特集『吸血鬼の花嫁』アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
12人
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サポート |
1人
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期間 |
09/16〜09/20
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●本文
――『吸血鬼の花嫁』
それは、一つの掟に縛られた吸血鬼たちの物語を描く、特撮深夜ドラマである。その豪華な出演者と、本物のようなCG技術によって、最近密かに人気が上がって来ているらしい。
「そこで、ドラマの宣伝も兼ねまして、特集番組を作る事になったんですよ。メインの売りがアクションとCGなんで、インタビューみたいなのは特にはないんですが、格闘シーンとか、撮影している風景を撮らせて貰うんで。CGの方は加工作業中とかを撮りに行く予定です。カメラとか気にせずに、自然体な感じでやっていて下さればと思います。それじゃ、宜しくお願いします」
●今回の撮影について
たくさんの制作スタッフによって、ドラマを作っている様子を撮影します。よって、今回は裏方の方がメインです。勿論、今までのドラマに出て下さった役者さま方でしたら、カメラに映って頂いても構いません。
自分がどんな作業をしているのか、どんな風に映りたいかを教えて下さい。
ちょっとしたドラマの感想とか、出来具合についてとかコメント頂けると、採用するかもしれません。
●リプレイ本文
撮影スタジオでは飆(fa3115)が真剣な顔でカメラを回している。舞台セット上ではゴム製の薙刀を持ったユフィア・ドール(fa4031)が背中に紅雪(fa0607)を庇いながら、スタントマンのディルム・スティルダーと殺陣を行っていた。
ディルムに繋がれたワイヤーをランドルフ・フリス(fa2327)とトシハキク(fa0629)が引くと、ディルムの身体が宙に浮いた。宙からユフィアに襲い掛かるディルムに、ユフィアが薙刀を斬り上げ、ディルムの持つ剣を弾く。
「はい、カットォ!」
監督の声とともに、舞台から緊張が解ける。他のスタッフがばたばたと動いている中で、飆と俳優たちが真剣にチェックを始めた。チェックにOKが出たようで、俳優たちに安堵の溜息が流れ、飆と監督が笑いあう。そんな中で、メイキング撮影のカメラに気づいた紅雪が、にこりと笑ってカメラに手を振った。その後ろを、トシハキクが重そうな機材を肩に担ぎ、腕にも何重に巻かれたコードを持ってずんずんと歩いて行く。
スタジオの奥では、ユフィアがランドルフに、持っていた武器を見せていた。
「さっき当てたとき、ここがパキッていっちゃって」
「あー、もうボロボロじゃなぁ。新しいの用意しておかんとのう」
「あ、じゃあ、私持って来まーす」
呟くランドルフに、飲み物を運んでいた理緒(fa4157)が手を上げてスタジオを出て行く。
メイキング撮影中のカメラマンがユフィアとランドルフに近づいた。「どうしたんですか?」と聞くカメラマンに気づき、ユフィアがちらっと舌を出す。
「折っちゃった、武器。結構派手にアクションするから、すぐ壊れちゃうのよね」
カメラマンが「何本目ですか?」と聞くと、ランドルフが苦笑して「今日だけで3本目じゃ」と答える。
「アクションシーンが売りだけあって武器は使い捨て状態じゃな、まあ、血から武器化するって設定じゃから、どっちにしても一回毎に新品を使わないとおかしいじゃろ」
ランドルフが言うと、理緒が新しい薙刀を抱えて走って来る。ランドルフがそれを受け取り、ディルムを呼んで強度を確かめるためのリハーサルを始めた。
編集室では、編集用のパソコンの前に座っているシェーシャ・ナナク(fa4449)に、弥栄三十朗(fa1323)が指示を出している。
「今回の作品でCG処理が必要とされるのは次の各シーンです。このコンテに基づき、処理を行って下さい」
「OKです」
弥栄が編集室を出て行くと、カメラが作業中のシェーシャに近付いた。シェーシャの操るマウスがカチカチと音を立て、パソコンの画面の中では白い矢印が縦横無尽に駆け巡っていた。レイヤーが次々に重ねられて、ユフィアの流した血から武器が出来上がっていく様子が作成されていく。
真剣な目で画面を見つめるシェーシャに、カメラマンが「吸血鬼の花嫁はCGが売りということですが‥‥」と尋ねる。
「テレビドラマという枠でこれだけ画面効果を使用するのは、日本のドラマとしてはとても珍しいことだと思いますよ」
マウスを動かしながらシェーシャがコメントを返した。
編集室を出た弥栄が、廊下を渡って制作室へと向かっていく。それを追いつつ、「これからどこへ?」と聞くカメラマンに、弥栄が振り返る。
