後ろの向こうに‥‥アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/25〜09/29
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●本文
人間とは不思議な生き物で、常に平凡な日常に飽き、スリルある生活を求めているものです。
怖いと分かっていながら、自らを満たすために人はスリルを求めるのです。
それは意識している人と、無意識にスリルを求めている人とにわかれますが…。
大抵の人がスリルを求めて手にするのがホラー小説や漫画、残虐性の高いゲームだと思われます。
そこで、一つホラーブームに乗って映画を撮影しようと考えており、出演者を募集しています。
タイトルは『後ろの向こうに‥‥』というものです。
話の内容を簡単に書いておくので参考にしてください。
―内容―
◎舞台は廃校になった『小学校』
◎出演者は夏の思い出に『肝試し』にきている。
◎校舎に入ると、突然全ての出口が閉まり、校舎の中に閉じ込められる。
◎校舎のあちこちで霊現象が起きる。
◎目的は校舎からの脱出。
以上が簡単な話の内容です。
夏の終わりの残暑をも吹き飛ばすほどの怖く冷たい映画を作ってみませんか?
●リプレイ本文
始まりは鈴木(志藤・拓郎(fa4644))が提案した廃校となった母校に隠された七つ目の不思議を探そう、という言葉からだった。
騒いでいる大人や同じ年の頃の少女をセイ(各務・聖(fa4614))は冷めた目で一瞥すると、重く聳え立つ校舎に視線を移した。
セイが一番最後を歩いており、彼女が校舎内に足を踏み入れた途端に扉は勢いよく閉まり、美夕(渡会・飛鳥(fa3411))が悲鳴をあげた。美夕は友人の皐(琉華(fa4634))の服をギュっと掴みながら震えている。
「大丈夫よ。風で閉まっただけだよ」
怖がる美夕を皐は苦笑混じりに見つめ、鈴木と相川(天深・菜月(fa0369))が閉まった扉を開けようとするが。
「開かない‥ちょっと、これ閉じ込められたって事!?」
相川が少し大きめの声で言うと、ザワと空気が騒いだような感覚がした。
「で‥出られないの?」
閉じ込められた事によって多少パニックになったのは晃(大海・結(fa0074))、だが人前で見苦しい所は見せたくないという強がりからか、すぐに落ち着いたような態度に戻った。
「怖い怖いと思うから怖いんだよね‥はははは‥」
鈴木が引きつった笑いを見せる。
「これって霊現象の定番よね」
楽しげに言うのはジュン(稲川・ジュンコ(fa2989))でカメラを手に校舎内を撮っていた。彼女はどこから聞きつけてきたのか、皆とは面識はない。
もう一人は赤いイブニングドレスが特徴的な泥紋・麗華(十六夜・勇加理(fa3426))と名乗った少女で常に妖しい笑みを浮かべていた。
その後も扉は開かなかったので仕方なく校舎内を探索して他の出口を探すことにした。
軋む廊下を歩きながら校舎内を探索する。晃は好奇心旺盛なのか先へ先へと行こうとするが小さな物音で怯えたりしている。その度に「別に怖いとかそういうわけじゃないんだからね!」と強がりを言っていた。
「所詮は霊なんだし」
ジュンが大きな声で笑いながら言う。
「‥少しは言葉を慎んだ方がいいと思うわ。霊の反感を買うで」
そう静かに話したのは麗華だった。その言葉に多少むっとしたのかジュンは何も言わずにさっさと歩いていく。
「どこも開かないわね」
歩きながら通る教室全てを麗華が確かめていたが開く扉は一つもない。
「ねぇ、何の音ですか‥」
理科室の前を通り過ぎ、廊下を曲がった所で突然呟いたのはセイ。その言葉に皆が耳を澄ませると何かがこちらに向かってくるような音が静かな校舎内に響いた。
―ガシャ‥。
ひた、と音をたて曲がり角に手を置き、顔だけを覗かせてきた物は―‥理科室などに置かれてある人体模型と骨格標本だった。
「きゃっ」
美夕とジュンの悲鳴が響き渡り、それにハッとして全員が走って逃げ出す。鈴木と相川はパニックを起こしながらも自分より若い子達を逃がそうと一番最後を走った。
「な、何なの!?もう嫌っ」
ジュンは叫びながら、一人別な場所へと走っていってしまう。それに気がついた麗華が皆の中から抜けジュンの後を追った。
「あ!」
動く無機物から逃げている最中、美夕が大事にしているリボンが髪から離れて床に落ちてしまう。思わず立ち止まりそれを拾う。皆は美夕が立ち止まった事に気がつかずにだいぶ離れてしまった。
「早く皆に追いつかなくちゃ‥」
リボンをバッグに直し、顔を上げると大きな鏡が視界の中に入ってきた。美夕は追いかけるために足を動かそうとしたその時‥鏡の中の自分に両肩を掴まれた。
「‥え?」
「はぁっ、ここまで来れば大丈夫なんじゃないかしら‥」
息を乱しながら相川が呟く。すると晃の肩が震えている事に気がつく。
「ちゃんと守るからね。泣かないで一緒に帰ろう?」
「‥こんな事になるんなら肝だめしなんて来るんじゃなかったかも‥」
晃は興味本位で来た自分を今更ながらに呪う。それはここにいる全員が心の中で思っていた事だった。
「‥ねぇこの曲って月光‥だよね?」
皐が呟く。確かに上の階から月光の曲が流れている。
