ElDorado/VerdeBarco 1アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 中畑みとも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 02/03〜02/07

●本文

 龍によって守られ、魔法によって栄えている世界、エルドラード。
 その世界には5つの国があった。
 氷雪の国、ノルド・ノルテ。
 常夏の国、ユーク・スール。
 鉱山の国、デュシス・オエステ。
 芸術の国、オスト・エステ。
 黄金の国、セント・セントロ。


「どこに行かれたのですか!? 王子さまー!」
 5つの国の中でも、最も陽気な人々が集まるという、オスト・エステ。その中心であるベルデ城に、いつになく焦ったような兵士達の声が響いていた。
「いたか!?」
「いえ! やはり外に出てしまわれたのでは‥‥」
「馬鹿な。城門にはネズミ一匹近づいてはおらんぞ」
「隊長!」
 厳しい顔をした隊長と兵士が話しているところに、伝令兵が慌てたように走って来る。それに隊長が振り返ると、伝令兵は困ったような顔で口を開いた。
「報告します! 王子は付人と護衛を連れ、東塔の最上階より飛行魔法を使用し、城壁を飛び越えて行かれました!」
「飛行魔法だと!? いつの間にそんな高度な魔法を覚えたのだ! あの悪ガキ王子が!」
「隊長! お心は判りますが、お言葉が過ぎます! 陛下のお耳に入ったら‥‥」
「よい。あれが悪ガキなのはワシが一番判っておる」
 舌打ちする隊長に近づいて来たのは、ベルデ城の主である、オスト・エステの国王だった。慌てて膝をつく隊長に、国王は困ったように溜息を吐いた。
「もうすぐ成人の儀だというのに‥‥まあ、成人の前に羽を伸ばそうと言う考えなのだろうが、一言相談してくれれば公的な許可を与えてやったものを‥‥」
「如何なさいますか?」
 しょんぼりと呟いた国王を隊長が見上げる。それに国王はまた一つ溜息を吐いて答えた。
「仕様があるまい。急ぎ小隊を編成し、王子の捜索及び監視をせよ。民には王子は見聞を広める旅に出たと伝える」
 国王の言葉に、隊長が返事をして去って行く。その後姿をちらりと見て、国王は滅多に見せない情けない顔で空を見上げた。
「せめて、三ヶ月後の成人の儀までには帰って来て欲しいのぉ‥‥」


第1話『脱走! 緑の国の王子様』
 城を脱走した王子は早速他の国へ行こうと馬車に乗るが、途中で山賊に襲われてしまう。その山賊はセント・セントロでも有名な山賊一家で、捕まえれば賞金がたんまり出ると聞いた王子は‥‥


●必須キャスト(連続出演可能な方を望む)
・王子(主人公)1名
 喧嘩と悪戯が大好きな、自他共に認める悪ガキ王子。勉強嫌いで、周りからは馬鹿だと思われているが、実際は頭が良く、高度な魔法も難なく扱える天性の魔法使い。ついでに戦闘技術もそれなりにある。

・付人1名
 王子が幼い頃から世話役を任されており、破天荒な性格の王子にいつも振り回される苦労人。魔法や戦闘などの技術、知識には疎いが、家事スキルは最高レベル。

・護衛1名
 王子専属の護衛。王族の護衛は全戦士の憧れでもあるセント・セントロの魔法騎士団に入るのと同じ位の名誉があり、実力が必要。勿論、魔法もある程度使えなければならない。

・護衛見習い1名
 本来は新しく入ったばかりの一兵士だったが、その腕っ節の強さと、王子自身に気に入られた事により、護衛見習いとして王子に付く事になった。魔法はあまり得意ではないらしい。

・王子捜索隊2名
 隊長の命により、王子の捜索とその後の監視をする2人組。本来は隊長直属の諜報部員。監視の理由は、王子の行動を国王に伝える為であり、王子を国に連れ戻す為ではない。

※その他キャストは自由に設定して頂いて構いません。
参考/山賊一家・街の人々 など

●世界設定
・5つの国
セント・セントロ
 魔法学校がある、世界の中心国。守護龍は金色の双頭龍。

ノルド・ノルテ
 セントロの北に位置する、永久凍土が名物の冬の国。守護龍は白龍。

ユーク・スール
 セントロの南に位置する、自然豊かな常夏の国。守護龍は赤龍。

デュシス・オエステ
 セントロの西に位置する、山に囲まれた鉱山の国。守護龍は黒龍。

オスト・エステ
 セントロの東に位置する、広い土地と数千のアトリエのある芸術の国。守護龍は緑龍。

・竜王の争い
 3000年前に起った戦争。当時の白龍が領地を広げようと他国を侵略し、5頭の龍とそれぞれの国が争った。最終的にセント・セントロの上空で双頭龍と白龍の戦いが始まり、双頭龍が白龍を制した。以後、5つの国に戦争らしい戦争は起っていない。

