スパイラル・ゼロシティアジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
7万円
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参加人数 |
7人
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サポート |
0人
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期間 |
05/03〜05/06
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●本文
『目的は現在(いま)から未来(さき)への脱出――‥』
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「何で、何でこんな事になってるんだよ!」
賑やかなイベントパークの中で、一人の男が叫ぶ。
だが、誰も彼を咎める者はいなかった。
何故なら―‥彼が叫んだ言葉は、ここに集まっている皆が想っている事だったのだから。
全ては各人に届いた一枚の封書から始まった。
何十億もの資金を使い、東京地下深くにイベントパーク≪ゼロシティ≫が作られた、
このゼロシティ開発計画は、何年も前からテレビで大々的に宣伝されており、オープンまで一ヶ月を控えていた。
『おめでとうございます!
貴方はゼロシティモニターに選ばれました!
三日間という短い期間ではございますが、皆様にゼロシティで過ごしていただき
ご意見を聞かせて欲しいのです!』
テレビで限定数千人にモニターの案内状が届くと言っていたが、まさか自分のところに来るなんて思っていなかった為、最初は激しく驚いた。
だけど、嬉しいという気持ちが素直な気持ちだ。
友人や親に自慢し、意気揚々でゼロシティにやってきた俺だったが―‥。
――‥こんな事になるのなら来るんじゃなかったと思う。
ゼロシティで過ごす期間は三日間、三日経てば俺達は家に帰らなくちゃいけない。
それは当たり前だ、当たり前なのだけれど俺達には『三日目』が来ない。
何故か俺を含めた数人の参加者は『三日目』が来ることがない。
『二日目』を過ごし、午前零時を過ぎると同時に『二日目』の最初に戻らされてしまうのだ。
「‥ねぇ、今日が何回目の二日目?」
一人の女性が疲れたように呟く。
「九回目」
問われた男性はげんなりとした表情で答えている。
ゼロシティは一つの街のようになっていて、困ることなど何もない。
映画館、遊園地、図書館、娯楽は山ほどある。
暇を潰すには事欠かないのだが、いつまでこうしていればいいのだろうと思う事もある。
四回目の二日目を過ごしたとき、一人の女性が自分の喉にナイフをつきたてて死んでしまった。
何度も繰り返す『二日目』に気が狂い掛けていたのだろう。
しかし、午前零時を過ぎると彼女は目を覚ました。死んだことすらもリセットされてしまうのだ。
このまま死ぬ事もできずに永久に『二日目』を繰りかえさなければならないのかと思うと、ぞっとする。
「でも‥何で私達なのかしら?」
そう―‥『二日目』を繰り返して、その記憶を持ったまま次の『二日目』を過ごしているのは何千人といる参加者の中で俺達だけ―‥。
俺たちは『三日目』を迎えることができるのだろうか――?
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●募集事項
◎映画「スパイラル・ゼロシティ」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の必須配役は『二日目を繰り返す人』です。
※他にも適役がありましたら、他の参加者の方と話し合っての設定追加&役柄追加はOKです。
◎話の進行内容は参加者の皆様に一任しますので、皆様で話を創っていってください。
(結果的に三日目を迎えることが条件となります)
●リプレイ本文
『キミには特別な役目をしてもらう、参加者に混じってデータ収集とパークの管理、頑張ってきたまえ』
