夢幻界廊 弐アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
2.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/02〜01/05
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●本文
『特別なんて私は望んでいなかった―‥普通だった昔が懐かしい‥』
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●夢幻界廊 弐:その時、少女は何を思う
最近、体の調子がおかしい‥。
お腹が空いているわけでも、喉が渇いているわけでもない。
だけど、私の体は確実に何かを欲しているのだ。
「また‥この事件‥」
具合が悪いのをごまかすかのように少女、詩織は無造作に放られていた新聞へと目を移した。
そこに書いている事件は、何とも奇妙な事件だった。
怪我をしているわけではない。何かを盗まれたわけでもない。
夜に人が何かに襲われて倒れているという事件。そして朝まで目覚めない、それだけの事だ。しかしこれがここ最近で七件もおきていれば不気味さに拍車がかかる。
「一週間前から毎日起きている事件かぁ‥」
一週間、その言葉に詩織は何か引っ掛かりを感じた。
「‥あ‥」
そう―‥詩織の体調も一週間前から崩れだしたのだ。
「まさか‥ね」
ただの偶然、そう思い込もうとした詩織はだるい体を引きずるようにして学校へと向かった。
「ようやく夢魔としての力に目覚めたみたいね」
詩織が学校へと行く姿を空の上から見ている女性夢魔はクスリと笑いながら呟く。
「でも―‥人間と夢魔の混血児なんてね、面白いわ」
そう呟くと女性夢魔は詩織の中の夢魔を完全に引き起こすために行動に出た―‥。
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●募集事項
◎この話は出演者のみを募集します。
◎『詩織』については以下の通りです。
・詩織は数年前に母親を亡くした。
・詩織は珍しい夢魔と人間の混血児で17歳の誕生日と同時に夢魔の力に目覚めてしまった。
・七件の事件は詩織の中の夢魔の血が騒いで起こした事件です。
・完全な夢魔ではない詩織は人一人の生気を吸収する事で完全な夢魔として目覚めます。
◎これはアクション映画です。
・夢魔を退治する夢喰いを演じられる方は一つだけ『属性』とその属性系統の『必殺技』を持たせてください。
・属性などは絶対に持たせなくてはいけないものではありません。必要ないという方は『属性なし』でも大丈夫です。
・属性は参加者の方が自由に決めて下さって構いません。お好きな属性を考えてください。
◎今回の主な登場人物
・夢喰い(必須)
・詩織(女性/1名様)
・夢魔(必須)
・夢喰い&夢魔は最低一人は出してください。
・上記以外にも演じたい役柄があればそちらでも結構です。
◎夢喰いには表の顔が存在します。
例)教師&店員などなど。
・夢喰いだからと言って仕事をしなくてもいい、という事はありません。表の世界で仕事をしなければ飢え死にしてしまいます。
・逆に夢魔は人の生気さえあれば食べなくても生きていけるので、夢魔で仕事をしている人はあまりいません。
※詩織をどうするかは参加者の皆様方にお任せします。
倒すも良し、何とかして普通の生活に戻すも良しです。
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●リプレイ本文
最近、健一(金緑石(fa4717))は自分の体に変化を感じていた。
(「‥そういえば‥」)
変化という言葉で思い出す、クラスメイトの詩織(真紅櫻(fa4961))の事を。いつも元気な彼女が最近は少し様子がおかしいのだ。無理に明るく振舞っている、そんな気がする。気にしてても仕方ないと思い「どうかしたのか?」と詩織に問いかけた。
「え?」
「や‥最近元気がなさそうに見えるから」
健一の言葉に詩織はキョトンとし、次の瞬間に大笑いし始めた。
「何?健一のくせに人の心配!?」
腹を抱えて笑う詩織の姿に気のせいだったのかと思い「さっさと帰ろ‥」と呟く。
