LUNA ―pollutionアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 水貴透子
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 6.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/06〜06/09

●本文

『あの子は‥人が死ぬのを見て‥凄く楽しそうに笑った‥』

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暑い夏の日、窓を叩きつけるような土砂降りの中であの子は生まれた。

まるで真昼のように辺りを照らす雷に怯えながらの出産だった。

だけど、あの子が生まれてから一年。

そんな事すら記憶の片隅に追いやるくらいに穏やかに、そして幸せに一年という時間は流れた。

(「そういえば‥何か大事なことを忘れているような‥」)

明日は我が子・海の一歳を祝う記念日。

誕生日のプレゼントを買うために私はデパートへと来ていた。

「何が欲しいかしらね、海ちゃん」

腕の中ですやすやと眠る海の姿を見て、自然と笑みが零れた。

「きゃああっ!」

デパート内に女性の声が響き、次の瞬間に鈍い音が耳に入ってくる。

「な‥何‥」

叫んだ女性は腹部を刺され、冷たい床に倒れている。

犯人が此方へとやってこようとし「もう駄目だ‥」と思った瞬間――‥。

ぱん、と風船が割れるような音がしたかと思うと目の前までやってきていた犯人の頭がぐちゃりと弾けていた。

「ひ‥っ‥」

海を確りと抱きしめた状態で、私は床にぺたんと座り込んだ。

いや、力が抜けて立っていられなくなったのだ。

「だ、大丈夫――‥っ!」

ハッと我に返り、海が無事かを確認する為に視線をおろす。

すると、そこには今まで見た事ないような満面の笑みを浮かべ、赤く、怪しく光る瞳を持つ海の姿が視界に入ってきた。

その時、片隅に追いやられていた記憶が私の中で鮮やかに甦る。

(「‥この瞳は―‥あの時のバケモノ‥」)

一年前、出産直前に出くわしたバケモノが海と重なり、私は震える体を抑える事ができなくなった。


――月宮殿

「現世にて特殊な腐獣が確認されたようですわ」

月姫の言葉に月天使が「特殊?」と問いかける。

「えぇ、感染したのは母親なのですけれど腐獣となったのは、その時にお腹の中にいた赤ん坊なんですの」

「赤ん坊が‥?」

「今まで見た事のないケースですわ、月鏡を使って人間界にいる仲間に知らせたので何とかなるとは思いますけれど‥」


月姫から連絡を受け、今回の事件を聞いた月鬼たち

今回の相手は無知な赤ん坊、どう‥対処する?


※※設定※※

月鬼は生まれつき『月天子』か『月姫』―‥どちらかの加護を受けています。

月天子の加護を受けている者は『攻撃系』の能力を持ち

月姫の加護を受けている者は『防御系』の能力を持っています。

同じ加護を受けている者同士は、互いの力を合わせて連携技を使う事が出来ます。
※月姫+月姫
※月天子+月天子はOK。

※月姫+月天子
※月天子+月姫はNG。

相対する能力同士は力が反発しあい、うまく力が絡まらず連携は出来ません。

※能力はそれぞれの系統に反しないのであれば皆様で好きに決めて下さって構いません。

前回質問が出たこと(全部掲載はしておりません)

・能力系
◎防御以外の能力(補助・束縛)なども月姫の加護を受けた者が使用可能です。

◎自分以外の存在を腐獣に感染させずに使役する能力は月天子の加護を受けた月鬼が使用可能です。
(その際は使役する存在について詳しく考えていただくことになります)

◎連携技は二人以上でも可能ですが、連携技自体が体力を大幅に消耗するので三人以上と連携しても、上手く能力を扱えない場合があります。

◎連携技を繰り出した場合、術者双方が使う事が出来ます。

・腐獣
◎腐獣の外見は特に決まったものはありません。大きい腐獣から小さな腐獣まで存在します。
(感染した場合は、感染者の姿を維持しており、記憶・知識すべてを所有しています)