・守護龍
 守護龍はその国の人々の思いによって生まれるため、その国民性が性格に現れる。
 戦争時、常に冬の状態で厳しい生活を送っていたノルド・ノルテの人々が、他国に対して非常に強い妬み憎しみを持っていたが為に、前白龍のような冷酷な龍が現れたとされている。

・魔法
 炎・水・風・土の四属性がある。光・闇の魔法は使用時に命を削られる為に禁呪とされ、限りなく不死である龍のみしか使う事ができない。尚、属性魔法の応用として他の生物へ変身する魔法を使う者もいるが、幻の発展系に過ぎず、力などに変化はない。
 氷系は水魔法の、植物系は土魔法の最上級魔法となる。なお、炎の最上級魔法は光に、風の最上級魔法は闇になる為、魔法学校などでは教える事はない。
 呪文は基本的なものの他は、自らが使いやすく、かつ相手に何の呪文なのかを悟られぬ為に、オリジナルのものを考えるのが通常である。
 呪文は長ければ長いほど集中力が増し、強力になるが、使い難くなる。レベルが高いと呪文を短くする事もでき、龍や最高クラスの魔法使いになると呪文無しも可能になるという。
 
・基本攻撃呪文
 左から初級、中級、上級、最上級(水・土のみ)魔法となる。
炎:フレイム、フレアル、フレアザード
水:アクア、アクオン、アクアリオン、グランキエース
風:ウィンド、ウィガル、ウィガリエン
土:ストーン、ストラガ、ストンリード、ウィールスクム
 基本呪文では、どの属性・級でも火球・水球のように丸い形で生み出され、級が上になるにつれて球が大きくなる。この球の形を変える事がオリジナルの第一歩となる。

・基本補助呪文
炎:フォルティフィアン(魔法・物理の攻撃力を上げる)
水:エルステヒルフェ(傷を癒す ※回復力は魔法力に左右される)
風:ヴィズィオン(幻を見せる ※幻は魔法使いのイメージによって作られる)
土:クレフティヒ(魔法・物理の防御力を上げる)
 基本呪文では、どれも単体のみに有効である。属性は合体させる事もでき、補助呪文では合体がオリジナルの一歩となる。

・年代
 今シリーズ『VerdeBarco』は、前シリーズ『RojoCantar』から3年後の話です。


●話数
 同じ世界観を使って数個のシリーズを考えています。
 今回のシリーズ『VerdeBarco』は全5話です。

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa1715 小塚さえ(16歳・♀・小鳥)
 fa4584 ノエル・ロシナン(14歳・♂・狸)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)

●リプレイ本文

「簡単だったな」
 夕日の下、にやりと笑ったのはアンサラー(ノエル・ロシナン(fa4584))だった。ピアノ(美森翡翠(fa1521))が叫ぶ。
「王子、何て事を! 陛下に知られたら!」
「あれだけ騒げば、知られたに決まってますわ」
 呟くのはクロウディア・フォン・フローライト(エルティナ(fa0595))だ。アンサラーを横目で睨むが、当人は気にした様子もなく、辺りを見渡している。
「此処は何処だ?」
「東の丘ですね。此処は工房ばかりで、昼も人気が少ない場所ですから」
 答えたのはアプラ・ティサージュ(氷咲 華唯(fa0142))だ。アンサラーが頷いて、歩き始める。
「王子! 何処に行くんですか!」
「馬車を探す」
「ちょっ‥‥待ちなさい、アンサラー!」
 丘を下りて行くアンサラーに、ピアノが怒鳴った。アンサラーが振り返る。
「やっと呼び捨てにしたな、ピアノ」
「当たり前よ! 不敬罪で捕まりたくないもの!」
「父上は気にもせんと思うが」
「周りの目って言うのがあるでしょ!?」
 怒鳴るピアノに、アンサラーは指で耳栓をしてアプラを見た。アプラが溜息を吐く。
「ピアノ様‥‥工房の中には人がいますか‥‥」
「あ、そうよね、ごめんなさい‥‥それと、私は呼び捨てでいいのよ?」
 言われ、アプラが困ったように笑う。と、見ればアンサラーの姿は既になく、2人は慌てた。それにクロウディアが振り向く。
「既に馬車を探しに行かれましたわよ」
「ア〜ン〜サ〜ラー!!」
 アプラが溜息を吐く中、ピアノが怒鳴りながら丘を駆け下りて行った。