●二回目の≪二日目≫:一人の研究者・解決しない異常状況
上司から話を持ちかけられた時は、はっきり言って嬉しかった。もしかしたら出世のチャンスかもしれないと思ったから。
だけど‥こんな事になるとは夢にも思っていなかった――‥。
「‥ここにもバグか‥」
はぁ、とため息をつきながらフェン(真喜志 武緒(fa4235))は小さく呟いた。此処に来てから幾つのバグを見つけ、修正してきただろう。それを考えると≪ゼロシティ≫はまだ公開するべきではなかった気がしてならなかった。
「今日で≪二回目≫の二日目か‥」
繰り返す≪二日目≫の原因究明と脱出方法をフェンは探していたが、どちらも解決策が見つかる気配もなかった。
「フェンです、現在までのデータを其方へ送りました」
外部との唯一の連絡手段・通信機で会社のデータ部へと連絡をする。これは一日一回は必ずデータを会社側へ送るようにとフェンに命じられていた事でもあった。
「ご苦労、では引き続き調査を行ってくれ」
言われると同時にブツンと通信が遮断される。ツー、ツー‥と切られた通信機を見つめ、フェンは二度目のため息を吐いた。
「‥あれ?貴方‥」
突然話しかけられ、フェンは驚いて勢いよく後ろを振り返る。そこにはユキ(日乃 葉響(fa5253))が不思議そうな顔をして、こちらを見ている。
「貴方‥何をしてるの?」
ユキから問いかけられ、研究者と名乗るワケにもいかず他の皆と同じように二日目を繰り返している、と答えた。
「何だ、じゃあ私達と同じなのね。あっちにも同じ人達がいるの、一緒に行動しましょうよ、皆で力合わせて頑張りましょうよ」
そう言ってユキはフェンを同じ体験をしている仲間達の所へと連れて行った。
●九回目の≪二日目≫:繰り返す地獄・見えてきた希望
今日も毎日の日課である通信を行い、仲間の所へ戻ろうとした時‥。
「もう嫌!!」
突然、女性・明日香(リーニャ・ユンファ(fa4489))の叫ぶ声が聞こえ、フェンはそちらへと視線を移した。
「明日香さん、落ち着いて‥」
明日香を諌めようと亜季(ヒノエ カンナ(fa5480))が話しかけるが「落ち着いてなんかいられないわよ!」と明日香は頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
「落ち着け?気楽な事を言わないで!状況を見なさいよ!私達‥ずっと此処で死ぬことも生きる事も出来ないままなのよ!?」
明日香は少し前に自殺を図った。しかし≪2日目≫に戻るという奇妙な現象の為に死んだ後も生き返ってしまったのだ。その時の記憶がなければ、彼女もここまで気が動転していないだろうが、明日香は自分が死んで生き返った事まで記憶に持っているのだ。
その事が余計に明日香の恐怖を駆り立てているのだろう。
「明日香さん、少し休みましょう?考えすぎは体に毒ですから‥」
鈴(雨月 彩(fa4992))は蹲りながら震える明日香の体を支えて、休憩室まで連れて行く。
「‥そういえば‥何処かに非常口のようなものがあると‥聞いたような気がする」
呟くフェンの言葉に「非常口?」と綾人(橋都 有(fa5404))が怪訝そうな顔で問いかける。
「それが本当なら‥何で今まで黙ってた?」
フェンの言葉を疑っているのか綾人はジロリと睨みながら呟く。
「‥確実かどうかも分からない事を安易に言う事はできなかったから‥」
フェンの言葉に納得したのか「‥そうか」と短い言葉を返した。
「出口があるなら、皆で頑張って探そうよ、私‥明日香さんと鈴さんにも教えてくるね」
そう言って亜季は鈴と明日香がいる休憩室へと走っていった。
「さて、希望が見えてきた所で出口探しをしますかね」
うーん、と伸びをしながら綾人は出口を探すべく皆と別れて歩き出した。
●出口を求めて:琥珀(KOHAKU(fa5700))
「出口‥か」
出口がある、という事で皆で手分けして探す事になった。最初は三日目の来ないこの状況に琥珀は満足していた。
ゼロシティ外の琥珀は会社で苛められ引きこもり状態だった。ゼロシティに来た理由も現実逃避が出来そうだから‥という理由からだった。それこそ死んでもいいという気持ちさえあった。
