Oriental Darkness 星2アジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
水貴透子
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
8.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/23〜06/26
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●本文
『帰りたいという‥たった一つの願いすら叶えることが許されぬのだろうか?』
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「国に帰る――か‥帰って私はどうしようと言うのだろう?」
妃沙羅は小さく呟く。
一万年も昔にジパングへと無理矢理に封印された。
竜神界に帰っても、私を知る者は――‥いない。
ジパングでも、龍神界でも私は孤独なのだ――‥。
「でも‥止めるワケにはいかない」
妃沙羅は拳を握り締め、小さく呟いた。
「一万年もの永い間‥私はこの日の為に耐えてきたのだから」
どちらにしてもジパングは滅ぶ、勇者達の苦渋する顔が浮かび、妃沙羅は高らかに笑い出した―‥涙を流しながら。
「ジパングを守るため、勇者達が考えそうなことは――私を再びこの中央塔に封印する事‥しかし封印術は失われている、さて―‥どうするのだろうな―」
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●募集事項
◎映画「Oriental Darkness」では出演者の皆様を募集しています。
◎今回の話に必要な役柄は以下の通りです。
・星詠姫 妃沙羅(必須/女性一名)
(妃沙羅の外見はOPイラストを参照下さい)
・勇者(必須/何名でも可)
(火、水、風、土で演じた勇者役でもOKです)
※この他にも適役がありましたら、其方を演じていただいて結構です。
●ジパングの設定
◎ジパングには人間の他に『妖しの者』と呼ばれる天狗や妖狐などが存在します。
星詠姫が選んだ勇者の中に『妖しの者』がいても問題はありません。
◎選ばれた勇者のうち『人間は神通力』を『妖しの者は妖術』を使う事が出来ます。
(一部を除く)
以下に種族設定を書いておきますので、ご参照下さい。
●人間‥扱える術は『神通力』
特に秀でた部分はないが、劣る部分もない種族。
●妖狐‥扱える術は『妖術』
腕力は強くないが、身軽な動きで敵を翻弄させることが出来る。
また、敵を己の虜にして操る事も出来る。
鞭や軽武器を扱うことに長けている。
●天狗‥扱える術は『妖術』
力、防御共に低いが、豊富な知識の持ち主で妖術の威力が高い。
扇子や羽団扇を扱うことに長けている。
●鬼‥扱える術はありません。
力は抜群の種族。
ずば抜けた力の代わりに妖術を使う事が出来ない。
斧などの重武器を扱うことに長けている。
●花人‥扱える術は妖術
体の中に幾つもの植物が植わっており、補助系の術を得意とする種族。
回復役に最適な種族です。
植物の蔓などで攻撃するため、武器を装備する事ができません。
(風の章から追加の種族です)
※人間だけは種族以外に職業があり、それによって能力が変わっていきます。
『神通力』『妖術』は参加者の皆様が自由に決めて下さって構いません。
●リプレイ本文
「‥僕はこれが正しい事だと思っていた―‥」
中央塔から離れた場所で体を休めている時、渡(高柳 徹平(fa5394))が小さく震えた声で呟いた。
「全ての支配者を倒せば‥全てが解決すると思っていた」
渡の言葉を、他の勇者達は口を挟む事なくただ黙って聞いている―‥いや、自分達の心にもあった言葉だから口を挟む事が出来ないと言った方が正しいだろうか。
「‥それは俺も同じだっただよ」
多々良(伝ノ助(fa0430))が槍を強く握り締めながら呟く。
「その日々が‥誰かの犠牲の上に成り立っているなんて考えもしなかった‥」
