天使の舞い降りる海・後アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 水貴透子
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 8.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/20〜05/23
前回のリプレイを見る

●本文

『もう‥時間がないの――‥翔‥私が伝えたいのは‥』

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『お前に残された時間は明日の午前零時までだ、それを過ぎたらこちらへ戻ってもらう』

天使・ユラはそう言った。

ユラの言葉に沙耶は焦りを感じ、伝えたいのに伝えられない、この状況に苛立ちすら感じていた。

「翔‥私が伝えたいのは‥」

呟きかけて沙耶は口を閉ざす。奥から匡が歩いてきたからだ。

「紗那、眠れないのか?」

「‥えぇ‥」

元気のない紗那‥沙耶の顔を見て匡は心配そうに「‥本当に大丈夫か?」と問いかける。

「大丈夫よ、私はもう少し風に当たってから部屋に戻るから‥先に戻っていて‥」

沙耶はそう呟くと、夜空に浮かぶ丸い月を見上げた。

「分かった‥、あまり遅くならないようにしろよ‥風邪を引く」

「ありがとう、すぐ戻るわ」

匡はそう言いながらも、彼女が心配なのか後ろ髪ひかれるように部屋へと戻っていった。

「私には‥時間がないの‥、どうやったら翔に私の言葉を伝えられるのかしら‥」

沙耶は小さく呟く、だがその問いに答える者は誰もいなかった。


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●募集事項
◎映画「天使の舞い降りる海」では出演者の皆様を募集しています。
(これは前後編シナリオで、今回は後編になります)
◎色々な謎が残ったままですが、皆様で上手く解決し、物語を完結させてください。
◎配役ですが、『沙耶(紗那)』『翔』『匡』のみが必須配役になります。

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa3159 妃蕗 轟(50歳・♂・竜)
 fa3764 エマ・ゴールドウィン(56歳・♀・ハムスター)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa5316 希蝶(22歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

「生きてる‥」
 沙耶(楊 玲花(fa0642))を遠くから見てポツリと呟くのは山倉(都路帆乃香(fa1013))だった。
「‥何で、今頃――‥」
 震える体を押さえて山倉は沙耶から逃げるようにその場を立ち去った。


「警察ってのは因果な商売だね」
 刑事の斎木(烈飛龍(fa0225))をじろりと見ながら呟くのは翔(希蝶(fa5316))の父親・徹也(妃蕗 轟(fa3159))だった。
「人の傷口に塩を塗りこみ、本来味方である筈の人間にまで嫌われる」
「それで事件が解決するなら、仕方の無いだ」
 斎木が答えると「‥で何か分かったのかい?それとも」と隣に立つ妙(エマ・ゴールドウィン(fa3764))を見て「塩をすり込みに来たのか?」と問いかける。
「違うんです、徹也さん‥私がお呼びしたんです‥あの時の事をお話する為に‥」
 あの時の事、その言葉に斎木が「何か知っているのか?」と問いかける。
「あの時の沙耶は電話で呼び出されて出て行ったんです‥。誰かと聞いても困ったように笑うだけで相手を言う事はしませんでした」
 それから暫くして電話が来て沙耶の死を知らされた、妙は涙混じりに小さく話す。
「‥やはり殺人と見ていいな、それで第一発見者が貴方‥でしたよね?」
 斎木が徹也を見ながら言うと「あぁ」と短く答える。
「あの日は観光客がいたな‥ガイド役には俺みたいな仏頂面の禿親父より、客受けの良い息子にやらせたんだ。内面は俺似でも外見や人当たりは母親似だったからね」
 だけど―‥俺一人で受けてれば良かったんだ、と一年前の事を引きずるように徹也も呟いた。
「そうか、まだ犯人に繋がるモノは何一つとしてないな、もう少し調べてみるか‥」
 つらい事を思い出させてすまなかった、そう言いながら斎木は二人の前から姿を消した。


