ハロウィンの奇跡アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
12人
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サポート |
0人
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期間 |
10/31〜11/04
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●本文
ある所にお化けの住む村があり、そこにテネルという名前のお化けがいました。
ハロウィンの日。お化けの村では沢山のお化けたちが、人間を怖がらせる為の準備をしていました。人間を怖がらせて、お菓子を奪ってしまおうというのです。
実はこのお化けたちは、お菓子しか食べられないお化けでした。
この日に人間からお菓子を奪えないと、あと一年、お腹を空かせて過ごさなければならないのです。
なのでテネルも、人間からお菓子を奪わないといけません。ですが、皆がうきうきと準備をする中、テネルは憂鬱な表情をしていました。
テネルの顔はそれはとても恐ろしく、一目見ればどんなに度胸のある人間も叫んで逃げ出す程でした。
しかし、テネル自身はそれはそれは臆病な性格で、テネルを見て逃げ出す人間の悲鳴を聞いて、ビックリして気絶してしまう程でした。
そんなテネルは、毎年毎年お菓子を奪えずに、いつもお腹を空かせているのでした。
「今年もお菓子を奪えなかったら、僕は本当に死んでしまうかもしれない」
テネルはそんな事を考えながら、人間たちの住む村へとやって来ました。
人間の村へやって来たテネルですが、どうしても人間を怖がらせてお菓子を奪う事ができなくて、ついに村の外れへとやって来てしまいました。
村の外れには一軒の家しかなくて、テネルは仕方なく家の住人を怖がらせようと家に入って行きました。
そこには、一人の少女が住んでいました。
テネルは少女を怖がらせようと、その恐ろしい顔を少女に見せましたが、少女はただ首を傾げるばかりでした。
少女は目が見えなかったのです。
少女は、テネルがお腹を空かせているのに気付くと、焼きたてのクッキーをごちそうしてくれました。
テネルは、そのクッキーの美味しさと、初めて触れる優しさに感激し、少女に何かお礼ができないかと考えました。テネルは少女の事がとても好きになってしまったのです。
そして、テネルは少女の見えない目を、治す事にしました。
それは、人間を怖がらせるお化けが決してやってはいけない、奇跡でした。
テネルの奇跡によって、少女の目がだんだんと見えるようになって来ました。
しかし、そこでテネルは自分の醜い顔の事に気付いて、少女の目が見えるようになったらまた怖がられるのではないかと不安になりました。
ですが、少女はテネルの醜い顔を見ても怖がりませんでした。
少女は、テネルの心がとても臆病で、そしてとても優しい事を知っていたからです。
けれど、奇跡を起こしてしまったお化けは消えてしまう運命にありました。
テネルは、少女の暖かい腕の中で、さらさらと消えて行ってしまいました。
「‥‥という物語を演劇にして、ハロウィンに上演しようと思っています。そこで、役者さんを探しているんですが‥‥宜しければ是非参加して頂ければと思いまして。ストーリーは殆どこのまま使おうと思っているんですが、エンディングに関しては皆さんの意見を聞かせて頂こうと考えております。このまま終わらせるのか、それとも別のエンディングにするのか、皆さんの良いように変えて頂いて。ええ、はい。それでは、よろしくお願い致しますね」
●配役に関して
必須配役
テネル:主役のお化け
少女:目の見えない少女
その他配役
お化けの仲間たちや、村に住む人間など、自由に配役して下さい。
尚、名前の決まっていない役につきましては、自由に設定して頂いて構いません。
●リプレイ本文
ぞろぞろと観客が入ってくる。その中で、ミミ・フォルネウス(fa4047)がパンフレットを片手にとことこと歩いて来る。そして、舞台がよく見える席に座ると、パンフレットを開いた。そこには今回の役者の名前が書かれている。
お化けのテネル:葉桜リカコ(fa4396)
目の見えない少女・ニコラ:桃音(fa4619)
