LUNA −warewellアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 水貴透子
芸能 4Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 18.1万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 10/25〜10/29

●本文

全てが覚醒し、物語は――完結へと‥‥。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「お兄ちゃん‥‥」

あれから数日が経ち、朱櫻の妻は強盗による死となり、朱櫻自身もまた行方不明という事で警察から疑いの目で見られていた、

「永遠の炎は覚醒し、リアの父親と名乗る腐獣――展開が早すぎてついていけんわ」

水鏡もため息混じりに呟く。

その時、月宮殿から連絡が入り「リアと朱櫻が暴挙に出ている」と連絡が入った。

「そういえば‥‥決着は月宮殿へと言っていたな‥‥」

海唄が思い出したように呟くと「‥‥夜光と朔夜がいるが、大丈夫だろうか」と月宮殿に残っている仲間を思い出して低い声で呟いた。

「おそらく、これが最後になるだろうね――」

永遠の炎を倒す、それは月宮殿の二人も死ぬという事、それは‥‥自分達も死ぬかも知れないという事。

「普通の人間として生きられたなら幸せかもな」


これが最終決戦―――っ!


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
●募集事項
◎映画「LUNA」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に必要な必須配役は特にありません。
◎何か質問がありましたらユリアナに聞いてください。
(その際は別スレをたてていただけるとありがたいです)


●今回の参加者

 fa0467 橘・朔耶(20歳・♀・虎)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa1024 天霧 浮谷(21歳・♂・兎)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa4031 ユフィア・ドール(16歳・♀・犬)
 fa5757 ベイル・アスト(17歳・♂・蝙蝠)
 fa6125 十六夜 小羽(11歳・♀・蝙蝠)
 fa6126 黒月・阿里(27歳・♂・パンダ)