「健一、靴箱まで一緒に行ってあげよう♪」
詩織の言葉に「はいはい‥」と疲れたように健一が呟くと、前から英語担任の久樹(橘・月兎(fa0470))が歩いてくるのが目に入ってきた。
「あ、ナツミ先生♪」
詩織が駆け寄ると「そろそろ帰らないと門が閉められてしまいますよ?」と久樹は優しい笑みで言葉を返してきた。
「はーい‥っと」
詩織が腕を上げて返事をすると、胸ポケットからペンが落ちてしまう。それを拾おうとした健一と詩織の手が触れた途端―‥二人に異変が起きた。
「「‥え‥?」」
音にしたらバチッだろうか?二人の体を電流のようなものが走った。
「‥大丈夫、ですか?」
久樹の言葉で我に返った二人は「は、はい」と答えて靴箱へと走っていった。
「‥今の気配は‥確かに夢魔と‥夢喰い」
「う〜‥まだ体が本調子じゃないわね‥」
紫雨(月 美鈴(fa3366))が気怠そうに呟く。前回の戦いの傷はほとんど癒えているが、まだ無理は出来ない状況だ。
「おや、先客ありだったか」
夢の中で寛ぐ紫雨に声を掛けるのは、同じ夢魔の隠者(K・ケイ(fa4786))だった。
「そういえば‥面白い子を見つけたわよ。珍しい混血児」
紫雨が言うと隠者は「知っている」と短く言葉を返した。
「一年前からアレの覚醒期を待って監視していた」
「へぇ‥でも夢喰いに見つかったら、消されちゃうんじゃない?あの子」
「そうならないように覚醒の儀を始めなきゃならない」
そう、紫雨は短く答えて闇夜に溶けるように夢の中から姿を消した。
「いい暇つぶしを見つけたわ」
楽しそうな声を残して。
「そんな事があったのか‥」
ペットショップ『夢猫』の地下で珈琲を飲みながら言うのは店番の雄哉(七瀬・聖夜(fa1610))だった。学校からの帰宅時、健一と詩織の異変を伝えるべく久樹は夢猫に仲間を集めて話した。
「夢喰いの方も未だ覚醒していないのなら直ちに保護する必要があるな、なぁ?苑(欅(fa5241))」
口元に手を当てて芙蓉(紅雪(fa0607))が呟く。半覚醒の夢喰いは夢魔に狙われてしまう場合があるのだ。
「そうだな、覚醒しきっていない夢魔の事も気になるし‥調査に向かおうか」
苑の提案に皆が頷き、健一と詩織を探しに夜闇の中を走り出した。
帰宅してから詩織は気分が悪くなり、ベッドに横になっていたがこみ上げてくる吐き気等に悩まされていた。
「こんばんは」
突然、部屋の中に聞こえてきた声に詩織は勢い良く起き上がる。するとそこには一人の男、隠者が立っていた。
「な‥どうやって‥」
「初めまして、詩織。君が覚醒するのを『導く』為にやってきたんだ。夢喰いに見つかってしまったからね、少し急がなきゃいけなくなった」
そう隠者が呟くと、詩織の額に手を置く。
「求めよ、されば与えられん‥目覚めよ、詩織。時は満ちた‥『審判』」
言葉と同時に部屋の中に魔方陣が現れ、詩織は襲い来る激痛に悲鳴をあげていた。
「君の本当の姿を思い出せ」
その言葉と同時に詩織は意識を失った。
「どこを探したものか‥」
夢猫を出た後、夜の公園に来ていた雄哉は周りを見渡しながら呟いた。すると奥の方で小さな悲鳴のような声が聞こえ、慌てて向かうと詩織が女性を襲っている姿があった。
「君?そんな所で何をしてるんですか?」
雄哉が問いかけると詩織はチッと舌打ちをして、掴んでいた女性の首を放す。
「夢喰い‥もうちょっとだったのになぁ‥」
残念、そう呟くと詩織は雄哉目掛けて攻撃を仕掛けてきた―‥しかし詩織が本当に狙っていたのは雄哉ではなく、後ろにいた一般人だった。
「しまっ‥」
一瞬の事で反応が遅れた雄哉は詩織に手が届かず一般人を守れなかったと後悔で目を閉じると「風よ!力を貸して」と能力で詩織を吹き飛ばす芙蓉の姿があった。
「芙蓉さん!」
「久樹さん、結界を‥」
芙蓉が呟くと、一緒にやってきた久樹は詩織が逃げないよう、そして一般人が傷つかぬように強力な結界を作り出した。
「‥詩織?」
聞こえてきた声にその場にいた全員が声の主、健一に視線を集める。
「‥え?久樹先生まで‥」
状況を把握できていない健一は久樹と詩織を交互に見比べる。
「一人はまだ半人前の夢喰いか‥そいつの生気を喰ってしまえ。後は俺が引き受ける」
そう言って現れた隠者が隠し持っていた蜂形自動兵器で夢喰いに攻撃を、詩織は健一に攻撃を仕掛けてくる。
