吸血鬼の花嫁アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 中畑みとも
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 07/26〜07/30

●本文

 ――吸血鬼。
 それは長い牙を持ち、その牙で人間の生き血を吸う化け物である。
 不老不死とも蘇った死者とも言われ、見境なしに人間を襲い、仲間を増やすと恐れられているが、それは伝説上の存在として一般に伝えられている吸血鬼像だ。
 いや、かつての吸血鬼は、そうであったかもしれない。
 けれど現在の吸血鬼は、ある『絶対なる掟』を守り、必要以上に人間の血を求めはしない。なぜなら、それは彼らを生かし、人間との調和を目指すうえで大切な条約だからである。

 そう、彼らは伝説上の存在ではなく、人間の中で、人間と同じように生きている。
『花嫁の掟』という、ただ一つの掟を守りながら。


 ――って感じの、深夜特撮番組をやります。
 え? 何だかホラードラマみたい? いやいや、メインはアクションとCGですから、一応。
 それで、主人公の吸血鬼と花嫁と、敵役を探してるんですよ。もちろん、他の役を作ってもいいし、お手伝いして下さる人も大歓迎です。
 ほら、ここに設定を記した書類がありますから、読んで興味持って頂けたら、是非。


【設定】
●セリバテール
 血を吸う前の吸血鬼のこと。人間の数倍以上の嗅覚、視覚、運動能力を持つ。寿命は人間とほぼ同じ。特殊な薬剤でしか回復しない慢性的な貧血症を持つ他は人間と同じで、太陽光や銀も平気。ニンニクは食べても害はないが、匂いが苦手なものが多い。血を吸うのが嫌で、セリバテールのまま生涯を終えた吸血鬼もいる。セリバテール時は人間と変わらない成長速度だが、ヴァンピールとなった時点から極端に成長速度が遅くなるため、たいていの吸血鬼は20歳ごろまではこの状態で、人間と同じように過ごす。

●ヴァンピール
 花嫁の血を吸って生きる吸血鬼のこと。セリバテール時の能力に加え、動物への変身、翼(蝙蝠風に限らず、様々な翼の形がある)での飛行、肉体及び血液の硬質化・武器化と強力な再生・治癒能力を持つ。銀や激しい太陽光に触れると、その部分が熱傷となり放っておくと骨まで溶ける。銀・太陽光で全身の50%が溶ける、頭・心臓が吹き飛ぶ、失血死、寿命以外の死因はない。平均的寿命は200年、最長寿記録は350年。貧血症の症状はなくなり、極端に血液を消費する戦闘や怪我などをしない限りは、一ヶ月に一回の血液摂取で充分となる。契約した花嫁であれば、その者がどこにいても場所を知ることができる。花嫁が死亡した場合、次の花嫁が見つかるまでの期間は薬剤で過ごす。

●トレートル・ヴァンピール
 花嫁の掟を破ったり、犯罪を犯した吸血鬼のこと。アンバサッドより派遣されるヴァンピールにより、消去(死刑執行)または逮捕される。(掟を破った者は被害者の数に関わりなく死刑になる)また、トレートル・ヴァンピールから人間を守る組織として人間が設立した『ヴァンパイアハンター』という組織がある。この組織は基本的にヴァンピールとの協力はせず、一般の人間にも伝わってはいない。

●サクリフィス
 吸血鬼が持つ特殊なウィルスが感染した人間のこと。ウィルスは吸血鬼の牙から感染する。感染した人間は自我を失い、極度の貧血症となって、それを補おうと人の血を求める。サクリフィスになると回復する見込みはない。ただし、ウィルスは潜伏期間が2時間あり、その間に抗生物質を投与すれば救出できる。ちなみに、抗生物質で助かった人間が、花嫁となることはない。

●花嫁(ヌーヴェル・マリエ)
 吸血鬼のウィルスに対する抗体を持っている人間のこと。女性・男性に関係なく、こう呼ばれる。花嫁か否かは、吸血鬼であればその者の血の匂いや体臭(甘かったり柑橘系だったり様々)でわかる。その吸血鬼にとって好きな匂いが、自らに合っている花嫁と言われる。花嫁は突然変異では生まれず、遺伝的なもの。両親のどちらも花嫁でなくとも、その祖母祖父・先祖の中に花嫁が必ずいる。