ニコラの姉・アネット:都路帆乃香(fa1013)
ニコラとアネットの母:風間雫(fa2721)
人間の村の村長:巻 長治(fa2021)
ニコラの友人・アリス:☆島☆キララ(fa4137)
お菓子職人・ゼファー:ゼフィル・ラングレン(fa2654)
魔女の領主:日向みちる(fa4764)
虎男のロードン:タケシ本郷(fa1790)
怪物のイヴァン:片倉 神無(fa3678)
ミミが読み終わると、観客側のライトが少しずつ消えていった。そして、舞台の幕が上がっていく。
●魔女の館
暗闇の中で、赤いソファがスポットライトに照らされる。そこに座っているのはぼろ布を纏い、焼け爛れたような醜い顔を闇に溶け込ませているお化けだった。そのお化けの頭に魔女が、怒った顔のような形にくりぬいた大きなカボチャを被せた。
「さあ、お前の名前はテネルだ。お前達お化けは、お菓子しか食べられないよ。人間を驚かせて、お菓子を奪って来るんだ。決して人間に優しくしてはいけないよ? 人間は私達を酷く嫌っているからね。私達を嫌いな人間に、優しくしてやる道理はない。もし人間と仲良くしてしまったら、もうお前はお化けでいられなくなってしまうからね」
魔女がそう言うと、テネルはソファから立ち上がり、カボチャの位置を直した。
●人間の村
舞台中央にある小さな店の中で、ゼファーが菓子を作っている。袖から村長とアリスがやって来て、店に近づいた。
「やあ、ゼファー。調子はどうかな?」
「村長さん。それにアリスも。今日のお菓子も良い出来ですよ」
「そうかそうか。今夜は感謝祭だからね。私も楽しみにしているよ」
「でも、今年もまたお化けたちがやって来るのかしら? お菓子を取られちゃったらどうしよう」
不安そうに言ったのはアリスだった。村長がその言葉に憤慨したように肩を怒らせる。
「全く腹立たしい。あんな奴ら、懲らしめてしまえばいいのだ。感謝祭は我々人間が日々作物を育て、その豊作を祝う大切な行事なのだ。それをお化けなぞに台無しにされるなど」
「じゃあ、村長さんのところにもしお化けが来たら、ガツーンッと懲らしめちゃってね!」
「言われるまでもない!」
アリスに村長が胸を張る。そこにゼファーが「村長さんの分です」と言って、菓子の沢山詰まった籠を村長に渡した。村長はそれを受けとり、袖へと戻ろうとする。
「食われたくなきゃ、菓子寄越せー!」
「ひ、ひええええっ!」
そこに現れたのは、凶暴そうな虎男のロードンだった。村長が情けない悲鳴を上げて尻餅をついたその隙に、ロードンがお菓子の籠を奪って去って行く。ばたりと仰向けに倒れる村長に、アリスが慌てて駆け寄った。
「村長! ‥‥気絶してる‥‥もう! 懲らしめるとか言っといて! 意気地無し!」
言って、アリスは村長を袖に投げ飛ばした。
●村外れ
菓子の籠を持ったアネットが、上手から歩いて来る。そこに木のセットの陰から継ぎ接ぎだらけの身体で頭にネジの刺さった、怪物のイヴァンが現れる。
「痛い目見たくなきゃ、菓子寄越しやがれー!」
「きゃあああ!」
アネットが悲鳴を上げて籠を取り落とす。その隙に、イヴァンは素早く籠を奪うと、木の陰に隠れた。アネットがへなへなと地に崩れ落ちる。
「アネット! どうしたの!?」
「お姉ちゃん!」
「い、今、化け物が‥‥」
下手にある家のセットから現れたのはニコラとその母親だった。母親が慌てたようにアネットに駆け寄り、抱き抱えて立ち上がらせると、ニコラが覚束無い足取りでアネットに近づき、その手を取った。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「ああ、ごめんね、ニコラ。大丈夫よ、ちょっと驚いただけだから‥‥」
「もう、何とかならないのかね。こんなのが毎年続いちゃ、いつか心臓が止まっちまうよ!」
「それよりも、またお菓子を貰いに行かなきゃ。もうすぐ夜になってしまうわ」
「あら大変! 私も夕飯の支度の途中だったわ。でもアネット一人じゃあ‥‥」
「お母さん、私も一緒に行くわ。アリスにも会いたいし。いいでしょ?」
「そうねぇ、いってらっしゃい。アネット、大丈夫?」
「大丈夫よ、母さん。それじゃあ、行って来るわね」
言って、アネットとニコラが手を繋いで上手の袖に消えて行く。母親はそれを見送り、家へと入って行った。