渡は震える手で勇者の証に触れる。勇者の証、それはジパングを守る為に選ばれた人間達の事ではなく、妃沙羅(冬織(fa2993))にとって忘れる事も出来ぬ憎い相手に付けた呪いのようにも感じられた。
「あたしは‥迷いはない」
ポツリと呟いたのは然(ティタネス(fa3251))だった。
「妃沙羅さんを倒せば‥加護はなくなる。今までのようには上手くいかないかもしれない」
だけど―と言葉を続けようとする然に「それでジパングが滅んでも?」と雷丸(帯刀橘(fa4287))が言葉を返した。
「滅んでしまうとは限らないじゃないか―‥やってみなきゃ分からない、あたしはバカだから、その時その時の目の前にある壁に全力でぶつかるしかないんだ」
それが例えどんなに高い壁でも、と言った後に然は下を俯き黙り込んでしまった。
「何やら辛気臭い匂いがすると思ったら――‥お前達か」
そう話して、突然現れたのは颯(桜 美琴(fa3369))だった。
「颯さん!」
多々良が驚いたように彼女の名を呼ぶ。
「どうして此処に?」
渡と然が問いかけると「かつての友が知ろうとした世界の全ての知を知る為に放浪中だ」と答えた。
「‥かつての友‥」
多々良が呟いて押し黙る。それが誰を指すのか分かっていたから。
「‥それより‥子狐が一緒にいる方が驚きだ」
颯は視線を十尾流(トール・エル(fa0406))へ向けて、クッと笑いながら呟く。
「十尾流さんが?何でだか?」
多々良が不思議そうに問いかけると颯は「いや、すまない」と笑いを堪えきれないままに答える。
「子狐が長期間、他人と一緒に行動出来るとは思っていなかったからな」
「まぁ、失礼ですわね。わたくしだっていつも好き勝手に行動しているワケではありませんわ」
十尾流の言葉に多々良と渡は互いの顔を見合わせ「結構好き勝手してるよな‥」と十尾流に聞こえない小さな声で呟いた。
「それで、何でお前たちはこんな所にいるんだ?」
颯の問いに再び表情を沈め「実は‥」と多々良が話し始めた。
「成程な‥」
事情を聞いた颯は驚いてはいるものの、他の勇者達のように慌てる事をしなかった。もしかしたら彼女自身、ある程度の予測はしていたのかもしれない。
「どちらにせよ、星詠姫に会わない事には何も解決はしない。それが彼女を討つ結果になろうとも――な」
「さぁ、皆さん‥正念場ですわよ」
十尾流が勇者達を鼓舞するように呟く。
「こうしていても何も変わらない‥皆!覚悟決めて行くだよ!」
多々良が唇を噛み締め、叫びながら立ち再び中央塔へ向かう事を決意する。
「僕は‥皆のように心が決まったワケじゃない、今でもどうするべきなのかを迷っている‥だけど僕も行く――」
「あたしも‥守りたい人達がいるから、その人たちが笑って明日を生きれるように‥あたしも中央塔へ行く」
然も大金槌を手に持って呟いた。
「ふむ、それでは私も同行しようか」
新たな仲間・颯と共に再び勇者達は中央塔へと向かい始めた。
「‥奴らはきっと再び此処へと赴くだろうな‥」
中央塔の最上階から空を見上げ、妃沙羅が小さく呟く。
「私を殺せばジパングは緩やかに滅びへと向かう、私を殺さねば‥私がジパングを滅ぼす、奴らは一体どんな答えを持って此処に来るのであろうな」
自嘲気味に笑いながら呟く妃沙羅を見て、悲しそうな表情を見せるのは凰花(都路帆乃香(fa1013))だった。
「‥勇者達がどんな答えを持ってきたとしても――‥私は貴方を守ります。死なせはしません」
「‥私がジパングを滅ぼすと知っても――か?」
妃沙羅は背を向けたまま凰花に問いかける。
「ジパングの民は‥今まで守って下さった妃沙羅様に代償を払わねばなりません、だから私は貴方を守ります、貴方がジパングを滅ぼすとしても」
「私は――――」
妃沙羅が言いかけた所で、表情を険しくして最上階から中央塔の入り口を見る。其処には決意を胸に秘めたであろう勇者達の姿があった――。
「妃沙羅様‥何を言いかけたのですか?」
凰花が問いかけるが、妃沙羅は言葉を返す事はせずに龍牙刀をカランと放り投げた。
「妃沙羅様――‥?」
「もはや龍牙刀は必要ない、手加減をする必要がないのだからな」
