人形師たちの見る夢アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 水貴透子
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 1.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/21〜10/23

●本文

心を込めて造った人形には―――意思が宿るのだという。


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「よし、できた」

人形師・ワタルは一体の人形を造り終え、満足そうに呟いた。

人形師の一族・春日――この一族が造る人形には特殊な能力があるのだという。

「いったいわね! 髪の毛ひっぱらないでよ!」

人形は掴まれている髪の痛みで人形が強く叫ぶ。

「‥‥今回の人形はえらく気が強いな‥‥」

ワタルはため息混じりに呟くと「何言ってるのよ! アタシはアンタが造ったんでしょ」とぎゃあぎゃあと喚きたてる。

「ワタル、その人形を黙らせなさい、余所モンが来ておる」

話しかけてきたのはワタルの祖母であるアキエ、春日の能力は誰にも知られてはいけない。

どんな悪用されるか分からないからだ。

「分かったか? 見世物にされたくなければ大人しくしてるんだぞ?」

ワタルが人形に向けていうと「分かったわよ」と面白くなさそうに人形は答えた。

「よそ者が帰ったら、お前に名前をつけてやるよ」

ワタルは言い残すと、人形部屋を出たのだった。

窓の隙間からそれを見ている人間がいるとも知らずに。

そして‥‥人形が姿を消したのは翌朝のことだった。


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●募集事項
◎映画「人形師たちの見る夢」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に必要な必須配役は「ワタル」と「よそ者の人間」の二人です。
※他の配役は皆様で話し合いの上、決めてください。

●今回の参加者

 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)
 fa4728 レイス アゲート(26歳・♂・豹)
 fa4768 新井久万莉(25歳・♀・アライグマ)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)

●リプレイ本文

「凄い! 喋る人形なんて始めてみた! 何としてでも手に入れたい!」
 通りすがりに、ワタル(千架(fa4263))とクーちゃん(槇島色(fa0868))のやり取りを見ていた透(メル(fa5775))は何としても喋る人形クーちゃん(仮名)を手に入れたいと燃(萌)えていた。

 そして、事件が起きたのは夜―――。
「貴方、私をさらってどうするつもり?」
 よそ者の気配に気がついたクーちゃん(仮名)はジロリと透を睨みながら呟く。
「い、いや‥‥ホラ、飴玉あげるから、こっちおいで」
 飴玉を数個見せながら透がクーちゃん(仮名)に自分のほうへ来るようにと呼ぶ。
「その飴、甘いの?」
 クーちゃん(仮名)が問いかけると「もちろんだよ」と透は答える。
「いいわ、私を連れて行きなさい。こんな埃っぽい部屋は嫌だから」
 そう呟き、クーちゃん(仮名)は透と一緒に部屋から出て行ったのだった‥‥。


 翌朝、クーちゃん(仮名)の所まで行くと、姿が消えているのを見てワタルは「‥‥プチ家出?」と真顔で呟いていた。
「ワタル‥‥あれほど春日の能力は誰にも知られてはいかんと‥‥」
 アキエ(DESPAIRER(fa2657))が説教モードに入ろうとしているとき「ばーちゃん! そんな場合じゃねぇって!」とワタルの言葉に説教モードは一時中断される。
「そういえば、盗まれる所を見たぞ、俺は」
 眠そうに現れたのはワタルの兄・桂(レイス・アゲート(fa4728))が呟く。
「何で見ていたのなら止めないのだ!」
 ばちこん、とアキエの平手打ちが桂にお見舞いされる。
「いって‥‥俺のじゃないし、関係ないからな。自分のモンだろ? 自分で取り返すんだな、ワタル――あー‥‥久々に人形制作すると疲れる、俺はもう寝る」
 そう言って桂は自室へと帰って行った。
「まったく‥‥桂は相変わらずだね、それにばーさまも悪いんじゃないの?」
 桂と入れ替わりにやってきたのはワタルの姉・サヤカ(新井久万莉(fa4768))だった。
「古いしきたりに拘らずに防犯設備いれておけばこんな事にもならないのに。監視カメラとか、有刺鉄線とか、電流爆破とか」
 何故かどんどん殺戮用になっているような気がするのは気のせいだろうか?
「そ、そーだよ、ばーちゃんが悪い――」
「ただし、話しているところ見られたワタルにも後できっついお仕置きが必要よね」
 眼鏡を妖しく輝かせながら呟く姉にワタルは背筋が凍るような思いをした。
「そういえば誰か他の人形は見てないの? あ、クワイエット(角倉・雨神名(fa2640))がいるじゃない」
 部屋の奥を指差しながらサヤカがクワイエットに「どんな奴だった?」と問いかける。
「ワタル様、新しいお人形と喧嘩してましたけど‥‥やっぱり心配なんですね」
 クワイエットはにっこりと笑みながらワタルに話しかける。
「まーな‥‥それよりクワちゃん、クーちゃん(仮名)に話しかけてみてくれないか?」
 同じ製作者から作られた人形同士はテレパシーのようなもので話す事ができる。ワタルに造られたクワイエットならクーちゃん(仮名)と話す事ができるのだ。
「待ってください、話しかけてみますね」
 クワイエットは瞳を伏せ、クーちゃんに話しかける。
「クワちゃん、見つかった? 怪我なんて‥‥してないよな? あ、あはは」