だけど、明日香が死ぬのを見て、死に対する恐怖を覚え、生き返る姿を見て現実味がなく、生きながらにして死んでいる‥この状態に恐怖した。
「‥こんな所で永遠を過ごすくらいなら、外でもう一度頑張ってみよう‥」
その為には出口を見つけなくては‥そう琥珀は呟いて出口を見つける為に歩き出した。
●出口を求めて:明日香・亜季・鈴
「鈴さん、明日香さん、聞いて!出口があるらしいの」
バン、と休憩室の扉を開けて勢いよく部屋に入るのは亜季だった。
「出口‥?」
鈴が驚いたように聞き返すと「フェンさんが教えてくれたのよ」と亜季は身振り手振りで聞いた事を二人に話した。
「‥だから、何だって言うのよ‥」
話を聞き終わった後に明日香がポツリと呟く。
「え?」
明日香の声が小さかった為か、よく聞き取れなかった亜季は聞き返す。
「だから!何だって言うのって言ってるの!出口があるって言っても見つからなければ一緒じゃない‥もう、嫌‥何でこんな事になっちゃったのよ‥」
泣き崩れながら明日香は「うっ‥う‥」と嗚咽交じりに叫んだ。
「暗いことばっかり言って、探すのをやめたらどうにかなるの!?ツライのは貴方だけじゃない!みんな一刻も早くこんな所から出たいのよ!」
「‥亜季さん‥」
今にも泣きそうな顔で亜季は叫ぶ、明日香は俯いたまま何も言わない。
「明日香さん、亜季さん、出口を探しに行きましょう?早くこんな場所から出る為に」
ね?と鈴は二人に穏やかな笑みを見せて話しかけた。
●出口を求めて:綾人
「本当にあるんだろうな、出口は‥」
ゴミ箱の中を覗きこみながら綾人は一人呟く。実際ゴミ箱の中に出口があるとは思っていないが、つい覗き込んでしまうのだ。
「でも―‥何かをしていれば気が紛れるからちょうどいいか‥」
通り過ぎる人間達は、とても楽しそうにゼロシティでの時間を楽しげに過ごしている。
「‥知らぬが仏ってのは‥きっとこういう事を言うんだろうな」
出口を探しながら綾人はポツリと呟く。
「あー‥何か此処にきてから独り言多くなったような気がする‥」
はぁ、とため息を吐いて出口を探す――‥が、何か自分の中で引っ掛かる思いがした。
「‥何だ、何かおかしくないか‥?」
(「非常口のようなものがあると―――‥」)
「!!」
綾人は頭の中に引っ掛かる『何か』を思い出そうとフル回転させ、行き着いた先はフェンの発した言葉だった。
「‥そうだ、最初に気がつくべきだった、何でアイツはあんな事を‥?」
綾人は出口探しを一時中断して、フェンの所まで向かった。
●出口を求めて:フェン・ユキ
「‥どういう事だ‥?」
通信機の前でフェンは困惑しながら小さく呟いた。参加者の状況を見て外部に強制終了を申し出ようと、通信機を起動させたが画面は真っ暗、音はザー‥という音のみを発しているだけなのだ。
「‥バグ改善はまだだけど‥これ以上続ければ彼らがどうなるか分からない‥」
だから終了させたいのに、とフェンは呟きながら何度も起動ボタンを押した。
「ねぇ、何してるの?」
最初に会った時のように、ユキはフェンの背後から声を掛ける。
「わ、な‥何?」
「何?じゃないわよ‥皆は出口探しに行ってるのに、貴方は此処にいるから何してるのか気になって‥もしかして‥サボり?」
ふふ、と笑みを浮かべながらユキは呟く。
「‥いや、今から探しに行く所で‥」
ユキに見つからないように後ろ手で通信機の電源を切る、ユキも不思議そうな顔はしていたが何とか誤魔化せたようで「早く探しに行こうよ」と手を引っ張る。
「‥そうか‥そういう事か‥」
「え?」
フェンの言葉が聞き取れず「何か言った?」とユキが問いかけるが「何でもない」と少しイラついたような口調で返してきた。
(「‥様子が変ね、何かあったのかな‥」)
置かれている状況が状況なので、イラつきもするだろうとユキは深く考えなかった。ただ一人‥フェンだけが全てを悟ったように寂しそうな表情を見せていた。
●外に繋がるもの
「じゃあ私はこっちを探すから、貴方はそっちを探してね」
ユキはそれだけ言い残すと、出口を探す為に向こうへと走っていった。少し希望が持てた事のせいだろうか?表情が少しだけ明るくなったような気がする。