そう言って妃沙羅は勇者達を出迎える為に、星詠の間へと移動した。
「ジパングの安寧の為に祈る玉座――全ての決着をつける為にはうってつけの場所だな」
妃沙羅が玉座に腰を降ろし、ため息を吐いて天井を仰いだ。
「―――――来たか」
ふと呟いたかと思うと、星詠の間、入り口を睨みつける。
「星詠姫様!」
叫んだのは多々良、そして妃沙羅は「ククク‥」と笑い、玉座から立ち上がる。
「見逃しも二度目はないぞ。次は本気で行く」
そして妃沙羅は己の髪を飾っていた玉を手に取り、そして地面へと打ち付けて壊した。
「竜神の怒り、そして恐ろしさを身体に、魂に刻みながら――死ぬがいい!」
妃沙羅は本来の自分の姿、竜神の姿へと変化しながら叫ぶ。先ほど壊した玉が力を抑える封飾の役割を果たしていたのだろう。
「待ってください!本当に僕達が戦わねばならないのですか!」
「戯言を‥動き出した刻は戻せない、どちらかが果てるまで戦うのみ!無論、私は倒れるつもりはない!」
妃沙羅は口から業火を吐き出しながら叫ぶ。
「あたしは――守りたい人がいるから躊躇いは‥ない!」
然が大金槌で妃沙羅に攻撃を仕掛けようとしたが、凰花がそれを邪魔する。
「妃沙羅様を傷つける事は許さない!」
凰花は神通力を使い、然の影にナイフを突き立てる。
「これで暫くは動けません――いえ、二度と妃沙羅様を傷つけることはできませんね」
そう言って凰花は別のナイフを取り出し、然に切っ先を向ける。しかし他の勇者と違い、実践経験が浅いのか、ナイフを持つ手は震えている。
「妃沙羅様を守る為なら、私は人を殺める事が出来る――それが同じ勇者であったとしても!」
ナイフを振り下ろそうとした時、凰花の手を十尾流の簪が掠める。
「わたくしも自由になりたいので戦わせていただきますわ」
簪を凰花に向けて十尾流が呟く。
「あ、身体が動く―‥」
凰花の集中力が途切れた為か、然を縛り付けていた神通力は効果を失っていた。
「うわあああああっ!」
然を助けてほっとしたのも束の間、妃沙羅を相手にする多々良の叫び声が星詠の間に響き渡る。
「多々良!大丈夫か!?」
然が慌てて駆け寄ると「大した事はないだ」とうめき声に近い声で多々良は返事をした。
「でも、こりゃ前の槍のままだと耐えられなかったな‥」
姫巫女から譲り受けた槍を見て、ポツリと呟く。
「何を安心しているんですの!早く避けなさい!」
十尾流が珍しく感情を出して叫ぶ、多々良と然は「え?」と呟いた後に後ろを振り返ると、今にも襲ってきそうな妃沙羅が立っていた。
「まずは‥二人――」
そう言って妃沙羅は業火を吐き出そうとする―――だが、渡の放った水弾が炎の軌道を変え、多々良と然に直撃する事はなかった。
「渡さん‥」
「未だに僕は答えが出ないでいる、でも心が皆を助ける事を叫んでいる――僕は僕に出来る事をやる!覚悟は出来た、僕は‥戦う!」
そう叫び、刃の切っ先を妃沙羅に向けた。
「皆さん、少し退いてください、わたくしに考えがありますの」
十尾流が凰花以外の勇者を呼び寄せ、妃沙羅から離れた場所で作戦会議を行う事にした。
「このまま延々と戦っていても、体力的に此方が圧倒的に不利ですわ――だから皆様で隙を作ってくださいませ」
十尾流が話した言葉に「何故だ?」と颯が問いかける。
「妃沙羅を再封印するんですわ、再封印さえすれば事態は丸く収まるでしょう」
十尾流の言葉に「ふざけるな!」と叫んだのは雷丸だった。
「人の身勝手で振り回しておいて、さらに滅びるまで利用する気?傲慢すぎるよ!」
雷丸の叫んだ言葉に、十尾流はじろりと見ながら「他にどんな方法があるって言うんですの?」と言葉を返した。
「貴方はジパング、そしてジパングに生きる全ての人を見殺しにする気ですか?妃沙羅一人の犠牲で助かることを、何故良かったと思えないんですの」
十尾流の言葉は冷たくも感じられるが間違ってはいない。妃沙羅が犠牲になれば滅びの恐怖も何もなくなるのだから。
「‥他の皆様の顔を見る限り、賛成――というわけではなさそうですわね」
「再封印がジパングとジパングの民を護る為というなら、無理矢理とはいえずっと皆を護ってくれてた星詠姫様もジパングの民って言えねぇか?」