◎感染者は腐獣であることを隠す事が出来るが、本能である『破壊活動』を抑える事は無理であり、我慢できなくなった破壊活動で正体がバレる事が多い。

◎自然に生まれた腐獣は知識がないので特殊能力は持っていませんが、感染者は特殊能力を持つ事が出来ます。

◎自然に生まれた腐獣は複数行動は滅多にしない。
(仲間だと判別する知性もないので、複数で行動しても仲間割れする事もある)

◎感染者は『使役する』という特殊能力を持たせる事で腐獣を使役する事が出来る。
(ただし感染者は自我があるので使役されることは滅多にない)

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●募集事項
◎映画「LUNA」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に必要な配役は以下の通りです。
 ・月鬼(必須/何名でも可)
 ・腐獣(ただし、人間へと感染した場合のみ)
(自然に生まれた腐獣は知識など持っていません。逆に人間へと感染した腐獣は人間としての知識を持っているのでタチが悪いです)
※他に適役がありましたら、そちらを演じていただいても結構です。
※設定などに疑問などを感じたら、NPCユリアナに質問して下さい。
 その際は別スレをたてていただけると有難いです。

※今回のユリアナの配役:腐獣と化した赤ん坊の母親
※母親を希望する方がいらっしゃったらユリアナには別の当たり障りのない役をさせますので。

●今回の参加者

 fa0467 橘・朔耶(20歳・♀・虎)
 fa1024 天霧 浮谷(21歳・♂・兎)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa2459 シヅル・ナタス(20歳・♀・兎)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa4031 ユフィア・ドール(16歳・♀・犬)
 fa5625 雫紅石(21歳・♂・ハムスター)

●リプレイ本文

「月姫‥頼むから待ち構えたように仕事を持ってこないで頂戴‥」
 はぁ‥とため息を吐きながら呟くのは琥珀(ユフィア・ドール(fa4031))だった。彼女は機織工房での仕事を終え、帰ろうとしていた時に月姫からの連絡を受けたのだ。
「他の皆にも‥知らせたみたいね――月がざわついている」
 夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げて琥珀は呟き、問題の腐獣がいる病院へと向かい始めた。


「‥何で俺はほとんど裸に近い状態で寝ているんだ?しかも服は焼けてるし‥寝てる時に火遊びでもしたか‥?」
 うーん‥と唸るのは泰牙(天霧 浮谷(fa1024))、補足だが服が焼けているのは海唄(橘・朔耶(fa0467))に焼かれたからである。
「‥相変わらず体調悪いし‥とりあえず‥どんな不調も医者なら治してくれるって母さんが言ってたっけ‥」
 泰牙はそう呟くと、適当に着替え、病院へと向かう――彼は気づいていない。恐らく『自分の意思』で病院へ向かう事を決意したと思っているだろうが、病院に向かうのは―‥彼の中に眠る腐獣によっての誘導だと言う事に。


「お帰り、遅かったのね」
 暁闇で弟・夜光(神楽坂 紫翠(fa1420))を出迎えたのは、彼の姉・朔夜(月 美鈴(fa3366))だった。
「買い物先で真紅の瞳を持った赤子を見た」
 夜光の言葉に朔夜は少し驚いたように目を見開き「月宮殿の二人が言っていたけれど‥その子に腐獣が憑いているそうよ」と呟いた。
「あの子に腐獣が――?確かに普通ではなさそうだったけど」
「暇でしょ?月鬼が何人か子供の所へ向かわされているらしいわ、貴方も手伝いに言ってらっしゃい」
「え‥や、デザイン画を描かなきゃ――」
 夜光は言葉を言い終わる前に外へと放り出されてしまい「やれやれ‥人使い荒いぜ」とぼやきながら病院へと向かった。