●アンバサッド
 各国でヴァンピールの統括をしている吸血鬼たちの機関のこと。ヴァンピールに仕事や住居を提供したり、吸血鬼たちの生活に大切な薬や太陽光対策の商品(日傘やジェルなど)の通信販売もしている。ここから仲介される仕事は主にトレートルやサクリフィスの消去、要人警護、スパイなどの危険な仕事。(仲介なしで人間と同じ仕事をしている者もいる。例えばホストやホステスなど夜の仕事)

●吸血鬼の認知度
 全世界の70%の人間が『伝説上の生き物で危険な化け物』と認識、ヴァンピール本来の姿を知るものは30%程。そのうちの20%が花嫁。吸血鬼と人間との混血児もいるが、その場合は50%の確立で人間になる。また、セリバテールと人間との間に生まれた子は、100%人間。

●花嫁の掟の内容
 ヴァンピールはウィルスに対する抗体を持っている人間、ヌーヴェル・マリエの血液のみ摂取を許され、血液を提供したヌーヴェル・マリエに対しその身を守ることを約束する。
 ヴァンピールは生涯において複数のヌーヴェル・マリエを持つことが許されるが、同時期に一人以上のヌーヴェル・マリエを持つことは許されない。
 ヌーヴェル・マリエはヴァンピールに対し、自らの意思で血液の摂取を許可することができ、また拒否することもできる。
 ヴァンピールとの血の契約を交わしたヌーヴェル・マリエは、そのヴァンピールに対し定期的に血液を提供する義務を持つ。
 この掟を破りしトレートル・ヴァンピールは、ヴァンピール及びヴァンパイアハンターの手によって消去する。


●『吸血鬼の花嫁』出演者募集
 必ず決めて欲しいキャストは以下になります。
1.主人公格の吸血鬼
2.花嫁
3.花嫁を狙うトレートル・ヴァンピール
 その他、主人公や花嫁の友達、ハンターなど、自由に役を増やしてもOKです。

 ストーリーの主軸は「セリバテールである主人公が花嫁に出会う。しかし、その花嫁は何らかの理由でトレートル・ヴァンピールに狙われていた。主人公はトレートル・ヴァンピールから花嫁を守ることができるのか!?」という感じになります。
 この主軸から大幅に離れなければ、自由にストーリーを作って頂いて構いません。

●今回の参加者

 fa0406 トール・エル(13歳・♂・リス)
 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa0607 紅雪(20歳・♀・猫)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa3076 メイ・エル(20歳・♀・鴉)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa4131 渦深 晨(17歳・♂・兎)
 fa4133 玖條 奏(17歳・♂・兎)

●リプレイ本文

●崩壊した村
 必死に逃げる女性(葉月竜緒)に、黒い翼を生やしたメイ・エル(メイ・エル(fa3076))が腕を伸ばした。長い牙が光り、女性が悲鳴を上げる。
「やっぱり男の花嫁の血じゃないと美味しくないなぁ。久しぶりにあの子の血が吸いたいってカンジィ?」
 言って、メイは血まみれの口元を歪ませ、歌い始めた。


●アンバサッド
 セフィリス(月 美鈴(fa3366))が受話器を手に話していた。
「‥‥そう、わかったわ」
 セフィリスが受話器を置き、後ろを振り返る。そこにはトール・エル(トール・エル(fa0406))が立っていた。
「村人の大半が血を吸われて、トレートル・ヴァンピールは逃亡したそうよ。発見が早かったから、ウィルスの感染は大丈夫だと思うけれど‥‥」
「犯人の特徴は?」
「長い髪に黒い翼‥‥あと、歌ね」
「‥‥歌?」
 セフィリスの言葉に、トールの目が鋭くなる。
「目撃証言によれば、その犯人の歌に男性達がフラフラと引き寄せられて‥‥トール?」
「そいつの消去は私に任せなさい。いいですわね」
「待ちなさい、トール!」
 最後まで聞かずに踵を返したトールに、セフィリスが制止をかける。しかし、トールは聞かず、部屋を出て行ってしまった。