少し間があって、ひょっこりと木の陰から顔を出したのはイヴァンだった。そして、その顔の下から、テネルが恐る恐る顔を出す。
「おい、テネル。聞いたか? あいつら、また菓子を取りに行くみたいだぜ」
「そ、そうだね‥‥」
「そうだね。じゃ、なくてよ。あの小さい方なら、お前でも驚かせられるんじゃねぇの?」
「無理だろ、テネルじゃ」
言ったのは、イヴァンたちとは逆の影から顔を出したロードンだった。落ちてくる大きなカボチャを手で支えるテネルを、ロードンが嘲笑うように見下ろす。
「自分を見て驚く人間の悲鳴で気絶してんだもんな。せっかく良い顔持ってんのによぉ。宝の持ち腐れだぜ」
「で、でもボク‥‥この顔、あまり好きじゃない‥‥怖くて‥‥」
「自分の顔なのに何言ってんだ、お前は。人間の前に立って、そのカボチャ取って素顔を見せて、人間が驚いてる隙に菓子を奪っちまえばいいんだ。それだけで、お前は一年間も腹空かせて、仲間にお零れを貰わなくても済むようになるんだぜ?」
「う、うん‥‥やってみる‥‥」
「おっしゃ、行って来い!」
イヴァンに促され、テネルは木の陰から這い出ると、きょろきょろと辺りを見回す。そして、イヴァンを振り返りつつ、上手の袖へと消えて行った。それまで行け行けと手を振って示していたイヴァンは、ロードンと顔を見合わせると、二人でテネルを追いかけて行った。
●人間の村
ニコラとアネットが、礼を言ってゼファーからお菓子の籠を貰っている後ろで、下手から近づいてきたのはテネルだった。恐る恐る近づき、二人が店を離れたのを見て、テネルは両手を広げる。
「ば、ばぁー!」
「きゃあ!」
「うわぁ!」
上がったアネットの悲鳴に、驚いたテネルが二人に背を向けて小さく屈み、頭を抱えた。
「ううう、駄目だ。やっぱり怖いよぉ‥‥」
「どうしたの? 大丈夫?」
そんなテネルに近づいて来たのはニコラだった。覚束無い足取りでニコラを見つけると、自らも屈む。それにアネットが「駄目よ、ニコラ! 危ないわ!」と叫ぶが、ニコラは「大丈夫よ」と答えてテネルのカボチャに優しく触れる。
「大丈夫? お腹痛いの?」
「え? お、お腹は痛くないけど‥‥」
心配そうなニコラの言葉に、テネルがちょっと振り返りつつ言うと、ぐぅーっと情けない腹の音が聞こえた。それにテネルが慌てて腹を抑えると、ニコラが笑ってお菓子の籠を差し出した。
「お腹空いてるのね。良かったらこれ食べて。お菓子だけど」
「くれるの!?」
「感謝祭は皆でお菓子を食べる日だもの」
テネルは嬉しそうに籠を受け取ると、一心不乱にお菓子を食べ始めた。ニコラがそれを楽しそうに待っていると、テネルが恐る恐る顔を上げる。
「あ、あの‥‥ボクのこと、怖くないの?」
「どうして?」
「だ、だって、ここ、こんな顔だし‥‥」
「どんなお顔?」
言って、ニコラがテネルのカボチャを両手で触る。
「これはお顔? それとも帽子? とても大きいのね」
「これはカボチャだよ‥‥ぼ、ボク、顔が怖いから、これで隠してるの‥‥見えないの?」
「うん、ごめんね。私、生まれた時から目が見えないの。‥‥私も、あなたのお顔、見てみたいな」
「怖いよ? 見ないほうが、い、いいよ?」
「そんな事ないわ。あなたはとっても優しい声をしてるもの。ねえ、あなた、何て名前なの?」
「て、テネル‥‥」
「テネル! とっても素敵な名前! 私はね、ニコラって言うの」
「ニコラ‥‥ああ、何て暖かい手だろう! 人間って、こんなに暖かいんだ‥‥」
呟くテネルの手を優しく握るニコラに、テネルが心の言葉を叫ぶ。そして、テネルはニコラの目に触れると、「お菓子のお礼」と呟いた。
それに慌てたのは、下手の袖幕から覗いていたイヴァンとロードンだった。
「あ、あいつ! 人間に優しくしてやがる!」
「ヤバイぜ! 魔女に知らせてこなきゃ!」
イヴァンとロードンが慌てた様子で袖に消えると、テネルの手に青いライトが当てられた。そして、テネルがニコラから手を離すと、ニコラがゆっくりと目を開けた。
「‥‥ああ、凄い! 見える、見えるわ! お姉ちゃん! 私、目が見える!」
不安気に近づいてきたアネットに、ニコラが嬉しそうに抱きついた。それにアネットも嬉しそうにニコラの顔に触れる。
「有難う、テネル! これであなたのお顔も見れるわ!」
ニコラがテネルを振り返るが、テネルは無言で立ったままだ。それにニコラが近づき、カボチャに触れる。
「ボクの顔を見たら、絶対怖がるよ」
