カレイドスコープアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 水貴透子
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 5.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/10〜10/12

●本文

「きっと、これは最初で最後のわがまま‥‥」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

タクは今の医学では決して治らない病に冒されている。

学校ではあんなに元気だったタク、だけど今ではやせ細って昔の面影はない。

「タク‥‥」

学校からの帰り道、私はいつものようにタクの病室に向かっていく。

「ターク、元気?」

病室に着くとタクは眠っているようで、返事をしてくれることはなかった。

「‥‥タク‥‥」

小さく呟いた言葉に、私は自分で怖くなった。

タクがこのまま起きなかったらどうしよう、自分で考えた言葉に自分自身で怖くなり震えが止まらなくなった。

「‥‥ん、カナ?」

暫くして漸く起きたタクに「もう、起きるの遅いよ」と不安そうな顔を見せないように笑顔を向ける。

「もう帰っちゃおうかな〜って思ってたんだからね」

「はは、わりーわりー」

話し終わり、病室には嫌な沈黙が続く。

「‥‥なぁ、カナ。一個だけ頼みがあるんだけど」

タクからの言葉に「なーに?改まって」と私は言葉を返す。

「カレイドスコープを持って来て欲しいんだ」

カレイドスコープ。それはタクと私にとってとても思い出が深いもの。

「どうしたの?いきなり‥‥」

「‥‥最後にカナと見たいんだ」

「最後って‥‥やだよ、そんな事言わないでよ‥‥」

私は涙が出そうになる目を隠すように「何でそんな事いうの! 」と少し怒鳴るように話す。

「‥‥俺が長くないのは分かってるだろ?自分の体が動かなくなる前に‥‥カナと思い出作りしたいんだ」

タクが本気だと言う事を私は悟って「‥‥分かった‥持ってくる」と家へと向かって走り出したのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
●募集事項
◎映画「カレイドスコープ」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に必要な必須配役は『タク(男性一名)』と『カナ(女性一名)』の二人です。
(そのほかの配役は皆様で話し合って決めてください)

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa1435 稲森・梢(30歳・♀・狐)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa4808 柊棗(17歳・♀・小鳥)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)

●リプレイ本文

「ちゃんと‥‥持って来てくれるかな‥‥?」
 タク(大海 結(fa0074))は病室の窓から外を見ながら小さく呟く。
 カレイドスコープ、それはタクとカナ(槇島色(fa0868))にとって、とても思い出深いものだった。
 ずっと大事にしよう、そう言って二人だけの秘密基地に置いてあるのだ。


「私やタクが‥‥一体何をしたというの?」
 病院から帰宅し、着替えも適当に済ませて秘密基地へ向かおうとする中、カナは一人物憂げな表情で小さく呟いた。
「カナちゃん、ちょっといい?」
 玄関でカナは母親(稲森・梢(fa1435))に呼び止められ「何?」と素っ気無く言葉を返した。
「あなたも来年受験だし、その‥‥タク君に構ってばかりいては将来に影響するとお母さん思うの」
「何‥‥それ、私にとってはタクが全てなの! お母さんが口出ししないでよ!」
 カナは母親に激しい口調で言葉を投げかけ、家を飛び出して行った。
「カナ‥‥」
 母親は飛び出していった娘を見ながら、小さく寂しそうに娘の名前を呼んでいた。


「あれ? お姉ちゃん来てないの?」
 家を飛び出していったカナを見て、妹・アキ(あずさ&お兄さん(fa2132))はタクが入院する病院へとやってきていた。
 タクが入院してからカナの行く先は病院か家かしかなかったからだ。
「多分、秘密基地に行ったんだと思う。カレイドスコープ持って来てくれるように頼んだから」
 タクが儚げな笑顔で呟くと「私も行ってくる」とタクから場所を聞き出し、カナのところへと向かっていった。


「これを‥‥持って行ったら‥‥もうタクと二度と会う事が出来ないかもしれない‥‥そんなの、嫌だ‥‥」
 涙を溢れさせながらカナは蹲り、手にしたカレイドスコープを買ったときの事を思い出していた。

 〜回想〜

「お気に入りの品は見つかりましたか?」
 そう言ってタクとカナに話しかけてくるのは、カレイドスコープ工房の店員・夢(姫乃 唯(fa1463))だった。
「どれも綺麗で、どれを買おうか迷ってるんです、ね?タク」
「ふふ、仲が良いのですね。この工房のカレイドスコープは全て手作りで、同じように見えても、一つ一つ違うんですよ」
 夢が二つのカレイドスコープを二人に見せながら穏やかに笑む。デザインは同じようにしか見えないのだが、施された細工が微妙に違う。この店で同じカレイドスコープは存在しないのだと夢は説明してくれた。
「人生はカレイドスコープに似ています、様々な模様がまるで思い出のように巡ってくる‥‥でも同じ模様は二度と現れないんです一度きりしか出会えない、たった一つしかないものだからこそ、美しく愛おしいのかもしれませんね」
 この時の二人は夢の言葉に感動してカレイドスコープを買った、二人が出会った事も大事にしていくようにという誓いを込めて。