俺はこれ以上、ジパングの誰にも苦しんでほしくない――多々良は槍を強く握り締めながら呟く。
「あたしも再封印には反対だな」
然もポツリと呟く。
「貴方は賛成だと思っていましたわ」
十尾流が呟くと「妃沙羅さんの辛さも分かるから」と然は答え、言葉を続ける。
「十尾流さんのやり方だと根本的な解決にはならない、再封印をして、また封印が弱まった頃に妃沙羅さんは同じ事をする、勇者を憎みながら――」
然が呟いた言葉に、嫌な沈黙が流れた。妃沙羅を再封印する事については反対だが、根本的な解決となる方法を思いつかないのだ。
「それに‥誰かの犠牲がないとやっていけないほど、あたし達は弱くないと信じたいから‥」
「信じるだけでは何も解決はしませんわ、信じて裏切られて、最後は滅ぶんですの?」
わたくしは止めるつもりはありません、そう言って十尾流は名前の由来ともなった十本の尾を出す。
「あの、さ‥」
封印術を始めようとした時に多々良が十尾流を止める。
「封印を俺にかけるって出来るだか?」
多々良が呟いた言葉に、その場にいた全員が驚きで目を見開く。
「俺一人じゃ星詠姫様ほどの力は無いからどのくらい保つか‥それが可能かすら分かんねぇけど‥可能なら滅ぶまでの時間を少しは遅らせられると思うんだ。そしたら‥皆で対策を考える時間くらいは出来るんじゃねぇか」
イイ提案だろ、そう言った多々良に「ふざけるな!」と先ほどの雷丸と同じ言葉を渡が叫んだ。
「誰かを犠牲にするなら自分が?それは綺麗事でしかないんだよ!誰かの犠牲の上に成り立つ平和なんて‥」
「渡さんの言う通りだよ、それじゃ何も変わらないじゃないか――!」
雷丸が震える声で叫ぶ。
「早く決めませんと妃沙羅がいつまでも待ってくれるとは限りませんわよ」
「傷の手当てをいたします、傷を見せてください」
勇者達が作戦会議を行っている間、凰花は妃沙羅の傷の手当てをしようと駆け寄ったが「いらぬ」と短い言葉を返した。
(「何をお考えですか‥妃沙羅様――」)
去れ、と言われた凰花は妃沙羅から少し離れた場所に腰を下ろす。これからは長期戦となる為に少しでも体力を回復させておかねばならないのだから。
(「国を護る為、他者を犠牲にする事を選んだ過去の民――」)
妃沙羅は息を整えながら心の中で呟く。しかし刃を交えてみて、今を生きる勇者達は全員ではないにしろ、未来は自分達の手で切り開くものだと訴えているようにも思えた。
(「昔‥奴らの先祖と同じ考えの持ち主なら進歩なしと考えていたが‥」)
妃沙羅は窓から見える青空を見て、小さく安堵のため息を吐いた。
(「強制でも一万年護り通した国、風も水も大地も愛しくないはずがない‥」)
さて、と妃沙羅は呟き「次で‥全てを見極めよう」と凰花には聞こえない小さな声で呟いた。
(「私が護り通した国、それを託すに相応しければ未来を託し‥そうでなければ‥私がこの手で全てを滅ぼす」)
妃沙羅は立ち上がり「猶予はないぞ!勇者達よ!」と叫んだ。
「お前達がいつまでも隠れているつもりならば、私は今すぐにでもジパングを滅ぼしに行こう!そして私は故郷へと帰るのだ!」
妃沙羅が叫び、最初に姿を現したのは颯だった。
「帰りたくば帰れ、でもそのままでは帰せないぞ?混乱を招いた事は罪だ、償って貰おう」
颯は二刀流鉄扇を構えながら妃沙羅に向けて話した。
「混乱‥?全ての罪はお前達の先祖にある」
「そんな遠い先祖の事など知った事か!今を生きる者が確りとすれば良かろう!それに―‥お主一人の奪われた時間とこの世界で失われし魂の数‥等しいと思うほど愚かではあるまい?」
颯が低い声で呟くと「愚鈍な民の魂など物の価値ではないわ!」と妃沙羅は挑発するように叫んだ。
「ですからさっさと再封印してしまえばいいんですわ!」
覚悟なさい、そう言って十尾流が封印術を行おうとするが、他の勇者がそれを許さなかった。
「十尾流さん!それだけはダメだ!」
多々良が十尾流の腕を掴みながら必死で止める。
「情に流されているようですけれど彼女がしてきた事は悪ですわよ!」
