、式神(しき)により聞き及んでいます」
鳥の形をした紙をふわりと手の上に乗せ、陰陽服を着た少年が立ち上がる。
「23代目として恥ずかしくないようにお仕事をしてまいります」
「‥本当ならば、駿河(するが)と同じように学校に通い―‥」
「言わないで下さい、東雲一族直系の者は人にあって人にあらず‥そう教えられてきました」
そう、東雲一族の直系に生まれた者は『人』として生きる事は叶わない。
悪霊と呼ばれる不可視存在を倒す為だけに存在を許されている一族なのだ。
そして伊織はその東雲一族の23代目当主、
「お主は子を成し、24代目が誕生するまで死ぬ事は決して許されぬ」
老婆は少しきつい口調で呟く。
「婆様、そのために私は存在します」
話し始めたのは伊織に付き従う忍者のような格好をした人物・駿河であった。
「当主の影として生きる駿河一族、27代目の私が伊織様をお守りします、命に代えましても」
駿河一族は東雲一族の影に潜む一族、東雲当主を守り、当主の影武者的存在なのだ。
駿河一族の方が代数が多いのは、過去に散った駿河当主が多いからである。
「それでは、お婆様‥行って参ります」
伊織は深々と頭を下げると、駿河と二人、屋敷を出て行った。
※※
「今回の悪霊はどんな奴なのです?」
「駿河一門に調べさせたところ、女性の不可視存在のようです。恐らく恋慕関係で死したものでしょう」
「‥恋慕で死した悪霊‥厄介ですね」
伊織はため息をつき、悪霊を探す為に二人で街へと出かけた‥。
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●募集事項
◎映画「東雲風雲記」では出演者の皆様を募集しています。
◎この話で必要な必須配役は以下の通りです。
・伊織(男性/一名)
・駿河(性別不問/一名)
◎何か質問などがありましたら、ユリアナに聞いてください。
(その際には別スレを立てていただけると有難いです)
●リプレイ本文
友人が自らの命を断った。何かに悩んでいる様子はなかった。突然の出来事に俺・暁(千架(fa4263))は呆然とするしか出来なかった。
しかし―‥それから誰かに見られているような、それと共に頭痛や耳鳴り、眩暈等、体調が悪くなっていった。治る気配も見られず、今日はこうして病院にやってきたのだが‥。
「食事もまともにとれなくて‥」
「原因不明の不調ですか、それはお困りでしょう‥顔色も悪いですし、薬はお出ししますが――暫く通院して頂いた方が良いでしょう」
そう呟くのは診療所の漢方医・望月(仁和 環(fa0597))だった。彼の苗字は『駿河』であり、東雲一族を補佐する一族の青年だった。
「では、受付の看護婦(ユリアナ・マクレイン(fz1039))にカルテを渡して調合してもらいますので薬を貰って帰ってくださいね」
望月は暁を帰した後、駿河一門に情報を集めてもらい、当主である一馬(七瀬七海(fa3599))へと知らせてもらう事にした。
「やはり見つからないですね‥」
呟くのは東雲一族当主・伊織(タブラ・ラサ(fa3802))だった。その隣には伊織を護るべく一馬も立っている。
彼らは悪霊について調べているのだが、情報が少なすぎて何処にいるかのかなどの特定は出来なかった。
「駿河一門の一派に情報を集めさせていますので、悪霊の情報は大丈夫かと思います」
「そう、ありがとう」
公園のベンチに座り、伊織は遊ぶ子供達を見つめながら呟く。伊織は幼い頃から陰陽術を叩き込まれ、正気を失った実姉・維空(真紅櫻(fa4961))の代わりに当主という椅子に座らされた。東雲直系は『人』であって『人』にあらず、この一族に生まれた事が伊織にとって最大の不幸なのだ。