「まずい、健一は覚醒しきっていない!このままじゃ殺られる!」
久樹が叫び、健一の方へ走り寄ろうとするが隠者によってそれを阻まれる。
「貴方達の相手は俺ですよ」
蜂形兵器を使って攻撃してくる隠者のせいで、健一との距離を縮める事が出来ない。詩織の手が健一に触れる瞬間、大きな炎が健一と詩織の間に現れた。
「やれやれ‥半人前でも攻撃くらいは避けてもらいたいものだね」
地面に座り込む健一の前に立つのは苑だった。
「新手の夢喰いですか、詩織。体勢を整えます。こちらへ」
隠者の言葉に詩織は高く飛び、隠者の隣へと降りる。
「夢喰い‥夢魔?でもあれは‥詩織じゃないか‥」
「おい」
苑が問いかけるも自問自答を繰り返す健一にフゥとため息を一つ零した。
「あの子を助けたいと願うなら動け!」
胸倉を掴みながら叫ぶ苑に健一はただ首を縦に振る事しか出来なかった。
「君も夢喰いなのか、なら僕が足止めをしよう」
雄哉の言葉に苑は「じゃあ俺はあの男の夢魔を相手にする」と告げ、隠者に向かって苑が走り出した。
「僕が能力で彼女の動きを止めよう、君は説得なりトドメなり好きにしてくれ」
「炎使いですか」
目の前の苑を見て隠者が呟く。
「炎で俺が倒せると?」
隠者の言葉に「やってみなきゃわからない」と言って大きな炎を繰り出し、それを隠者目掛けて放つ。隠者は軽くそれを避けるが二撃目に来ていた炎を見逃し、それを食らってしまう。
「大きな炎は上位夢魔でも耐えられない、だけど‥あれだけデカイ炎だと囮にぴったりだと思わないか?」
クッと笑みを浮かべて地面に伏す隠者を見下ろす。
「今だ!」
雄哉が電気の能力を使い、詩織を軽く感電させて動きを封じる。そこへ健一が詩織の肩を掴み「目を覚ませ!」と必死に訴える。久樹も教え子が心配なのか、健一と一緒に説得する姿があった。
「なっ‥止めろ、お前なんか起きて来なくていい!」
詩織が突然、叫びだすと同時に激しい光が詩織を包む。そして「健一のくせに‥」と弱々しい笑みを浮かべる詩織の姿があった。
「‥ちっ」
詩織が意識を取り戻したのを見て隠者は舌打ちをして「これ以上はまずいな‥」と呟く。
「逃げるのか?」
「ご自由に‥それじゃ、いずれまた‥」
苑に言い残すと隠者はスゥと溶けるように消えた。
「健一、私を殺して」
激しい争いから暫く時間がたつと、落ち着きを取り戻した詩織がポツリと呟く。
「何を‥」
「もう一人の私の記憶がさっき流れ込んできたの。お母さんを死なせたのは私だった。私がお母さんの生気を奪って‥」
健一は周りに立つ夢喰い達の顔を見るが、皆同じ意見らしく助ける方法がないという事が分かった。
「‥私ね、健一に殺して欲しい」
にっこりと笑う詩織に「‥ごめん‥」と呟き、強く目を伏せた。しかし健一は夢喰いの能力を自在に扱えるわけではない。どうしようと悩んでいると久樹が「俺が力を貸してやる」と言って健一の手に自分の手を重ねた。久樹の力を借りて能力を引き出した健一の腕は獣の腕のように変化していた。
「ごめんね、嫌な役を押し付けて‥」
詩織はそう呟くと目を伏せる。それから数秒後に鈍い音が響いた。
「‥私ね‥健一の、事が‥」
詩織は言葉を言い終わる事なくザァッと砂のように消えてしまった。
「ふぅん‥半分同族でも手にかけるのね」
空間を裂き、現れたのは紫雨だった。健一は見知った顔に眉を顰める。
「貴方達がどんなに頑張っても無駄よ、貴方達の存在は邪魔なのよ。それに―‥ようやく出来ると思った仲間まで殺めてくれちゃって‥」
紫雨はクスと笑いながら、健一を責めるような言葉を残して消えていった。
「‥生気の味を覚えた夢魔は封印できない‥あの子は手遅れだったんだ‥」
芙蓉が慰めるように言うと「‥俺は強くなりたい」と涙交じりの健一の声が聞こえた。その言葉に苑は「強くなれるさ‥」と消えた詩織が安らかに眠れるように目を伏せた。
「彼は強くなるわ」
芙蓉が言うと「何故だ?」と久樹が短く言葉を返してくる。
「分からないの?彼は貴方と同じ道を辿ってきているのよ。混血の夢魔、恋人を殺めた貴方と同じ生き方をね」
芙蓉の言葉に久樹は言葉を返す事なくその場から立ち去った。
「癒されぬ傷と深める傷、果たしてどちらの傷跡が醜いのか‥」
立ち去る久樹と泣き叫ぶ健一の姿を見て、芙蓉は小さく呟いた。
END