Lunatic Loveアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/31〜06/02
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●本文
『彼女は俺を愛し、俺を――‥憎んでいた』
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―Lunatic
名:精神病者
形:発狂した・気ちがいじみた
―Love
名:愛・愛情・好み・好意
他:愛する・好む
※※
此処には『三人』の人間が存在する。
一人目の女は、男を愛している。
二人目の女は、男を憎んでいる。
そして男は一人目の女を愛している。
これは一見すると簡単な図式に思えるが、意外と複雑な図式なのだ。
一人目の女と二人目の女―‥彼女達は二つの意識を一つの体で共有している。
つまり、二重人格者なのだ。
一人目の女は「夢」といい、二人目の女は「七海」と名乗った。
「私は彰が好きよ」
夢は俺にそう言う。
「いつか、お前は私が殺してやる。お前は夢に害をなす」
そう言って七海は憎悪に満ちた瞳で睨みながら、いつも俺に言う。
何故彼女はあんなにも俺を憎むのだろうか‥?
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●募集事項
◎映画「Lunatic Love」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に必要な役柄は以下の通りです。
・夢と七海(一人二役でもOKです/必須/女性)
・彰(必須/男性一名)
とりあえず必須配役は上記のみなので、他にも適役がありましたら参加者の皆様と話し合っての役柄追加&設定追加はOKです。
◎何故『七海』が『彰』を憎むのかは皆様で考えてくださっても構いません。
※こちらでも大まかな話は作ってあるので考えなくても構いません。
●リプレイ本文
真っ暗な部屋に一人の男(ブルース・ガロン(fa2123))が立っている。
「さて、皆様‥これから始まる物語は愛情と憎しみが入り混じる話――‥どんな結末を迎えるかは皆様の目で確かめていただきたい」
男がそう言うと部屋は真っ暗になり、スクリーンに映像が映し出された。
※Lunatic Love※
「はぁ‥」
ため息を吐く彰(日向翔悟(fa4360))に「どうしたよ?」と友人・悟(榛原 瑛(fa5470))が問いかける。
「‥いや彼女‥夢(千音鈴(fa3887))の事でちょっとな‥」
「女ねぇ‥気をつけろよ?女なんて一人で盛り上がって、一人で突っ走るからな」
でも興味あるから会わせろよ、と言って彰の前から姿を消した。
「あら、どうしたの?」
夢の事を考えていると心理療法を専攻している志緒(冬織(fa2993))が話しかけてきた。
「いや‥七海(DESPAIRER(fa2657))は何で俺の事をあんなに敵視するのか‥」
何か知りませんか?と彰が問いかけると「‥え‥と」と志緒は口ごもりながら言葉を濁す。
「何か知ってるなら教えてください!お願いします」
「他言しないと約束できる?それに私も詳しくは知らないのだけど‥」
約束できます、と彰は確りと目を見据えて答える。
「‥自分で命を断とうとしたのよ、昏睡状態が何日か続いたかしら‥世間体があるから伏せてあるけどね‥そうね、詳しく知りたいなら彼に聞くといいわ」
ちょうど近くを通りかかった玲爾(百鬼 レイ(fa4361))を指差して志緒は呟いた。
「七海と幼馴染だから、私よりかは詳しいと思うわ。それじゃ‥私は授業があるから行くわね」
そう言って彰から遠ざかろうとした時、ピタリと足を止めて「七海‥何で相談してくれなかったのかしら‥」と寂しそうに呟いて向こうへと歩いていった。
「‥あの――‥」
「自分はアンタ達がしている事は賛同出来ないっすね」
突然呟いた玲爾の言葉に「何がだ‥?」と言葉を返す。
「七海の事は時が全て解決してくれる、七海の過去を穿り返すような事には賛同出来ないっす」
「‥それでも‥俺は」
下を俯く彰に「はぁ‥」とため息を吐いて玲爾は七海の過去を話し始めた。
「七海には大好きだった男がいたんだ、だけど――‥その男は七海以外の女と付き合い、七海に酷い言葉を吐き捨てて‥その後――」
恐らく自分で命を断とうとしたのだろう、彰も知らぬ七海‥そして夢の過去に戸惑いを隠せなかった。
「自分は七海が幸せならいい――だけど泣かせた時は許さないっすよ」
「玲爾くん」
他にも玲爾は何か言いたそうだったが助教授に呼ばれて校舎の方へと歩いていった。
「彰、どうしたの?こんな所で」
これからどうしたものか、と考えていた時に夢が向こうから走ってやってきた。夢は絶えず穏やかな笑みを浮かべてはいるけれど、何処か違和感を覚えるのだ。
「いや、俺は授業終わったから帰ろうかと‥」
「彰も?私も終わったの、一緒に帰ろうよ、そうだ、家に寄っていかない?早紀お姉ちゃん(花香こずえ(fa5563))も会いたがってるし」
「早紀さんが?」
何だろう、と疑問に思いながら夢の自宅へと向かって歩き出した。
「あ、ジュースがない‥悪いんだけどコンビニで買ってきてくれない?」
「ん、いいよ。じゃあ行って来るから待っててね、彰」
そう言って夢はジュースを買いに出て行った。
「‥何か、俺に用があるんですか?」
「いえ、貴方が何か聞きたいんじゃないかと思ってね」
