プラネタリウムアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
5.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/10〜10/12
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●本文
「毎週日曜日に現れる彼女、憂いを帯びた彼女の瞳に何がうつっているのだろう?」
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高島・陽一、あまり客の来ないプラネタリウムで働く事2年。
「‥‥今日もすくねぇな‥‥」
いまどき、わざわざプラネタリウムに来てまで星を見ようという奴は少ないらしい。
「結構‥‥綺麗なんだけどな」
天井に煌く偽りの星たちを見ながら俺は呟く。
そんな中だった、毎週日曜日にやってくる彼女に気づいたのは。
「また‥‥来てる」
毎週日曜日、時間は昼前から昼過ぎにかけた一時間程度。
彼女はぼんやりと空を見上げながらじっと座っている。
「‥‥いつも一人だよな」
彼女はいつも一人で誰かと来たことは一度もない。
「そういえば彼女、目が見えてないみたいよ」
同じくプラネタリウムで働く女性が俺に向かって話しかけてきた。
「見えてない?」
「えぇ、彼女の両親らしき人が毎週送り迎えに来てるから」
それにほら、と指を差す。指した方向には白杖が椅子に立てかけられている。
「あ‥‥」
目が見えないのに毎週日曜日にやってくる彼女、何故見えないのにやってくるのか?
彼女はどんな気持ちで見えないはずの星で見ているのだろうか?
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●募集事項
◎映画「プラネタリウム」では出演者の皆様を募集しています。
◎この話に必要な必須配役は『陽一』と『プラネタリウムに来る少女』の二つです。
◎他の配役は皆様で話し合って決めてください。
●リプレイ本文
私の記憶の中にある夜空はビルの群れの中からひっそりと見える、そんなものだった。
だけど‥‥それも段々と薄れてきているような気がする。
杏(ジュディス・アドゥーベ(fa4339))は視界の中に入ってこないプラネタリウムを見ながら、ぼんやりと考えていた。
杏を見ながら『何故見えない筈なのに毎週やってくるんだろう』と陽一(克稀(fa5812))は、やってきた杏に視線を向けた。
「あ‥っ!」
杏が段差に躓き、顔面から転びそうになったのを陽一は頭で考えるより先に体が動いており、咄嗟に抱きかかえる形で助けていた。
「大丈夫か? ここの段差はいつも注意してるだろ?」
言った後で杏が「いつも‥‥?」と問いかけ、陽一は「あ」と短い言葉をもらす。
「貴方‥‥ですか? いつも私の事を気に掛けていてくれたのは‥‥」
杏としても、いつも自分が転ばないようにさり気無く手助けをしてくれている人がいるのだという事は薄々と気づいていた。
「私の目、昔は見えていたんですよ? ただ事故にあって‥‥」
杏は言い終わると同時に、下を俯く。
「だけど、都会育ちですから、満天の星というものを見た事がなかったんです。だから毎週此処にくるのが日課‥‥というか週課になっちゃいまして」
「杏ちゃ〜ん、迎えに来たよ〜」
後ろから声を掛けてきたのは杏の友人・シズハ(葉桜リカコ(fa4396))だった。彼女は杏の両親が迎えに来れない時など、代わりに来てくれるのだと杏は陽一に向けて話した。
「姉さん」
「あれ、快(氷咲 華唯(fa0142))も来てくれたの?」
「当たり前だろ――で、アンタは?」
じろりと陽一を睨むように見上げる快に「ここの従業員だよ」と陽一は短く答えた。
「従業員が客に話しかけるなよ、黙って仕事してろっての」
快の言葉に陽一はムカッとしたが子供のいう事だと思い、耐えた。
「快、この人は私が転びそうになったのを助けてくれたのよ」
「どうだかね、さ、帰ろう、姉さん」
そう言って杏とシズハがプラネタリウムから出ようとした時、快がヒソと陽一に何かを呟き、それから帰っていった。
「帰り際にあの子、何か言ってなかった?」
祈(MAKOTO(fa0295))が陽一に問いかけると「興味本位で盲人に近づくな、だと」と肩をすくめるような仕草で答えた。
