魔女狩りの夜 前編アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 水貴透子
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 8.2万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 01/13〜01/17

●本文

『その村では‥普通である事が異端だった‥‥』

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●話の内容

『普通』
この言葉を聞いて、貴方はどのような事を連想する?
おそらく、大抵が『他の人と同じ』だと言う言葉になると思う。
怪力を持つ人間、宙に浮く人間、いきなり火を出せる人間、こういう人間達は『普通』という枠に当てはまらないのだと思う。
しかし、それは『何も出来ない』人間が大勢いる場所でのみ許される言葉だと思う。
もし―‥もしも周りにいる人間全てが特殊な能力を持っていたら?
何も力を持たない人間は果たしてそれでも『普通』だと呼べるのだろうか?


※※※
「やっぱり‥田舎ねぇ‥」
バスに揺られること二時間半、降りた先から歩くこと二時間‥着いた先は見事な山の中。
今回、一行がこんな田舎にやってきたのは『愛鳥同好会』というサークル活動の為。
いつもは別な所に合宿にいくのだが、今回はこの村でしか見れない鳥がいると先生が
聞きつけて、急遽この村へと変更になったのだ。
「旅館も結構雰囲気出てるな‥」
「‥先生、ただ単に古いだけでしょ‥」
それもそうだな、そう言って一行は古びた旅館の中へと入っていく。
「いらっしゃいませ‥ご予約頂いて置いた真鍋様ご一行様でございますね?」
旅館の中に入ると、古びた旅館に相応しくない美人女将が丁寧に頭を下げて、澄んだ声で呟いた。
「‥つかぬ事をお伺い致しますが、皆様は『普通』でいらっしゃいますよね?」
突然呟かれた女将の言葉に全員が互いの顔を見合わせて首を傾げる。
「‥えぇ、普通だと思いますよ‥?」
何に対しての『普通』なのか聞くこともなく顧問の教師‥真鍋は答えた。
「そうでございますか、それはようございました―‥この村では普通でない人間は異端だとされ、殺されてしまうのです」
女将の言葉に、全員が息を呑んだ。
「‥え‥冗談、でしょう?」
「ふふ、さぁ‥どうでございましょうね‥」
言葉を濁す女将に不気味さを感じながらも一行は案内された部屋に入っていった。

※※※
「何か‥不気味じゃない?あの女将さん」
「‥うん、確かに‥普通殺されるとか言わないよね‥」
トイレに向かう途中で二人の女子が話す―‥と、そこに‥。
「ちょっ‥あれ、見てっ」
え?と指差す方を見ると、宙に浮く女将の姿があった。
「‥ひっ‥」
女将はこちらをくるりと向くと「何を驚いてるんです‥?」と笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「ふ、普通ってそんな事出来ないわよっ」
その言葉に今まで静かな笑みを浮かべていた女将の表情が一変した。
「‥‥『普通』ならば出来るはずです。あなた方‥普通ではないんですね‥?」

そう呟く女将の顔は、とても楽しそうだった―‥‥。


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●簡単な説明
◎これは前後編完結のシナリオです。
◎内容はホラーに分類される方だと思います。
◎出演者は結果的に襲い来る村人から逃げて、村を脱出して下さい。
◎後編のOPはリプレイ次第で変わります。
◎後編は一月下旬から二月初旬に公開予定です。
◎募集配役は以下の通りです。
 ・真鍋先生(必須/男性一名)
 ・『愛鳥同好会』のメンバー(必須/何名でもOK)
(学校の同好会ですがエスカレーター式の学校なので、年齢制限はありません)
 ・村人(何名でもOK)
 ・美人女将(必須/女性一名)
とりあえず、思いつくのは上記四つですね。他にも適役がありましたらお書き下さい。
◎私が考えた設定は上記のみです。参加者の皆様で話し合っての設定追加はOKです。

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●今回の参加者

 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa1083 狂闇式王子(18歳・♂・蝙蝠)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa1609 七瀬・瀬名(18歳・♀・猫)
 fa1771 由比美紀(20歳・♀・蝙蝠)
 fa2467 西風(58歳・♂・パンダ)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa3470 孔雀石(18歳・♀・猫)
 fa4550 リリン(18歳・♀・豹)
 fa5189 鈴木悠司(18歳・♂・犬)