最もな意見を言うが、それでもダメだと多々良、渡、然、そして雷丸は十尾流と戦ってでも再封印を止める勢いで叫んだ。
「どうなってもしりませんわよ!」
十尾流は十本の尾を消し、他の勇者達の考えに賛同する事になった。
「‥結局は――姫を殺める事でしか救う手立てはないんだね‥」
雷丸が小さな声で呟く、その声は今にも泣き出してしまいそうなものだった。でもそれも無理は無い。雷丸は勇者に選ばれてはいるが、まだ小さな子供なのだから。
「止めて!妃沙羅様を傷つけないで!」
ナイフを構えながら凰花が妃沙羅を傷つけようとする勇者達の前に立ちはだかる。
「‥‥アンタにも分かっているんじゃないのか‥?妃沙羅さんを救うには‥この方法しかないという事が‥」
然の言葉に凰花はハッとした表情をした後にナイフを地面に落とす。
「違う、妃沙羅様は生きて、お国に帰る‥それを手助けするのが‥妃沙羅様に仕える私の役目‥決して妃沙羅様を死なせる手助けをする為にいるんじゃない!」
凰花はナイフを再び手に取り、勇者達に襲い掛かる。だが、錯乱した状態で振るうナイフには殺気も何もなく、容易く避ける事が出来た。
「そいつを抑えていろ、私は――此方を殺る」
そう言って颯は鉄扇を繰り、妃沙羅を倒す為に動き出した。
「天狗如きが竜神の私に敵うと思うたかああっ!」
妃沙羅が殺気を全開にして颯に襲い掛かる。
(「‥多少の傷は覚悟しないといけないな‥」)
自分もタダではすまないだろうと確信した颯は心の中で呟き、だが攻撃の手を緩めることはなかった。
勇者達が見守る中、鈍い音が星詠の間に響き渡る。確実にどちらかが致命傷を受けたであろうと分かる鈍い音―――。
「‥何故だ」
ズン、と大きな音をたてて倒れたのは――妃沙羅だった。
「妃沙羅様あああっ!」
それを見た凰花が悲鳴に似た声をあげて、妃沙羅に近づく。深手を負った為か、妃沙羅の竜神変化が解除され、元の人間形態に戻った。
「何故攻撃の手を止めた!」
颯が叫ぶ中「え?」と他の勇者達が呟く。
「お前は私への攻撃を寸止めした、それが無ければ‥今頃は逆だったはずだ!」
「‥‥ただでは帰さんと‥言ったのは‥お前だろう‥?」
げほ、と血を吐きながら妃沙羅が呟く。
「妃沙羅様!喋らないで下さい!傷に響きます!」
凰花が泣きながら止血を試みるが、流れ出る血は止まる事を知らないかのようにあふれ出てくる。
「‥凰花‥手当ては、必要‥ない‥これで、やっと――」
その時、妃沙羅の本当の願いに凰花は気がついた。妃沙羅は国へ帰りたがっている、たとえ死しても望むは解放‥そして自由なのだ。
「妃沙羅様‥‥‥‥今まで‥‥お世話に‥なりました」
全てを察した凰花は決意したようにナイフを手に取り、妃沙羅の胸に当てる。
「‥‥悪いな‥‥」
辛い決断を強いた事に対して、妃沙羅は小さく謝罪の言葉を口にした。
妃沙羅は誰にも聞こえぬように心の中で「賭けはお前達の勝ちのようだな‥」と呟き、自分の身に残る全ての力を掌に集めた。
「新たな道を‥‥選んだお前達への‥‥餞だ‥‥」
そう呟くと妃沙羅は残りの力を、各国を護る輝玉へと送る。
「‥ありがとう‥ございました‥」
凰花の介錯で自由を得た妃沙羅は、魂となり天へと昇っていった。
「結局‥わたくしの存在意義は何だったのでしょうか‥」
すべてが終わった時、十尾流が小さく呟いた。今まで見た事のない落ち込んでいる姿に仲間達は動揺を隠せない。
「今までの旅も‥十尾流さんがいたから乗り越えられた事もあるだよ」
多々良が簡単に作った妃沙羅の墓を見ながら答えた。墓とはいっても妃沙羅の身体は消滅してしまい、妃沙羅は身につけていた髪飾りを埋め、大きな石を乗せただけのものだから墓と呼べるかどうかも怪しいものだった。
「これじゃ‥誰の墓か分からないけれど‥コレでいいんだよね」
然が名前のない墓石を見て呟く。
「これでいいんだよ、名前を書いてしまえば‥また姫を捕らえてしまいそうな気がするから‥だから、これでいいんだ‥」
雷丸は花を供え「ぼくは国に帰るよ」と立ち上がりながら答えた。
「そうだな、これで終わりじゃない‥これからが始まりなんだからな‥自分達の手で未来を切り開く為の‥始まり‥」