 その頃のクーちゃん(仮名)といえば‥‥。
「わぁっ! すっごぉい、せくしーなお人形さんだぁ、こんなお人形が欲しかったの! お兄ちゃん、ありがとう!」
 にこにことクーちゃん(仮名)を抱きしめながら笑うのは透の妹・明(姫乃 唯(fa1463))だった。
「なんと、その人形は喋るんだぞ、凄いだろう、さぁ、これからその人形と散歩にでも行こうか」
 そう言って外に出ようとした瞬間「待ちなさいよ!」とクーちゃん(仮名)が叫ぶ。
「外に出る前に洋服が欲しいわ、いつまでもタオルに包まってるのは嫌なのよね」
 クーちゃん(仮名)が呟くと「じゃあ、このお洋服を着せてあげるね」と明がピンクのフリルたっぷりお姫様洋服を取り出す。
「ちょっと! もうちょっと趣味の良い服はないの!? こんなので外に出るなんてありえないわ」
 渡された洋服をポイッとクーちゃん(仮名)は投げ捨てる。
「え、駄目ぇ? じゃあこっちのリボンは‥‥」
「何よ、この色! ババ臭いわね」
 同じくポイッと‥‥。
「もういいわ! 体を拭いてちょうだい」
 クーちゃんはため息混じりに呟くと「わかったぁ」と明が水を絞ったタオルを取り出す。
「いくら私が人形だからって水を絞っただけのタオルで拭こうなんて考えてないでしょうね! きちんと薔薇の香りのする石鹸水を含ませているよね?」
 それと、とクーちゃん(仮名)は部屋を見渡しながらため息を吐く。
「この部屋からは花の香りがしないわ、其処の貴方! 薔薇を何輪か生けなさい。でないと『人攫い』って大声で叫んでやる」
 ジロ、と睨んだとき、クワイエットからのテレパシーがクーちゃん(仮名)に届く。そのテレパシーに答えながら「使えない奴らね」と鼻で笑うように呟く。
「明、このお人形嫌ぁ。こんなのいらない〜‥‥」
 泣き出す明を見て「こら! そんな我侭を言うんじゃない!」と透がクーちゃん(仮名)に向かって叫ぶ。
「五月蝿いわね! あんたが私を此処に連れてきたんでしょ! 責任取りなさいよ! 薔薇をもってこい!」
「何なんだ、この人形は! 誰かこの人形を何とかしてくれええええっ!」
 透も泣きそうになったところに車の音が聞こえ「おい!」とワタルが家の中に入り込んでくる。
「その人形、返してもらおうか」
 ワタルが低い声で呟くと「俺が悪かった! 熨斗つけて返すから早く持って行ってくれ!」とクーちゃん(仮名)をワタルに押し付けながら答える。
「熨斗つき‥‥そりゃどうも‥‥それにしても見事に動いてるな‥‥悪いが一緒に来てくれる?」


「さて、春日の秘密を知ったからには生かして帰すわけにはいかないね。気の毒だけど‥‥人形になってもらうよ」
「お兄ちゃん、明‥‥お人形も嫌だけど、このオバ――‥」
 明が言いかけた時、サヤカの鉄拳が明の頭に落ちる。
「誰がオバサン? ねぇ、言ってみて、だ・れ・が・お・ば・さ・ん・?」
 サヤカは脅かしながら透と明の髪の毛を一本ずつ抜き取り、自身が製作した人形に込める。
 そして、記憶を除去する呪を唱え、二人の中から『春日』に関わる記憶を全て消したのだった。
「‥‥大事なことまで忘れねぇといいけどな」
 少し強引なやり方を見ながら、ワタルはぽつりと呟いた。


「最近、この手の騒ぎが多いよね、ホントに何とかならないの? ばーさま」
「昔からこうなんだから問題があるわけないじゃないか。私は住み慣れたこの家を離れる気はないし、立替するつもりもないよ」
 アキエの言葉に「やれやれ」と桂はため息混じりに呟く。
「さて、次は愚弟の番だね―――」
「え―――‥‥? マジ?」


「お兄ちゃん、誰?」
 目を覚ましたとき、透と明は自分の家にいた。
 しかし、それまで何をしていたかがどうしても思い出せない。そのうえ‥‥明は兄である透の事を忘れてしまっている。
「い、一体俺達に何が起きたんだあああっ!?」


「もう家出なんかするなよな」
 家族にぼろぼろにされたワタルはクーちゃん(仮名)にため息混じりに呟く。
「きちんと部屋の掃除をして、櫛で髪を鋤いてくれたら‥‥もうしない」
「ふふ、これから宜しくお願いしますね」
 クワイエットがクーちゃん(仮名)に挨拶すると「そうだった」とワタルが思い出したように呟く。
「名前、まだつけてなかったよな。漸くつけてやれる‥‥んー、クーちゃんでクーニャン!」
 あまりのネーミングセンスのなさにクワイエットとクーニャンは呆れた目でワタルを見ていた‥‥。


END