●リプレイ本文

「暗いですし外に出るのはお勧め出来ませんわ」
 同好会の仲間である二人の女子生徒が突然いなくなり、探しに行こうと由紀(由比美紀(fa1771))がいうが女将の摩子(都路帆乃香(fa1013))に止められてしまう。
「もう夜も遅い。彼女達の事は確かに心配だが‥ここは地元の人達の意見に従おう」
 そう瀬尾を宥めるのは顧問の真鍋(西風(fa2467))だった。彼もいなくなった生徒達の事は心配だったが、暗い森の中を探せないと判断して摩子の意見に従う事にした。
「確かに‥暗いからね」
 外を見ながら言うのは祐(鈴木悠司(fa5189))だった。二人に促され「そう仰るなら‥」と由紀は外に探しに行くのを諦めた。
「朝一で探しに‥きゃっ」
 転げながら言うのは瑞希(七瀬・瀬名(fa1609))だった。
「大丈夫か?」
 そう言いながら転んだ瑞希に手を差し出すのは同じ同好会メンバーの景(狂闇式王子(fa1083))だった。
「今日はお休みになって下さい。お疲れでしょう」
 摩子はにっこりと笑み、布団を敷いた部屋へと案内する。まるで『さっさと寝ろ』と言われているようで解せない気がしたが言われた通り、疲れもあってメンバーは寝る事にした。いなくなった二人を心配しながら‥。


 その夜、トイレに起きた祐は一人の女性、静(DESPAIRER(fa2657))と誰かが話しているのを見かける。その『誰か』は木に隠れてしまっている事と夜中だという事で見えなかったが静かな分、話し声はしっかりと聞こえた。
「‥本当にやるの‥狩りを‥」
「もちろんじゃないか。何の為にあいつらを連れて来たと思っているのじゃ」
「‥そうだけど‥」
 静はせめて『警告』だけでもしてあげようかと思いついたが、目の前の恋人、そして村の人を裏切る事など出来なかった。
「‥何だろ‥」
 半分以上寝ぼけている祐に話の内容は理解出来なかったしトイレにも行きたかったので足早にその場を離れた。


「うん‥そうだね」
 その朝、一行は珍しいと言われる鳥といなくなった二人を探す為に森へと向かう、しかしその途中で木に話しかけている奇妙な女性、侑子(リリン(fa4550))を見かけた。それを怪訝そうな目で見ていると、突然くるりと振り向き「こんにちは」と挨拶を交わしてきた。
「‥こ、こんにちは」
 木と話していた場面を見てしまったからか、一行は少し引いたような声で言葉を返した。しかし侑子は何で自分がそんな目で見られるのか訳が分からなかった。
「‥先生、変わった人ね。木と話してたよ」
 由紀のその言葉にピクリと反応して「‥貴方達、普通じゃないのね‥」と短く呟いた。そして次の瞬間‥木の根が隆起して由紀と瑞希が転んでしまう。
「何‥いきなり木の根が‥」
 隆起した木の根を見ていると、目の前に何かが迫ってきているのが分かった。ふ、と真正面を見ると‥ゆらゆらと宙に浮く侑子の姿があった。それを見て、恐怖で叫ぶ者、驚きで言葉を失う者、様々だったが、全員の頭に浮かんだ事、それは『逃げる事』だった。
「先生!ここ変ですよ‥気味が悪い!」
 逃げながら祐が叫ぶ。真鍋が後ろを振り返ると、ゆっくりと近づいてくる侑子の姿が見える。
「幸い近づく速度は遅いようだから、走って遠くまで離れよう」
 森の中だから一度見失ってしまえば簡単には見つからない、そう思った真鍋は急いで走るようにとメンバーに促す。
 それから数十分程走り続け、ようやく侑子の姿が見えなくなった。
「こうなった以上‥いなくなった二人も気がかりだが、君達の安全を優先にしなければならない」
 ゼェゼェと息を切らせながら真鍋が呟く。
「くっ‥一体何なんじゃよ、これは‥」
「こんな所なんて一秒だっていたくない、何をされるか分からないし‥。早く帰りましょう!」
 それぞれの意見を言い合うと瑞希と由紀が「あ、あれ!」と指差しながら震えた声で言う。その方向を見ると‥昨晩からいなくなっていた仲間の変わり果てた姿があった。
「な‥んで‥」
 祐が震える声で呟く、昨日までは普通に馬鹿話をして笑っていた仲間だったのに。
「見ぃつけたぁ〜‥」
 クスクスと楽しげに笑う声が聞こえて勢い良く振り向くとテディベアを抱きしめながらこちらを見る牡丹(美森翡翠(fa1521))の姿があった。
「逃げても無駄だよぉ。鳥さん達が牡丹の代わりに見つけてくれるもん」
 ねぇ?と牡丹が言いながら空を見上げると一気に何十羽もの鳥が飛び出した。
「嫌っ!来ないで!」
 瑞希が叫ぶ。目の前にいるのは小さな少女、恐れる必要はない筈なのに一行は言い表せない恐怖感に見舞われた。
「早く逃げるんじゃ!逃げなければ何をされるか分からんぞ!」
 景の言葉にハッと我に戻った一行は牡丹から逃げる為に森の奥深くまで逃げる事にした。
「‥‥恭也お兄ちゃん‥」
 牡丹の小さな呟きは森の静寂に消え、誰の耳にも届く事はなかった。