 ピアノ達がアンサラーを見つけた時、彼は馬車の前にいた。
「ピアノ、金」
「ちゃんと何処に行く馬車なのか聞いたの?」
「心配せずとも、こんな時間に出発する馬車なんて、セント・セントロ行きの馬車位しかありませんわ」
 その言葉に安堵するピアノを後目に、アンサラーがさっさと支払いを済ませる。そしてアンサラーによってアプラが馬車に引き擦り込まれると、ピアノが慌てて追いかけ、クロウディアが溜息を吐きつつ続いた。


 オスト・エステを出発し、馬車は山間の道を走っていた。夕日も落ちて暗くなった道に、御者がランプに火を灯した、その時だった。
 山上から数人の男達が馬車の上に飛び乗る。衝撃に馬が嘶き、御者が必死に手綱を握った。
「な、何!?」
 アンサラーの腕にしがみ付き、ピアノが叫ぶ。アプラがアンサラーを背中に庇うと、クロウディアが馬車を飛び出た。すると、山賊達が馬車を囲んでいた。
「まさか、アルヴィレオ一家?」
「何だ、それは」
 怯えながら呟いた客に、アンサラーが聞く。
「貴族ばかりを狙う、賞金首の山賊だ‥‥」
 外ではクロウディアが山賊達と対峙している。中心に歩み出て来たのは、三日月形の耳飾を揺らしたアルヴィレオ(水鏡・シメイ(fa0509))だった。
「いるんだろう? 王子様」
「俺か?」
「王子‥‥下がってて頂けません?」
「名指しされて出ないわけにはいかんだろ」
 クロウディアの制止も気にせず、アンサラーが馬車を降りる。
「何が望みだ?」
「金目の物を頂ければそれでいいさ」
「なら、これはどうだ?」
 言って、アンサラーが見せたのは、右手首に光る緑色の腕輪だった。
「それって、陛下から賜った大切な腕輪じゃない!」
 アプラの腕に守られたピアノが叫ぶ。それにアンサラーはにやりと笑い、腕を差し出した。
「へぇ。話の判る王子様だ」
「だが、この腕輪は片手では取り外せなくてな。お前、取ってくれないか?」
 その言葉にクロウディアの目がすっと細くなり、山賊達がざわめいた。罠だと怪しむ仲間を、アルヴィレオが鎮める。
「お前達は護衛を見張っておけ。‥‥悪く思わないでくれよ、王子様」
 アルヴィレオがアンサラーに近づいて行く。


 その様子を、山上から見ている存在があった。
「あ、王子発見。‥‥何だかマズイ感じですけど‥‥って、聞いてます?」
「え? あ、はい。聞いてますよー」
 睨んでくるラウラ・キアーラ(小塚さえ(fa1715))に、アリア(葉月 珪(fa4909))が生返事を返す。その目はアルヴィレオに釘付けだ。
「あれは恐らく山賊のアルヴィレオ一家ですね。確か、この辺に住処があるらしいという噂を聞いた事があります。多分、あの耳飾の男がアルヴィレオでしょう」
「アルヴィレオ様‥‥素敵なお名前‥‥」
 思わず呟いたアリアを、ラウラの目が鋭く睨み付けた。


 アルヴィレオの手が、アンサラーの腕へと伸びる。その指が腕輪を外した瞬間、アンサラーがにやりと笑った。アンサラーの手に集まる魔力にアルヴィレオが飛び退り、山賊達の意識がアンサラーに向く。その隙にクロウディアが飛び出し、アルヴィレオの顎にレイピアを突き出した。
「‥‥馬鹿王子というのは噂だけか」
「既に知っている事を教えられるというのはつまらないものでな」
 アルヴィレオに答えるアンサラーは、何の苦も見せず宙に胡坐を掻いていた。クロウディアはその足の下を潜り抜けて来たのである。形勢を逆転されて、アルヴィレオが舌打ちをする。
 と、クロウディアが魔力を感じて飛び退った。同時に、アルヴィレオに氷で作られたバリアが張られる。
「腕輪は頂いた! 逃げるぞ!」
 一瞬目を丸くしたアルヴィレオだったが、チャンスとばかりに仲間と共に逃げ始めた。それを見送り、クロウディアが凍ってしまったレイピアの先を地面に叩きつけ、氷を割る。そして山上を思いっきり睨み付けた。