颯はそう呟き「私は水の国に行こうかな」と空を見上げながら答えた。
「僕は‥このまま国には戻らずに旅に出ます」
渡の言葉に「火の国に帰らねぇだか?」と多々良が驚いたように問いかける。
「僕はまだ未熟だ、それに星詠姫を失ってジパングは混乱に陥るかもしれない‥だから僕は自分が出来る事を行う為に旅に出たいんだ」
「そうか、寂しくなるね」
然が俯きながら呟くと「大丈夫だよ」と多々良が呟く。
「俺、ずっと旅してきて思っただ、皆で力を合わせれば、どんな事でもきっと何とかなるって――‥それにもう一生分の旅をしてきただ、その思い出があれば寂しくないだよ」
だから大丈夫だ、そう言って笑う多々良に「‥そうだね」と然も納得したように笑った。
「頑張って‥また会える日を楽しみにしてるだ」
そう言って渡を見送り、多々良は渡に握手を求めた。
「自分に出来る事を行って、帰れる日が来たら火の国に帰る――それまで、またね」
渡は荷物を持ち、一足先に旅へと出て行った。
「貴方はどうするんですの?」
十尾流が凰花に問いかけると「私も旅に出ます」と短く答えた。
「妃沙羅様がいなくなった後のジパングがどう変わっていくのか‥土を触ったり、風を感じたり、人と会ったりしながら今からのジパングが滅びに向かっていくのか‥自分の目で確かめたいと思います」
そして、と凰花は言葉を続ける。
「滅びに向かっていくならば妃沙羅様のような存在を作らずに、滅びを止める方法を探します」
だからさよなら、そう言って凰花は妃沙羅の墓に手を合わせて旅立っていった。
「そういえば十尾流はどうするんだ?」
颯が十尾流に今後の事を聞くと「さぁ‥どうしましょうか」と自嘲気味に答えた。
「わたくしも、世界を自由に放浪しようかと考えていましたわ。その前にやるべき事がありますけれど」
「やるべき事?」
颯が聞き返すが、十尾流は何も答えない。
「答えないか、まぁいい。それじゃ此処でお別れだな、また会えるといいな――仲間達よ」
颯はそう言って背中を向けて、手をひらひらと振って歩いていった。
「さて、あたし達も帰ろうか。火の国に帰ったら、猛獣‥ゲフン、緋織様に事の顛末を話しに行こう」
「そうだな――帰ろう、俺達の帰るべき場所へ――」
火の国
「よくぞ戻ったな――何があったか‥大体の事は輝玉を通じて妃沙羅様から聞いた――しかし旅をしてきたのはお前達だ、私はお前達の口から全てを聞きたい」
火の国、姫巫女である緋織は「辛い旅、ご苦労だった」と帰ってきた勇者達に呟いた。
水の国
「‥それが全ての真実だったんですね」
翠嵐は、水の国にやってきた颯の言葉を聞き、悲しそうに顔を伏せた。
「私も協力出来る事があるなら手伝う。ジパングを滅びに向かわせるわけにはいかない、今まで護ってくれた妃沙羅のためにも――」
「星詠姫様がいない今、自分達で未来を切り開かねばならない、そのためにも――力を貸してほしい」
風の国
風の国では、姫巫女に事の顛末を話すものがいなかったが、自国に帰った雷丸が他の人間達に一生懸命話していた。もちろん妃沙羅がいないという事は話さなかったが、これからは誰かに頼るのではなく、自分達で何とかしていこうと――。
土の国
「な、何だ、貴様は!」
風の国の姫巫女・貴莉恵は突然、奉納殿に現れた十尾流に驚きを隠せないでいた。
「あなた、散々な事をしてきたのですから少しは協力しなさい」
十尾流の言った『やるべき事』それは土の国に来て、世界を維持させる為に協力させることだった。
「突然現れて無礼な奴じゃな!」
「いいから、わたくしの言う事を聞きなさい」
多少、強引ではあったが貴莉恵の協力を得て、十尾流は「わたくしもやっと開放されましたわ」と呟き、ふらりと何処かへと行ってしまった。
世界は礎たる人物を失い、緩やかに崩壊への道を進んでいる。
誰かが犠牲になるのではなく
誰か一人に責めを負わせるのではなく
みんなが同じことを思って
力を合わせていけば
もしかしたら――崩壊への道は止まるかもしれない
それは不確定な未来――誰もが確認する事が出来ない未来
だけど信じたい
自分達の手で未来は切り開けるのだと――――‥。
THE END