The訓練・殺陣編アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 中畑みとも
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/27〜09/02

●本文

 とある郊外にある訓練所。それは特定の生徒を持たず、訓練や講義などを定期的に行う度に、一般人から既に活躍している芸能人まで幅を決めずに生徒を募集している、特殊な訓練所である。
 その訓練内容もまた幅広く、さまざまな講師を呼んでさまざまな訓練をしている。それは総じて役者にとって必要な訓練であり、役者や、役者を目指す者にとって知る者は知る訓練所なのであった。
 そんな訓練所が、また参加者を募集しているという。その訓練所のドアには、こんなチラシが貼られていた。


 今回の訓練は『殺陣』。
 殺陣は初めて、と言う方でも大丈夫なように、初級・中級・上級の三つのコースを用意しております。お好きなコースを選んで下さい。
 因みに、初級では殺陣を初めてやる方用に基本から始めます。
 中級では基本をマスターしている方向け、上級は何度か殺陣を経験している人向けのレベルアップ目的の訓練になります。
 定員がありますので、参加希望の方はお早めにご連絡下さい。

●今回の参加者

 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa0510 狭霧 雷(25歳・♂・竜)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa3726 新田・昌斗(22歳・♂・一角獣)
 fa4031 ユフィア・ドール(16歳・♀・犬)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)
 fa4391 夜野月也(25歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●初級編
「殺陣はあくまでも演技なので、自分も相手も怪我をしない事が大事です」
 講師の言葉を、正座をして聞いているのは新田・昌斗(fa3726)だ。その横ではリネット・ハウンド(fa1385)が興味津々に身を乗り出し、キョロキョロと辺りを見回しているクッキー(fa0472)を南央(fa4181)がチラチラと気にしている。緊張気味に背筋を伸ばしているのは狭霧 雷(fa0510)だ。
「では木刀の握り方から。右手は鍔の少し下を、左手は右手から拳半分程を空けて柄の端を握ります。力は余り入れない様に」
「こ、こんな感じでしょうか?」
「少し力を入過ぎですね。木刀と右腕が平行になる様に・・・・そうそう」
 リネットの腕が、講師の指導を受けて、すっと木刀を伸ばす。
「君はこっちを使おうか。木刀は重いからね」
「わーい! これならくぅも持てるのね!」
 言って、講師がクッキーに渡したのはプラスチックでできた玩具の刀だった。クッキーはそれを嬉しそうに受け取る。
「今度は基本の型です。右足を前に出し、足が一つ入るくらいの間を空けて、左足を後ろに引きます。体重を右足にかけ、左足の踵が少し浮く様にします」
「おっと‥‥結構キツイですね‥‥」
「足の筋肉とか鍛えられそうですね」
 新田が多少ふらつきながらも、何とか姿勢を整えた。南央も少し辛い顔をしているが、腰に力を入れて立つ。その横で、クッキーが小首を傾げた。
「何かこれ、パパに教えてもらったポーズに似てるのね?」
「空手の姿勢に似てますね。まあ、実戦と演舞じゃ違うのでしょうけど」
 狭霧が呟き、綺麗に型を決める。
「木刀を振り被ってみましょう。余り後ろに下ろさずに、頭の上で心持ち斜めにする位で」
 リネットが振り被るが、木刀の先を講師に持ち上げられる。新田は殆ど額に触れてしまっていた腕を少し離される。南央はどの辺りで止めていいのか判らず、フラフラする木刀を講師に支えられていた。格闘とは違う姿勢に狭霧も少し戸惑うが、しっかりと木刀を構える。意外にもすんなりと型を覚えたのはクッキーだった。ぴしっとした姿勢で、真面目な顔で前を見ている。
「振り下ろすときは徐々に手の力を込める様に。止めるときは切っ先が揺れない様にしっかりと止めます」
「‥‥中々難しいですね・・・・」
 木刀が重いのか、南央はどうしても止めるときに切っ先が揺れてしまう。リネットは腕力がある為に多少ぎこちないながらも振り下ろす事ができた。狭霧も真剣な眼差しで、講師も頷く程に綺麗な型を見せる。新田も、男の意地とばかりに必死に止め様とする。クッキーは刀自体が軽いので問題はない。
 何度か素振りを繰り返し、五人の型が何とか見れるようなものになった頃には、既に新田と南央は汗だくだった。リネットと狭霧も、慣れない動きに少し息が上がっている。クッキーは相変わらず元気だったが。
「次は型を使って移動してみましょう」
 講師が言って、木刀を構えたまますり足で移動する。
「こんな感じなのね?」
 クッキーが滑る様に足を前に出す。それに講師が頷くと、南央もそれを真似した。狭霧も、以前に格闘の基礎を学んだ際、相手がこんな風にじりじりと近寄って来たのを思い出しながら、右足を踏み出した。新田も首を傾げつつ前に進み、リネットはぶつぶつと呟きながら足を動かす。
「それじゃあ、移動しながら木刀を振り下ろしてみましょう」
 木刀を腰の所で構え、足を一歩踏み出しながら木刀を上段に振り被る。更に一歩踏み込み、木刀を振り下ろす。
「ええっと・・・・こう、ですか?」
「中々いいですよ。その調子です」
 木刀を振り下ろした南央が講師に褒められると、照れくさそうに微笑んだ。
「余り振り被らず、額から拳一つ分離す‥‥」
 教えられた事をぶつぶつと呟きながら、リネットが木刀を構えている。
「これ、この前はもっと早かったけど、親戚のお兄ちゃん達がやっていたのね?」
 言いながら、クッキーがゆっくりと移動しながら木刀を振り被った。
「如何に美しく立ち回ってみせるかが重要って事ですね・・・・」
 呟き、狭霧が呼吸を整えつつ木刀を振り下ろす。
「刀は・・・・やっぱり難しいですね・・・・」
 汗だくになりながらも、新田は振り下ろした木刀をしっかりと止めた。