「おはよう。沙耶‥紗那さんの調子はどう?何か思い出せそう?」
 匡(笙(fa4559))と紗那の泊まる部屋に行き、二人を起こす。沙耶、そう呼んだ瞬間に匡があからさまに嫌そうな顔を翔に向けた。
「翔さん‥だったか。紗那に何か用だろうか」
 匡が『紗那』の名前を強調しながら言うと「いや‥特に用は‥」と翔は口ごもりながら答えた。沙耶の姉の記憶喪失を心配している、そういう態度を装いながらも沙耶と重ねてしまう部分がある為に、翔は紗那の所へとよく来ていた。
 しかし匡の存在が『壁』のように感じ、いつも思うように話せないでいた。
(「何か‥見透かされているような気がして‥嫌だな」)
 匡をチラリと見ながら翔が心の中で呟く。
「ねぇ、翔さん。私‥沙耶の部屋を見てみたいわ」
「え‥あぁ‥」
 紗那の突然の申し出に翔は困惑気味に曖昧な言葉を返した。


「怪しい人物を見かけた、調べてみたところ‥沙耶が死んだ一年前にもこの場所に彼女は来ていた」
「彼女‥?」
 斎木の『彼女』という言葉に徹也が眉をしかめながら呟く。
「あぁ、沙耶の父親‥つまり妙さんの恋人だった男性の親戚に当たる女性だ。恐らくは遺産相続のトラブルだろう」
 何故『遺産』という言葉が出てくるのかも分からない徹也は「どういう意味だ?」と問いかける。
「妙さんは昔、鍵型のペンダントと宝石箱を恋人から譲り受けている筈だ。それが目当てで沙耶は殺されたのだろう」
「‥なぁ、それが事実だったとして、翔が前を向く為にアンタの頭にある『真実』は‥本当に重要か?」
 徹也の言葉に意味が分からないといった表情で首を傾げると「翔には‥言わないでくれねぇかな」と呟いた。
「ただでさえ恋人を失って気落ちしているのに、殺された‥なんて知ったら、アイツは犯人に報復しかねない」
 徹也の言葉に斎木は返す言葉が見つからずに黙ったままだった。


「本来許される事ではない、が‥停滞は望む所ではない。止まった歯車は動いている全てを軋ませる」
 分かっているな?と沙耶に告げるのは天使・ルル(ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203))だった。沙耶の部屋に行く途中で頭の中に声が響き「ちょっと外に‥」と言って出てきたのだ。
「‥分かっています、時間がない事も今夜中には全てが終わります」
 だからもう少し‥と沙耶が言うと「分かっているならいい」とだけ言い残し姿を消した。
「紗那?大丈夫か?」
 ルルが消えると同時に背後から匡が現れる。具合でも悪いと思ったのだろうか、彼の顔に心配の色が出ている。
「えぇ‥大丈夫よ、沙耶の部屋に行きましょうか」
 匡を心配させないようにと笑顔で答え、翔の待つ沙耶の部屋まで一緒に歩く。
 部屋の所に行くと、ドアの前で翔が待っていた。
「沙耶が死んでから‥辛くて入る事が出来なかった。部屋全てから沙耶を感じて‥」
 涙を見られまいと翔は下を俯き、唇を噛み締める。
「‥中に、入りましょうか‥」
 キィ、と軋む音をたててドアが開く。部屋の中は沙耶が生前のままで置かれている状態で翔は再び涙がこみ上げてくる。
「‥あら‥」
 紗那が机の上に置かれたノートを見つけ、中をぱらぱらと捲る。そして翔にノートを差し出し「おそらく‥貴方宛ですよ」と呟いた。
 それは紗那の体を借りて沙耶が書いた翔への想い。
「‥え?」
 翔は戸惑いを隠せないままノートを受け取り、中を見る。

『目には見えなくても、私はずっと貴方の傍にいるから。ずっと貴方を見守っているから
いつもの貴方が、私は好き。
だから笑顔を思い出して。
貴方の笑顔で私は幸せになれるから――‥』

