give☆meアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/28〜01/30
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●本文
『そこはお金では買えない物を代価に、逃げたいモノから必ず逃がしてくれる
だけど、よく考えなさい。
その払う代価は、もしかしたら貴方の一生を左右するモノかもしれないのだから』
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●話の内容
『いじめる私達が悪いんじゃないわ、いじめやすいアンタが悪いのよ』
今日も学校に行くのが怖かった。
二学期になってから突然、クラスの一部の生徒が和歌子をいじめ始めてきたのだ。
最初は子供の悪戯のようないじめだったが
何も反抗しない和歌子を見て、いじめは更に悪化し始めた。
―なんでいじめるの?
思い切って和歌子が問いかけると、いじめっ子は笑いながら答えた。
―ただの暇つぶしよ‥と。
もうどうしようもなくて、歩道橋から下を見下ろす。
きっとここから飛び降りたら楽になれるんだろうな、そう思いながら。
「おねーさん。何か悩み事?」
突然声をかけられて、和歌子は驚き、勢いよく後ろを振り向いた。
そこには一人の子供が立っていた。コンビニの袋を手に持って。
「おねーさんが何を考えてるか知らないケド、それを実行する前に僕の話を聞いてみない?」
そう子供が悪戯っぽく笑う。
「何か逃げたいモノがあるなら、僕らが逃がしてあげる。人からも気弱な自分の心からも」
その子供は私をからかってるんだ、だってそんな心から逃げるなんて出来るはずがないのに。
「僕と事務所にいる相棒は逃がし屋をやってるんだ。高い報酬を貰う代わりに何からでも逃がしてあげる」
そう言って少年が提示してきた報酬は―‥和歌子の『泣くという感情』だった。
泣くという感情を渡せば、いじめられやすい自分の弱い心から逃げられる。
さぁ、どうする?
ゆっくり考えるといいよ。
だって、僕らに仕事を頼んだ時点でおねーさんは泣けなくなるんだから。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※●募集事項
◎これは映画で、出演者のみを募集します。
◎今回の役柄については以下の通りです。
・和歌子(必須/女性一名)
・いじめっこ(必須/何名でも可)
・和歌子に話しかけてきた『僕』(性別はどちらでもOK/一名)
・事務所にいる『僕』の相棒(必須/性別はどちらでもOK/一名)
※私が思いついた役柄は上記ですが、他にも適役がありましたら、そちらを演じてもらって結構です。
◎和歌子が「逃がし屋」に仕事を頼むかは参加者の皆様に一任します―‥が、頼まないとなった場合は話作りがかなり難しくなるかと‥。
◎この他にも良い設定を思いついたら、他の参加者の皆様と話し合って設定追加はOKです。
●リプレイ本文
自分の弱い心からも逃がしてくれる、そうあの少年は言った。
「馬鹿にしないで!」
話しかけてきた少年に和歌子(悠奈(fa2726))は叫んでその場を去った。
「何だったんだろう‥」
毒気を抜かれ、和歌子は自宅に戻りベッドに体を預けた。不思議な少年というか、何だか胡散臭い少年だった。
「新手の宗教かな‥」
和歌子は襲い来る睡魔の中、一人呟いた。
「あ〜ら、おはよう、和歌子」
次の日の朝、学校の靴箱で後ろから裕香(ユフィア・ドール(fa4031))が和歌子にわざとぶつかり声を掛ける。和歌子が黙って裕香を見ていると「何よ」という短い言葉が返ってきた。
「おはようって言ってるじゃない。返事くらいしたら?」
笑いながら言うのは裕香と一緒に和歌子を苛めているきらら(☆島☆キララ(fa4137))だった。元は大人しい性格の彼女だったが周りが和歌子を苛めているからという理由で苛め始めたのだ。
「きらら、誰と話してるの?何かいる?」
目線は和歌子を見て裕香が呟く。その意図に気がついたのか「最近幽霊が見えてきちゃって♪」ときららはおどけたように答えた。相手にするだけ無駄、そう思い和歌子は二人の間をすり抜けて教室へと向かった。
「おはよう、凉宮さん」
教室に入ると、担任の斉藤(真喜志 武緒(fa4235))がいて、和歌子に挨拶をしてきた。和歌子は「‥おはようございます」と暗い表情で挨拶をした。
「最近、二階堂さんと一緒に行動しないんだね、喧嘩でもした?」
二階堂、つまりは裕香の事を言っている。高校に入るまでは裕香と和歌子は大親友だった。それが突然、裕香が変わり始めて和歌子を苛めるようになってしまった。
「‥別に何も。先生が心配するような事は何もありませんから‥」
そう答えると和歌子は自分の席へと足早に向かった。
「おはよう、凉宮さん」
和歌子に話しかけてきたのはクラスメートの山本(高柳 徹平(fa5394))、彼は別に苛めに関して自分に害がなければいいという考えの持ち主で、和歌子にも普通に接する。苛めの場面に遭遇しても自分は何も見ていない、という素振りで通り過ぎる。
おはよう、そう言葉を返そうとしたが自分の机に黒のマジックで書かれているのを見て目を丸くした。
―いつ頃に死んじゃう予定ですかー?