●中級編
「では、軽い打ち込みから始めましょう」
 講師に言われ、ユフィア・ドール(fa4031)が打ち込み相手へと頭を下げる。「やぁ!」と叫び、構えた木刀を上段に振り被って、相手の木刀へ振り下ろした。
「うん、いい感じですね」
「有難う御座います」
「欲を言えば、斬り下ろした切っ先が揺れるのが残念ですね。二の腕に力を込める様にするといいですよ」
 講師のアドバイスに、ユフィアが再度打ち込みを始める。
「先生、徒手でもいいんだよな?」
「ええ、結構ですよ」
 空手有段者である篠田裕貴(fa0441)が、打ち込み相手に頭を下げて構えを取る。篠田が気合を込めた声を発して間合いを詰めると、防御体勢の相手の腕に拳を突き出した。寸止めで止めた腕を戻し、今度は相手の鳩尾目掛けて蹴り上げる。
「どうかな?」
「確かに動きがいい。けれど、どちらかと言うと実戦向きの動きですね。殺陣の場合、とにかく格好良く! がモットーですから、多少派手めな感じで」
 言いながら、講師が打ち込み相手に向かう。叫びながら近づき、軸足を使ってくるりと回ると、軽くジャンプをしながら鳩尾に蹴りを入れた。そうして、篠田に振り返る。
「くるっと回るなんて、実戦でやったら無駄な事この上ない動きですが、格好良く見えませんか?」
「あー、確かに。なるほど」
「殺陣として魅せる演技をする場合、跳ねる・回る・転がる、この三つが一番ですね」
 講師の言葉に、篠田が納得した様に頷いた。
「ユフィアさんは避けて斬るという動作をやってみましょうか」
 言って、講師が見本を見せる。向かって来る相手の木刀を、すり足で横に動いて避け、相手の脇腹から肩にかけてを斬り上げる。
「この時、脇腹を斬っている刀はすぐに上げないで、腹に来た時に心持ち止めてから、少し遅めに斬り上げます。そして、斬り上げた後は大きく腕を伸ばし、高々と刀を掲げて止まる! これが見せ場になりますね」
「なるほど! かっこいいですわね」
「この動作を止める事を極め(きめ)と言います。止まっているのは精々1秒、長くても3秒程ですけど、これをやる時は身体も武器も動いてはいけません。動くと、折角の見せ場が台無しになってしまいますからね」
「判りました」
 ユフィアが真剣な顔で頷き、木刀を構えた。


●上級編
「それでは、少し本格的な立ち回りをやりましょうか」
「宜しくお願いします!」
 講師に、夜野月也(fa4391)が頭を下げる。
「まずは刀を使った立ち回り。この時、ドラマであればカメラが何とかしてくれるので普通に斬り合いをしていればいいのですが、演劇なんかだとそうはいきません。通常の間合いでやると近過ぎて、奥にいる役者が手前の役者に被って、観客から見えなくなってしまいます。なので、通常の間合いよりも離れた場所が立ち位置になります」
 言って、講師が相手との間合いを計って立つ。すると、講師の背中を見ている夜野には相手の姿が見えなくなってしまった。次に、講師が間合いを長めに取ると、相手の姿が見えるようになる。
「そっか。殺陣は距離も考えないと駄目なんだ」
 講師の指導を受けつつ、夜野が木刀を構える。間合いが長いので、刀を振り下ろしても切っ先は相手に届かない。だが、それでもいいのだと講師は話す。
「観客が見ている方向から見てみなさい。実際は相手に届いてはいないけど、斬られている様に見えるでしょう?」
「ホントだ。凄い」
「これは横から見れば斬れてないのがバレバレですので、殺陣の時は角度も注意します」
 夜野が実際に立ち回りをし、講師のアドバイスを受けながら角度の調整をして行く。そうすると、大体相手からこの位離れていると後ろからどう見えるか、という感覚が掴めて行く。
「凄いな。殺陣って派手なだけじゃないんだ‥・・勉強になるー」
「最後は徒手での立ち回りもやってみましょうか」
「はい! お願いします!」
 夜野は既に汗だくだったが、気合の込めた挨拶をして深々と頭を下げた。


●訓練終了後
「ユウしゃーん! お腹空いたのねー」
「あらあら、クゥの字。汗びっしょりね」
 訓練が終わり、皆がそれぞれの部屋から出て来る。その中で、ユフィアを見つけたクッキーが駆け寄って来た。それに合わせて、他の人たちも集まって来る。
「上級、どうだった?」
「楽しかったですよ! 武器相手に徒手の立ち回りもやらせて貰いました」
「お、いいな、それ」
 一人上級に行っていた夜野の言葉に、篠田が羨ましそうにする。
「あー、これは筋肉痛になりそうです‥‥」
「私も・・・・ストレッチとかした方がいいですかね?」
「しておいた方がいいわよー。大分楽になるから」
 筋肉痛を心配する新田と南央に、ユフィアがアドバイスをした。
「んー! 何か、時代劇の役者になった感じ! 面白かったですねー」
「くぅ、ママに電話して来るのね! 頑張った報告するのね!」
 リネットが気持ちよさそうに伸びをした横を、クッキーが楽しそうに駆けて行く。
 そんな彼らの様子をこっそりと見ながら、訓練所の所長は次の訓練内容を何にしようか、考えていた。