「みんな一刻も早くこんな所から出たいのよ!」
休憩室の方から亜季の怒鳴り声が聞こえ、フェンはそちらへ視線を向けた。それと同時に三人の近くに空間の揺らぎのようなものが現れた。
「‥やっぱり‥」
「何がやっぱりなんだ?」
背後から息を切らせた綾人が走ってきて、フェンに問いかける。
「‥綾人くん‥?どうしたんだ、そんなに息を切らせて―‥」
「何かおかしくないか?」
息を整えながら綾人は真っ直ぐフェンを見ながら呟く。一方、言われたフェンは何に対しての『おかしい』なのか分からずに首を傾げた。
「出口‥非常口の事だよ、何であんただけが非常口の存在を聞いている?」
綾人の言葉にフェンは「それは‥」と言葉を詰まらせてしまう。
「本当に非常口なんてモノがあるなら、参加者全員が聞いてなきゃおかしいだろう?」
何であんただけが知ってる?と綾人は責めたてるような口調でフェンに問いかける。そこにユキ・琥珀も戻ってきた。
「向こう見てきたけど、出口らしいものはなかったわ」
「俺が見てきた所にも出口らしいものはなかった」
ところでどうしたの?とユキがフェンと綾人に問いかける。
「何でも‥ないよ?」
フェンが困ったように笑い、その場を誤魔化そうと答える。
「嘘、顔色も悪いし‥具合でも悪いの?少し休んでたら――‥」
「何でもないって言ってるだろう!」
突然怒鳴るフェンに驚いたのか、その場がシンと静まり返る。
「何も怒鳴ることは‥」
琥珀は嫌な空気の流れる場を落ち着かそうと呟く。
「‥フェンさん、さっきから何?急にイライラしたりして‥」
さっきも人ばかり見て出口を探そうとしてなかったし、とユキは言葉を付け足しながら答える。
「どうかしたんですか?」
気がつけば、鈴と明日香もこちらに近づいてきており、その場に全員が揃う事となった。
「‥あんた、まだ何か隠してないか?」
綾人の言葉に、ここまでかな、とフェンは心の中で呟きながら「場所を変えよう」と喫茶ルームへ行く事を促す。
「さて、何から話そうか」
フェンは気持ちを落ち着かせる為にコーヒーを一口飲み、小さく呟いた。
「私は‥参加者なんかじゃない」
フェンが最初に呟いた言葉にその場にいる全員が「え?」と短い言葉を返す。
「ゼロシティ開発の研究者だ、私の本来の役目はデータの収集、ゼロシティの管理だった」
データ、管理、イベントパークである筈の『ゼロシティ』には不必要な言葉が出てきて「どういう意味ですか?」と鈴が混乱しかけながら問いかける。
フェンが言葉を出し渋っていると「‥答えて、何か知ってるなら教えてよ」と亜季が低い声で呟く。
「‥今、ここにいるキミ達は言わば精神部分のみ、体は外で眠ったままのはずだ。ゼロシティという場所そのものが仮想空間になっているんだよ、人が大勢いるよう見えるけど実際に存在するのは此処にいる七人のみ」
「‥‥‥‥‥‥」
フェンの口から紡がれた真実に全員が言葉を発する事なく、黙って聞いている。
‥いや、口を挟む事ができないのだろう。
「あんたが‥あんた達が‥‥」
ギリ、と唇を噛み締めながら明日香が呟く。激昂しすぎて言葉にならないのだろう。そして体は死の瞬間に感じた痛みや苦しみを、明日香の記憶から引き出し恐怖を与えている為かガタガタと震えている。
「明日香さん‥大丈夫ですか?」
震える体を押さえるように明日香は自分の体を抱きしめる、そんな明日香を心配そうに鈴は見ていた。
「会社側の人間だったら、非常口の存在を知っててもおかしくないか‥」
フェン一人だけが非常口の事を知っていた理由を知り、綾人はため息をつきながら納得した。
「‥でも、ちょっと待てよ、会社側の人だったら外にいる人達と連絡を取る事が出来るんじゃないのか?」
琥珀の言葉に「どうなんですか?フェンさん」と鈴が期待をしのばせながら問いかける。
「‥‥それは無理だ、連絡がつかなくなっている‥」
俯いたままフェンは消え入りそうな小さな声で呟く。
「まさか、それって‥」
亜季の頭の中に嫌な予想が過ぎる。それに気づいたのかフェンは自嘲気味に笑みながら亜季の方へ視線を移し「キミが考えている通りだよ」と答えた。
