見えない悪意たちアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/18〜03/21
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●本文
『私は殺される、私自身に――‥』
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ここに一人の少女が存在する。
名前を『関井 凛(せきい りん)』と言い、多重人格障害を持つ少女だ。
彼女の中には複数の人格者が存在する。
関井 凛‥主人格、気の弱い少女。
水重 透‥男性、我侭な少年タイプ。
霧島 奈々子‥女性、最近の女子高生のような明るい性格。
竹崎 シゲ‥中年女性、偏屈な性格の持ち主。
上記三人の人格ははっきり言って問題はなかった。
しかし、最後の人格『マナ』だけは凛に危害を加えてくるのだ。
彼女が表に出ている時、カウンセラーにこう言ったのだとか。
「あたしは凛を許さないね。あんな奴があたし達の主人格だなんて許せない。あたしが乗っ取ってやる!」
それから、マナの凛に対する攻撃は強くなった。
時には凛を殺そうとする事もあった。
「何故、こんな事をするんだ、凛ちゃんが一体何をしたと言う!?」
「‥何をしたか?はっ、笑わせるね!それはこの女が一番知ってるだろうさ!」
カウンセラーがマナに問いかけるが、マナは頑としてその理由を語ろうとしなかった。
マナと凛の間に何があったのか、そしてマナの暴走を止めることができるのか。
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●募集事項
◎今回は出演者のみを募集します。
◎今回の話に登場するのは以下の通りです。
・関井 凛(女性/一名)
・マナ(女性/一名)
・透(男性/一名)
・奈々子(女性/一名)
・シゲ(女性/一名)
・カウンセラー(性別はどちらでもOK/一名)
※凛、マナ、カウンセラーは必須役柄ですので必ず埋めてください。
他のキャラは必ず埋めなくてはいけないという事はありません。
※上記以外にも適役がありましたら、そちらを演じていただいてもOKです。
◎一応ジャンルはホラーになっているのですが、話し合いによってはジャンル変更もOKです!
●リプレイ本文
「最近、凛さん(渡会 飛鳥(fa3411))はどんな感じかしら?」
そう牧野(巻 長治(fa2021))に問いかけるのはカウンセリングを専門にしている病院の院長である榊原(天音(fa0204))だった。牧野の担当患者である凛は多重人格障害者だった。凛の中に存在するのは凛を含めて五人、奈々子(ベルシード(fa0190))、透(タブラ・ラサ(fa3802))、シゲ(クロナ(fa5538))、この四人は特に凛に危害を加えるわけでもなく問題はないのだが、最後の一人‥マナ(篠森 アスカ(fa0141))だけは違っていた。
今までも凛に危害を加え、殺そうとしていた。主人格である凛を殺せば自分も消える、マナはそれを理解していて尚、凛を殺そうとするのだ。
「あれほどまでに凛さんを憎むという事は、過去に何かあったのかもしれないわね」
榊原は今までのカルテを見ながらため息混じりに呟く。
「マナの過激な行動から、彼女と凛さんにばかり目が向いてしまいがちだけど、もっと別の角度から切り込んだ方がいいんじゃないかしら?」
榊原の提案に「‥たとえば?」と牧野が次の言葉を促すように呟く。
「そうね‥とりあえずは彼女の生い立ちからもう一度じっくり調べてみたらどうかしら?他の人格達にも話を聞くとか‥」
「そうですね‥今日は凛さんが病院に来る日ですから話を聞いてみます」
※※
「‥急がなきゃ‥」
時計を見ながら凛は呟き、電車に乗り遅れないようにと駅の中を走る。
