湖の音楽祭 アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/30〜08/01
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●本文
緑溢れる森の中にある、湖の畔。
町民のジョギングコースにもなっている、長閑な場所だ。
湖の淵に沿って設置されているベンチには、散歩中の人たちが腰をかけ、静かに揺れる水面を眺めている。
普段は風にさざめく木々の音や人々の話し声しか聞こえないこの場所だったが、最近は風に乗って美しい音楽が流れるようになっていた。
時には楽しく、時には切なげに。様々な楽器の演奏者が集まり、誰もが知っている有名な曲から、演奏者オリジナルの曲まで、たくさんの音楽が湖の畔に広がっていく。
ベンチにはいつしかたくさんの人が座っていた。音楽鑑賞を目的に来る人、ジョギングの休憩中に一曲聴いて行く人、曲を聴きながら読書をしている人、気持ち良さそうにうたたねをしている人……様々な人が様々な思いを抱き、様々な形で音楽を聴いている。
美しい音楽が揺蕩う中で、あなたも一時の安らぎを感じてみませんか?
――ということで、演奏者を募集しています。
今回のメイン楽器は「ヴァイオリン」ですので、ヴァイオリン演奏者を中心に募集しております。他の楽器演奏者の方も参加可能ですが、今回はヴァイオリンのサポートと言う形でお願い致します。
クラシックであればどんな曲をどんな順番で演奏して頂いても構いません。
音楽会は午前の部と午後の部がありますので、どちらに出て頂けるかを教えて下さい。もちろん、一日続けて出演して頂いても構いませんよ。
楽器はあまりにも高価なものでない限りはこちらで用意も出来ますし、使い慣れたものを持って来て頂いても大丈夫です。
その他、演奏者以外にステージの設置など裏方のお仕事でお手伝いして頂ける方もひっそり募集中です。
音楽鑑賞を目的に来て下さる方も大歓迎ですよ。
水鳥企画 『湖の音楽祭』担当、原嶋東子
・基礎知識
●水鳥企画
地方へクラシックを普及するために発足した団体。主な活動はコンサートやイベントの企画、作成など。
●リプレイ本文
●音楽祭準備
緩やかに水面が揺れる湖の畔。木立を背にしたベンチに座る相沢 セナ(fa2478)は、準備に走り回っているスタッフたちを見ていた。そこに、裏方の手伝いをしていた姫乃 舞(fa0634)が声をかける。
「すみません、もう少し時間がかかるのですけど…」
「ああ、ゆっくり待たせてもらうよ。天気がいいからな。部屋の中にいるより、空の下にいた方が気持ちがいい」
言って、相沢がにこりと笑うと、姫乃は軽く頭を下げて準備に戻っていった。相沢がポケットからハーモニカを取り出す。爽やかな音色が湖に響き、スタッフたちが相沢に笑顔を向けた。
その音色が止まると、担当である原嶋東子が拍手を贈り、話しかける。
「お上手ですね。確か、ピアノをご専門とされていたと記憶していますが‥‥相沢セナさん」
「よくご存知で。今日は鑑賞を目的に来たんだがね」
「楽しんでいって下さいね」
二人が話していると、演奏者たちを乗せた車がやって来た。原嶋が挨拶に向かう。
「今日はよろしくお願い致します」
「いい演奏会にしましょうね」
水鏡・シメイ(fa0509)が原嶋と握手を交わした。そして、小桧山・秋怜(fa0371)は車から降りてきたミスティ(fa2072)に持っていたミューズフルートを渡す。
「頼まれていたミューズフルートです。どうぞ」
「わぁ……いいんですか?」
ありがとうございます、と頭を下げるミスティ。その後ろでステージの設置が終わり、ステージの設置が終わり、ピアノが運ばれていく。小桧山がピアノに近付いた。
「少し触ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
原嶋がにこりと笑うと、小桧山が軽く鍵盤に指を滑らせた。簡単な曲を弾いて、ほうとため息を吐く。そのピアノの音色に、相沢も少し驚いたような顔をしていた。
「いいピアノですね」
「うちの代表者が作曲家でして、ピアノには拘りがあるんですよ」
原嶋の言葉に、なるほどと小桧山が頷く。
ステージ横では、豊城 胡都(fa2778)が持っていたクーラーボックスを姫乃に渡していた。
「冷えたゼリーを持って来たんだ。良かったら休憩のときに配ってもらえればと思って」
「わぁ! ありがとうございます!」
「佐武さん、ヴィオラをチェックして頂けますか?」
原嶋が佐武 真人(fa4028)に声をかける。佐武は渡されたヴィオラをチェックして、満足気に頷いた。水鏡がその様子を見ている。
「やっぱり、バイオリンとチェロがあるところには、ヴィオラがないとな」
「そうですね。ヴィオラがあると、曲も締まりますしね」
佐武と水鏡が話していると、セーヴァ・アレクセイ(fa1796)が近付いて来た。手には今回の進行表を持っている。
「なぁ、午前のシチリアーナさぁ、ラストに持ってきちゃ駄目かな?」
「お好きな曲なんですか?」
「へへっ、まあな。やっぱフォーレファンとしては気合入れたいし」
楽しそうに笑うセーヴァに、原嶋がステージが完成したことを伝えに来た。見れば、観客も入って来ている。
湖の音楽祭が始まった。
●午前の部