「これから脚本家の所に行くんです」
弥栄が制作室のドアをノックし、入って行く。制作室の奥では橘・月兎(fa0470)がノートパソコンに向かっている。
「22番のシーンなんですが、もう少し台詞を詰めるか、間の取り方をどうにかしないと尺が足りなくなりますし、冗長になりませんか?」
「しかし、そうすると雰囲気が伝わり難くならないか?」
「別のシーンで短いカットを入れるのはどうでしょう。回想シーン程度でも大丈夫だと思うんですが」
「ああ、なるほど。それならここに入れれば‥‥」
二人が台本を間に話していると、制作室のドアが開いた。
「あら、お話中?」
「いえ、今終わったところです」
顔を出したのは紅雪だった。それに弥栄が笑って答えると、紅雪の後ろからユフィアも現れる。
弥栄と入れ違いに二人が部屋に入ると、橘の眉間に皺が寄った。
「撮影はどうしたんだ?」
「今、別のセットを組み直し中なの。それで、私たちは衣装替えね」
「だったら‥‥」
「衣装がねー。まだ届いてないんですって。だから届くまで暇なの」
「暇なの。ねー、月兎ちゃん、遊ぼ!」
紅雪の言葉に橘が溜息を吐けば、ユフィアが橘の背中に飛び乗った。それに橘が息を詰めつつも、何でもない顔をしてノートパソコンに顔を戻す。
と、そこに理緒が制作室に入って来た。
「あ、紅雪さん、ユフィアさん! すみません、お待たせしましたー。衣装届いたんで、着替えお願いしますー」
「はーい! じゃあ、月兎。いつまでもここに引き篭もってないで、出てらっしゃいね」
「じゃあねー、月兎ちゃん」
ぱたぱたと二人が出て行くと、カメラマンは橘にレンズを向け「仲がいいんですね」と尋ねた。
「毎回こんな調子なので、困ってますよ」
橘はカメラに向かって大きく溜息を吐き、苦笑した。
カメラマンがメイク室に入っていくと、羽切 基(fa4630)が紅雪にメイクを施していた。既に着替えを終えていたユフィアが羽切をスタイリスト兼メイクだと紹介すると、カメラマンが羽切に衣装とメイクのポイントを聞く。
「そうですねー。やっぱり雰囲気上、黒系の衣装が多いですね。アンバサッドが基本的に落ち着いた感じのスーツで、トレートルは役柄によって違いますけど、だいたいダーク系です。そのかわり、セリバテールや人間の役には流行に合わせて明るめなものも用意したりしますね」
羽切はメイクをする手を休めずに答える。
「メイクは基本的にセリバテールは血色はよくならないように、全体的にナチュラルな感じにしてます。まあ、役柄もありますけど、派手なのはトレートルくらいですね。あとは、花嫁のこの痣ですね。これは結構自信作ですよ」
言いながら、先ほどまで作っていた紅雪の首の蝙蝠型の痣を指差した。
カメラは再び撮影スタジオへ戻って来た。
スタジオの中では、弥栄の指示でトシハキクが大きなセットを運んでいる。ランドルフは、アクション用のワイヤーをセットしていた。そこに橘が台本を持ちやって来て、弥栄に近づいて会話を交わす。
スタジオの奥ではユフィアと紅雪がディルムに武器の持ち方を指導していた。ぱたぱたと理緒が近づいて来て、三人に飲み物を渡す。
「あと10分で撮影始めますから」
「わかったわ。ありがとう」
紅雪とユフィアが頷き、理緒がセットの奥へと走って行く。
カメラマンが向かうと、途中で撮影カメラの調整をしていた飆と目が合う。「撮影は順調ですか?」と聞くカメラマンに、飆が足元に置いていたコーヒーを持ち上げて笑う。
「順調、順調。面白い作品に仕上がってるぜ」
飆がそう言ったとき、セットの後ろでガシャーンッという音が響いた。スタッフたちが全員、そちらの方向に目を向ける。
「あーあ、またやったかな?」
飆の言葉に、カメラマンがセット裏へ向かうと、セットの一部が倒れていて、理緒がトシハキクに支えられていた。
「大丈夫か?」
「すみませーん‥‥ありがとうございます」
トシハキクに理緒が恐縮しながら頭を下げると、監督の怒鳴り声が聞こえてきて、理緒がビクリと肩をすくめる。慌ててトシハキクと一緒にセットを直し、理緒が走っていく。
「またやっちゃったー」
カメラマンに過ぎ際、苦い顔で舌を出した理緒に、仁王立ちで待っていた監督が呆れたように説教を始める。それに弥栄が時計を示しながら監督に話しかけると、監督は溜息を吐いて理緒を解放した。紅雪とユフィアが理緒に笑いかける。
「お騒がせしてすみません! 撮影再開しまーす!」
理緒が声を上げると、俳優たちがセットへ向かって行く。監督もテレビの前に座り、セットを睨む。
カメラマンが監督の後ろに立つ弥栄に近づき、コメントを求めた。
「役者の演技を十全にする為に我々裏方も戦っているのです。花でも茎や根が合ってこそきれいな花を咲かせるのでしょう? それと同じ事です」
スタジオにカチンコの音が響いた。