「‥っ!」
しかし、階段を下りる際に後ろから突き飛ばされ、階段を転げ落ちてしまう。親切なおじさんが「大丈夫かね?」と手を差し出すが、凛は震えるだけでその手を受け取る事はなかった。
(「‥マナが私を殺そうとしている‥」)
凛は震える体を抱きしめながら電車に乗り込み、助けを求めるように病院へと駆け込んだ。
「こんにちは‥って怪我をしてますけど何かあったんですか?」
カウンセリング室に入ってきた凛の腕は怪我で血が滲み、白い服を赤く染めていた。
「先生‥マナが私を駅の階段から突き落としたの!」
涙を浮かべ、凛は牧野に縋るように叫ぶ。
「‥まずは怪我の手当てをしましょう」
牧野は痛々しく擦り剥かれた傷を見て、目を細め、手当てをする為に包帯や薬を取り出した。
「‥‥これでよし、凛さん‥今日のカウンセリングは他の人格達と話をしたいと考えています。もちろんマナ以外の人達ですけど」
牧野は凛が怯えないように優しく話しかける。そんな優しい話し方に安堵したのか凛は「‥分かりました」と静かに答えた。凛は目を伏せる、別の人格に呼びかけているのだろう。
「‥こんにちは、貴方は‥?」
「シゲだよ、突然呼び出されたと思ったら‥何の用だい?」
現れた人格はシゲ、中年女性の人格でぶっきらぼうな物言いが特徴的な人格だった。
「聞きたい事は一つです、マナが凛さんを憎む理由が分かりますか?」
牧野が問いかけると、シゲは「‥さぁねぇ」と曖昧に言葉を濁す。しかし今までカウンセリングをして来た牧野には分かっていた。シゲは何か隠し事をする時は余所見をするという癖がある事を。
「シゲさん、貴方が嘘をする時は余所見をする癖がありますよね。伊達にカウンセラーをやっていないんですから、隠せませんよ」
牧野がにっこりと笑いながら言うとシゲは驚いたように目を瞬かせ、ため息混じりに話し始めた。
「元々マナは凛の双子の姉妹で生まれてくるはずだったさね、それが理由は分からないがマナの体だけが消滅してしまった、だけど精神だけは凛の中にずっと眠っていたんだ」
シゲの言葉に牧野は驚いたような表情を見せた。確かにマナという人格は他の人格よりも強い立場にあると感じていた、それが生まれてくるはずだった姉妹だったからという事など予想もしていなかったのだから。
「先生、マナには気をつけなよ。マナは何があっても凛を許す事はない。凛を憎む事で己の存在を主張しているんだから」
シゲは言い終わるとガクンとソファに倒れこむ。恐らく表に立つ事を止めたのだろう。そして「いたた‥」と頭を押さえながら出てきたのは―‥少年・透だった。
「全く、次の出てくる僕の事も考えてほしいよね‥で?僕に何か用なの?」
透は気まぐれで自分勝手な人格だ。恐らく凛が『こう出来ていたら‥』という想いから生まれた人格なのだろう。
「マナや凛さんについて話を―‥」
「喉渇いたな、ジュースとかないの?」
牧野の話を途中で遮り、透は『喉が渇いた』と言い出す。牧野はため息混じりにオレンジを透に手渡す。
「それで、マナと凛さんの事は何か知っていますか?」
「聞きたい?ど〜しよっかなぁ」
クスクスと楽しそうに笑う透に多少苛立ちは感じるものの、怒って引っ込まれても困るので牧野は耐える事にした。
「マナは怖いから、あんまり関わった事ないし、凛についてはよく知らない」
透はオレンジを飲みながら短く答える。
「奈々子は面白いし、シゲは偏屈すぎて何を言ってるか分からない。僕が知ってるのはこのくらいかな」
次はお菓子も用意しといてよね、透はそう言って表の世界から立ち去った。そして次に出てきたのは奈々子、透が面白い人と言っていた彼女だ。
「マナと凛についてでしょ?シゲと透の話を聞いてたよ」
にっこりと笑みながら奈々子は呟き、透が飲み残したオレンジを飲み始める。