 山上では、怒りのオーラを立ち上らせたラウラがアリアに詰め寄っていた。
「ア〜リ〜ア〜? あなた、サポートすべき相手が誰か、間違ってませんか〜?」
「え、えへ、つい‥‥」
「つい、じゃありません!」 
「あ、ラウラ! 王子達、何処か行くみたいですよ?」
 アリアの苦し紛れとも思える言葉に、ラウラが下を見る。すると、その通りにアンサラーがピアノの手を振り切り、山の奥へと入り込もうとしている所だった。

 
「何処に行くの!?」
「山賊共の住処に。どうにも、あいつらが賞金首になるような悪者には見えなくてな」
「‥‥どういう事ですか?」
 聞いたのはアプラだ。アンサラーがそれに首だけ振り返る。
「噂では、奴等は貴族しか狙わんと言う。ピアノ、その貴族に心当たりはないか? 俺の予想では、民に嫌われている人物だと思うが」
「え? そうね‥‥セントロから来た貴族の方が、帰りに山賊に襲われたって話は聞いた事あったけど‥‥うん、確かにお金に物を言わせた嫌味な方だったらしいわ。いい気味だって、市場の奥さんが」
 そこまで言って、ピアノが口を噤む。それに、クロウディアが溜息を吐いた。
「どうせ賞金も、貴族が腹癒せにかけたものでしょうね」
「でも、強盗は強盗よ」
「確かにそうでしょうけど。賞金首は、捕まえる際の生死は関係ありませんの。あの様子ですと誰かを殺めた訳でもなさそうですし、反省の余地がある者を賞金首にするのも、非道だと思いませんこと?」
 黙ってしまったピアノに、アンサラーは笑うと、山上を見上げた。


「此処が山賊の住処か。洞窟を利用するとは、なかなかいいデザインだな」
 そう言いながら現れたアンサラーに、山賊達が武器を向ける。
「貴様ら、よくも! お頭を返せ!」
「ん? 何の事だ?」
「惚けるんじゃねぇ! お前らが賞金稼ぎに連絡して、お頭を捕まえたんだろう!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 私達、賞金稼ぎなんかに連絡してません!」
「その通り。俺達はその腕輪に込められた、自分の魔力を辿って此処まで来ただけだから」
 言って、アンサラーが指を曲げると、山賊の一人が持っていた腕輪がふわりと浮かび、アンサラーの手首に戻って行く。それに山賊が呆然としている中、アンサラーはいつもの調子で問いかける。
「お前達、賞金をかけた貴族とやらを知っているか?」
「な、何でそんな事、お前達に言わなきゃなんないんだよ」
「俺達がお頭を助けて来てやろう」
「信じられるか!」
 一際高い声で叫んだのは、まだ年若い少年だった。涙目で武器を持ち、アンサラーを睨みつける。
「お頭はな! 貴族共から奪った金を、貧しい孤児院を助ける為に使ってるんだ! お前らは何してる! 貧乏人を嘲笑ってるだけじゃねぇか!」
「そんな事‥‥!」
 アンサラーが、反論しようとしたピアノの肩を叩く。それにピアノが口を噤むと、アンサラーはにやりと笑って少年を見た。
「よし、それじゃあこうしよう。俺達は人質としてコイツを置いて行く。無事にお頭を連れ帰る事が出来たら、コイツと交換する。それならどうだ?」
 言って、ピアノを押し出すアンサラーに、山賊達と、ピアノが呆気に取られる。
「アンサラー!?」
「いいか、ピアノ。あいつ等が何と言おうと、俺は悪徳貴族の所に行く。だが、その時は必ず奴等と戦闘になる。戦闘技術のないお前が来ても、足手纏いになるだけだ」
「でも‥‥」
「それにお前が怪我でもしたら、明日からの俺の食事は誰が作るんだ」
「‥‥そこは普通に、怪我でもしたら嫌だからって言って欲しかったな‥‥」
 がっくりと肩を落とすピアノに、アプラが慰めるように背中を叩く。
「‥‥ホントに助けてくれるんだな?」
 少年に、アンサラーは不敵な笑みを返した。


