日本演劇道中・北海道編アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/28〜03/04
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●本文
こんにちわ。僕、気まぐれなことで有名な脚本家の助手を務めている者です。毎日毎日、先生の買い物やストレス発散に付き合わされて疲れてます。少しの時間でいいから、どこか旅行にでも行ってゆっくりしたいなぁ‥‥なんて思ってたら先日、先生がこんなことを言い始めたんです。
「何か、経費とかで日本全国回る方法はないものか」
突然何なんですか? どこか行きたい場所でもあるんですか?
「行きたい場所ならたくさんある。数で言えば47個ある」
全都道府県ですか‥‥。
「そうだ。だが、プライベートで日本を一周する金も時間も俺にはない。だから仕事で、しかも経費で日本を回れる方法を考えているのだ」
そんなこと考える暇があるなら、次の演劇の脚本考えて下さいよ。
「それだ! お前、良いこと言った! その手があった!」
へ? 何なんですか?
「演劇だ。日本の昔話を演劇にするのだ。全都道府県にそれぞれ伝わる昔話を、それぞれの場所に行って演劇をするのだ」
へぇ、面白そうですね。いいんじゃないですか?
「そうすれば脚本家である私は、劇団について行って日本全国を回れるじゃないか!」
あ、そっちが目的ですか?
‥‥ということで、意気揚々と昔話の資料集めを僕に命じた先生なんですが‥‥先生ー、ホントに47ヶ所も回れるんですかー? 途中で飽きるんじゃないんですかー?
「回ると言ったら回るんだ! さっさと探せ!」
探しますけどー‥‥役者さんの方はどうするんですか? こんなことに付き合ってくれる劇団なんて、そうそうありませんよ?
「探せ! 別にひとつの劇団でなくてもいいんだからな! ひとつの昔話をやる度にその県まで行ってくれる役者を探せばいい!」
もー、簡単に言わないで下さいよー。どんだけ苦労すると思ってんですかー。
先生の気まぐれって言うか、我侭にはホント困りますよ。
誰か、一緒に行ってくれる人、いませんかね?
多分先生はさっさと観光に出かけちゃうと思うんで、結構自由に演じたり、脚本のアレンジとかして構いませんから。ただ、モチーフの昔話がわからなくなるくらいのアレンジは多分怒ると思うんで、やり過ぎない程度にお願いしますね。
●日本全国演劇道中、第1弾は北海道の『宝島の伝説』というお話です。
昔々、北海道のアイヌに、チャシナという首長の娘がいた。彼女と召使の若者は愛し合っていたが、首長はそれを許さず、召使の若者を監禁してしまう。
その頃、海に怪物が現れてニシンが全く取れなくなり、首長は怪物を退治したものを娘の婿にするとお触れを出した。だが志願者は皆、命を落としてしまう。困った首長は召使の若者を海に送り出すことにした。若者は夢の中で女神から受け取った兜と剣を使い、見事に怪物を退治する。しかしそれを知らない娘は、召使の若者も怪物にはかなわないと絶望して海に身を投げてしまい、村に帰った若者も後を追う。
翌朝、兜と剣の形をした岩が現れ、その後はニシンの大群が毎年、押し寄せてきた。以来、兜のような岩を宝島、剣のような岩は立岩と呼ぶようになったと言う。
必ず決めてほしい役は、下記の通りです。
1.チャシナ
2.召使の若者(名前がないので、サノウクという名前にします)
3.首長
4.女神
他、村人や志願者たちなど、自由に配役して下さい。
●リプレイ本文
●配役
チャシナ 風間由姫(fa2057)
サノウク 加羅(fa4478)
首長 藤間 煉(fa5423)
女神 柊棗(fa4808)
海の怪物 宝野鈴生(fa3579)
サノウクの姉・サク 都路帆乃香(fa1013)
志願者・シタ 雅楽川 陽向(fa4371)
村の占い師 天羽遥(fa5486)
●幕開け
「これは遠い昔の物語‥‥」
真っ暗な闇の中に、天羽の声が響いた。
「首長の娘と召使いの若者の悲恋から産まれた物語‥‥好きな人を得る為に、命をかけた物語‥‥」
静かに幕が開いていく。
●轟く雷鳴、唸る嵐と高い波
首長とシタ、占い師がステージの上手に立っていた。荒れる空を見上げるように、上を見ている。
「これは‥‥酷過ぎる」
「首長、これはただの嵐ではありません」
愕然と呟く首長に、占い師が静々と告げる。そこに、シタが下手を指差して叫ぶ。
「怪物だ! 怪物が現れたぞ!」
見れば、スポットライトを浴びた怪物(完獣化して、身体に青系の塗装をし、龍のヒレのような装飾をゴテゴテと付けた宝野)が立っていた。壁には巨大な蛇の影が映っている。
雷が酷くなり、首長達が思わず身体を引く。
「あいつのせいで、ニシンが全く取れなくなっちまったんだ!」
「首長‥‥」
「うむ‥‥」
悩む首長を中心に、スポットライトが消えていく。
