Melodearアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 水貴透子
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/13〜06/15

●本文

『此処から出たくないの、だって‥此処では私の「声」を聞いてくれるから』

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私は生まれつき『声』を出す事ができなかった。

だけど此処‥メロディアでは私の『声』をみんなが聞いてくれる。

此処では楽器の音色が『声』になる。

此処では、私は寂しい思いをする事がないんだから‥。

※※※

「悠里が来てから、どのくらいが経ったっけ?」

「三ヶ月、家族が心配してるんじゃないかって言っても‥私の居場所がないって寂しそうに答えてたよ」

声を出す事のできない自分に家の中では居場所がない、悠里は初めてメロディアを訪れたときに涙を流し、まるで助けを求めるようにやってきた。

「‥あれから三ヶ月、家族はきっと心配してるだろうに」

「あの子にとっては‥自分の『声』を聞いてくれる奴らがいる此処‥メロディアが天国に感じるんでしょうね」

そう、此処は天国なの、だから私は帰らない‥

お願い、帰れなんていわないで‥。

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●募集事項
◎映画「Melodear」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に必要な役柄は以下の通りです。
 ・悠里(必須/女性一名)
 ・メロディアの住人(必須/何名でも可)
※上記二つが必須配役ですが、他にも適役がありましたら其方を演じていただいてもOKです。
※メロディアでは楽器を奏でる事で『会話』をします‥という事で楽器を持参してもいいし、スタッフが用意してもいいので、何の楽器を使用するかをプレイングに書いてください。

●今回の参加者

 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0597 仁和 環(27歳・♂・蝙蝠)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa4563 椎名 硝子(26歳・♀・豹)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)
 fa5331 倉瀬 凛(14歳・♂・猫)

●リプレイ本文

「悠里さん(姫乃 唯(fa1463))調子はどう?」
 バイオリンを奏でながら話しかけるのはミル(倉瀬 凛(fa5331))だった、彼は外の世界から悠里を何かと気に掛け、色々と世話をしていた。
「大丈夫だよ、それにしても―‥メロディアって本当に良い所だよね」
 悠里はハーモニカを吹きながらミルの言葉に返事をする。自分の言葉がちゃんと相手に伝わる、それだけで悠里にとってはメロディアが天国のような場所に思えていた。
「悠里さーんっ!」
 少し遠くからハープを奏で、叫ぶのはティア(月見里 神楽(fa2122))だった、メロディアの中で育った彼女は外から来た悠里がマイブームで、見かけては「遊んで!」と突撃している。
「今日も元気だね、ティアちゃん」
 苦笑しながら悠里が答えると「悠里さんを困らせちゃ駄目だよ」とフィドルを奏でながらシリル(慧(fa4790))がクスクスと笑いながら話す。
「むぅ、ゴメンナサイ、悠里さん」
 しゅんとしながらティアが謝ると「気にしてないよ、それより遊ぼう」と悠里は笑って答えた。
「ちょっとティアと遊んでもらってていいかな」
 シリルの言葉に悠里は首を傾げながら「いいですよ?」と答えた。
「何処か行くの?」
 ティアが少し不安気に呟くと「すぐ戻るよ」と答え、シリルはティアと悠里を残して、何処かへと行ってしまった。
「あれ?ティアがシリルと一緒にいないなんて珍しいね」
 シリルと入入れ違いにやってきたのはユーイ(篠田裕貴(fa0441))だった、隣には三味線で会話するツクモ(仁和 環(fa0597))も立っている。
「ユーイ、今日はルカ(椿(fa2497))が帰ってくるからでしょう」
 ルカ、聞き慣れない名前に悠里は首を傾げてユーイとツクモを交互に見る。しかし二人は口を閉ざしたまま、ルカについて話そうとはしない。
「ねぇ、お兄ちゃん達も遊ぼうよ」
 ティアの言葉に「そうだね」とユーイがにっこりと笑って答え、結局悠里はルカについて聞く事が出来なかった。
「あれ、ツクモは一緒に遊ばないの?」
「私は少し森の外を見てきます、ついでに山菜でも取ってきますよ」
 そう言ってツクモは森の入り口へと向かって歩き出した。
「じゃ、早く遊ぼう!」



「悠里‥何処に行ってしまったの‥?」
 メロディアへと通じる森の入り口付近で呟くのは悠里の姉・万里(椎名 硝子(fa4563))だった。悠里がいなくなり、最後に悠里を見かけたという場所を毎日歩き回っては、悠里を探している。
「悠里―!悠里!‥‥本当に何処へ行ったのかしら‥まさか事件に巻き込まれたのでは‥」
 呟いた後に万里は首を振って「ううん、きっと何処かで無事でいてくれるわ」と自分に言い聞かせるように呟き、再び悠里の名を叫び始めた。
「‥悠里さんの‥家族?」
 それを見ていたのは、ツクモ。メロディアの中と外は互いの世界を分かつように結界が施してある。つまりツクモから万里は見えるが、万里からツクモは見えない状態なのだ。
「居場所がないって‥‥十分あると思いますけどねぇ‥」
 山菜を取りながらツクモは小さく呟く。悠里を探す万里の姿は悠里を蔑ろにしている人物が取る態度とは思えない。大事な家族を探す姉の姿にしか見えない。
「さて――‥どうしましょうか‥」