そして誰もが思っただろう。誰が弾いているのだろう‥と。足元を見ると『音楽室』と書かれたプレートが落ちている。古くなって壁から落ちたものだろう。
皆は聞こえてくる曲に誘われるかのように上の階へと足を向けた。
「ここね‥」
相川が一度深呼吸をして音楽室の扉を開けた。
「うわあっ」
叫んだのは晃。音楽室に置かれた古いピアノを弾いている人物は、いや、人物ですらなかった。血まみれの手首だけが弾いており、曲を弾き終わるとスゥ‥と消えてしまった。きゃあ、誰かがそう叫ぼうとした時に別の人物の悲鳴が耳に響いてきた。
「この声‥美夕?」
「‥今の声は何かしら‥」
ジュンは来た道を振り返り怯え気味に呟いた。皆とははぐれ、至る所で霊現象が飛び交う校舎を一人で歩いているのだ。気が弱くなるのは無理もない。
突然、窓ガラスがパンっと弾けるように割れる。
「ひっ」
ぱん、ぱん、と何かがこちらに向かってくるような感じで割れる窓ガラスを見てジュンは青ざめ、隠れる場所を探すために走り出した。
「ふふ、鬼ごっこの始まりね」
楽しげに呟き、ジュンが走っていた方向へとゆっくり向かうのは‥麗華だった。
「はぁっ、はぁっ」
ジュンは背後から迫ってくる恐怖から逃れるため、女子トイレの一番奥の個室に逃げ込んだ。
「お願い‥こないで‥」
キィ‥とドアが開く音が響き、個室を一つ一つノックしてくる。
「ごめんなさい‥もう霊を弄ぶような事はしません‥だから家に帰してください‥」
ガタガタガタガタガタッ――
「きゃああぁっ」
ジュンの隠れている個室が激しく揺れる。突然の出来事にジュンは失禁をしてしまう。
それは暫く続いたが、ピタリと止み諦めたのだろうと胸を撫で下ろしたのも束の間で、視界が暗くなり赤いドレスがひらひらと上から舞う。
「‥‥え?」
そこでジュンの意識はなくなった。
「美夕!」
皆が踊り場まで戻ってくるとジュンが美夕に馬乗り状態になって襲い掛かっている場面に遭遇する。
「ちょ‥何してるんですか!」
皐が美夕からジュンを引き剥がそうとするが、物凄い力で引き剥がす事が出来なかった。
「どいて!」
相川が皐に退くように叫び、ジュンを思い切り突き飛ばす。その間に美夕を鈴木が背負い逃げ場所を探す。
「鈴木先生こっちはダメだよ!」
晃が言いながら指した方を見ると、先ほど追いかけてきていた骨格標本と人体模型が近づいてきていた。
「逃げる場所‥」
セイが回りを見渡し、他に逃げ場所がないかを探しながら呟く。
「あの教室‥一箇所だけ扉が開いてる!」
皐の言葉を合図にメンバーはその教室に向かって走りだす。
「あの人‥」
セイが教室の前で立ち止まり、見たものはジュンを追っていった麗華だった。闇夜に鈍く光るドレスが皆に恐怖を与える。麗華が手に持っていたナイフから血のような液体が滴り落ちている。
「とにかく中に入らないと‥」
「そ、そうだね」
今にも襲ってきそうな彼女達を見ながらセイと晃の言葉に皆は教室の中に入る。
「何これ」
相川の驚く声が小さく響く。廃校となった時に片付けられたはずの机が整然と並べられており、その中央の机には紙と鉛筆が置かれている。
―ダンっ!
「鈴木先生、机でバリケード作らなきゃ‥あいつらが入ってきちゃうわ!」
激しく扉を叩く音に慌てて全員で机を動かしてバリケードを作る。廊下に面した窓ガラスには人影がちらちらと見え隠れする。
「‥ここから出られる方法‥あるよね?」
晃が気の弱い声で呟く。どんなに強がっていても、平気そうにしていてもまだ子供なのだから怯えるのも当然だろう。
「これ‥コックリさん?」
呟くと同時に鉛筆が動き出し「苦しい」「助けて」「出して」と繰り返しぐるぐると回っている。
「きゃあ、扉が‥」
美夕の声に視線を向けると、扉に麗華が持っていたナイフが突き刺さっている。それが抜かれ僅かな隙間が出来る。その隙間から麗華とジュンがニィと笑みを浮かべている。
「美夕‥?」
皐は先ほどから美夕の様子に違和感を覚えていた。怖がりなのは変わりがないように見えるが最初とは違い、人が怖がっているのを楽しんでいる‥そんな風に見えた。
「‥どうしたの?」
「(考えすぎかな‥)」
普段と変わりのない美夕に皐は首を傾げる。
わ・た・し・を・だ・し・て
こっくりさんがそう書き終えると教室の窓が大きな音を立てて割れる。そしてその向こうに広がるのは‥。
「外だ!先生、外だよ!」
晃が嬉しそうにはしゃぎ、割れた窓から外へと出て行く。ようやく見えてきた希望に皆はほっと胸を撫で下ろす。
「もうこんな所は嫌、早く帰りましょう」
美夕は後ろを振り返り、校舎を見る。するとそこには窓を叩き必死に助けを求めている人物‥美夕がいた。
「あ」
バッグからはみ出していたリボンが風に舞い、校舎の方へと飛んでいく。
「‥貴方も出たければ誰かと代わってもらってね」
そう呟き、美夕は皆に追いつくように足早に歩き出した。
「久しぶりの遊び相手だったのに。残念やわ」
麗華が笑みながら言う。
「でも仲間が二人も出来たし‥」
ちらりとジュンと美夕を見る。
そして先ほどの教室にあった黒板でチョークが一人で動き出す。
―次は誰?早くおいで、早く早く早く―‥‥
書き終えると床に落ちてチョークは粉々になった。
これは終わりではない。
校舎に残された者にとっては始まりにしか過ぎないのだから―‥。