 読み終わった瞬間、ノートにポタと涙が零れ落ちる。
「これ‥何時書いたんだ?まるで今の俺が言われているみたいだな‥」
 苦笑しながら翔は呟き、ノートを抱きしめる。
「見えなくても‥いるんだよな、沙耶。俺を見守ってくれているなら‥俺は沙耶の好きな笑顔でいなくちゃな‥」
 はは、と翔が涙を流しながら笑う。その様子を匡は部屋の隅で見ていた。あまり翔と紗那を接触させたくないのだが、紗那がそれを望むのだから仕方ないと自分に言い聞かせてきた。
「紗那さんが部屋を見たいなんて言わなくちゃ気がつかなかったな、このノート」
「そうですか、良かったですね。翔さん」
 そう呟いた瞬間に紗那の体がふらりと匡の腕に落ちる。
「紗那!」
「‥大丈夫、大丈夫だから‥少し眩暈がしただけです」
「疲れたんだろう、もうこれくらいにしておけ」
 匡が言うと「えぇ、そうするわ‥」と顔色の悪いまま紗那は答えた。
 沙耶が気づいていた。この眩暈が体調のせいではないという事に。
 天使・ルルが『時間が迫っている』と分かりやすく知らせてきたのだろう。
(「急がなくちゃ‥」)
「ねぇ‥今日の夜は三人で海を見ましょうよ」
 ね?と言う紗那に翔は「構わないよ」と答え、匡も渋々ながら「分かった」と答えた。


「‥あの人の‥遺産?そんな物の為に沙耶は‥」
 斎木から全てを聞かされた妙は手で口を覆い、ガクリとその場に崩れ落ちる。
「明日にでも彼女‥山倉・早紀に任意同行を求めるつもりです」
 斎木の言葉に妙は「ちょっと待っててください」と席を外し、数分後に綺麗な細工の施された箱を持ってきた。
「これが‥あの人から預かった箱です。鍵は‥今は翔君の手にあります‥でも」
 箱は開けるつもりはありません、と妙ははっきりと告げる。
「何で‥?」
「私の望みは良い思い出を胸にささやかに生きる事です。私の幸せは‥沙耶と紗那‥あの子達を授かったこと、それだけです。だから‥」
 それは必要ありません、と箱を斎木に差し出しながら答えた。
「それに‥翔君から鍵を受け取るとなれば全てを話さないといけないでしょう、こんな事実は彼には酷すぎるわ」
 徹也と同じ事を言って妙はにっこりと微笑む。
「‥そうですか、ではこれは一応警察の方でお預かりします」
 そう言って斎木は妙の前から姿を消した。


「綺麗な海ね‥最後に相応しいわ」
 丸い月を映す海を見て紗那が小さく呟く。
「紗――‥」
 翔が『紗那さん?』と問いかけようとして言葉を失う。何故なら紗那の体から沙耶の魂が抜け出してきたからだ。
「紗那!」
 沙耶が抜けた後、紗那は地面に倒れそうになるのを匡が抱きとめる。
「私が伝えたかった事、分かってくれてありがとう」
「沙耶、沙耶だよな‥」
 翔がふらりと沙耶に近寄る、しかし制限時間に近づいてきている為か次第に沙耶の姿は薄くなり消えかけている。
「沙耶!」
「翔‥笑って?私の大好きな笑顔で見送って‥」
 沙耶の言葉にハッとし「ありがとう、沙耶」と沙耶が大好きだった笑顔を向ける。
「さよなら――‥翔」
 沙耶は翔を抱きしめ、次第に天へと帰っていく。月明かりに煌く波の反射が、羽が輝いているように見えてとても幻想的だった。
「ありがとう‥俺の天使‥」
 完全に沙耶が消えた時に翔が空を見上げたまま呟く。
「ん‥匡?」
 苦しいよ、そう言って腕の中から抜け出す紗那。いつも通りの紗那を見て匡は一瞬驚いた表情で見たが、次の瞬間には表情を戻し「おかえり、紗那」と再び抱きしめながら呟いた。


「よくやった。此方の不手際があった、貴方の思いがあった‥‥心から貴方の、そして彼らの運命を祝福しよう」
 ルルはそう呟きながら戻ってきた沙耶を受け入れた。

 そして翌日、斎木から妙と徹也は連絡を受けていた。偶然見かけた紗那を沙耶だと思い込み、もう逃げられないと思い込んだ末に犯人・山倉が自首してきたという事を‥。

 ようやく、全てに決着がついた瞬間だった――‥。


END