「貴様の処刑は明日の朝だ」
 手足を拘束されて地下室に入れられたアルヴィレオを見下ろし、貴族は下品な笑い声を立てた。そして、雇った賞金稼ぎ達に番をさせ、自室に戻る。
「いい気味だ」
 満足気にワインを飲む貴族に、メイドが何かを伝えに来た。それに貴族は慌てて玄関へ向かう。
「アンサラー王子殿下ではありませんか!」
 屋敷の玄関に立っていたのは、アンサラー達だった。揉み手をしてやって来た貴族に、アンサラーは社交辞令の笑みを向ける。
「実はつい先刻、アルヴィレオ一家に襲われましてね」
「おお、そうでしたか! それは災難でしたな! しかしご安心下され! 彼奴めはこの私が捕まえましたので!」
「そうなんですか」
 自慢気に話す貴族に、アンサラーがにっこりと笑う。
「そう言えば、貴殿はアルヴィレオの首に賞金をかけているとか。‥‥おかしいですね。賞金首は殺人、または1千万以上の損害を出した重犯罪者へしかかけられない筈なんですが」
 アンサラーの言葉に、貴族の揉み手が止まった。その様子に、クロウディアが続ける。
「これまでのアルヴィレオの罪状は、百万の損害と恐喝、傷害。殺人は起こしておらず、今まで強盗された貴族達も大した物は取られなかったからと見逃しています」
「私情によって賞金首を作るのは、貴族の地位も剥奪されかねない罪です。‥‥勿論、知ってましたよね?」
 にやりと笑うアンサラーに、貴族の握った拳がぶるぶると震えた。そして、堰を切ったように叫び出す。
「ええい、どいつもこいつも、私をコケにしおって! こいつらを殺せ! 後でアルヴィレオが殺した事にすればいい!」
 貴族の声に、雇われた賞金稼ぎ達が襲い掛かって来た。それにアンサラーがガッツポーズを取ると、戦闘へと入って行った。


 天井から微かに聞こえる物音に、アルヴィレオが身を起こす。と、その時、身体をくの字に曲げた賞金稼ぎが、ドアをぶち破って転がり込んで来た。
「アルヴィレオ様!」
 入って来たのはアリアとラウラだ。気絶している賞金稼ぎ達を飛び越えて来る。
「何とお労しい‥‥すぐに助けますからね!」
「君達は‥‥」
 問うアルヴィレオに答えず、アリアが手足を拘束する鎖を魔法で切った。そして、地下室から脱出させる。
「玄関で王子達が暴れてる筈ですから、そちらへ。あ、私達の事は王子には内密にお願いします」
「アルヴィレオ様‥‥どうかご無事で‥‥」
「ほらほら、行きますよ!」
 突風のように去って行く2人に、アルヴィレオは暫く呆然としていたが、すぐに気を取り直して玄関へ向かって行った。


「面倒だ、大技で行くから守れよ、アプラ!」
「御意!」
 叫んで、アンサラーが魔力を集中すると、かざした緑色の腕輪が強く光った。魔法を中断させようと襲って来る敵を、ロングソードを構えるアプラが薙ぎ払って行く。
「全く、護衛のし甲斐があると言うものですわ」
 呟き、クロウディアが風を纏ったレイピアで敵を突くと、敵が回りながら吹っ飛んで行った。それを、やって来たアルヴィレオが蹴り落す。
「苦労しているようだな、王子様」
 言って、アルヴィレオが近づいて来た敵に素早く足を上げる。そして目にも止まらない速さで蹴りを入れ、その風圧によって敵の身体を斬り裂いた。
「手加減はしてやる! シュトルム・ウント・ドランク!」
 アンサラーの緑色の腕輪が一際強く輝いたかと思うと、広い玄関ホールに巨大な氷雪の竜巻が現れ、全てを凍りつかせて行った。


 住処に戻ったアンサラー達は、嬉しそうな山賊達に出迎えられた。飛び込んできた少年を抱きとめ、アルヴィレオも嬉しそうに微笑む。
「ピアノ‥‥何だその格好は」
 ピアノは、エプロンに三角巾、箒を持った姿で立っていた。そして、どこか満足気である。
「だって此処、とっても汚かったんだもの! アンサラー達がいない間に全部掃除しちゃったわ!」
「住処に入るなり、いきなり掃除し始めて‥‥大変だった‥‥」
 げっそりと呟く山賊達に、アンサラーが苦笑する。そこに、アルヴィレオが握手を求めて来た。
「縁があったらまた会おう」
「そうだな。風が吹けば」
 手を振る少年に振り返して、アンサラー達は山を下りて行く。そして、再び馬車道に戻ると、アンサラーは空を見上げた。
「さて、次は何処に行くか。コインで決めるか?」
 ピンッと軽い音と共に、すっかり朝になった空に金色のコインが舞った。