天使の舞い降りる海・前アジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
7.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/10〜03/13
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●本文
『確かに沙耶は死んだんだ―‥だけど君は一体誰なんだ?』
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あの寒い冬の日。
大好きだった『沙耶(さや)』が死んだ。
海が好きだった沙耶、皮肉にも波にさらわれて死んでしまったのだ。
もちろん最初は信じなかった。
だって遺体が出てこなかったのだから。
だけど、一年前に海深くに足に海草が巻きついた白骨が発見された。
鑑定の結果―‥行方不明になっていた沙耶だった。
波にさらわれた後、海の中で海草に足をとられ、そのまま―‥死んでしまった。
あの日から、俺は海が大嫌いになった。
大好きな、大好きな沙耶を奪った海なのだから。
「‥‥沙耶?」
だけど、沙耶が死んで一年経った今日、俺の目の前に沙耶そっくりの女性が現れた。
「沙耶?沙耶なのか?」
俺は慌ててその女性に近づき、肩を揺さぶりながら何度も問いかけた。
しかし―‥。
「貴方は‥誰?‥私は‥誰‥?」
沙耶そっくりの女性、彼女は記憶を失っていた。
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●募集事項
◎これは前後編完結シナリオで出演者のみを募集します。
◎今回の話に必要な役柄は以下の通りです。
・OPの『俺』(必須・男性一名)
・沙耶そっくりの女性(必須・女性一名)
※必須役柄は上記二つのみです。他にも二人の家族など思いつく役柄を演じていただいて結構です。
※特に決まった設定はありません。
沙耶そっくりの女性は、本当に沙耶なのか?それとも全く別人なのか?
もし沙耶なら発見された白骨は誰なのか?など皆様で話を決めていってくださいませ。
一応、私の狙いとしては感動系なのですが、話し合い次第では泥沼劇場だろうがホラーになろうがOKです!
●リプレイ本文
「お前が沙耶だとばれたら――‥分かっているな?」
沙耶(楊・玲花(fa0642))にユラ(椿(fa2495))は萌黄色の翼を羽ばたかせ、冷たく話しかける。
「分かって‥います」
彼女、沙耶は恋人であった翔(ラリー・タウンゼント(fa3487))にどうしても伝えたい事があり、現世に戻る許可を得た。しかし『自らの正体を知られてはいけない』という掟があるため、どうしていいのか分からなかった。
彼女が『沙耶』だと言う事を知っている人物は二人、一人は目の前の天使であるユラ、もう一人は体を借りている双子の姉『紗那』である。その事を知られない為に沙耶は記憶喪失のふりをしているのだ。
「人間が来る。俺は姿を隠すが、くれぐれも知られるな」
それだけ言い残すとユラは溶けるように姿を消して何処かへと行ってしまった。
「海は嫌いになった筈なのに‥また此処に来ている‥。此処にくればまた‥沙耶に会えるかもしれないから‥」
海を見ながら翔は小さく呟く。手には沙耶のネックレスがしっかりと握り締められている。
「馬鹿だな、そんな事があるわけ‥ないのに」
自嘲気味に頭をふりながら言い、ふと人影に気がついて顔をあげ、翔は言葉を失った。
「‥‥さ、や‥?」
慌てて近寄り「沙耶なのか!?なぁ!答えてくれ!」と肩を揺さぶりながら問いかける。そこで「彼女に何か用だろうか?」と話しかけてくる男・匡(笙(fa4559))がやって来た。
