Klavier美楽章アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
2万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
01/29〜01/31
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●本文
普段はオーケストラやオペラ、演劇など、多目的に使われるホールに、様々な撮影機材が運ばれていく。設置されたカメラに映し出されるのは、ステージの真ん中にあるグランドピアノだ。
その周りで、ピアノの調律を確かめたり、カメラの位置を直しているのは、ピアノ曲メインのクラシック番組『Klavier』のスタッフたちである。演奏者に、より良い環境で演奏してもらう為、スタッフたちが忙しなく動く。
そんな中、今回の撮影でピアノを演奏する演奏者たちが集まった。彼らの手にあるのは事前に渡された、6段階にレベルの分けられた楽譜集だ。演奏者たちには、自らに合ったレベルの中から一曲を選択し、演奏して貰う。その選曲如何で、番組の評価が決まるのだ。
さて、今回の演奏者は、一体どの曲を演奏してくれるのだろうか。
●楽器について
当番組で使用される楽器は、ピアノのみです。ピアノはこちらで用意したものを使って貰います。
基本的にはソロですが、曲目やアレンジによってはピアノを2台まで用意することが出来ます。
●選曲について
以下に記されたリストの中から、自分が弾く曲を一曲だけ選んで下さい。
その際、自分の技術レベルに合ったものを選ばないと、演奏に失敗し、番組の評価が落ちる可能性がありますので、よく考えて選曲して下さい。
★の数が多いほど、難易度が高いです。
演奏時には、その曲をどのように弾くのか考えて弾く事で、更にいい演奏になるかと思います。
原曲を壊さない程度のアレンジも可能です。
●曲リスト
★☆☆☆☆☆
紡ぎ歌(エルメンライヒ)
歌劇「ファウスト」のワルツ(グノー)
ウィーンナマーチ(ツェルニー)
★★☆☆☆☆
エリーゼのために(ベートーベン)
トルコマーチ(モーツァルト)
ベニスの舟歌(メンデルスゾーン)
★★★☆☆☆
乙女の祈り(バダジェフスカ)
楽興の時Op,94 No.3(シューベルト)
タンホイザーマーチ(ワーグナー)
★★★★☆☆
トロイメライ・ロマンス (シューマン)
即興曲Op,90 No.2(シューベルト)
トルコマーチ(ベートーベン)
★★★★★☆
愛の夢 第3番(リスト)
ロンドカプリチオーソ(メンデルスゾーン)
古風なるメヌエット(ラベル)
★★★★★★
革命のエチュード(ショパン)
ハンガリー狂詩曲2番(リスト)
水の反映(ドビュッシー)
●リプレイ本文
●紡ぎ歌(エルメンライヒ)
弾むような音がホールに響き始める。ピアノの前に座ったMIDOH(fa1126)は、楽しそうに口元に笑みを浮かべながら、鍵盤に指を躍らせていた。まるで女の人がおしゃべりに興じているかのような軽快なメロディーに合わせ、MIDOHの身体もリズムを取る。
紡ぎ歌はそれほど複雑な曲ではない。普通に弾く分には、MIDOHの技術ならば充分簡単である。その上、MIDOHは昔からこの曲が好きだった。楽譜を見る前に、耳で覚えたくらいだ。
MIDOHは、聞き慣れたそのメロディーに、ジャズ風のオフビートやスウィングのフェイクを加えた。糸を紡ぎながらのおしゃべりが、だんだんと白熱していく。音の強弱に注意を払い、軽快に、和音が濁らないように歯切れよく。
そして、仕事ながら楽しい時間はあっという間に終わり、糸は全て紡がれた。後に残るのは空回りする糸車だけ。
MIDOHは、名残惜しそうに曲を弾き終えると、椅子を立ち、カメラに向かって頭を下げた。
●歌劇「ファウスト」のワルツ(グノー)
ステージに上がって来たのは、黒のスーツ姿をした門屋・嬢(fa1443)だった。椅子に座り、滅多に弾かないピアノに微かに戸惑うように触れるが、意を決したように鍵盤を弾き始めた。
初めは低音をしっかりと。そしてワルツの曲調に入ると、門屋の指は賑やかな街で若い娘たちが華やかに踊るように、鍵盤の上を滑る。ピアノを弾く門屋自身も、己のモットーでもある『明るく、楽しく』を現すように笑みを浮かべていた。