「マナは何か私達と違う感じなのよね、私達の領域には踏み込んでくるくせに自分の領域は誰にも見せないの。だから誰にもマナの事なんて分かりっこないと思うわよ?」
奈々子は「プライバシーの侵害よね」と泣き真似をしながら呟く。
「まぁ‥何とか頑張ってよ。もし凛に何かあったら私も消えちゃうかもしれないからね。私としては今の生活をもう少し楽しみたいのよ」
そう言うと奈々子は消え、咲(雅楽川 陽向(fa4371))が現れた。咲の出現で牧野は内心驚きつつも冷静に対処しようと「貴方は誰ですか?」と問いかけた。
「私は咲、保護者的人格でしたので今まで表に立つ事はありませんでした。ですから先生とは初めまして、ですね」
ソプラノ調のゆったりとした口調で咲は話し始める。
「恐らく、先生の知りたい事は私が知っていると思います」
お話しますね、そう言って咲はマナと凛に何があったのかを話し始めた。
マナと凛は昔、交互に入れ替わりながら暮らしていました。凛は覚えていないでしょうけどね。昔のマナは凛を殺したいと願うほど憎んではいませんでした―‥あの時までは。
マナにも好きな子が出来たんです。叶わない想いだと承知していながらマナは、その子と遊ぶ事が楽しみでした。だけど‥凛が表にいる時にその子が告白をしてきたんです。
だけど‥凛は酷く怯えて断ったんです。その子は余程ショックだったのでしょう、それから数日後に自殺をしてしまいました。マナが変わり始めたのはそれからです。
「自分の体だからって、私達を苦しめていい筈がない!」
マナは叫び、凛の苦しむ事を始めました。それで自分が消えても構わないという覚悟の上で。
「‥これが私の知っている全てです―‥!マナ、待って、マ―」
突然、咲が叫び始め、どうしたのかと牧野が近寄るとテーブルにあったペンを牧野の首に当てる。
「嫌な事を思い出させて!凛なんか死んでしまえばいい!あの人が受けた苦しみを分からせてやるんだ!生まれる事が出来なかった私の悲しみを思い知ればいいんだ!」
そう叫び、マナは倒れる。興奮しすぎで入れ替わるスイッチが入ってしまったのだろう。この時、牧野には見えない筈のマナの姿が見えたような気がした。黒い服に身を包んだマナの姿が―‥。
「‥先生、私が全て悪かったんですね‥」
目が覚めた凛の言葉がそれだった。他の人格にも目を向け、話を聞いているうちに自分がマナをどれだけ苦しめていたのか、生まれてきた自分がどれだけ幸せなのかを思い知らされた。
「今日は疲れただろう、終わりにするから帰ってゆっくり寝なさい」
牧野に言われ、病院を後にした凛だったが罪悪感に苛まれ、気がつけば橋の所で下を見つめていた。
「ごめんなさい、マナ‥嫌われて当然だよね。怒って当然だよね‥」
体を譲るから許して、次の瞬間‥凛は橋の上から飛び降りていた。
あれから数日後、凛は順調に回復をしていた。一時は心臓が止まり、駄目かと思われていたが凛の生きる意志が強かったのだろう、何とか持ち直した。
「全く、報せを受けた時は驚きましたよ。もうあんな真似は止めてくださいね」
見舞いにやってきた牧野の言葉に「ごめんなさい、先生」と苦笑混じりに答えた。
「あれからマナは―‥?」
「あの一件からマナが出てくる事はありません。きっとマナは許してくれたんだと思います、それでようやく私は私になれたんだと思います」
そう笑いながら言う凛の顔は晴れ晴れとしていて、以前とは全く違っていた。
「じゃあ私は仕事がありますから、帰りますけど何かあったら来てくださいね」
はい、凛はそう答えて牧野を見送る。
「さて、榊原さんに報告をしなくてはいけませんね。凛さんは多重人格障害を克服したと‥」
そう呟いて牧野は榊原の所へと向かっていった。
「‥クス」
窓から牧野が帰っていく様を見て、凛は笑う。
しかし、その笑みは先程の明るい笑みではなく冷たさを含んだ暗い笑みだった。
「私は私‥もう誰にも邪魔させない。さよなら―‥‥凛」
END