●暗い路地裏
 数人の男が気を失って転がっている。そこに立っているルー・ヴァイス(亜真音ひろみ(fa1339))を、リューイ(玖條 奏(fa4133))が見つめていた。
「キミ、吸血鬼だろ? 喧嘩なんかしたら‥‥」
「殺してはいない」
 リューイが反論しかけた瞬間、ルーの身体が傾いだ。貧血を起こしたのだ。
「大丈夫?」
「‥‥これだからセリバテールは‥‥」
 言いながらルーが薬を探すが、喧嘩の際に落としたのか、見つからない。舌打ちするルーに、リューイが自分の持っていた薬を渡す。ルーは逡巡したあとそれを受け取り、薬を飲み込んだ。
「‥‥人間ならもう少し別の生き方もできたのにな‥‥薬、助かった」
 ぽつりと礼を言って去っていくルーを、リューイはただ見送っていた。


●夜の公園
 リューイがぼんやりと歩いていると、男と女の声が聞こえてきた。覗いてみると、メイがシュア(渦深 晨(fa4131))の腕を掴み、シュアはメイを睨みつけている。
「久しぶりにその血が欲しくなったんで、もらうね」
「‥‥相変わらずだね。でも僕はキミに血をあげる気はないよ!」
「逃げろ!」
 危険を感じたリューイがメイに体当たりをし、シュアの腕を掴んで走り出した。だが黒い翼を広げたメイに一瞬で回り込まれ、リューイがシュアを背中に庇う。そのとき、三人の間を遮るように白い翼が舞い降りた。銀刃の短剣を構えたトールである。
「やっと見つけましたわ‥‥神を冒涜せし行為、我が姉とて許しません! 大人しく罪にとわれなさい!」
「何でぇ? 人間は肉や魚を自由に食べてるのに私達は1つしかダメなの? メイ達は食物連鎖の頂点にいるんだから自由に選んでいいじゃん」
「わたくし達は神ではなく悪魔によって生み出された者。神が作りし自然の摂理に当てはまる筈がありませんわ!」
 メイの問いにトールはそう答え、リューイに携帯電話を投げ渡す。
「ここから離れなさい。それからこれを使ってアンバサッドへ連絡しなさい」
「‥‥何かよくわかんないけど、ありがとな!」
 携帯電話を受け取り、リューイがシュアの手を引いて公園を脱出した。それを見送ったトールが銀刃を閃かせると、メイがサブマシンガンを取り出す。銀刃がメイの肩を掠め、トールの腕が弾け飛んだ。
「‥‥食べ物の恨みは怖いよぉ!」
 メイが憎々しげに、煙を吐く肩を抑えてトールへ銃口を向けた。咄嗟に避けるが、その動きを追うメイによって、トールの身体がどんどん血に塗れていく。相打ち覚悟のトールが、叫び声と共にメイに迫った。
 闇夜に白い羽が散った。


●夜の路地裏
 必死に逃げてきたリューイとシュアは壁に背中を預け、荒い息を吐いた。
「迷惑かけてごめん‥‥僕、あいつの花嫁だったんだ‥‥契約は破棄したんだけど‥‥」
「そうだったのか‥‥でも別にシュア‥‥だっけ? キミが謝ることじゃないさ。悪いのはあいつだろ? そうそう、名前言ってなかったね。俺はリューイ」
 にこりと笑うリューイに、シュアが小さく笑みを返す。リューイはトールに渡された携帯電話を取り出すと、そこに表示されていた番号に電話をかけた。
「トレートル・ヴァンピールに襲われてるんだ!」
「今はアンバサッドのヴァンピールが戦ってくれてるけど、危ない気がする‥‥早く誰か来させて!」


●再びアンバサッド
 二人から連絡を受け取ったセフィリスの後ろで、ルナ(紅雪(fa0607))と洸耶(橘・月兎(fa0470))が書類を見つつ、難しい顔をしている。
「‥‥面倒なことになったわね」
「すぐに参りましょう」
 そう言うルナと洸耶にセフィリスが頷くと、セフィリスは受話器の向こうに話しかけた。
「至急、応援をそちらへ向かわせます」