「‥沙耶‥じゃない‥?」
「誰かと勘違いしていないか?彼女の名は紗那だが」
沙耶じゃない、そう分からされた途端にガクンと翔の体から力が抜け落ち、その場に座り込んでしまう。
「お、おいっ」
流石に匡も驚いたのか、翔を交えて三人で近くの喫茶店へと足を運んだ。
「紗那は記憶喪失なんだ、記憶の一切を全て失っている。此処には紗那が来たいと言ったから来ただけで‥」
匡は紗那をちらりと見ながらため息混じりに呟く。
「沙耶は‥」
翔が言いかけた所で匡の視線が突き刺さる。その視線はまるで『彼女は沙耶じゃなく、紗那なんだ』と言われているようで翔は言葉を止めてしまった。
「しかし‥話を聞けば‥沙耶と紗那に関する話があまりにも酷似しているな‥」
そう、翔の話を聞けば沙耶の話はそのまま紗那にも当てはまるのだ。もしかしたら沙耶と紗那には何かあったのかもしれないと翔と匡は考えて、沙耶の家族の元へと向かう事にした。
向かう途中、翔が紗那を『沙耶』として見ている事は匡にとっていい気がするものではなかった。
「‥さ‥や?」
三人が向かった先は沙耶の自宅、今日は沙耶の一周忌であり、母親である妙(エマ・ゴールドウィン(fa3764))は喪服姿だった。
「‥いいえ、違う‥沙耶は死んでしまったもの‥貴方は‥紗那‥でしょう‥?」
沙耶にとっては久しぶりに会う母親、抱きつきたい気持ちでいっぱいだったが、それをする訳にはいかないのだ。
「‥分からない‥私は‥」
そう呟くと、妙は少し不思議そうな顔をして「何があったの‥?」と翔と匡に問いかける。そして記憶がない事を話すと悲しそうな顔をして「‥そうなの‥」と答えた。
「とりあえず立ち話もなんだから中に入って?」
そう妙は中に入るように促す。妙は民宿を経営しており、数年前に借金を返済し終わったばかりだ。
「‥‥はぁ‥」
匡は何度目かになるため息を吐く。翔もそうだが、この妙という女性も紗那を沙耶として見ているのだ。母親なのだから当然といえば当然なのかもしれないが、このままでは自分まで紗那を沙耶として見てしまいそうな錯覚を起こしてしまう。
妙に案内されたのは、小さな部屋だった。妙はお茶を淹れ、三人に出しながら小さく呟いた。
「‥紗那、貴方も私の娘なのよ‥」
その言葉に驚いたのは匡だった、今まで紗那が養女だという事を一度も聞いた事がなかったのだから。
「‥昔、私は恋人との仲を裂かれたの、その時には沙耶と紗那を身ごもっていたわ、だけど体の弱かった私に二人の赤ちゃんを育てるのは無理だった‥だから紗那を養子に出したの‥」
妙はギュっと弱々しく拳を握り締め、泣きそうな声で呟いた。その時に「妙さん、いるかい?」と翔の父親・徹也(妃蕗 轟(fa3159))が民宿にやってきた。
「うちの息子が―‥っているじゃねぇか‥」
徹也が翔たちのいる部屋にやってくるが、沙耶を見て驚く。
「あ、この人は沙耶の‥双子の姉なのよ‥」
徹也は状況を説明してほしかったが、妙のつらそうな顔を見て、問いかけるのを止めた。
「そうか、じゃあ俺は先に家に帰ってるから、遅くなるなよ、翔」
「‥あぁ、分かってるよ」
そして徹也は翔を部屋の外に呼び出し「あの子を沙耶と重ねるんじゃねぇぞ、どんなに似ていても別人なんだから」と念押しをするように言う。
「‥分かってる‥分かってるよ‥」
翔自身も頭の中では理解している、しかし沙耶を失った悲しみのせいか理解していても重ねずにはいられないのだ。
その様子を見ていたのは宿泊客の一人・神流(美笑(fa3672))だった。彼女は霊感が強く、見えないモノを見る能力があった。
「‥あの女の人が、貴方が監視している人‥?」