「亜季さんの考えている通り、全員切り捨てられた‥‥私も含めて」
フェンが諦めたような、悲しそうな声で小さく呟いた。
「‥切り捨てられたって、どういう意味ですか‥?」
「その言葉の通り、今回の事故自体をなかったものにする‥それが会社の考えなんだろうね」
そんな、と鈴が口に手を置きながら呟く。
「でも‥非常口さえ見つければ此処から出られる、確実に」
「‥言い切れるの?」
明日香が低い声でポツリと呟く。
「言い切れる、非常口を設定したのは私自身なんだから。ただ‥予想以上にバグが多すぎて非常口‥扉の出現をランダムにさせているようなんだ‥」
フェンの言葉を聞いて琥珀が席を立つ。
「何処に行くの?」
ユキが問いかけると「‥扉探し、早く出たいから」と呟いて喫茶ルームから出て行った。
「そうね、探すしか方法がないなら‥ひたすら探すしかないわね」
ユキも琥珀の言葉に納得したのか立ち上がり、喫茶ルームから出て行く。
「私達も出口を探しに行きますね、行きましょう‥明日香さん」
鈴の言葉に明日香は無言で頷き、鈴と一緒に喫茶ルームを出る――しかしその間際でフェンを睨みつけて呟いた。
「‥‥絶対に許さないわ‥‥」
忌々しいものでも見るかのようにフェンを睨み、明日香はそれだけ言い残すと鈴と一緒に喫茶ルームを出て行った。
(「‥女って怖ぇ‥‥」)
出て行く明日香を見ていた綾人は頬杖をつきながらそれを見ていた。
(「‥いや、怖いのは女じゃなく明日香だけかもな‥」)
「さて、私も探しに行こうかな、此処でこうしてても仕方ないしね」
うーん、と伸びをしながら亜季が「何処から探そうかな」と言いながら皆と同じく外へ出て行った。
「キミは‥この事をどう思っている‥?」
周りの虚像の声にかき消されるくらいの声でフェンが呟く。
「正直‥下らない実験には腹が立つが、少なくともあんたは本気で、俺らの事を外に出そうとしてくれている、心配してくれている、そうだろ?」
そう言って綾人は立ち上がり、喫茶ルームから出る―‥ドアの所で足を止め振り返ることなく「これ以上‥仲間を疑いたくないんだ‥信じさせてくれ」と言って出て行った。
「仲間――‥か、会社での『仲間』は私を簡単に切り捨てたというのに‥皮肉なものだな」
フェンは綾人から言われた『仲間』という言葉に複雑な表情で呟いた。
●脱出への鍵は、悲劇への幕開け
「やっぱり簡単には見つからないものね」
亜季は「ふぅ‥」とため息混じりに呟いた。周りを見渡せばグラフィックの人間が楽しげに笑って騒いでいる。
「‥楽しそうよねぇ‥こっちはこんなに必死なのに」
意思を持たない映像の人間だとしても、八つ当たりをせずにはいられない。脱出する方法が分かったとは言えども、此処から出る為の扉は移動し続けるのだ。簡単にはいかないだろう。
「でも‥探すしかないって言うなら‥何が何でも見つけてみせるわ」
そう呟き、亜季は扉探しの為に足を動かし始めた。
「扉が見つかれば‥、出られる‥‥んですよね‥」
鈴が悲しみを隠し切れずに、不安げに呟く。
「‥どうかしら、結局はこのゼロシティを作った奴らの仲間だもの、信用なんかできるはずもないわ‥」
明日香は壁に寄りかかり、ズル‥とその場に座り込む。鈴は心配しながらも暫く一人にさせようと自分も扉を探しに行く。
「明日香さん、大丈夫か‥?」
少し歩いた所で琥珀と出会い、鈴は悲しげに「分からないです」と答えた。
「‥扉が見つかれば全て解決すると思うんだけど、中々見つからないものだな‥」
琥珀はため息混じりに『ゼロシティ:マップ』を見て呟いた。色々な階層があり、ジャンルごとに階層が別れている。
「‥ここ全てをランダムで移動しているのなら‥見つける事は至難の技ですね‥」
「でも探し出さなきゃ出られないんだよな」
頑張ろう、そう言って琥珀は別の階層を探しに行くために鈴から離れていった。
「でも‥こんな現実味のある映像って‥凄いなぁ‥」
流れ行く人ごみを見ながらユキは呟いた。
「あ、この服可愛いー‥これも仮想空間だから本物じゃないってコトだよね、残念なような、どうでもいいような‥」
服屋のマネキンが着ている服を掴み、しみじみと思う。
「このアクセもいいなー、欲しいなー‥」