●リプレイ本文

 ●終曲への道しるべ――‥‥


「何とか‥‥覚悟は決まったけど――‥‥やっぱり動揺は隠せないなぁ」
 ごろ、と寝転がりながら泰牙(天霧 浮谷(fa1024))が自嘲気味に呟く。
「思えば‥‥俺の人生、イイ事なかったなぁ‥‥ごく普通の至って平凡なつまらない人生だったなぁ‥‥」
 はぁ、とため息を吐き、天井を見上げながら呟く。しかし彼に言葉を返す者はいない。
 その時、がたんと激しい物音がして泰牙は起き上がり、扉を少しだけ開けて外の様子を覗き見る。
 すると、姿こそ見えないが琥珀(ユフィア・ドール(fa4031))の怒りに満ちた声が響いていた。
「何故! あの時パパやママと一緒に死なせてくれなかったの!」
 月天子と月姫の私室で、彼らを責めたてるように叫ぶ琥珀。
「アンタたちの言う通りに今まで生きてきたじゃない! 月鬼として腐獣と戦い、いつ死ぬか分からない恐怖に怯えながら! 言う通りに生きてきたのに‥‥何で私は何もかも奪われなきゃいけないのよ!」
 彼女が此処まで激昂するのには一つの理由があった。彼と朱櫻‥‥今はガルダ(ヴォルフェ(fa0612))と名乗っているが、二人の両親が腐獣に殺された時、まだ幼かった二人に無駄な戦いをさせたくなくて月天子は「親を悼むなら大人しくしていろ」と話した。
 その言葉を琥珀は『大人しくしていれば悲劇は起きない』という意味で受け取り、そのまま成長してしまったのだ。
「お兄ちゃんを返してよ! お義姉ちゃんを返して! 私から奪ったもの全て返してよ!」
 錯乱したかのように叫ぶ琥珀に月天子と月姫は複雑そうな表情を見せ、下を俯いている。
「落ち着け! 琥珀! ここで問答を繰り返している暇がないのは分かっているだろ」
 海唄(橘・朔耶(fa0467))が暴れる琥珀を羽交い絞めするかのように必死で止める。
「私の気持ちなんか分かりっこないわ!」
 海唄を突き飛ばし、瞳から涙をぼろぼろと零しながら叫ぶ。
「お涙頂戴の三文芝居はそこまでにしてもらおうか」
「仕方ないよ、月鬼は人間環境の中で育つ者が多いから――ドラマの見すぎだ」
 リアの姿をした永遠の炎(ユリアナ・マクレイン(fz1039))が邪笑を浮かべながら呟く。
「あ〜‥‥やっぱり姉貴の直感は当たったか」
 夜光(神楽坂 紫翠(fa1420))が朔夜(月 美鈴)の言った言葉を思い出しながらため息混じりに呟いている。彼ら二人は海唄たちがやってくるまで、ガルダたちと戦い、月宮殿を守っていた。
「朱櫻―――じゃないよな? 誰だ、お前は」
 一体、何があった――と夜光がガルダを見て、低い声で呟く。
「貴様が知る必要はない――ここで死ぬのだからなぁっ!」
 永遠の炎が黒い炎を掌に出し、月鬼たちに向けて放つ。
「主!」
 そこに割り込んできたのは、月宮殿の二人を警護するという大任を任されている緋社(黒月・阿里(fa6126))と桜織(十六夜 小羽(fa6125))の二人だった。
「また――増えたね、どうせ皆殺しにする予定だから探す手間が省けてよかった」
 永遠の炎が黒の炎を再び出し、二人に向ける。
「私の能力は――無、炎の姿をしてはいるが、炎ではない――そして純血の腐獣リアの能力は――」
 永遠の炎は薄く気味の悪い笑みを浮かべると、目の前の海唄の前に立つ。
「―――通過よ」
 呟くと同時に永遠の炎の手が海唄の体をすり抜ける。
「このまま心臓を握りつぶすこともできる――潰してやろうか?」
 永遠の炎の言葉に、意外な動きを見せたのは――ガルダ‥‥いや、朱櫻だった。
「‥‥何の真似だ」
 永遠の炎の言葉に驚いたのは月鬼や月天子、月姫だけではなく、ガルダ自身も驚いていた。
