芸能人の怪談・臨アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/29〜08/31
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●本文
「今、芸能人の方々が体験した怪談を集めてるんですよ」
言ったのは怪談専門雑誌『幽闇』の編集者である。メモとレコーダーを手にウキウキと話している。
「芸能人の方々の実体験をまとめて、一冊の雑誌にしようという企画でしてね。何かいい話あったら教えて下さいよ。あ、もちろん、雑誌はお払いしてから売りますから。そこら辺は大丈夫ですよ。幽霊とか怪談系の実体験であれば、怖い話でも悲しい話でも良い話でも、面白い話でも何でも結構ですから。様々な怪談を集めたいと思ってますんでね」
怪談を話してもらう部屋は何の変哲もない編集部の一室である。だが、怪談を話す際には雰囲気作りのために灯りを数本の蝋燭のみにするらしい。
「暗いのが駄目な人がいる場合は、普通に電灯を点けても構いませんけどね。まあ、ただの雰囲気作りですから。気軽な感じで話して頂ければと思ってます」
そうして、編集者はテーブルの真ん中に置いたレコーダーのスイッチを入れた。
●ルール
怪談系の実体験を話してもらいます。本やテレビなどで聞いた話ではなく、必ずオリジナルのものをお願い致します。(創作でも結構ですが、必ずPCの実体験として話して下さい)
怖い話は、必ずしも一人一つ話さなければならないということではありません。二人同時に体験した、話す人の付き添いなどの人も参加可能です。
ただし、一人一つ以上のお話はしないようにして下さい。
●リプレイ本文
「今日は宜しくお願い致します」
ぺこりと頭を下げる編集者に、集まった芸能人たちも挨拶をした。
「やー、怪談話とかって中学高校以来だぜ」
「あ、差し入れにゼリー持って来ました」
珂鴇大河(fa4406)の横で、柊アキラ(fa3956)が編集者にゼリーを渡す。
「灯りはどうしましょうか?」
「俺は蝋燭だけで構わないよ」
大曽根ちふゆ(fa0189)に蕪木メル(fa3547)が答えると、蘭童珠子(fa1810)が提案した。
「百物語みたいに、一人話し終わる度に蝋燭を消していくのってどう?」
「いいんじゃねぇか?」
「俺もそれでいいよ」
Tyrantess(fa3596)とjoker(fa3890)が頷くと、蓮圭都(fa3861)が蝋燭を取る。
「じゃあ、8本ね」
「あ、私が」
編集者が慌てて蝋燭を並べて火を点け、部屋の電気を消した。
「始めましょうか」
編集者の声に、蝋燭の炎がゆらりと揺れた。
最初は大曽根だった。
「これは、親類の娘の話なんですが‥‥」
その子、異常なまでに霊感が強いらしくて‥‥霊を見たり、話もできるらしいんです。稀に、スプラッタ映画ばりの霊も寄って来るらしいんですが、そんな霊でも彼女は驚きもしないんですよ。昔からこう言うのを見慣れているせいで、怖くも何ともないらしくて。そんな彼女ですから、霊たちの間では人気者らしいんですね。
それで、この前の夏祭りの時に彼女も屋台を見て回っていたそうなんです。そこで彼女は大好きなチョコバナナの屋台を見つけて。すぐに買って食べようとしたんですけど、バナナが棒から抜けて、地面に落ちてしまったんです。
彼女は悲しくて、泣き出してしまって。
するとその直後、近くにいた霊たちが彼女を宥めようと、周りに集まって来たそうなんです。それで、その場所だけ一気に気温が下がって、屋台の電気が突然消えたりしたらしいです‥‥
ふっと大曽根が蝋燭に息を吹きかける。
「次はあたしね」