「何やってんだよ、お前は‥」
ショーウィンドウにべたーっと張り付くユキを見て綾人は呆れたように呟いた。
「わ、わぁ!い、いつからそこに?」
「『でも‥こんな現実味のある映像って‥凄いなぁ‥』から?」
「‥最初からじゃない‥」
回りくどい言い方をする綾人に肩を落として答える。
「扉は見つかった?」
ユキが問いかけると「見つかっていたら、もっと喜んだ顔してるよ」と言って足を動かす。
「とりあえず見つからないから、フェンの所に戻ろうかと思う」
綾人が言うと「あ、私も行くよ」と慌てて後を追った。
(「何か‥嫌な予感がする―‥、何もなければいいんだけど‥」)
綾人はざわつく胸を押さえ、急ぎ足でフェンの所まで戻っていく。
「やっぱり、扉を出現させる為には鍵が必要なのか‥」
いくら探しても見つからない扉にフェンは目を伏せて苦しそうに呟いた。彼・フェンは一つの仮説を立てていた。仮説と言ってもそれは限りなく確定に近い仮説を。
一度、明日香が自分の喉を貫いた時に『扉』は現れていた。皮肉にも絶望・過度のストレスが原因で扉は出現するようにバグを起こしているのだ。
「‥私が設定した時は『帰りたい』と思えば現れるようにしてたのにな‥」
予想以上に多かったバグがフェンの設定したことも書き換えてしまったのだろう。
「‥どうすれば‥」
そう呟いた時に一つの案がフェンの頭に降りてくる。
「‥そうか、あの人を利用すれば‥扉が現れるかもしれない」
だけど、そのためには‥フェンの心に迷いが出るが、それを振り切るように首を左右に振る。
「どんな犠牲が出ても、ここから出る事だけを優先させればいいんだ‥」
彼が行おうとしている事、それは――――‥。
「‥扉なんてないじゃない」
ポツリと呟くのは明日香、鈴が離れていった後に彼女も扉探しをしていたのだが、どんなに探しても見つからない事に苛立ち、明日香はバッグの中にしのばせている物に触れる。
そこにフェンがこちらへと向かってくる姿が見えた。
「‥アイツさえいなければ‥」
フェンも切り捨てられた以上、彼も被害者なのだと言う事は十分に理解できていた。しかし理解出来ていても、心がそれに追いつかない。憎いという気持ちが先走りすぎて彼女の心を制御不能にさせていた。
「アンタが‥悪いのよ!」
向かってくるフェンに明日香は叫び始める。
「こんなの、やりたきゃアンタ達だけでやってれば良かったのよ!何で私がこんな思いをしなきゃなんないの!」
錯乱状態の彼女に手に持たれているのは鈍く光るナイフ‥。ちょうどそこにやってきた綾人が「‥おい、落ち着けよ!」と明日香に向かって叫ぶ。
「あ、あ‥、でも‥だって‥」
ガタガタと震える明日香を落ち着かせようと綾人が説得を試みる、だが―‥。
「止めるのか?キミの憎いという感情はその程度のモノだったんだ?」
クッ、とフェンは明日香を煽るように嘲笑いながら呟いた。
「‥おい、アンタも何言ってんだ‥煽るような事を言うなよ‥」
「‥ちょ‥何の騒ぎなのよ、これは‥」
亜季もやってきて、現在の状況に混乱している。
「私を刺せないなら‥私がキミを刺してあげようか?あの時みたいに死と痛みの恐怖に打ち震えてみる?」
フェンもポケットからナイフを取り出し、切っ先を明日香に向ける。
「ちょ―‥」
「止めろ!!」
亜季と綾人の声が重なり、明日香が「うわああああっ」と叫びながらフェンの腹部をナイフで突き刺した。
「きゃああああああっ!」
戻ってきたところで、その現場を見てしまった鈴は叫ぶ。
「あ、あ‥」
明日香は血に塗れたナイフをカランと地面に落とし、その場に崩れ落ちる。
「何で‥こんな事になってるんだ‥?」
扉を探しても見つからない為、フェンの所へ戻ってきた琥珀とユキ、戻ってきたら血の海の中に倒れるフェン、血に濡れた自分の手を見て震える明日香、そして騒ぐ仲間達。
「‥と、とりあえず‥手当てしなくちゃ‥」
仮想空間の中なのに手当ては意味があるのか、そうユキは思いながらもフェンの傷の手当をする。
「‥これで、現れるはずだ‥」
ごふ、と血を吐きながらフェンが呟く。その言葉に全てを確信した綾人はフェンに近づき「このバカ!」と叫んだ。