悪魔の力によって青春を取り戻したファウストが、ある娘に恋をする。門屋は美しく華やかな曲調の中にもファウストの恋をする喜びを感じられるように、滑らかなレガートに気をつけた。アレンジは一切なく、特に目立つような技術もないが、それでも心の底から楽しげに演奏する門屋に、ピアノも答えるように明るい音を奏でる。
そして最後はこれでもかというほど楽しげなコーダをホールに響かせ、門屋は今にもやりきったと叫びそうな笑顔でフィニッシュを迎えた。
●エリーゼのために(ベートーベン)
一度は聞いた事のある、有名な旋律が始まる。愛しげに鍵盤へ指を滑らせているのはジェイムズ・クランプ(fa3960)だ。流れるようなメロディを、春風のように優しく滑らかに、恋人への愛を語るように奏でる。失敗が好まれないという状況に、指に少々力が入っているような感じもするが、ジェイムズの技術は曲を弾くに充分であったし、曲を理解した上での気持ちも込められていて好感が持てた。
一際明るい中盤を、軽やかなダンスステップのように躍らせたジェイムズは、そのまま流れるように佳境へと進む。そして、穏やかだった曲調から突然強いメロディーラインへと変わるときには、低音を力強く響かせ、恋人への不信感を押さえようとするその苦悩を表現した。
最後は不信感を振り切り、恋人への思いも新たに元の穏やかなメロディへと戻る。同じメロディではあるが初めよりも少し強めに、子供のような甘い恋情だけでなく、包み込むような寛容なる愛をイメージして、ジェイムズは満足気に弾き終えた。
●タンホイザーマーチ(ワーグナー)
少し緊張気味にピアノの前に座った剣橋深卯(fa1030)は、そっと鍵盤に白い指を置いた。そして一つ息を吸い、マーチを奏で始める。
失敗を恐れているのか、剣橋はアレンジを入れる事はなく楽譜通りに弾く。その演奏には多少の硬さと物足りなさを感じるが、目立った荒さもなく、酷い失敗を起こしそうな気配もない。可もなく不可もなくと言ったところだろう。
いかにも前向きで、弾むように元気なメロディに、剣橋の口元に笑みが浮かんだ。それほど複雑な難しい曲調もないために、剣橋は曲自体を楽しみながら、すんなりと進めていった。
そして終盤も同じように一定のリズムを崩さず、歯切れのよいフィニッシュを迎える。剣橋は椅子から立ち上がると、カメラに向かって丁寧にお辞儀をした。
●乙女の祈り(バダジェフスカ)
黒のロングドレスをさらさらと揺らし、ステージの上に上がって来たマリーカ・フォルケン(fa2457)は、一つ深呼吸をすると、そっとピアノに触れた。初めはその大きなステージの雰囲気に緊張していたが、ピアノ自体は仕事上、触れる機会が多い。一度鍵盤に指を置けば、マリーカはすぐに演奏へ没頭して行った。
バダジェフスカが18歳の時に作曲したと言うこの曲の、初々しさや勢い、無垢の情熱を表現するかのように、マリーカは丁寧に音を紡いでいく。曲は楽譜通りの演奏ではあっても、演奏者の気持ちが入る事によって、他の者が弾くのとはまた違う音を響かせるもの。特にこれだけ有名な曲だと、様々な先人達が積み重ねてきたものがあるため、自分には新たな解釈を加える余地はないと、マリーカは思っている。
だからこそ、マリーカはその曲に込められた作曲者の気持ちを思い、素直な気持ちでピアノに向かう。その姿勢はとても好感の持てるもので、安心して耳を預けられるものだった。
曲を弾き終えて立ち上がったマリーカは、満足気に微笑むスタッフたちを見下ろし、ほっと息を吐いた。
●古風なるメヌエット(ラベル)
ステージに上がってきたのは、エルティナ(fa0595)とルナティア(fa5030)の2人だった。エルティナが白、ルナティアが黒と、色違いのノースリーブワンピースを着ている。2人は隣り合って一つの椅子に座ると、同時に鍵盤に指を置いた。
ルナティアがプリモを、エルティナがセコンドを担当する。一人で弾けば、恐らく彼女たちの技術では難しかったであろう曲も、連弾にアレンジした事で負担が減り、逆に深みを増していた。