「今日はお洋服を買いに行く予定だったのに〜‥」
 呟くのは汐音(雫紅石(fa5625))、彼‥いや、彼女は大学からの帰りに月宮殿からの連絡を受けて病院へと向かっている最中だった。病院近くまで来ると自分と同じく連絡を受けた仲間達と鉢合わせた。
「あら、正臣ちゃんじゃない」
 琥珀が汐音を本名で呼ぶと「やめてぇ!私は乙女なのよ」と耳を塞いで『正臣』という言葉を聞こうとしない。
「‥‥分かったから騒がないでよ、汐音も月姫達から連絡を受けたのね」
 正臣という言葉が聞こえなくなると「えぇ♪琥珀ちゃんと海唄ちゃんも?」と問いかけた。
「‥あぁ、とりあえず海って子供と母親を探そう、手遅れになってなきゃいいけどな」
 海唄がぼそりと呟き、三人は病院の中へと入っていった。


「美空(ユリアナ・マクレイン(fz1039))!海に何があったんだ!?」
 慌てて病院へとやってきたのは、海の父親(佐渡川ススム(fa3134))だった。
「あ・あの子は‥」
 美空もほとんどパニック状態になっているのだろう、父親の言葉に上手く返事をする事が出来ないでいた。
「私も分からないのよ‥この子――人が死ぬのを見て笑ったし、目も血のように赤く‥」
 美空が呟いた時、院内に悲鳴があがる。
「な、何だ!?」
 父親は海と美空を護るかのように、二人の前に手を伸ばす。
「此処にいるんだろ‥腐獣の御子が、俺の味方が!」
 けたたましく笑いながら近づいてくるのは泰牙、病院に入ると同時に腐獣に意識を乗っ取られたようで、今の彼に普段の楽観さは見えない。
「な―‥何だ、お前は‥」
 暗闇から現れた泰牙は全身と言ってもいいほど返り血に塗れていた。
「そのガキを渡してもらおうか、大事な俺の『仲間』なんでね」
 ククク、と残酷な笑みを浮かべながら美空の手から海を取り上げる。
「海!!」
 叫んだのは父親だった、美空は海を奪われる際に殴られて気を失ってしまったから。
「美空!」
 壁に激突しそうになった美空を父親が抱き止め「海を返せ!俺達の子供だ!」と叫ぶ。
「お前等の子供――違うね、コイツは俺の『仲間』だ」
 そう言って泰牙は海を連れて二人の前から姿を消した。
「海‥誰か、誰か!」
 父親が叫んでいると「どうした!」と海唄・琥珀・汐音の三人がやってくる。
「若い男に俺の子供が――」
 遅かったか、と海唄は舌打をしながら小さく毒づく。
「‥あれ、夜光ちゃんじゃない。貴方も来ていたのね」
「あぁ‥‥姉貴に頼まれて‥‥それより‥探しに行った方がいいんじゃないか‥?」
 夜光の言葉に「二人は任せたわね」と汐音が言い残し、海を連れ去った泰牙を追う事にした。
「俺も――」
 父親が言いかけて夜光がそれを制止する。
「追いつくのは‥難しいから‥任せた方がいい」
 夜光に促され、父親は気を失っている美空を抱きしめながら唇を噛み締めた。