「大丈夫よ」
ニコラがテネルのカボチャをゆっくりと取っていく。そして現れたのは焼け爛れたような醜い顔だった。それにアネットが「ひぃっ!」と悲鳴を上げる。しかしニコラはテネルの顔を見て、にっこりと笑った。
「‥‥怖くないの?」
「怖くないわ。だって、テネルはとても優しい目をしてるもの」
少しずつ舞台が暗くなっていき、役者たちにスポットライトが当てられる。その中でテネルのライトだけが少しずつ小さくなって行く。
「‥‥ボクは、君に会えて良かった‥‥」
テネルがそう言うと、ライトが完全に消えてテネルの姿が見えなくなった。それに、ニコラが慌ててテネルを探す。その必死な声に、上手から村長とアリスもやって来る。
「どうしたの? ニコラ‥‥」
「テネルが! テネルがいなくなっちゃったの!」
ニコラが必死に探す中、下手からイヴァンとロードンを連れた魔女が現れた。ニコラ以外の人達が驚く中、魔女がニコラの持つカボチャを受け取る。
「ああ、あの子は‥‥人間に奇跡を起こしてしまったんだね‥‥奇跡を起こしてしまったお化けは、お化けでなくなってしまう‥‥」
「作り直す事はできねぇのか!?」
「無理だよ‥‥消滅してしまったお化けは、もう戻っては来ない」
「そんな‥‥テネル、テネルー!」
イヴァンの問いに答えた魔女の言葉に、ニコラががっくりと膝をついて叫んだ。
●人間の村
舞台の中央にある店で、ゼファーがお菓子を作っている。そこに、上手からやって来たのは村長だった。
「やあ、ゼファー。調子はどうかな?」
「村長さん。今日のお菓子も良い出来ですよ」
「そうかそうか。今夜は感謝祭だからね。私も楽しみにしているよ」
「今年はお化けたちの為に、いつもより多く作りましたよ」
言って、ゼファーが店の中から大量のお菓子を取り出し、村長に渡した。村長はそのお菓子を慌てて受け取り、ふんっと息を吐く。
「全く、厄介な連中だ。お菓子しか食べられないなんて」
そこに、村長の後ろから現れたのは、笑ったような顔にくりぬいた大きなカボチャだった。カボチャは村長に気付かれないように近づくと、とんとんと肩を叩く。村長が振り向くと、カボチャは両手を上げて叫んだ。
「お菓子をくれないと、悪戯しちゃうぞー!」
「うわああ!」
村長が驚いて、持っていたお菓子を投げ飛ばしながら尻餅をつくと、カボチャは笑いながら被り物を脱いだ。カボチャの下から現れたアリスに、村長が怒り出す。
下手からやって来たのはアネットと母親だった。振り返りつつ歩く二人の後ろから、お菓子が沢山入った大きな籠を持って、しっかりした足取りでニコラが歩いてくる。ニコラは籠を舞台の中央手前に置くと、満足気に頷いた。
「これだけあれば、テネルもお腹いっぱいになるよね!」
それを袖幕の後ろからイヴァンとロードンがこっそりと見ていた。そこに、貴婦人のような格好をした魔女が現れ、イヴァンとロードンの頭をフリルのついた洋扇で叩きながら歩いて来る。その格好に女性達が褒めると、魔女は満足気に笑って村長にしな垂れかかる。
「まあ、たまにはこんな格好もいいかと思ってね。どうだい? 村長。似合うかい?」
「え? あ、ああ、そ、そうですね」
「あ、村長。顔赤ーい」
アリスに言われ、村長がまた怒り出す。それを見ていたイヴァンとロードンもアリスと一緒に村長をからかい始め、舞台に笑いが広がった。その中で舞台が薄暗くなり、ニコラにスポットライトが当たる。そして、上手の袖幕の前にもスポットライトが当たった。そこにはカボチャを被ったテネルが立っていた。
舞台中央手前に立ったニコラが少し空を見るような形で話し始める。
「テネル‥‥あなたのお陰で私は目が見えるようになり、村も変わった。これからは人間もお化けも皆仲良く暮らしていくわ。だからテネル、ずっと見守っていてね‥‥テネル、有難う‥‥」
テネルのスポットライトが消え、次にニコラのスポットライトが消える。舞台が明るくなると、それまで笑っていた村人たちも空を見上げていた。そのまま幕が下がり始める。観客から、拍手が巻き起こった。
観客がぞろぞろと劇場を出て行く。その中で、役者たちが子供にテネルの被っていたカボチャと同じ形にくりぬかれた、手のひらサイズの小さなカボチャを配っていた。ミミもそれを受け取り、劇場を出る。少し涙目になったミミはそのカボチャを見下ろすと、嬉しそうに笑って走って行った。