その大きな理由として、ピッタリと合った二人の息があった。通常、連弾はパートナーとどれだけ息を合わせられるかが問題となる。その点、2人は幼い頃から連弾を共にしているため、お互いがどんなクセを持ち、どうカバーすればいいのかをよく知っていた。ある意味、奇跡にも似た双子のシンパシーが冴える。
曲は中盤に差し掛かり、2人の指にも力が入る。女性では力強さに物足りなさを感じる部分を、連弾にアレンジをすることでカバーした。互いに目配せをして息を合わせる二人に、カメラもズームインする。
終盤での低音の旋律が少々甘い気もしたが、全体的にアレンジもよく、聞き応えのあるものであった。2人は最後の音を印象深く終えると、揃ってお辞儀をした。
●愛の夢 第3番(リスト)
一本に纏めた髪が崩れていないかを確かめ、音羽 英(fa4054)はステージに上がった。ちらりと下を見れば、昨日までスパルタレッスンをしてくれた月.(fa2225)がいる。大丈夫、とでも言うように頷く月.に音羽も頷き返して、ピアノの前に座った。
目を閉じ、そっと左腕に触れた後、音羽は鍵盤に指を滑らせる。初めは静かに、そしてゆるやかに盛り上がりを見せていった。中盤になり、曲は少しずつクレシェンドしていく。危惧していた事もなく、滑らかに動く左手に、音羽に笑みが浮かぶ。
問題は最後の、両手を交差し、左手で行うメゾスタッカ−トだ。絵的にも見栄えする部分だけあって、カメラもそれを逃さないようにしているため、失敗は許されない。音羽は一瞬、左手に願うような目線を向け、両手を交差させた。耳のいい者が聞けば、若干左手の音が弱いのが判ったが、見た目には気付かないほどだったし、何とか誤魔化せる程度のものだったため、音羽はそのまま何事もない顔をしてフィナーレを迎える。
立ち上がり様に見えた月.の笑顔に、音羽は誇らしげに左手を叩いた。
●革命のエチュード(ショパン)
しんとしたホールに、力強いフォルテッシモが響いた。そして32分音符が次々と連ねられていく。
鍵盤に素早く指を走らせているのは月.だ。難しい曲ではあるが、過去に幾度か弾いている経験もあり、滑らかな指の動きを見せる。その姿を、音羽が真剣な眼差しで見つめていた。
故国が戦で陥落した事に対する怒りや絶望、悲しみ。そんなショパンの感情を表現するように、月.は思いを鍵盤にぶつける。けれど、感情に任せて鍵盤を叩きつけるような音は出さない。強弱をしっかりつけ、かつデリケートに音を紡ぐ。
左手の速いパッセージと、右手の熱血的な旋律が合わさり、燦然たる迫力でホールに広がっていく。最大で約3オクターブも往復するという、左手のアルペジオが終始続き、カメラはその超絶技巧と呼ばれる速弾きのテクニックを逃すまいと動いた。月.も恐らく初見であればここまでの指の動きは無理であっただろうが、今は過去の経験が物を言っていた。
そして終盤。コーダでやや弱々しくなったかと思うと、最後の最後で強奏が滝のようになだれ落ちて終わる。その激しい終わり方に、ホールは再び静寂を取り戻し、恭しく頭を下げる月.に、音羽はどこか誇らしげな笑みを見せた。
●水の反映(ドビュッシー)
白から水色へのグラディエーションが美しい、水をイメージしたようなドレスを着たEUREKA(fa3661)は、優雅にお辞儀をすると、静かな旋律を奏で始めた。
揺らめきに絶えず変化する水面の映像を表現したとされるこの曲は、その通りにとても象徴的で輪郭が不鮮明な印象を与える。そこがこの曲の美しいところであるが、逆に自らのテンポが取り辛いという点で演奏の難しいところでもあった。
しかしEUREKAはそんな曲にも関わらず、口元に笑みを湛えたまま、楽しそうに指を躍らせている。シンプルで綺麗な旋律は丁寧に。和音に混じるスタッカートは、木の枝から落ちて来る水滴の如く軽やかに。所々に即興的な装飾音を混ぜるなど、アレンジも入れていく。その技術力の高さに、見守っているスタッフたちも感嘆の溜息を零した。
そして小さなピアノピアニッシモから、流れるような速いアルペジオが広がる。静けさの中にも力強いメロディーが時折現れ、変化し続ける水面を表現していた。まるで強い風でも吹いたかのようなフォルテッシモからの強い旋律も、迫力のある音を奏でる。
そしてピアノピアニッシモで紡がれる主題が静かな広がりを見せると、低音と高音が共鳴するような最後のアルペジオが余韻を響かせ、EUREKAは見事なフィニッシュを迎えた。