「毎週来てくれてるんだし、何かしてやりてぇよなぁ」
陽一は暫く考え込み「そうだ!」とぽんと手を叩きながら叫ぶ。
「あの子の為に貸切上映をしてやりてぇな」
「良いですね、私も協力します」
陽一の意見に賛同したのは従業員の一人・泉(姫乃 舞(fa0634))だった。
「確かに、そうしてあげたいですね――館長の許可さえおりれば」
普段はナレーション役として働くアヤ(アヤカ(fa0075))の言葉に「あ」と陽一と泉は固まる。
「館長頼むよ! 普段から客少ねぇんだしさ!」
客が少ないという言葉に館長は「うるさいわ!」とバコと頭を殴る。
「しかしなぁ‥‥」
「館長、陽一に一ヶ月タダ働きさせるってのでどう?」
祈が冗談混じりで呟くと「‥‥そうだな、その覚悟はあるのか?」と館長が陽一に聞きなおす。
「‥‥おぅ! タダ働きやってやろうじゃねぇか!」
陽一の懸命な言葉に館長は折れ「休館日だったらいいぞ」という許可を貰ったのだった。
「そんなのに協力してやる理由はない」
杏に内緒で、友人や弟の協力を借りようと陽一は話しにいった。
「どうせアンタは盲人の姉さんが珍しいからそうしてるんだろ? それとも同情?」
快の言葉を聞いて、杏に興味本位で近づき、杏が傷つけられたことがあるのだろうと陽一は心の中で悟る。
「あのなぁ! 興味本位で一ヶ月タダ働きできるか!」
「‥‥タダ働き?」
何の事か分からない快は怪訝そうな顔で問いかける、するとその問いに答えたのは祈だった。
「一日プラネタリウムを貸しきるってので、陽一は一ヶ月タダ働き決定なんだよ」
心底おかしそうに笑いを堪える祈に「うっせぇよ!」と陽一は顔を赤くしながら叫ぶ。
「‥‥軽い気持ちじゃないのは分かった」
「え?」
「‥‥だから協力してやるって言ってるんだよ」
ふん、と鼻を鳴らしながら素直ではない快の精一杯の言葉だった。
「あの‥‥今回は本当にありがとうございます」
ぺこりと丁寧に頭を下げる杏に「いいんだよ、こいつの給料なんだし」と祈が陽一に肘うちしながら笑って答える。
「ほら、姉さん座ろう、シズハも」
快が座るように促して、三人は真ん中の席に座る。
「あ、杏は俺の隣に座ってほしいんだ」
陽一の言葉にギロッと快が睨んでくるが、そこは気づかないフリでスルー。それと同時に照明が落とされ始め、BGMは事前に快から聞いた杏の好きな曲を流し始める。
「杏さん、快さん、シズハさん、今回は当プラネタリウムへようこそお越しくださいました――ナレーションをさせていただくアヤと申します、今回は皆様を素敵な星の海へとご紹介したいと思います」
アヤはナレーションを始め、天井には瞬く星たちが映される。
「ほら、今はここの星を紹介してるんだ、えっと、確かオリオン座だったかな」
陽一は密かに作っていた点字星座盤を杏に渡し、紹介されていく星の説明をしていく。
「これが‥‥オリオン? こっちはカシオペアですね」
自分でも『見える』形でのプラネタリウムに杏は感動し、涙を瞳に滲ませる。
それから一時間ほどでプラネタリウムの上映が終わり、少しずつ館内が明るくなっていく。
「皆さん、本当にありがとうございました‥‥本当に‥‥」
杏は陽一から貰った点字星座盤を大事そうに抱え、何度も頭を下げる。
「いや、今回のプラネタリウムが楽しめたのなら、泉が工夫してくれたおかげだよ」
そう、泉は普段のプラネタリウムでは分かりづらいのではないかと考え、色々な工夫をしていた。細かく説明するより、雰囲気を上手く伝えられるようにと‥‥。
「う、上手くできましたでしょうか?」
ドキドキしながら泉が問いかけると「えぇ、凄く伝わってきました」と杏がにっこりと笑って答えた。
「そろそろ、帰ろう、父さんたちが心配するよ」
快は杏の手をとり、プラネタリウムから出て行く。最後に「ありがとな」と素っ気無い礼を言いながら。
「ねぇ」
「え?」
帰る間際にシズハが近寄ってきて「あの子を幸せにしてあげてね」と意味ありげな言葉を残して彼女も帰っていったのだった。
「めでたく陽一の給料全カットですね」
アヤがにっこりと笑い、祈と泉も「ご愁傷様」と笑いながら陽一をからかう。
「別にいいけどな、杏ちゃん、喜んでくれたみたいだし」
きっと、彼女はまた日曜日になればやってくるのだろう。
その時はデートに誘ってみてもいいかな、と心の中で呟く陽一なのだった。
END