ペラガリ脱出計画!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
09/27〜10/03
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●本文
「太りたいなぁ‥‥」
そんなことをぽつりと呟いたのは、料理研究家である郁原良美であった。その言葉に、弟子でもある生徒たちが苦笑する。
「先生ー、それ、嫌味ですか?」
「何言ってるの! 私は真剣に悩んでるのよ! 食べても食べても太らない、このペラッペラでガリガリの身体! ホント、嫌になっちゃう!」
「私たちにしてみれば羨ましい限りですよー」
「何が羨ましいもんですか。あなた達の方が羨ましいわ。小さい頃から平均体重を超えた事がないのよ、私。そのせいでひ弱だとか不健康そうに見られるし‥‥」
そこまで言って、郁原はハッと気がついた。
「そうだわ‥‥世の中にダイエット講座が溢れているのだから、逆もあっていいんじゃないかしら。痩せ過ぎている事に対してコンプレックスを持っている人たちの、太るための講座‥‥そう! 健康的に太るための講座を設立するのよ! そしてペラッペラのガリガリを卒業するの!」
そうして、郁原のペラガリ脱出計画はスタートした。
●募集!
体質的になかなか太る事ができず、痩せ過ぎな身体に悩みを持っている方々を募集しております。一緒に健康的に太りましょう。
太れない原因として代表的なものを下記に挙げておきますので、それを見て自分の太れない原因を考えて教えて下さい。原因によって、トレーニング内容が変わります。
1.基礎代謝量が一般より高い。
2.胃下垂である。
3.猫背である。
4.ストレスが溜まっている。
●リプレイ本文
「うーん、意外に集まりが悪かったわね‥‥まあいいか。私たちだけでも健康的に太りましょう!」
自身が料理教室に使っている部屋で、集まった参加者たちを眺めて郁原良美が言うと、ブルース・ガロン(fa2123)が目の前のテーブルを強く叩いた。
「太るってのが、一体全体どういう事だか、わかっているのかーっ!?」
「あなたこそ、痩せ過ぎな人の気持ちがわかるって言うのー!?」
ブルースの剣幕に負けじと、郁原も叫ぶ。
「女性の美は丸みにこそあるのよ! 胸やお尻に丸みがあるのが美しいの! 見なさい、私の腹を! この、アバラの位置がはっきりとわかるガリガリの腹! まるで生きた骨格標本よ! せめてアバラの見えない腹が欲しいのよぉ!」
ともすれば泣き叫びそうなくらいにテーブルを叩く郁原を、護国院・玄武斎(fa4159)が「まあまあ」と宥めた。
「太る手段を探してるんなら、あっしも幾つか知ってるんでね。手を貸そうかと思うんだが、どうかね?」
そう言った護国院に、郁原が振り向く。
「太る基本は食べる、運動しないが大原則さね。スナック菓子等の油っぽいものや高カロリー、高コレステロールな食事を採りつつ、運動しない‥‥この手でいってみるのはどうかね?」
「それじゃあ駄目よ。私の目的は、健・康・的! に、標準体重まで太る事なんだから」
健康的の部分を強調する郁原が鼻息荒く胸を張った。
「脂肪たっぷりのぽっこりお腹なデブ体型になりたいなんて一言も言ってないでしょ? 女ならば美しく! 男ならば逞しく! 健康な人間として正しい身体を目指すのよ!」
叫んで、ぐっと拳を握る郁原を、アルケミスト(fa0318)がぼーっと見上げていた。その横で、焔(fa0374)が横目でアルケミストを不安そうに見ている。
「ということで、講義を始めます! まず皆に聞いておきたいんだけど、この中に胃下垂の人とか、ストレスとか溜まってる人はいないわよね? 見たところ、猫背な人もいないみたいだし。皆、基礎代謝量が多くて太りにくい体質って事で、いいわね?」
郁原が聞くと、焔が頷いて、アルケミストをちらりと見た。
「俺は多分そうだろうと思う。こっちは食事に金かけないのが原因だろうけど」
「‥‥お金は‥‥全部、旅費とか‥‥他の事に使っちゃうから‥‥」
焔の言葉にアルケミストがこくりと頷き、ぽつりと呟くと、護国院が難しい顔で首を振る。
「食事はきちんと取らないとな。太る以前の問題だな」
「そうね。ちゃんとご飯を食べていないと、脂肪どころか筋肉もつかないからね。ということで、健康的に太る為に必要な事その1! きちんとした食事を取る事!」
郁原はそう言って、テーブルに被せてあったシートをかばっと取った。そこには、ほかほかの白いご飯に味噌汁、焼き魚におひたしなど、和風な食事が並べられていた。その美味しそうな匂いに、ブルースが感嘆の声を上げる。
「太りたいからといって、ただ闇雲にカロリーの高いものばかり取ってても駄目よ。病気になっちゃうからね。つくづく、昔ながらの日本食は凄いと思うわ。こんなに栄養のバランスがいい食事、そうそうないわよ。ファーストフードなんか食べてたら、カロリーは取れても栄養素が偏っちゃうしね」