クラと眩暈が和歌子を襲う、そして後ろから笑い声が聞こえ、目を向けると裕香ときららがクスクスと笑いながらこちらを見ていた。
その一部始終を見ていたのは同じくクラスメートの浜口(月白・蒼葵(fa4264))だった。彼もほとんどの生徒と同じで苛めを黙認している人物の一人だ。他と違うのは、苛めを黙認する代わりに自分は苛めを行わないという事。苛めを行っている女子生徒達を見て「女って怖ぇ‥」という感情を持つだけで助けようという気にはならなかった。
その時、和歌子が涙を流しながら教室を飛び出していった。
「どうかしたんですか?」
斉藤が問いかけるが「気分が悪いみたいで保健室じゃないですかぁ?」ときららが答える。和歌子の席は一番後ろのため、斉藤が机の異変に気がつくことはなかった。
「もう‥どうでもいいよ‥」
先日の歩道橋に来ていた和歌子は、今度こそ‥と手すりから乗り出す。
「おねーさん、この前の話‥考えておいてくれた?」
あと少しで飛び降りれる、そう思った時に先日の少年、透(タブラ・ラサ(fa3802))が来た。
「ねぇ‥この間の話、本当なの?本当なら‥助けてよ‥もう嫌なの!」
涙を流しながら縋るように叫ぶ和歌子に透はニッと笑い「じゃ、ついてきて」と背を向けながら答えた。
「珪(レイス・アゲート(fa4728))」
あれから透に連れられてやってきたのはアンティークショップ『燐月堂』だった。透が珪と呼んだ青年は店の奥で商品の手入れをしている。
「いらっしゃいませ―‥おや貴方でしたか、透」
そう呟き「おや」と珪は言葉を続ける。
「そちらの方は?」
「あ、お客だよ。ちなみに『逃がし屋』に依頼」
透の言葉に「そうでしたか」と珪は和歌子の近くまでやってきて、丁寧に頭を下げた。
「本日はご依頼ありがとうございます。逃がし屋の鹿嶋・珪と申します。準備がありますので奥でお待ちになっていてください」
珪は透に客間まで案内するように言うと、自分は奥の部屋へと引っ込んでいってしまった。
「珪の準備が終わるまで、こっちで待ってて。何か飲む?」
透はテーブルの上に置いてあるジュースを取り、和歌子に差し出す。だが和歌子は言い知れぬ恐怖に身を震わせていた。
「あれ?怖くなった?別に帰ってもいいよ?今と何も変わらない日常が待ってるだけさ」
透の言葉に苛めの事を思い出したのか和歌子がビクと肩を震わせる。今、ここで帰っても何も変わらない。余計に裕香ときららの苛めはエスカレートするだけだろう。
「帰らない‥私は‥変わりたいの」
和歌子がそう呟いた所で珪が手に水晶球を持ってやってきた。
「さて、まずご説明をさせていただきますと、この水晶球に貴方が不要と感じるモノを封印します。決して封印が解ける事はありません。そして封じた感情を私達が貰いうけます」
よろしいですか?珪の問いかけに和歌子は一瞬躊躇ったが「構いません」と呟く。
「了解しました、透」
「はいよ、じゃあ和歌子さん、ちょっと屈んでもらえる?それと目を閉じてね」
和歌子は言われた通りにする、透は額に手を軽く触れさせ「出ておいで」と小さく呟く。すると透の手にくっついて和歌子の額から青く光る『弱い心』が出てきた。
「珪、出したよ。後は任せた」
透が『弱い心』を珪に渡すと、魔方陣の描かれた中央に水晶球を置く。それを珪が封印を施し、儀式は終了となった。透明だった水晶球は和歌子の『弱い心』を反映して、その色を青に染めた。