だが、感情が希薄な伊織はそんな事など露ほども思っていない――いや、思えないのだ。
「一馬様」
ふと話しかけられ、その声の方を見ると一馬が言っていた駿河一門の一派・草地(草壁 蛍(fa3072))が立っていた。
「今回の調査についてご報告します、目的の悪霊は自らをレイ(春雨サラダ(fa3516))と名乗り、綾部暁に憑いています、死因は自らの命を断った模様、恋慕関係の悪霊で間違いありません」
メモを見ながら答える草地に「ありがとう」と一馬は短く礼を述べた。
「此処からは私の推測ですが、レイは自己中心的な性格と見て間違いないでしょう、彼女がいた綾部暁に憑く為に命を断ったものと見られますので、あと京都在住の草地の人間から届いた柿羊羹です、皆様でどうぞ」
草地はそう言って高級そうな箱に入った羊羹を渡した。
「やはり恋慕関係の悪霊ですか‥」
静かな足音でやってきたのは東雲一族の凪(深森風音(fa3736))だった。
「望月様からも同じような報告を受けております、お知らせしようと私が馳せ参じました」
悪霊退治には私も同行させていただきます、凪の言葉に一馬は首を傾げる。
「私は伊織様の教育係ですし、浄霊時に結界を張れる私がいても足手まといにはならないでしょう?」
凪の言葉に「確かに‥お願いするよ」と伊織が呟き、三人は暁の所へと向かい始めた。
「死んで、貴方の傍にいられるようになって嬉しいのに‥貴方には私が見えていないのね?」
悲しい、そう言ってレイは暁の後ろでさめざめと泣き始める。ちなみにこの場所は望月の診療所。ちなみに望月は見えないふりをしているが、ばっちり見えているので、はっきり言ってかなりウザイ状況である。
「本当にどうしてこんなに体調が悪いのかな‥」
ずきずきと痛む頭を抑えて暁が青い顔で呟く。
「それは貴方に悪霊が憑いているからですよ」
言葉と同時に診察室へ入ってきたのは伊織・一馬・凪の三人だった。
「そうだよね?貴女が彼に災いを振りまいている」
伊織は暁の後ろに隠れているレイに問いかける。
「‥私はこの人が好き、こんなに好きなんだから一緒にいてもいい筈よね?」
レイは涙の混じった顔で伊織に答えた。
「たかが好きという感情だけで一緒にいていい理由にはならない」
伊織の言葉に「どうして邪魔するの!?」とレイが叫び、それと同時に診察室内のカーテンが激しく揺れる。
「え、あの‥いったい俺の周囲に何が‥?」
暁は状況がよく分からず近くにいた凪と望月に問いかけた。
「貴方は悪霊に憑かれているんです、体調不良はそのせいですよ」
望月の言葉に暁は酷く驚いたような顔で「‥悪霊?」と聞き返した。
一方、凪の方は診療所にいた患者を帰らせたり、診療所が戦闘によって破壊されないようにと結界を張る。
「とにかく、貴方は少し隠れていた方がいいですよ、巻き込まれたくないなら‥」
「どうして皆私の邪魔するの!私はあの人が好きなだけ!」
喚きたてるレイに伊織は彼女の心を理解する事が出来なかった。今まで誰かを好きになった事もなければ、そんな事が許されるはずもないのだから。
「伊織様、先ほどのお言葉は彼女を怒らせるだけです」
「でも‥何て説得すればいいか‥」
分からない、視線で訴えかけてくる伊織に「‥御自身でお考え下さい」と凪は素っ気無い言葉を返した。
「伊織様!お下がり下さい!」
一馬の言葉にハッとして伊織は後ろへ飛ぶ、それと同時に今までいた場所にレイからの攻撃が来ていた。
「恋人になれないから、自分の命を断った!だから一緒にいる事くらい許される筈よ!」