満足気に頷く郁原に、アルケミストの喉がごくりと鳴る。それに気づいた焔が「食べていいのか?」と聞くと、郁原は「もちろん」と答えた。
「さー、これから頑張って、標準体重まで増やすわよー?」
えいえいおー! と掛け声をかけながら、健康的に太る為の特訓が始まった。
「きちんとした栄養を取る食事も大事だけど、太れない体質の人は運動も大事なのよ。ということで、健康的に太る為に必要な事その2! 運動をする事!」
食事を終えた後、郁原たちは近くの公園へとやって来ていた。
「運動する事によって、免疫力や胃腸が栄養を吸収する力をアップさせるのよ。ついでに適度な筋肉もつけれるしね。ただ運動もせずに食べてばかりだと、お腹でちゃうし」
「しかし、運動量が多いと、その分また痩せてしまうのではないか?」
言ったのはブルースだ。最近、プロレスやら何やらで過度な運動をして、どんどん痩せていっている為、郁原の言葉に疑問を投げかける。同じく、戦闘訓練をしまくっているアルケミストもこくこくと頷いていた。
「そんな大層な運動しないわよ。成長ホルモンの分泌を助ける為の、適度な運動よ。言ってみれば、食後の腹ごなしみたいな感じね。筋肉だって、さらっとつけばいいのよ」
「まあ、確かに。筋肉がつけば痩せているようには見えなくなるしな」
「逆に言えば、筋肉がついている者にペラペラのガリガリはいないという事かね」
郁原の言葉に焔が頷くと、護国院も納得したように続いた。
「そういうことで、運動をするんだけど。ここで気をつけて欲しいのは、必ず食事を取った後で運動する事ね。空腹状態で運動なんて辛いだけだし、カタボリックを起こしちゃうからね」
「‥‥カタボリック‥‥?」
何それ? といった風にアルケミストが首を傾げて呟く。それに、郁原が人差し指を立てながら説明した。
「人間の身体ってのは、炭水化物をエネルギーとしてるのね。その炭水化物がもし身体の中になかった時、エネルギーとなるのはなんだと思う?」
「脂肪じゃないのか?」
「そう、その通り!」
焔の答えに、郁原が満足気に頷く。
「でも、消費されてるのは脂肪だけじゃないのよ。これはどの運動でもそうなんだけどね、筋肉もエネルギー源の代わりになっちゃうのよ。正確には、筋肉を分解した後の、たんぱく質なんだけどね。これはつまり?」
「筋肉が落ちるという事か」
「その通り! それをカタボリックというのよ」
ブルースに、郁原が喜色の笑みを浮かべた。飲み込みの早い参加者たちを嬉しそうに眺め、郁原が続ける。
「だから、食事はとっても大切なのね。特に朝は身体のエネルギーが空っぽな状態だから、きっちり取らなきゃ駄目よ。運動前も、直前にご飯を食べるのは身体に悪いから、2、3時間くらい前に食べるか、もしくは1時間前にバナナとかゼリーとか糖質の多いものを食べてからやるのが必須ね。できれば運動した後も、糖分を摂取できるといいんだけど」
「食べてばっかりだな。そこがダイエットとちょっと違うところかね」
「ダイエットも、食事はきっちり取って欲しいけどね。最近じゃ、痩せ過ぎなモデルは採用しないなんて会社もあるみたいだし、ダイエットもほどほどにした方がいいと思うわ、私」
「ペラガリという萌えジャンルを確立するには厳しい世情だな‥‥」
護国院に郁原が言って、準備運動を始める。まずは公園の周りをジョギングするらしい。その影では、呟いた焔がアルケミストから脛に蹴りを入れられて悶えていた。
「よし、気持ちよく運動して、お腹を空かせましょう! いざ、しゅっぱーつ!」
気合を入れて走り出す郁原に続く参加者たち。その珍しい、というよりは変な組み合わせに、公園の利用者たちの視線を集めたのは言うまでもない。
「食事もして運動もした。次は健康的に太る為に必要な事その3! 休養をとる事! つまりは寝る事ね。人間は寝ている時に筋肉を作ったり、成長ホルモンを分泌したりするの。だから、きっちり寝ないと太れないし、健康にもなれないわけね」
「寝る子は育つってよく言うが、本当なんだな」
焔が言って、隣を見る。適度な運動とたっぷり美味しい食事を食べたお陰で、アルケミストの瞼がとろとろと重くなって来ていた。
「芸能人とかに夜更かしするなって言っても無理だと思うけどね。できるだけ休養はとってね。‥‥って、あらあら。さっそく休養に入ってる子がいるわね」
言われて、ブルースと護国院が横を見ると、焔の肩に頭をもたれてアルケミストが寝入っていた。すぅすぅと寝息を立て、熟睡に入っている。それに焔が軽く溜息をついて微笑んだ。
「まあ、太りたくてもすぐに太ろうとしちゃ駄目よ。長い目で、ゆっくり身体を作っていきましょうね。これはダイエットにも言える事なんだけどね。ということで、今日はゆっくり休む事! では、解散!」
そうしてペラガリ脱出計画の講義は終了し、参加者たちはそれぞれのスケジュールを考えながら帰って行った。
後、郁原が無事に標準体重を越えたかどうかは、郁原のみぞ知る‥‥