●再び夜の路地裏
 セフィリスの言葉を聞いて携帯電話を切ったリューイは、どこか隠れる所を探そうと、シュアの手を掴んだ。
「みーっけ」
「げ! 見つかった!」
 しかし、翼で空を飛んで来たメイにあっさりと見つかってしまい、慌てて逃げようとした二人の目の前に、何の偶然かルーが現われ、二人は足を止めてしまう。
「え?」
「セリバテールなんて雑魚ってカンジィ」
 そこに、サブマシンガンの銃口を向けられ、リューイが慌ててシュアを庇った。
「な、何なんだ、おまえら!」
 うろたえるルー。だが、リューイは背中に傷を負って、答えることができない。リューイは何とか立ち上がり、シュアを背中に庇った。リューイの足元に銃口が向けられ、足首が吹っ飛ぶが、それでもリューイはシュアを庇う。
「何で立つんだよ‥‥いっそ殺されれば楽になれるじゃねぇかよ!」
「俺が死んだら、シュアが奪われる‥‥こんな奴に、シュアを渡すものか!」
 悲観的なルーの言葉に、リューイが血を吐きながら叫んだ。その言葉にルーが驚いたような顔をする。シュアがにっこりと微笑んでリューイの背中を支えた。
「リューイ‥‥僕の血をあげる。闘おう、僕らの力で」
「シュア‥‥わかった」
 契約を始めようとする二人を阻止せんと、メイが銃口を向けた。だが引き金を引こうとしたとき、その指はルーの手によってがっちりと掴まれている。
「キミ、何で‥‥」
「別に‥‥あたしにも何か出来るんじゃないかと思っただけだ」
 メイを睨みつけながら、ルーはリューイの問いに答えた。それに頷いて、リューイはその牙をシュアの首筋に埋める。瞬く間にリューイの背中の傷や足首が治癒、再生していく。
 メイが腕を振り払い、ルーを壁に叩きつけた。気絶したルーが腕から離れると、メイは銃口をリューイへと向ける。瞬間、サブマシンガンが両断された。
 リューイの流した血は、今や剣へと姿を変えていた。メイも自らの腕を鎌へと変化させる。リューイとメイが同時に飛びかかり、刹那、鎌はリューイの肩を引き裂き、剣はメイの心臓を貫いていた。
「何でぇ‥‥神様は吸血鬼なんて作ったんだろうってカンジィ‥‥」
 自らの血で口元を濡らし、崩れ落ちるメイの最後の言葉を無言で受け止めたリューイも、肩の深手に膝をついた。その身体をシュアが慌てて抱きとめると、洸耶とルナが駆け寄って来る。
「安心しなさい。私達はアンバサッドの者よ」
 その声に安心したのか、リューイは意識を手放した。


●アンバサッド病室
 目を覚ましたリューイが見たのは、嬉しそうな顔のシュアだった。
「ようやく、気付いたようね? ここはアンバサッドよ」
 そう言ったのはセフィリスだ。その後ろに、洸耶とルナの姿も見える。
「トール‥‥あなたたちを助けたヴァンピールも、今は全快して元気に仕事をしています。それと、もう一人のセリバテールは比較的軽症でしたので、手当てをしてから帰しました」
「あなたには色々と教えて、覚えてもらうことがたくさんあるわ‥‥後は、こっちの人が教えてくれるから‥‥頑張りなさい」
 洸耶の言葉を聞いて安堵した様子のリューイに、セフィリスが言って、部屋を出て行く。
「さて、と。貴方がヴァンピールとして生活に慣れるまでのしばらくの間、私が貴方の教育役として色々とサポートしていくわ。分からない事があれば気軽に聞いて頂戴ね。」
 宜しくね、と笑うルナに、リューイが頭を下げた。その様子を見ながら、洸耶がシュアに話しかける。
「一緒にいて楽しいのに何故か段々と辛くなってしまうのは、同じ時を歩めない以上は当たり前のこと‥‥どうしても花嫁という立場が嫌になる事があったなら‥‥せめてお互いに後悔しない結末を探してみなさい」
 その言葉にシュアが一瞬目を見開いたが、にっこりと笑って答えた。
「‥‥大丈夫。きっと、リューイとなら、楽しい未来を見れると思います」
 リューイを見るシュアの目は、希望の光に溢れていた。


●丘の上の墓場
 真新しい石墓の前に、トールが立っている。墓の上に半透明のメイが腰かけ、笑っていた。
「‥‥ヴァンピールなど、この世からいなくなれば平和になるのでしょうけどね。でも、わたくし達は生きている‥‥皮肉な運命ですわ」
 呟き、トールが去っていく。その背中に向けて、メイが歌を歌った。魅了するための歌ではない、切なく、穏やかな歌声。そんな歌が響く中、メイの姿は少しずつ風に溶けていった。

 END.