 何故なら――永遠の炎の手をガルダが掴み、海唄への攻撃を制止していたからだ。
「な―――?」
 ガルダも瞳を見開きながら、自分の手を見ている。その様子を見て夜光は一つの仮説を立てた。
 限りなくゼロに近い予想だったが、何故かそれには確信にも似たモノがあった。
「悪い‥‥ちょっと、話が‥‥」
 夜光が月鬼を呼び寄せ、話をしようとした時――‥‥一人の腐獣がやってきた。
「姫を――‥‥」
 傷だらけの姿でやってきたのは、リアと行動を共にしていた黒耀(ベイル・アスト(fa5757))だった。
「お前に用はない。消えうせろ」
 彼が愛していたであろうリアの姿で残酷な言葉を投げかける。
「姫‥‥それほどまでに絶望しないで下さい。伝えたはずですよ? 例え‥‥破滅の道であろうとも、私は貴方と共に歩むと――私では役不足かもしれませんが‥‥」
 黒耀は痛む体を押さえて、永遠の炎とガルダの元へと一歩、また一歩近づいていく。
「――ふ、とりあえずガルダ――此処は任せる。私は‥‥泰牙の元へといく」
 そう言って永遠の炎はひらりと舞い、泰牙を探す為に私室から出て行った。
「お待ちなさい! ま――」
 月姫が永遠の炎に手を伸ばしたとき、黒耀が「姫は――私の手で元に戻す」と冷たく鋭い瞳で月姫をにらみつけた。
「愚か者が!」
 今までは黙っていた緋社が、月姫と月天子に危害を加えようとした黒耀を見た途端に動き出した。
「我が主に危害を加えるなど――身の程を知れ、痴れ者が!」
 緋社が叫ぶと「本当よね」と桜織も笑みながら呟く。
「そっちは任せた‥‥俺たちは――こっちだ」
 夜光は呟きながらガルダを睨む。
「でもどうするんだ? はっきり言って朱櫻の能力、それにガルダの能力をあわせ持つ奴に勝ち目は薄いと思うが‥‥」
 海唄がちらりとガルダを見ながら呟くと「策はある」と夜光が答える。
「さっきの海唄への攻撃を止めた‥‥あれはガルダの意思ではなく、朱櫻の意思だ。つまり‥‥朱櫻の意思は奴の中で生きている」
 夜光の言葉に海唄、琥珀はハッとする。
「お兄ちゃん‥‥」
 琥珀が苦しそうに朱櫻を見る。
「視覚的に今のお前等の姿は最悪だな? どうする、俺を倒す算段でも見つかったか?」
「お前は――‥‥甘いな。俺の能力が一種類しか操れないとでも思ったか? いい加減――目を覚ませ‥‥情けないぞ―――光矢」
 夜光が呟くと同時に、大量の光の矢がガルダのところへと降り注ぐ。
「うわあああああああっ!」
 虚を付かれたガルダは光矢を避ける事は適わず、直撃でそれを受けた。
「きさまら‥‥地獄に送ってやる――俺に攻撃したことを地獄で後悔――す、る―‥」
 そこまで言いかけた時、己の体に異変が起きている事をガルダは気づく。
「地獄なら―――地獄への行き方なら‥‥知っている」
 はー、はー、と息を荒くしながら呟くのは紛れもなく朱櫻だった。
「お兄ちゃん!」
 琥珀と海唄が朱櫻に近寄る。夜光の攻撃を受けたせいもあってか、弱りきっているが、そのおかげで朱櫻は自分を取り戻すことができた。
「礼を、言う」
 朱櫻が夜光に呟くと「ようやく戻ったか」と薄い笑みを浮かべ、彼なりに喜んでいる姿だった。
「俺も――長くない。この命が尽きる前に‥‥やらねばならないことがある‥‥わかるな?」
 朱櫻の言葉に海唄と琥珀は首を縦に振った。
「永遠の炎は泰牙の所へ向かったはずだ、早く――夜光? どうした」
 部屋を出る前、立ち止まった夜光に海唄が問いかけると「少し疲れた、休んでから‥‥いく」と短く呟いた。
「姉貴も泰牙の近くにいるはず‥‥姉貴を、頼む」
 夜光はその場に座り込み「先に行け」と仲間を見送ったのだった。