レイは叫びながら伊織を攻撃する。凪はあくまでも傍観しているだけなのだが、伊織が攻撃を受けるたびに助けてしまいそうになるのをグッと堪えていた。
「それで彼を不幸にしているとしても貴女は満足なんですか?好きってそういう事なんですか?」
伊織の言葉に「うるさい、うるさい、うるさい!うるさあああいっ!」と今まで以上に霊気を発して伊織を睨みつける。
「好きって事は良い事だっ、だから、私は間違っていない!!」
今までで最大の攻撃が伊織を直撃しようとした時、間に入った一馬がそれを受け止めた。
「駿河!」
伊織が叫び、倒れる一馬に駆け寄ると「浄化を‥」と弱々しい声で呟く。
「‥私は‥好きという感情は分からない‥だけど一馬を傷つけた貴女を許すことは出来ない」
伊織は呟きながら印を組み、破邪の術を唱え始める。伊織が術を唱えだしたと同時に凪もサポートしており、伊織の霊力は桁違いに跳ね上がった。
「いや、いや、彼と離れるのはいや!ずっと好きだったのに‥彼だけを見ていたのに‥」
破邪の術を身に受け、レイは泣きながら暁に手を差し出す。しかし、彼にはレイの姿が見えていないため、手を差し伸べる事は出来なかった。
「あなた‥だけが、好き、だった―――のに‥」
呟くと同時にレイはざぁっと塵になって消えていった。
「そんな事が‥俺の‥所為ですよね?」
全てが終わり、体が楽になった暁は今までの事を凪から聞いた。
「誰かを想う事は‥時に何かを狂わせるのかもしれませんね」
呟いたのは望月、彼は何処か遠くを見つめながら呟いた。それが自分に言い聞かせているように聞こえるのは暁の気のせいだろうか?
「東雲一族、そして駿河一族の事を知られるわけにはいきません、これより貴方の記憶を消去させていただきます」
え?と暁は呟くと同時に意識が遠のくのを感じていた。
「伊織様もお疲れ様でした、術に関してはともかく伊織様は女心をもう少し学ばれた方が良いかと‥」
凪はそれだけ言うと「失礼します」と頭を深く下げて屋敷へと帰っていった。
「キャハハハハッ、流石は私の自慢の伊織だわ!」
東雲家の屋敷、最奥にある座敷牢でけたたましい笑い声をあげるのは伊織の姉・維空だった。彼女は悪霊退治の時に悪霊に飲み込まれ、今のような状況になった。
「伊織様は立派な当主になられました」
維空の前で正座をして呟くのは凪、感情を表に出さないように淡々と今回の事件について維空に聞かせていた。
「‥それでは‥また来ますね‥」
凪は深く頭を下げ、座敷牢を足早に後にした。その時すれ違いで維空の元に現れたのは伊織と望月だった。
「姉様‥」
目の前に伊織が立っているにも関わらず、維空は伊織を見ようとはしない。
「伊織は東雲家直系の長男ですもの‥‥きっと立派な当主になって東雲家を導いてくれるわ」
きゃはははっ、と笑いながら薄汚れた人形に言い聞かせるように叫ぶ。
「‥姉様‥」
大好きだった姉の変貌に伊織は少し表情を歪めながら座敷牢を後にした。
「‥維空様、こんな格好では風邪を引いてしまいます」
若干乱れた巫女装束を直し、望月が小さく呟く。
「‥大丈夫ですから、伊織様は必ずお守りします‥どうぞゆっくりお休み下さい」
望月は維空の頭を撫でながら呟く。
「伊織は立派な当主に‥ねぇ?お前もそう思うわよね?ふふふ」
人形に問いかける維空、彼女の世界には誰も足を踏み込めないのだ。
「‥維空様‥」
望月は秘めた想いを胸に抱えたまま、座敷牢を後にする。
残されたのは楽しげに人形と話をする維空のみだった――‥。
「伊織は自慢の弟、でも最近見ていないわ‥いつになったらあの子はやって来てくれるのかしらね?きゃはははははっ!」
END