「そうだ‥‥このカレイドスコープがなかったといえば――って無理か、此処にあるのタクも知ってるものね」
 自嘲気味にカナは呟き、カレイドスコープを抱きしめながら声を殺して泣いた。
「お姉ちゃん‥‥」
 そこにアキがやってきて「‥‥大丈夫?」と声をかけた。
「早く行かないと‥‥面会時間が終わっちゃうよ‥‥?」
 アキの言葉に「そう、だね」とカレイドスコープをもち、よろめく足でタクが待っているであろう病院へと向かっていった。


「よぅ、タク、元気か?」
 タクの病室に現れたのは同級生であり友人でもある隼人(メル(fa5775))だった。
「あれ? カナはどうした?」
 いつも自分が来ている時間にはいる筈のカナの姿が見えず、隼人は病室を見渡すような仕草でタクに問いかけた。
「あぁ、カナにはカレイドスコープを持って来てくれるように頼んだんだ」
「カレイドスコープ? あぁ、思い出の品だって前に聞いた気がする‥‥‥‥思い出、か」
 隼人は少し痩せたタクを見ながら独り言のように呟いた。
「あ、そ、そういえば、今日学校でさ〜」
 少し沈んだ空気を元に戻すかのように隼人が話題を学校に変える、そこで検温にやってきた看護士(柊棗(fa4808))が病室にやってきた。
「あら、お友達ですか?」
 まさに白衣の天使という言葉がぴったりな彼女に「隼人でッス、現在彼女募集中!」と元気に挨拶を交わした。
「あらあら、元気がいいんですね」
 彼女はタクが不治の病だという事は知っている、だから多少タクに対して行動がぎこちないのだが、それをタクは知っており、いつも悲しげな笑顔で彼女を見ていた。
「‥‥‥タク」
 それから数十分後にカレイドスコープを持って来たカナが病室にやってくる。
「随分時間がかかってたから、もう来ないのかと思った」
 持って来てくれてありがと、そう言ってカナからタクはカレイドスコープを受け取る。
「‥‥俺たちはそろそろ帰るな、ほら、アキも」
 隼人はアキと連れて外へと出る、看護士の彼女も検温をした後にすぐに病室から出て行った。
「タク‥‥ごめん、遅くなって‥‥私、思わず迷っちゃった‥‥タクにこれをもってくるのを‥‥一緒に見た瞬間、タクがいなくなりそうな気がして‥‥だから、ごめん」
 ぽつり、と呟くように言葉を紡いでいくカナに「別に怒ってないよ」とにっこりと笑って答えた。
「むしろ謝るのは‥こっちだよ、カナを遺して死んでしまうんだから‥‥いっその事、忘れてくれたら―――」
「タク! それ以上言ったら‥‥怒るだけじゃすまさないから」
 涙を零しながらカナは震える声で呟く。
 それから、二人はカレイドスコープを見ながら、今まで楽しかったこと、悲しかったことを話し、夜遅くなるまで語り合ったのだった。


 そして、タクが死んでしまったのは、寒い夜の日だった。タクの母親が「これはあの子が貴女に書いた最後の手紙よ」と言って水色の便箋に綴られた文字に、カナは涙を零した。

 カナ、きっとこれを読んでるときに俺は死んでるんだろうな。
 そんで、カナは目をウサギみたいに真っ赤にして泣いてるんだろ。
 泣くなといっても無理だろうケドさ、俺は楽しかったよ。
 カナがいてくれて、いつも見舞いにきてくれてたから、俺は怖くなかったんだよ。
 だから、もしカナが泣いてるのなら、俺は安心して死んでいけないよ。
 俺はカナの事だけが気がかりだからさ。
 俺が安心して死んでられるように、笑っていてくれてよな。

「ばか、ね。笑ってろ、なんて無理だわよ‥‥」
 カナは手紙を抱きしめながら、病院中に響き渡るほどの大きな声で泣き叫んだのだった。
 それを見たカナの母親は「‥‥勝手なことを言ってごめんなさい」と泣きじゃくる娘を、ただ抱きしめていた。


 あれから数ヶ月がたったころ、博覧会の巨大なカレイドスコープの中で上を見上げ、タクの事を思いだしながら呟く。
「ねぇ、タク‥‥カレイドスコープを持ってこなかったら‥‥きっと怒ったでしょうね‥‥でもあの時は、つらかったんだからね」
 涙が出そうになるのをカナは唇を噛み締めながら堪える。
「もし、持ってこなかったら‥‥タクはまだ生きてたんじゃないかって、怖そうとも思ったけど、そうしたら‥‥タクとの思い出も壊してしまいそうで‥‥」
 そう言って、タクが好きだった笑顔を見せてカレイドスコープを後にしたのだった。



END