「何か‥変わった‥の?」
何が変わったのか分からない和歌子がきょとんとしながら呟く。
「今に分かるよ、さぁ‥学校へ戻りなよ」
透の笑みがどこかゾッとする何かを感じさせ、和歌子は二人に頭を下げて店から出て行った。
「あらあら、勢い良く出て行った割にはお早いお戻りですこと」
嫌味をたっぷり含ませて裕香が和歌子に話しかけた。しかし和歌子からは何の返答もない。
「ちょっと聞いてるの?」
きららが和歌子の肩を掴み、自分達の方へ向けさせる。
「‥‥‥」
まるで死人のような和歌子の瞳に裕香ときららはゾッと悪寒が走った。
それから、何をしても無反応な和歌子に興味をなくしたのか、それとも気味悪がっているのか苛めも段々と収まって行き、ついには裕香ときららも離れていってしまう。
「何なの、気味悪い‥」
「ホントだよね、でも裕香って昔は和歌子と仲良かったんでしょ?」
きららの言葉に「私は昔から和歌子が嫌いだったわよ」と答える。
「え?」
「嫌気が積み重なった結果がコレよ。でももういわ。あんな気味悪い子と関わりたくないし」
その言葉を聞いていた浜口も和歌子には不気味さを感じていた。以前は苛められたら泣くなり怒るなり人間らしい感情を表に出していた。しかし、今の和歌子にそれはない。まるで人形のように毎日を過ごす姿を見て裕香達同様に気味が悪いと思ってしまう。
「‥なるべく係わり合いになりたくないな」
ボソと浜口は呟き、自分を呼ぶ友人の所へと足を向けた。
「‥ようやく静かになったかな」
読んでいた本を閉じ、和歌子を見るのは山本。彼は和歌子への苛めが無くなったことで感じる事は『静かになってよかった』という事だけ。和歌子に対しての接し方は、これからも今までも変わることはないだろう。
「おや、落ち着いてきたんですかね」
和歌子の変化を斉藤は、落ち着いてきたと解釈する。今までは元気がなさそうだったのだが、今はそういう感情は見えない。
「良かったですね」
一人呟いて、斉藤は授業の準備を始めた。
「誰もいないけど‥これでいいの‥静かだから‥でも」
和歌子は一人、窓際の席で外を見つめながら小さく呟く。泣くという事を代償に得たはずの強い自分。だけど思っていたのとは何かが違うのだ。何となく心が軋んでいくのが、和歌子には自分で感じられた。こういう時こそ泣きたいのだろうけれど、それすら失った和歌子は果たして強いと言えるのだろうか?
「‥これが、本当に私が求めていたものなの‥?」
後悔してももう遅い、どんなに気が狂いそうになっても和歌子には泣く事が出来ないのだから。失ったモノは和歌子に一生の孤独を与えた―‥。
「毎度の事ながら、後悔しても遅いという事に‥いつになったら気がつくんですかねぇ」
珪が青く染まる水晶球を見つめながら呟く。
「だから僕達は儲かるんだろ。それにしても―‥」
透も水晶球を見つめる。
「弱い自分も、本当は大事な自分なのにね」
フッと笑うその姿は少年の笑みではなく、恐怖を感じさせる冷たい笑みだった。
「さて、今日の夕飯は何がいいですか?」
「ん〜‥珪が作るご飯は美味しいから何でもいいや」
そう言って二人は部屋を出て行く。
そして二人が去った後、部屋に残されたのは淡く、青く光り続ける水晶球のみだった―‥。
END