確かに、志緒から七海の過去を聞いた時から姉である早紀に話を聞こうと考えていた。
「過去にあった事‥妹の全てを知って、それでも貴方は妹に変わらずに接する事が出来る?」
「‥え?」
「覚悟がなければ私からお話する事は何もありません」
呟く早紀の瞳からは、その言葉が本気だという事が伺える。
「大丈夫です、俺が夢を好きだという事は変わりませんから」
その言葉に「そう‥」と少し悲しそうな表情でポツリポツリと呟き始めた。
「貴方は夢が主人格で七海が現れた人格と思っているようだけれど‥主人格は‥七海よ」
早紀の言葉に「‥え?」と驚きを隠せない様子で彰は言葉を返した。
「七海は――‥昏睡状態から目が覚めて、それから変わってしまった。自分は幸せなんだと思い込む『夢』を作り出したの‥そして『夢』が好きになる人を七海は憎むようになってしまった。かつての自分と重なるから――」
其処まで言いかけた時にジュースを持って夢が帰ってきた。
「ありがと、夢」
「どういたしまして、ねぇこれから暇なら映画でも見に行かない?」
夢は「見たい映画あるんだよね」と相変わらずの穏やかな笑みを浮かべて言う。
「俺は構わないけど‥」
視線だけを早紀に向けると「‥いいわ、行ってらっしゃい」と苦笑しながら二人を見送った。
「おや、お二人ともこれかたデートですか?若い人はいいですねぇ」
映画館に向かう途中で帰宅途中の助教授とばったりと鉢合わせる。そんなに年だったか?と彰は心の中で呟きながら「まぁ‥」と曖昧に言葉を濁す。
「デートは構いませんがきちんと勉強もしてくださいね」
それから助教授は三十分間もくどくどと説教にも似た言葉を言い続け、二人が少しうんざり気味になっていた時「助教授、急いで帰らないと奥さんに怒られるんじゃないんですか」と同じく帰宅途中だった悟が話しかけてくる。
「おお、そうだ!では私は帰るからくれぐれも勉強は―」
助教授は最後の最後まで同じ言葉を繰り返しながら帰っていった。
「助かったよ、あの調子だといつまで続くか分かったもんじゃないからな」
「いいって事よ‥お、隣の子が例のかの―‥じょ‥?」
夢の顔を見た瞬間に悟の顔つきが変わる、そして――。
「お前は!よくもぬけぬけと私の前に顔を出せたものだな!」
夢が今にも悟に掴みかかりそうな勢いで叫び始める。
「ちょ‥夢!?」
突然叫びだした夢‥七海の意図が分からずに、やや混乱気味に彰は仲裁に入る。
「煩い!お前もコイツと同じだろう!夢を裏切るつもりなんだろう!夢が‥‥‥私がどんなに苦しむかも知らずに!」
「あーあー、相変わらず重たい女なのな、お前、そんな風に寄りかかられる方の気持ち考えた事あるのか?うざいんだよ、一人だけ被害者面してるんじゃねぇよ」
「どういう‥あ、夢!」
悟の言葉を聞いて、七海は瞳を涙いっぱいにして彰を突き飛ばして何処かへと走り去ってしまった。
「悟と夢は‥?」
「あぁ、昔付き合ってたんだよ、まぁ俺が浮気して別れたけどな、うぜえんだよ、あの女。俺が研究で忙しい時に『声だけでも』とか言って電話してくるしよ」
はー、嫌な奴見たな‥と悟は悪いと思っていない口調で言葉を続けた。
「お前のした事で夢が‥七海がどれだけ傷ついたと思ってるんだ!」
「‥知るかよ、まぁ‥付き合ってた俺が言うのもなんだけど、あの女は止めとけ」
じゃあな、それだけ言い残して悟は自宅へと帰っていった。
―私がどれだけ苦しむかも知らずに!
さっきの七海の言葉を聞いて確信した、夢ではなく七海が主人格なのだと。
そして‥誰よりも愛に飢えているのではないかと‥。
信じたい、だけどまた裏切られたら?
そんな想いがきっと七海の中で葛藤していたのだろう。
「‥俺を‥悟と一緒にするなよ!」
唇を強く噛み締め、彰は彼女が走り去った方向へと向かって自分も走り出す。
夢だから、七海だからという考えは全くなかった。
はっきり言えるのは、叫んだ後に見せた悲しげな表情を見たから。
あんな顔をさせたくないと思ってしまったから。
「ゆ――‥七海!」
「やっぱり此処か」
七海が向かった先は、彰が夢に告白した場所だった。
「何しに来たんだ、夢に‥私に近づくな!どうせ裏切るくせに!別の女を見つけるくせに!」
半ば半狂乱になって叫ぶ七海に「ふざけるな!」と彰が強く大きい声で叫んだ。
「‥‥‥たとえ、どんな事があろうと、俺は夢を‥七海を裏切ったりしない!」
神に誓う!と叫ぶ彰に七海は涙をぼろぼろと零す。
「もし‥誓いを破ったら‥その時はどうする?」
「この誓いが破られるというなら‥俺を好きにしてくれて構わないから」
こんな自分を全て抱きとめてくれる、彰が見せた必死さが七海の中に渦巻いていた憎しみと恐れが段々と溶けていく。
「‥‥彰‥‥」
そう呟く七海の顔は、今までの夢とも七海とも違う優しい表情だった。
これこそが本来の『七海』なのだろう。
「七海‥か?」
問いかけてくる彰に七海は笑顔を頷く。
「‥‥お帰り、そして――‥これから宜しくな」
「さて、これでこの二人の物語は終わります―‥いや、これから始まるのでしょう。本来の七海として目覚めた彼女と、全てを受け入れた彰、この二人には揺るがない絆があると信じたいです、恥ずかしながら私は彼女達が持つ闇に気づく事が出来なかった」
男は一度深呼吸をして「しかし」と言葉を続ける。
「それに気づき、受け入れた彼だから七海は心を開いたのでしょうね」
男は「では、また」と丁寧に頭を下げる、それと同時に部屋は真っ暗になった。
END