言って、蘭童が話し始めた。
中学の頃、クラスでコックリさんが流行ってたの。その日、あたしも仲良しの子3人と一緒に、放課後の教室でやってたんだけど、質問を3人まで終えて、最後の1人になった時に先生に見つかっちゃって。コックリさんを帰す前に教室を追い出されちゃったのね。
そしたら、その日の真夜中。誰かに呼ばれた気がして目が覚めたの。最初は気のせいだと思ったんだけど、確かに声がするの。
それも‥‥あたしのすぐ後ろから。
蘭童が腹話術を使い、男の子の声色で呟いた。
「僕を呼んだのはお姉ちゃん? 早く帰してよ‥‥」
「――っ!」
蓮が隣に座る柊の腕にしがみ付く。
あたし、思わず悲鳴を上げて両親を呼んだんだけど、部屋には誰もいなくて。
翌日学校で友達にその話をしたらね。その日休んだ1人を除いて、他の2人も同じ体験をしたらしいの。心配になって、放課後すぐに休んだ子のお見舞に行ったんだけど、昨日の夜に突然悲鳴を上げた後、高熱を出して倒れたって言われて。
一週間後にやっとその子が登校して来たんだけど、その子はその夜の事もコックリさんをした事も覚えてなかったの。実はその子が、質問できなかった最後の1人だったのよ‥‥。
蘭童が蝋燭を吹き消す。
「次は俺だな」
Tyrantessは言って、椅子に座り直した。
俺はガキん時、アメリカの余り治安の良くない所で育ったんだが、兄貴が六年前に死んだんだ。付き合ってた悪い仲間のドンパチに巻き込まれてさ。その時、形見分けでギターを貰ったんだ。
それから俺はギターを弾くようになって、兄貴よりマシに弾けるようになるまで、そう時間はかからなかった。
でも、歌はどうもうまく歌えなくてな。結局、歌は諦めてギターだけ弾くようになった。
で。あれは、デビュー直前だったかな。
何だか落ち着かなくて、一人でギターを弾いてたら、男の声が聞こえて来たんだ。
歌ってるんだよ。俺の演奏に合わせてな。その時弾いてたのは、ギターと一緒に貰った‥‥兄貴が適当に作った曲だったのに。
勿論、誰にも見せたことなんかない。それなのに、声は一言一句違わず歌ってた。驚いたぜ。
気がつくと俺は眠ってたんだが‥‥不思議と気分はすっきりしてた。
で、そのギターは今も物置の中にある。あれ以来、何回チューニングしても、なぜか音がズレちまってさ。ヘタクソの兄貴が弾いてるみたいになっちまうんだよ、どうしても。
だから今は、あれは兄貴のなんだ、って思うようにしてる。
Tyrantessが蝋燭を吹き消す。
「次は俺たちだな」
柊が言うと、蓮と珂鴇が頷いた。柊が代表して話し始める。
「この前の仕事の帰り‥‥圭と大河君も一緒だったんだけどね」
夜道歩いてて、バス停ちょっと前で裸足の足が見えたんだ。誰か先に並んでる、裸足なんて風変わりだなぁって思って、よくよく眼を凝らしてみたら、足首から下しかなかったんだ。ちょっとびっくりしちゃった。
足首だね。って二人に言ったら圭は固まっちゃてるし、大河君は微妙そうな表情だったし。
でも害はなさそうだったから、先にバス停に行って隣に並んだんだ。
そしたら突然、その足首に飛び掛られてさ。咄嗟にしゃがんで避けたら消えちゃった。ぱっと。
ちょっとした不思議との遭遇でした。
「ちょっとどころじゃないわよ!」
にっこり笑って話を終えた柊に、蓮が噛付いた。
「足首よ、足首! 普通の人だったら止まるわよね? それなのにアキったらズンズン近寄ってっちゃうし‥‥そりゃ、バスに乗らなきゃ帰れないのは判るけど、でも普通行けないわよね!」
蓮の言葉に、大曽根が思いっきり首を縦に振る。
「大河さんは頼りになるようでならないし‥‥」