「静、あの子達がどこへ向かっているか読みとれる?」
 森の中を移動している一行を探すのは、住み慣れた村人でも簡単には行かない。そこで役に立つのが静の能力である。
「‥‥いえ、今は‥頭が痛くて‥」
 静の言葉に摩子は「大丈夫?」と優しく問いかける。
「えぇ‥大丈夫です」
 頭が痛いというのは嘘で、狩りに乗り気でない静は少しでも狩りの時間を遅らせるようにと嘘をついたのだ。
「仕方ないわ。皆で手分けして探しましょう。森で牡丹と会ったと恭也から連絡が来ているわ」
 摩子の言葉に村人は手に凶器を持って森へと歩き出す。
「さぁ、行きましょう」
 静も摩子と共に一行を探しに歩き出した。


「日も落ちてきたな‥早くこの村から逃げ出さなくては‥」
 真鍋は自分の教え子達を守る為に脱出策を考えるが、地理が分からない分こちらが不利だ。
「先生!あれを見て!」
 由紀の言葉に視線を移すと松明を持って森の中を散策する村人の姿があった。
「このままじゃ‥」
 見つかるのも時間の問題、そう真鍋が呟いた時に腕を引っ張る占い師(孔雀石(fa3470))の姿が目に入った。
「こっちへ」
 腕を引っ張る占い師に一行は驚きを隠せない。彼女も村の人間の筈、自分達を助けるわけがない‥という考えが頭を掠めたのだ。
「捕まりたくなかったらこっちへ来なさい」
「先生、このままじゃ捕まるだけじゃ。行こう」
 景の言葉に決心したように占い師の後をついていく。少し歩いた所に古ぼけた家が一軒建っていた。
「暫くの間だけ匿ってあげるから、休憩して。今、何か飲み物を持ってくるわ」
 家の中に入ると占い師は台所へと向かい、人数分の紅茶を持ってきた。
「‥何?別に誰もいないわよ?」
 家の中を見回す瑞希と由紀に、占い師は怪訝そうな顔で答えた。
「いえ‥何で助けてくれたんだろうって‥」
 瑞希が言うと「困っている人は助けてあげましょうってお祖母ちゃんから教わったの」と本気なのか冗談なのか分からない表情で答えた。
「この村は‥一体‥」
「この村はね、陰陽師の式たちが暮らしていた村なの。時の流れと共に人との混血が進んで異能者が生まれるようになったってワケ」
 村人の異能ぶりには納得がいった、しかしそこで新たな疑問が生まれる。
「何で私達が狙われるんですか‥?」
 由紀が問いかけると「それはね‥」と占い師はため息混じりに話し始めた。
「村でもうすぐ大きな祭りがあって、その生贄のためよ。昔は猪とかを贄に使っていたんだけど、最近‥ね。さて」
 占い師が話を切り上げ、奥側にある扉を指差す。
「裏口を出た所に小道があって、進むと川に出るわ。それに飛び込めば必ず助かるけど、そこまでは自力で行ってね。長い距離じゃないから」
「分かった、ありがとう」
 脱出路を教えてくれた占い師に真鍋が礼を言うと「‥お礼は助かってからにしたら?」と苦笑気味に答えた。


 それから、占い師から言われた通りに川に飛び込む。すると村から離れた場所へと流れ着いた。
「これで一安心じゃろう、わしがふもとまで送ってくれるような車を捕まえてこよう」
 景がそう言い、濡れた髪の水切りをしながら道路へと向かっていく。
「先生、これで助かったんですよね‥」
「そうだな、村で惨殺された二人には気の毒だが‥」
 殺されてしまった仲間の事を思うと無念でならなかったが、今は自分の命が助かったことを素直に喜びたかった。
「きゃっ」
 全身がびしょ濡れのせいか、瑞希は足を滑らせて転んでしまう。
「瑞希ったらどこでも転ぶんだね」
 祐が笑いながら瑞希に手を差し出す。
「おーい、ふもとまで連れて行ってくれる人を見つけたぞ!」
 遠くから景が手を振りながら叫ぶ。その近くには軽トラが停まっており、運転席には体格の良い男の人が乗っていた。
「よかった、これで帰れるんだね」
 祐が真っ先に駆けて軽トラの荷台に乗り込んだ。
「わざわざすみません」
 真鍋が頭を下げながら言うと男性は「お気になさらず」と笑顔で答えた。

 そして一行は『普通』の生活に戻れた‥筈だった。


「逃げられちゃったよぉ!」
 テディベアを抱きしめながら牡丹が悔しげに叫んだ。他の村人もせっかくの生贄が、と口々に呟いている。
「心配はいらないわ」
 摩子が人形を片手ににっこりと微笑む。
「恭也から連絡が入りました、今‥こちらに向かっているそうです」
「‥‥恭也さん」
 静は少し俯きながら最愛の恋人の名を呟く。それはつまり―‥狩りの続行を意味する事なのだから。

 一行が振り出しに戻ったと実感するまで‥あと数十分。


前編・END