「うーん‥ちょっと後手に回ったみたいやな」
 一人呟くのは水鏡(シヅル・ナタス(fa2459))、彼女も連絡を受けてやってきたのだが、他の皆より少し遅い到着だった。しかし、そのおかげで海を連れ去る泰牙の行き先―‥公園を知る事が出来たのだ。
「何だ、お前―‥」
「アンタを倒しにやってきた月鬼や」
 そう呟き、水鏡は予め用意していた水の棍を取り出して戦闘態勢に入る。
「‥うち一人やったらヤバイかもしれへんけど‥うちの気配を感じて仲間が来るはずや、それまで時間を稼げれば‥」
 水鏡は自分に言い聞かせるように小さく呟き、棍から凝縮した水の弾丸を撃つ。
「ちっ‥小ざかしいんだよ!」
 泰牙は叫び、己の能力を使い腐獣を作り出した。
「やば――」
 数体作り出された腐獣が水鏡に襲い掛かり、ヤバイと感じた時――琥珀のショールが腐獣の体を締め付けた。
「一人でとは流石に無謀だろ」
 海唄が少し楽しげに笑い、炎を繰り出して腐獣を次々に滅していく。
「よりにもよって今回もお前かよ」
 海唄は目の前に立つ泰牙を見て盛大なため息を吐いた。
「さぁて‥貴方達も頑張るのよ」
 汐音は病院から拝借してきた数体の人形を手に取り、能力『傀儡』で人形に仮初の魂を吹き込む。
「また、お前らか――お前等如き‥」
 泰牙が呟いた瞬間、ガクンと膝が折れる。
「な――‥に――?お前‥まだ、俺に逆らう力が‥‥くそおおおっ!」
 激昂したように泰牙が叫ぶ。
「見えない誰かとお喋りとは‥随分余裕だな!」
 ごぅ、と離れた場所から海唄が炎を放つ。
「くそがあぁ!お前等如きに!」
 泰牙も攻撃を仕掛けてくるが汐音の人形が身代わりとなり、月鬼達に効果はない。
「ちっ‥コイツの肉体も限界か‥役に立たない奴だ!」
 そう叫ぶと泰牙は月鬼達に向けて海を放り投げ、数体の腐獣を作り出して、その場を逃走した。
 危ない、と水鏡によって抱きとめられた海は楽しげに笑っている。
「‥その子を――渡せ」
 腐獣を始末した後、海唄が低い声で呟く。
「‥まだ幼いのにね‥可哀想に」
 汐音が呟き、海唄が抱きしめながら海を炎に包ませる。
「海唄ちゃん‥」
「大丈夫だよ、苦しむ暇さえなかったはずだから」


 それから病院へと戻ると父親が掴みかかるように「海は!?」と問いかけてきた。
「急いで追いかけたのだけれど、犯人には逃げられてしまったの‥」
 ごめんなさい、と謝る汐音に「いえ、見ず知らずの俺達のために有難うございました‥」と父親は項垂れながら呟いた。
 その後、父親と美空は警察へと行き、海の事を探してもらうと言っていた。それ横目に見ながら「やりきれないな‥」と水鏡が呟く。
「な・なぁ‥気分晴らしに飲みにでも行かへん?」
「‥だったら‥暁闇に来ればいい‥俺も‥傷の手当てしたい」
 夜光は皆が泰牙を追いかけている最中、一匹の腐獣と戦っていた。もちろん父親達を巻き込まないような場所に誘い出してだが。
「そうやな、じゃあ其処に案内してもらおか」
 今回の事件に関わった月鬼達はやりきれなさを胸に秘めながら暁闇へと向かった。


「これは、また派手にやられたわね、動かない方がいいわ、傷が広がるわよ」
 下に皆で飲み食いをさせ、自室で夜光の治療をしながら朔夜が呟く。
「あの人‥子供がいなくなるけど大丈夫かしら‥?」
 朔夜の言葉に「大丈夫‥だと思う」と夜光が呟く。
「あの人のお腹の中に小さな気を感じたから‥」
「そう、なら女は強いから大丈夫ね‥貴方は封印の方は平気?時期が来れば解除するけど‥大丈夫そうね?」
「ん、その時が来たら‥解除を頼むと思う。今の状態じゃ‥体に負担が掛かりすぎて使えないから‥」
 疲れたから寝る、そう呟いて夜光は静かに寝てしまった。
「‥おやすみなさい」
 外に浮かぶ月を見て「子供を失った親‥か‥」と目を伏せて呟いた。


「‥海――」
 父親は警察に行った後に自宅へ戻り、海のベビーベッドを見て小さく呟く。テーブルの上には今日の為に買われたケーキ、横に置いてあるピンクの蝋燭一本。
 海がもうこの世には存在しないのだと知らない父親を照らす月が、とても冷たく、無情に思えた――‥。



END