 ●そして――‥‥桜織と緋社と戦っている黒耀は――‥‥。

「馬鹿な子ね、これが‥‥貴方と私達の年月の差よ」
 桜織が鳳凰演舞を発動しながら黒耀を追い詰めていく。桜織の能力は空中に羽根を生み出す能力で、腐獣が触れると爆発してしまうというものだ。
「まさか、自分だけが特別とでも思うたか?」
 緋社も閃光の槍を駆使して戦う、もともと傷を負っているせいもあり、いつものように戦う事ができない黒耀は膝を地面につけ、表情を苦しげにしている。
「姫を元に戻すまで――倒れるわけにはいかない」
 黒耀も霜穢の劫火を使い、二人に攻撃を仕掛ける。
「残念だったわね」
 桜織が呟くと、彼女たちの連携技『紅蓮の氷』で黒耀を封じ込めた。
「最後にリアの姿を見れて良かったじゃない」
 彼女たちの連携技は無理に出ようとすれば、己の体ごと消滅してしまうというもの――これで黒耀は動くに動けなくなってしまったのだった。
「主たちが心配だわ、早く行きましょう」
 桜織は呟くと、緋社と共に月姫や月天子がいる場所へと向かっていった。


 ●全ての終わりを受け入れるもの、受け入れぬもの


「お前はどの道を選択しても死ぬ――だから今死んでもらうよ。生きていられちゃ困るんだよ」
 そう言って永遠の炎が黒い炎を出した瞬間「ふざけるなよ」と泰牙が呟いた。
「どうせ死ぬにしろ! お前に殺されるのだけは真っ平ゴメンだ!」
 泰牙は永遠の炎を蹴り飛ばす。そしてその時に理解した。
「やっと‥‥わかった。お前らのせいで、俺は俺でなくなったわけだな――つまり‥‥お前のせいで、俺は死ななくちゃいけないんだな!」
 そう思うと同時に泰牙の心の中に怒りの炎が湧き上がる。死への決心はついた、しかし頭の中でそれを理解しようとしない自分がいるのも事実だ。
「くそったれがあああっ!」
 叫んで永遠の炎に攻撃を仕掛けたのは泰牙――もちろん腐獣の方の泰牙だ。
「俺の‥っつーか、宿主の人生は平凡なモンだって愚痴っていたなぁ‥‥だったら最後くらい誰かの為に死ぬ、そんな舞台を用意してやるよ」
 泰牙は笑いながら呟き、永遠の炎に攻撃を再開した。
「お前、何か勘違いしているな――確かにお前は腐獣の中で特別な部類になるだろう――しかし‥‥私は全ての腐獣を統べるものぞ、貴様如きに‥‥」
 言いかけて、永遠の炎は言葉を止め、部屋の入り口を見やる。
「ガルダ、そっちの守備は―――‥‥? ガルダ‥‥?」
 永遠の炎は眉間に皺を寄せ、月鬼たちを睨む。
「どういう――事だ」
「悪いな、俺は俺を取り戻した、お前の言いなりにはならない」
 朱櫻の言葉に永遠の炎は唇を噛み締め「だったらイラナイ」と黒の炎を発動する。
「ちぃっ―――月姫! 避けろ!」
「え―――」
 月鬼たち、そして月天子は攻撃を避けたが、月姫だけは行動が遅れ、攻撃を避ける事は不可能となった。
「月姫―――――っ!」
 とっさの事で体が勝手に動いたのか、琥珀が月姫を突き飛ばし、黒の炎を身に受ける。
「きゃああああっ!」
「琥珀!」
「きさまっ―――」
 朱櫻がぎっと鋭い瞳で睨む。海唄も怒りに身を任せ、永遠の炎に攻撃を仕掛ける。
 その時、朔夜に話しかけるものがいた。
「おい、あいつらが戦っている今の内に儀式とやらをするんだ!」
 泰牙が儀式遂行を促す。確かに今の状況なら永遠の炎に気づかれずに儀式を終わらせることができるかもしれない。
「俺の決心を鈍らせる暇を与えるな、やるなら‥‥やってくれ」
 泰牙の言葉に、朔夜は首を縦に振り、儀式の呪文を唱えていく。
「しまっ―――、させるか!」
 呪文詠唱と同時に、儀式に気づいた永遠の炎がそれを止めようとするが朱櫻がそれを制止する。
「邪魔だてはさせない」
 海唄が能力を使い、朔夜や泰牙に危害が加えられないように守る。
「地獄まで一緒に逝ってやるよ! だから、大人しくしてろ!」
 朱櫻の影の能力で攻撃を受け、琥珀の能力で永遠の炎の動きを封じる。
「お前等っ! 私が死んでしまえばそこの二人も死ぬ! お前等も死ぬかもしれない! それでいいのか!」
 永遠の炎が叫ぶと「構わない」と朱櫻が自嘲気味に笑う。
「俺にはもう――後がないんでね‥‥それに‥‥大事な奴を失った、たとえ俺が死のうとも、お前達だけは許すことができない!」
 儀式の呪文を唱え終えると、あたり一面が真昼間のように明るく輝き始める。
 それと同時に倒れる泰牙。
「頼む、ぜ‥‥? せめて、俺がいたって事実だけは――一生忘れないでくれよ」
「判ったよ‥‥もう悪い夢を見ることはないから‥‥ゆっくりと、おやすみ」
 海唄の言葉を聞いて、安心したように泰牙は瞳を閉じ、そしてさらさらと砂のようになって消えていった。
「は、やく――私を殺しなさい! 儀式が成功、しても――効果が現れるのに時間が――手っ取り早く儀式を遂行させる為に――私を殺しなさい!」
 永遠の炎の意識が薄れたのか、リアが己の体を押さえながら叫ぶ。
「所詮こんなものよ、幸せなんて‥‥なるべくしてなるものだわ、手の届かない私には‥‥夢だった」
 リアの言葉に「それは違う」と朱櫻が言葉を返す。
「リア‥‥お前は、ただ幸せになる方法を間違っただけだ。一人が寂しいなら傍にいてやるよ。家臣でもなく家族でもなく、お前を無条件で信じられる友として」
 朱櫻が呟き、影でリアの体を貫く。塵となって消える間際――リアは確かに幸せそうに笑っていた。
「さて――俺もそろそろだな」
 自分の手がさらさらと砂になっていくのを見て、朱櫻が呟く。
「‥‥‥‥お疲れさん」
 海唄が呟く。
 そして、その場に夜光もやってきて、朱櫻が消えていくのを苦しそうな表情で見ていた。
「――――じゃあな」
 まだやりたい事もあったろう、けれど‥‥彼は笑って逝った。
「お兄ちゃん‥‥」
 琥珀は消えて逝った兄を見て、瞳に涙を浮かべる。
「琥珀! 大丈夫ですか? 琥珀――」
 突然苦しみだした琥珀に月姫が話しかける、さきほどから彼女は黒の炎によって焼かれた体を癒そうとしているのだが、回復を全く受け付けない。
「本当は知っていたんでしょう? 誰も哀しまない結末なんて存在しないって」
 琥珀の言葉に「ごめんなさい、許して」と月姫が呟く。彼女自身もまた、消える時間が近づいているのだ。
「ふふ、貴方達を嫌いになんてなれるわけないじゃない――」
 琥珀は呟き、にっこりと笑った後でぱたりと手を落とした。
「こは―――」
 海唄が呼びかけるが、すでに彼女は言葉を返す事はできなくなっていた。
「月天子、そろそろ私達も―――」
「あぁ、恨まれているのも判っている、けれど言わせてくれ‥‥僕はお前達を誇りに思っているよ、ありがとう、そして――さよなら」
 呟くと同時に二人は消滅していった。
 それと同時に月宮殿が激しい音をたてて崩れ始めた。元々は月姫と月天子の二人を守護する為に彼らが作った宮殿、術者がいなくなれば崩壊するのは道理。
「急いで出よう――」
 琥珀の遺体をそのままに海唄達は月宮殿を脱出していった。月宮殿を去る間際、倒れている桜織と緋社、そして氷付けの黒耀を見かけた。
 彼らは月天子たちが消えて『死ぬ側』の月鬼だったらしい。黒耀も氷の中、月宮殿が崩壊すると同時にリアと出会えるだろう――きっと。
「早く――戻ろう、こんな悲しみしか残っていない場所‥‥早く――」