「圭に、怖いなら俺の胸に飛び込めって言ったら、3歩分の距離取られた‥‥」
蓮の溜息に、珂鴇が肩を落とす。
「確かに、飛び掛って来た足を余裕で避けたアキラには、どんだけ肝据わってんだよって思ったけど。流石リーダー、大物だぜ」
「私、あれから本当に夜の道が駄目になったわ。未だに怖いもの‥‥」
溜息を吐く二人を余所に、柊は笑顔で蝋燭を吹き消した。
「次は俺かな」
蕪木が話し始める。
何年か前‥‥妻と旅行に出かけた時、古いレコード屋で何となく1枚のレコードを買ったんです。歌手も曲名も知らなかったんですけど、何だか買わずにはいられなくて。
で、その夜泊まったホテルが、珍しい事に蓄音機型のレコードプレーヤーが据置きになってたので、妻がシャワーを使ってる間にそのレコードをかけてみたんですね。
悲しい女性の声音のゴスペルで、結構いい曲でした。それが途中でちょっと音飛びし始めて。古いせいかな、なんて思ってたら突然、ドンドン! って壁を叩くような音がし始めたんです。
レコードの方は狂ったみたいに、アーメンの部分だけを繰り返してて、もう怖くて。俺は泣きそうになりながら、一体どうしてこんな事に‥‥って呟いたんです。そしたらレコードから凄く低い声で‥‥
「お前のせいだ!!」
「きゃあっ!!」
蕪木が声を張り上げると、蘭童が思わずTyrantessにしがみ付いた。
‥‥その後、一気に静かになって、俺は暫くショックで動けませんでした。シャワーから出てきた妻は物音一つ聞いてなかったみたいです。
「‥‥俺のせいって、何でしょうね?」
「判んないけど、怖いねー」
蕪木に柊がのんびりと返すと、珂鴇が「ホントに怖いと思ってんのかよ‥‥」と呟いた。
「最後はjokerさんに」
編集者に頷いて、jokerが話し出す。
「もう真実は公にされないからな。一人でも多くの人に知っていて欲しい」
3年前の夏の話だ。当時住んでた部屋の隣の消防士から、2週間前から深夜の同じ時間に高校生位の男の子の声で、廃病院の前で女の子が倒れてるから早く助けに来て! っていう通報が来るらしい事を聞いたんだ。
最初、すぐ駆けつけたんだけど何にもなくて。そこは巷じゃ有名な肝試しスポットだったから、悪戯だろうって事になったんだけど。
俺、何だか気になっちゃってさ。その廃病院に行ったんだ。そして気付いたんだ。庭に漂う二つの血の臭いに。
一つは下水管からで、マンホールを外すと首を折られた男子校生の遺体があった。
それで吃驚して、通報しようと取り出した俺の携帯が鳴ったんだ。女の子が倒れてるから、早く助けに来て! って‥‥。
犯人は、その近くにすむ獣人の男だった。女の子の遺体は獣人の部屋にあって、犯人も半分死んでるみたいな状態になってた。
その男の子はきっと、通報した直後に殺されたんだと思う。獣人に殺された二人を、獣人の俺が見つけるなんてやりきれないけど、それ以来、真夜中の通報は無くなったらしい。
二人とも、ちゃんと天国に逝けてると良いと思う。
「‥‥逝けてますよ、きっと」
ぽつりと呟いた大曽根に、jokerが微笑んで蝋燭を消した。最後の蝋燭が消え、部屋が真っ暗になる。
ぱちり、という音と共に、部屋の電灯が灯された。
「今日はお疲れ様でした。ご協力、有難う御座いました」
「いえいえ」
頭を下げる編集者に、柊が微笑む。
「jokerさんのお話は、獣人の部分を伏せて出させて頂きますね」
「ああ、宜しく」
「それじゃあ、皆さん。柊さんから貰ったゼリーがあちらで冷えていると思いますので」
「いいですねー」
蘭童がにこにこと笑うと、皆もぞろぞろと部屋を出て行った。そして編集者が最後に部屋を出て電気を消し、ドアを閉めると、部屋はしんとした闇に包まれた。