さわさわと風に木々が揺れる中、バッハの『G線上のアリア』が静かに始まった。胡都の弾くヴァイオリンの音色に合わせて、水鏡が同じくヴァイオリンで副旋律を担当する。ゆるやかに小桧山のピアノが入り、ミスティのフルート、佐武のヴィオラ、セーヴァのチェロと続いた。
2曲目はフォーレの『夢のあとに』、そして3曲目はボッケリーニの『メヌエット』だった。おっとりとした曲調が続き、観客も目を閉じて聞き入っている。胡都の腕がゆっくり柔らかく動く。
すると、4曲目のブラームス『ハンガリー舞曲第1番』で一転、曲調が物悲しくも力強いものになった。セーヴァのチェロの低い音が迫力を増し、ミスティのフルートが切なげに響く。
5曲目はモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク』だ。有名な曲なので、鑑賞客も音に合わせて身体を揺らすものがいた。相沢もベンチを立ち、様々な角度から楽器の音を聞いている。そしてシューベルトの『アヴェ・マリア』で再び静かな音に戻り、シューマンの『トロイメライ』、エルガーの『愛の挨拶』と続く。緩やかにリズムを刻む佐武のヴィオラが耳を柔らかく叩く。
最後は『シチリアーナ』だ。セーヴァがファンだというフォーレの曲に、チェロを弾く手にも力が入る。それに負けじと胡都のヴァイオリンも素晴らしい響きを聴かせ、午前の部は穏やかに終わりを迎えた。
●お昼休憩
「お疲れ様ですー」
原嶋と姫乃が演奏者やスタッフたちに弁当と飲み物を配り歩く。弁当は地元の弁当屋が作ってくれたもので、土地の幸がふんだんに盛り込まれたものだった。演奏者やスタッフたちが、その弁当に舌鼓を打つ。
「たくさん‥‥人が聴きに来てくれてましたね‥‥」
「クラシックってまだ固いイメージがありますけど、こういう場所だと身近な感覚で聴くことができるんでしょうね」
「ベンチで寝てた人もいたぜ。気持ち良さそうだったなぁ」
ミスティの感想に水鏡が頷くと、セーヴァが弁当を食べながら呟いた。
「麦茶とローズティーがありますが、いかがですか?」
姫乃が相沢や観客にお茶を勧めた。相沢が礼を言ってローズティーを受け取る。
「姫乃さんも、お弁当食べちゃって」
「はーい」
原嶋に言われ、姫乃も弁当を開けた。スタッフや演奏者たちと他愛無い話をしながら、昼食を進める。
皆が粗方、弁当を食べ終わったとき、姫乃は胡都からもらったゼリーを配った。
「胡都さんからの差し入れです」
「涼しげでいいですね。ありがとうございます」
「喜んで頂けると嬉しいです」
ゼリーを受け取った水鏡が胡都に礼を言うと、胡都も笑顔を返す。
「さあ、午後の部も頑張ろうね!」
ゼリーを食べ終わる頃、小桧山が言って、午後の部が始まった。
●午後の部
最初の曲である『メヌエット』は、午前の部とは違って、モーツァルトのものだった。今度は水鏡が主旋律を担当し、胡都が副旋律を弾いた。2曲目はメンデルスゾーンの『春の歌』と午後も緩やかに始まり、佐武のヴィオラが気持ち良さそうにリズムを刻む。
そこに、午前と同じく『愛の挨拶』が続いた。けれど、穏やかな曲調だった午前とは違い、小桧山のピアノが楽しげに跳ねるようなものに変わっており、全体に明るい曲となっていた。続いて、ミスティのフルートの音色が可愛らしさを増すシュトラウスの『南国のバラ』や、明るくアレンジされた『G線上のアリア』で観客も笑顔になり、水鏡も楽しげにヴァイオリンを響かせる。
6曲目のベートーヴェン『ロマンス第2番』、7曲目の『夢のあとに』で再び静かな曲調に戻ったかと思うと、最後は『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク』だった。軽やかにヴァイオリンの音色が響き、ピアノが踊るように続く。フルートが明るさを盛り上げ、ヴィオラとチェロがそれをサポートする。
ゆっくりと日が傾いていく中で、午後の部は賑やかに終わりを迎えた。
●演奏会終了
スタッフたちが設置したステージを解体していく。それを見ながら、演奏者たちはそれぞれの楽器をケースに仕舞った。
「秋怜さん‥‥あの、フルート‥‥ありがとうございました」
「こちらこそ、使ってくれてありがとうね。とてもいい音色だったよ」
ミューズフルートを返すミスティに、小桧山が笑顔で答える。そこに、相沢が近付いてきた。
「いい演奏会でした。久し振りに安らかな気持ちになれましたよ」
「ありがとうございます!」
相沢の賞賛に、演奏者たちやスタッフも嬉しそうに笑った。それを見回して、小桧山が微笑む。
「ねえ、良かったら、これから打ち上げをしない? 湖畔の夜空を見ながらさ」
「あ‥‥僕も‥‥皆とゆっくり‥‥お話できる時間が‥‥欲しいです」
「いいな、それ。良かったら、あんたも一緒にどうだ?」
「おや、いいんですか?」
「じゃあ、食べ物と飲み物、頼んできましょうか」
ミスティが小桧山に同意し、佐武が相沢を誘うと、原嶋が店に電話をする。
●湖畔の打ち上げ
スタッフがどこからか調達してきたテーブルの上に、地元の料亭から届いた料理がずらりと並んだ。それを各々が摘みながら、今日の音楽祭のことや、世間話に花を咲かせる。
「こうやって皆で集まって一緒に仕事が出来たってのは本当に良かったと思うよ。また今度一緒の仕事をする事があったらよろしくね」
「こっちこそ、よろしくな!」
小桧山が言えば、セーヴァを初め、演奏者たちが持っていたコップを掲げる。乾杯の音頭とともに、ガラスを打ち付けあう音が響いた。
END.