 ●終わり、明日へ生きるもの――過去に失ったもの

 ――数ヵ月後――

「此処にくるのも久々だな、アレ以来か」
 暁闇にてコーヒーを注文して海唄が苦笑しながら呟く。
「あれからもう‥‥だいぶ経ったような気もすれば、そんなに経っていない――そんな気もするな」
 夜光が海唄の前に座り、窓から外を眺めている。
「今日は‥‥満月か―――」
 夜の闇に浮かぶ満月を見ながら、海唄がポツリと呟く。
「今はなにをしてるんだ?」
 夜光が問いかけると「相変わらずさ」と答える。彼女は月天子の加護を失い、ただの人間へとなった。もちろん夜光や朔夜も同じだ。
「さて、俺はもう行くかな――」
「送ろうか?」
「いいよ、別に――‥‥じゃあ、またな」
 金を置き、海唄は外に出ると、自宅とは別方向へと歩いていった。


「よぅ、久々」
 辿り着いた先は墓地。夜という事もあって静まり返り、気味が悪いくらいだ。
「琥珀、朱櫻――それに‥‥」
 朱櫻の妻の名を呟き、ふっと笑みを浮かべる。
「お前らがいないと‥‥結構毎日退屈だな――妻に働かせるヒモの姿もなけりゃ、お馬鹿なことばっかり言ってる琥珀もいない――」
 海唄は満月を見上げ、しばらく見つめた後、目を逸らすように墓へと視線を戻す。彼女は満月を見るたびに、あの戦いで死んでいった者達を思い出していた。
「これで‥‥やっと終わることができたんだよな」
 呟き、海唄は満月を背に明日を生きる為にと足を動かし始める。
「もし――この先、俺が結婚して子供ができたら‥‥今回の戦いを語り継ぐよ」
 一度、足を止め墓の前で呟いた後、海唄は今度こそ自宅へと帰っていったのだった‥‥。


 長かった月鬼と腐獣たちの戦いに終わりをもたらしたのは、全てを知った上で覚悟した月鬼たちだった。
 その中には、明日へと生きられぬものも存在した。
 けれど、彼らの戦い、生き様、全てが海唄、夜光たちの心に残るだろう。
 そして、彼らはきっと語り継ぐことだろう。
 今回の戦いで失ったものは大きいのだから――‥‥。

(「俺がいたって事実だけは‥‥一生忘れないでくれよ?)」

 忘れないこと――‥‥それが散っていったものたちへの餞となるのだから――‥‥。



 CAST

 ・海唄      ‥‥橘・朔耶
 ・朱櫻(ガルダ) ‥‥ヴォルフェ
 ・泰牙      ‥‥天霧 浮谷
 ・夜光      ‥‥神楽坂 紫翠
 ・琥珀      ‥‥ユフィア・ドール
 ・黒耀      ‥‥ベイル・アスト
 ・桜織      ‥‥十六夜・小羽
 ・緋社      ‥‥黒月 阿里
 ・リア(永遠の炎)‥‥ユリアナ・マクレイン

 協力出演     ‥‥月 美鈴




 FIN