「何で!何でそんな事を言うの?」
 叫ぶのは悠里、叫ばれたのはユーイだった。事の原因はユーイが呟いた「家族が心配しているだろうから帰った方がいい」という言葉からだった。
「どうしてあんな家に帰そうとするの?皆‥私の事なんてどうでもいいと思ってるんだから、私帰らない!」
 此処にいさせて、お願いと縋るように叫ぶ悠里の姿にユーイは「困ったな‥」と寂しそうに呟いた。
「あ、シリルお兄ちゃん!」
 突然ティアが叫び、シリルの所へと走っていく。抱きつかれたシリルはティアの頭を撫でながら「甘えん坊だね」と呟く。
 その時、一人の青年が此方へとやってくるのが見えた。悠里は見覚えのない男性に目を瞬かせ「誰ですか?」と視線だけでユーイに問いかけた。
「‥‥ルカさんだよ」
 答えたのはユーイではなく、ミルだった。
「ルカ‥さん?」
 悠里はルカを見ながら呟く、しかしその場にいる皆の表情は険しいものだった。
「ルカ‥」
 どうだった、と書いた紙をシリルはルカに見せた、その紙を見てルカは苦笑気味に首を横に振った。その光景に悠里は違和感を覚えた。彼―ルカはメロディアの住人のはずなのに楽器で会話をしようとはしない、しかもそれを誰も気にする事なく筆談で話している。
「何であの人は―――」
「悠里が来る前だったかな、ルカは‥楽器を事故で壊してしまったんだ」
 シリルの言葉に「え?」と悠里が聞き返す。
「メロディアの住人は楽器と共に生まれてくる、言葉を伝える楽器は生涯に一つだけで、壊れてしまったら―――‥話す事が出来なくなるんだ」
 ミルの話は悠里にとって衝撃的なものだった。楽器を奏でる事で会話するメロディアにも悠里と同じように『話す事が出来ない』人が存在したのだから。
「でも!私には此処しかないの!だって私は――‥」
 悠里が叫んだ時、ルカが持っていた紙に何かを書き、それを悠里の前に差し出した。

 音で語れず、かといって悠里達の人間の言葉も話せない僕は何処へ行ったらいいのかな?

 寂しそうな表情で紙を見せるルカに悠里は胸を締め付けられる想いがした。恐らくルカ自身は悠里にそんな感情を与えている事など気がついていないのだろう。
「君には辛いかもしれないけど、元の世界に帰るべきだと思うよ。厳しい事を言うようだけど――‥天国のような場所なんて存在しないと思う」
「でも帰っても私の居場所なんてない、だって家族は私の事なんて――‥」
 ユーイは目を伏せ、俯きながら「世の中‥」と話し始めた。
「‥世の中、生きていくには色々な苦痛が伴うものだよ、生きていくのに楽な世界なんて何処にもないと思う、少なくとも‥俺はそう思っているよ」
 それでも悠里は帰りたいという言葉を言う事が出来なかった、家に帰れば自分は厄介者になると分かっていたから。
「俺は子供の時に事故に遭っているんだ、俺は無事だったんだけど‥両親を亡くした、最後まで俺の事を気に掛けてくれて‥子供の事で胸を痛めない親なんていないと思うんだ、それはキミにも言える事じゃないのかな‥?」
 ユーイの言葉に「そうですよ」とツクモが森の方から此方にやってきた。
「森の入り口で『悠里』と叫ぶ女性がいました、貴方の家族ではないんですか?」
「‥‥え?」
「私は貴方が此処に住み着こうが構いません、ただ―‥居場所がないという貴方の考えを正したかっただけです」

 今までの私は、自分の気持ちを伝えようとしている努力をしていた‥?生まれつき声が出ないからと言って逃げていただけなんじゃないかな‥?

 会話をする事が出来なくてもメロディアが居場所だとルカは言う。
「悠里さんはどうしたいのかな‥?ずっと此処にいたいって言うなら希望を叶えてもいいけど―‥それで解決するとは思えないんだよね、ルカさんのような人もいる、ここだって苦しい事は沢山ある、それでもいいなら歓迎するけど―‥」
 ミルは小さく呟く。
「君は自分で決めていいんだよ‥どうしたいって思ってる?」
 シリルの言葉に悠里は唇を噛み締めながら自分で決めた事を話す。
「私‥家に帰って、自分の気持ちを家族に伝える努力をしてみる‥」
 震える声で呟く悠里に「それがいいよ」とシリルが穏やかに笑み、悠里の頭を撫でる。
「皆、同じなんだと思うよ。苦しくて、切なくて、でも―‥がむしゃらに生きている」
「ヤだああっ!」
 皆が祝福する中、ティアだけが泣き叫びながら反対した。
「帰ったら駄目!絶対に駄目!ずっと一緒にいるの!」
 泣きながら悠里にしがみ付くティアの頭を撫で、シリルが「困らせたら駄目だよ」と優しく語り掛ける。
「彼女には待っている人がいるんだよ?わがまま言って困らせたら駄目だろう?」
 シリルの言葉に「うぅ‥」と涙を流しながら、ティアの宝物であるリボンを悠里に差し出した。
「ずっとお友達だよね?」
「もちろん、大事にするね―‥皆、いつかまた此処に来てもいいかな‥?今度は逃げてくるんじゃなくて、皆に会う為に―‥」
 悠里の言葉にメロディアの住人達は「もちろん」と答えた。

 今度はもっと、悠里と話したいな

 ルカが紙を見せながら微笑み、悠里を見送る。別れを惜しみながら悠里はメロディアを後にした。


「悠里!」
 ツクモが言った通り、森の入り口付近で万里が悠里の名を呼びながら歩き回っていた。
「あぁ‥良かった‥無事だったのね!本当に良かった‥、父さんと母さんもずっと貴方を探していたのよ。お腹は空いていない?」
 さぁ、家に帰りましょう、そう言いながら自分の手を繋いでくれる姉に悠里は少しだけ涙が出そうになった。
 私が皆の優しさに気がつかなかっただけ―‥気づこうとしなかっただけなんだね。

 有難う、メロディアの皆――‥自分の気持ちを素直に言えるようになったら、また必ずメロディアに行くね。
 だから――‥またね!


END