「自分を犠牲にするつもりだったんだな、アンタ‥俺らより大人だろう!犠牲精神なんて‥ただの自己満足なんだよ!」
もう一度二日目に戻れば‥と鈴が呟くが「あれを‥見るんだ」と奥の方を指差しながら弱々しい声で呟いた。そこに見えたのは空間が揺らいだ後に出現した扉。
「皮肉にも、扉を―‥出現させ、るには‥極度の‥ストレス、恐怖が‥ひつよう‥なんだ」
あの扉をくぐってプログラム実行すれば三日目に行く、フェンは荒い息で呟いた。
「その状態で実行すれば―‥影響が出るんじゃないんですか‥?」
鈴が問いかけると「そうかも、ね‥」と呟き「それでも『今』しか‥チャンスは、な‥いんだ‥」と言葉を付け足した。
「待って!やめて!」
プログラムを実行しようとするフェンを明日香が止める。
「こんなの‥卑怯だわ‥許さない‥逃げるなんて許さない、だから――死なないで!」
泣きじゃくりながら明日香が叫ぶが、フェンは力の抜け切った手でプログラムを実行させた。
途端に歪む周りの景色――。
「はや、く‥扉――を‥じゃない、と‥永久、此処、に‥」
行け!!と叫ぶフェンに全員がやりきれない顔をして扉を潜り抜けた。
●初めての三日目
「‥三日目」
「無事に出られたのよね‥?」
気がついたら中央ホールで全員が座り込んでいた。後ろを見れば先程と変わりなく血を流すフェンの姿がある。
慌てて全員がフェンに駆け寄るが、既に意識はない。
「楽しかったねー」
「また来ようね」
虚像の人間達は誰も流血沙汰を気に止めずにゲートをくぐり、帰っていく。予めプログラムされた行動しか取らないのだろう、だから誰もフェンの事を気に留めないのだ。
そして景色が歪み、目を覚ませば何かのカプセルのようなモノで寝ていた。あの時、フェンが自分の命を危険に曝さなければ今でも二日目を繰り返していたのだろう。
「‥良かった‥本当に戻って来れたんだ‥」
亜季は涙ぐみながら安心したように呟いた。
「‥ま、過ぎてしまえば記憶でしかないんだし」
その後はゼロシティを開発した会社の人間がやってきてフェンを除く六人は帰っていいと言われ、会社から追い出されるように外へと出された。
その後、参加者の告発によりゼロシティを開発していた企業の行いが公となり、マスコミを騒がす事件となった。
だが、時の流れ・新たな事件にゼロシティの事は次第に忘れられ、一時の騒動が嘘であるかのように落ち着きを取り戻していた。
フェンは仮想空間で大怪我をした事が原因で、実体に戻った後も意識が戻らずこん睡状態が続いていたが、最近になってようやく意識が戻り、体も回復に向かっているとゼロシティ参加者の皆からメールが送られてきた。
「‥これで‥本当に終わったんだな」
メールを見ながら綾人はポツリと呟く。
今、ようやく『全員』がゼロシティから脱出できた瞬間だった――‥。
END
●打ち上げ●
「お疲れ様でしたー」
撮影終了後に監督が、簡単な打ち上げパーティを開いて待っていた。
「やー、それにしてもリーニャさんは迫真のネガティブ人間だったね!」
監督の言葉に「うんうん」と全員が納得したように首を縦に振った。
「本当はねー、真喜志さんを刺す時にはナイフじゃなくてこっちにしたかったんだ」
そう言って後ろからごそごそと監督が取り出したのは――‥巨大な出刃包丁。
「そんでもって、こっちの鬼の面がついたのを被ってほしかったんだよね」
や、悪い子はいませんから――、むしろあの場面で、その姿で登場されたらギャグですから!
「さ、さすがに迫力ありすぎじゃないですか‥?刺される僕も怖いですし‥」
心優しき真喜志さん、言葉を選んでさりげなく否定した!
「わたくしは、出刃包丁よりナタの方が宜しいと思いますのでございます」
ほわほわと回りに花を散らせながら、のほほんと呟く彼女に『何か違う事ないか?』と全員が思ったとか―‥。
「確か橋都さんはモハ‥ごめんなさい」
続きを言おうとしたがブラックオーラをゴゴゴ‥と音をたてながら出す兎さんに怯えて、監督は思わず謝ってしまう。
「ま、まぁ‥雨月さん、日乃さん、ヒノエさん、KOHAKUさんもお疲れ様でした!」
そんなこんなの打ち上げだったとさ。
おしまい。