神流は何もない宙を見ながら呟く、すると「‥まあね」とぶっきらぼうにユラが姿を現し、答えた。知られてはいけない、確かにユラはそう言ったが、偶にはこういう類の人間も現れる。沙耶がばらした訳ではないので大目に見る事にしたのだ。
「本来なら沙耶の行動は許されるものではない、だが―‥」
言いかけてユラは口を閉ざす。
「‥何?何か理由があるの?」
神流が問いかけるもユラは口を閉ざしたまま、そして突然姿を消して何処かへと行ってしまった。
「許さなきゃいけないくらいの出来事が沙耶さんにあるって言うの‥?」
神流は小さく呟くが、その問いに答えるものはいなかった。
「武藤‥翔君のお父さん、だよな?俺は刑事で斎木(烈飛龍(fa0225))というモンだが‥」
妙の民宿からの帰りに徹也は斎木に呼び止められた。刑事、その言葉に徹也の眉間に皺が寄る。
「刑事さんが何の用だい?」
徹也が問いかけると「沙耶という女性の事件を調べていてね」と短い返事が返ってきた。
「‥今更、あの事故を掘り返してどうするんだい?」
「沙耶という女性にそっくりの女性が現れたと聞いて、調査を新たにする事にしたんだ」
「あの子は死んだ、事故だったんだよ、そうじゃなかったのかい?」
確かに沙耶が死んだ時に『事故』と判断を下さしたのは警察だ、それを今更『事件』に変えてどうするというのだろう?
「あんたらが事件にして調査を始めるのなら、それでもいいさ。だが―‥」
徹也は一度言葉を止め、ため息混じりに呟く。
「息子の胸の傷を抉るような事は止めてもらえねぇかな、ナイーブな男なんだよ、俺に似てさ」
徹也はそれだけ言い残すと、自宅に戻るために歩き出した。
「‥沙耶の死には不審な点が多すぎるんだよ」
そう斎木は調査資料を見ながら呟いた。
「沙耶さん、ですよね?」
生前、翔とよく来ていた神社にやってきた沙耶は突然呼び止められ、肩を大げさに震わせながら驚いた。
「わ、私、記憶が‥」
「大丈夫です、天使さんともお話してありますから。私、そういうモノが見える体質なんです」
神流の言葉に安心したのか、沙耶はほぅと安堵のため息を吐いた。
「私は‥翔に伝えなくちゃいけない事があるの‥だけど、もう時間がない。私に与えられた時間が終わってしまう‥」
沙耶は眉を顰め、苦しそうに表情を歪めながら呟いた。
「こうして知り合ったのも縁だもの。私も何か考えてみるわ。これ、私の携帯番号。何かあったら連絡してね」
それだけ言い残し、神流は民宿へと戻っていった。ばれずに沙耶の目的が達成できるように、と。
「母さん、すまんな。もう少し男らしく育てたかったが‥翔は俺そっくりになっちまったようだ‥」
徹也は仏壇に花とお茶を淹れた湯飲みを供えながら苦笑しながら呟く。
「沙耶も‥何で死んじまったんだろうな‥翔のあんな顔、いつまで見てりゃいいんだ‥」
自分には何もしてやれない無力さを呪いながら徹也は頭を抱えた。
「ねぇ‥お願いがあるの。この子の記憶が戻るまででいい、お世話をさせてもらえないかしら?」
妙の言葉に匡と沙耶は驚く。
「幸いにも今はお客様も少ないから、部屋の心配はいらないわ」
匡にしては良い話だった、だが紗那のことを考えると素直に返事ができなかった。
「‥ねぇ、私‥ここに泊まりたい‥駄目かな‥?」
遠慮がちに聞いてくる沙耶を見て匡は「仕方ないな」と半分諦めた顔で了承した。
その時、頭の中にユラの声が響いてきた。
(「お前に残された時間は明日の午前零時までだ、それを過ぎたらこちらへ戻ってもらう」)
ユラの言葉に沙耶は俯き、少ない時間に焦りを感じていた。
沙耶に残された時間はあと、一日。
果たして沙耶が翔に伝えたい事とは?
そして、沙耶の事故の不審な点とは?