●一転、静かな部屋の中
チャシナが祈るように窓を見上げていた。そこに、サノウクがやって来る。
「チャシナさま‥‥」
「サノウク‥‥」
お互いの名を呼び、チャシナがサノウクに抱きつく。サノウクがそれを受け入れると、チャシナは不安げな声を出した。
「最近の父上は恐ろしい‥‥海に怪物が現れてからというものの、いつもピリピリしていて‥‥私達の事を話したいけれど‥‥」
「チャシナさま‥‥私は、どんな事があろうとも貴女を愛しています。例え誰に反対されようと‥‥」
「いいえ、サノウク。父上はきっと認めて下さるわ。だって貴方はとても気が利くし、勇敢で、いつも私を守ってくれたもの」
抱き合う二人だが、そこに首長がやって来てしまう。
「何をしているんだ!」
「父上! 私達は!」
「貴様! 召使の分際で我が娘を誑かそうと言うのか!」
「いいえ、そんな事は!」
「聞いて父上! もっとちゃんと打ち明けたかったけれど‥‥私達、愛し合っているの!」
「ならん! お前にはもっと相応しい男を選んでやる!」
激昂する首長に、チャシナが縋るが、振り払われた。それを助けようとサノウクが動くが、首長に阻まれる。
「金輪際、娘に近づくな! 誰ぞ、こやつを牢に入れろ!」
「サノウク!」
引き立てられていくサノウクをチャシナが追うが間に合わない。泣き崩れるチャシナに、ライトが落ちていく。
●占い師の部屋
占い師と首長が向かい合わせに座っている。
「あの怪物を倒さない事には、嵐は止まず、ニシンも取れることはないでしょう」
「そうか‥‥仕方がない‥‥」
呟く首長に、ライトが落ちていく。
●広場
段の上に立っている首長を、サクとシタが見上げている。
「海を荒らす怪物を倒した者に、我が娘を与えよう! 勇敢なる兵どもよ! 戦え!」
言って、去っていく首長に、サクが不安げに叫ぶ。
「あんなお触れを出すなんて! サノウクも首長のお怒りに触れて牢に入れられて、私はどうしたらいいの‥‥」
それに続いて、意を決したようにシタが叫んだ。
「よおし! オイラが絶対に怪物を倒してやる!」
そこに、消沈した様子でチャシナがやって来る。シタが駆け寄り、チャシナに話しかけた。
「チャシナ。オイラが怪物を退治して来てやる! 絶対に村を助けてやるから、安心しろ!」
「シタ‥‥」
「大丈夫だ! 村が平和になったら、オイラ、チャシナに言いたい事があるんだ。だから、絶対帰って来るから!」
言って、去っていくシタを、チャシナが見送る。
●轟く雷鳴、唸る嵐と高い波
怪物とシタが対峙している。
「お前なんて怖くないぞ! オイラがやっつけてやる!」
シタが剣を振り上げ、怪物に走って行く。それに怪物が手を払うと、ドォンと音がして、シタが吹き飛ばされた。シタはふらふらになりながらも、必死に立ち上がる。
「どうした小童。剣が震えておるぞ」
にやりと笑う怪物に、シタが雄叫びを上げながら飛び掛る。それに怪物の影がぐわっと大きな口を開け、シタへと被さった。シタが悲鳴を上げて、ゆっくりと倒れて行く。
●占い師の部屋
いらいらした様子の首長がウロウロと歩いている。それに静かに座ったままの占い師が声をかけた。
「落ち着かれませ、首長」
「これが落ち着いてなどおられるか! 怪物を退治すると言って海に出た者がことごとく帰って来ないのだぞ! 一体、どうしたら怪物を退治出来るのだ!」
「サノウクをお出しなさい」
「何だと?」
静かに話す占い師に、首長が振り返る。
「サノウクを海に出しなさい。さすれば、きっと怪物を倒す事が出来るでしょう」
●牢屋
静かに胡坐を掻いて座っているサノウクに、首長が近づく。
「サノウク。お前に命を与えよう。海に出る怪物を倒して参れ。そのあかつきには、我が娘との結婚を許す。出立は明日だ」
そう言って去る首長に、サノウクが悩む。
「誰にも倒せなかった怪物を、俺が倒す事など出来るのだろうか‥‥しかし、俺がやらねば村は助からないし、チャシナも救えない。やるしか‥‥ないんだ‥‥」
決心した様子のサノウクが、目を閉じて横になる。
●夢の中
横になっていたサノウクと、女神にのみスポットライトが当たる。
「サノウク、サノウク」
「誰だ、俺を呼ぶのは‥‥」
「妾は海に住む女神なり。海を荒らす怪物へ挑まんとする汝に、力を授けよう」
起き上がったサノウクに、女神が兜と剣を渡した。サノウクがそれを受け取る。
「妾はいつも汝を見ておるぞ‥‥」
女神のスポットライトが消え、サノウクだけになる。サノウクが手元にある兜と剣を見下ろすと、サノウクのスポットライトも消えた。
●牢屋
明るくなり、眠るサノウクに首長が近づく。呼びかける首長に、サノウクが起き上がり、兜と剣を確認した。
●轟く雷鳴、唸る嵐と高い波
怪物とサノウクが対峙している。サノウクは女神から貰った兜と剣を装備していた。
「また命知らずがやって来たか‥‥何人来ようと同じ事だ。その血で海を染めるがいい!」
怪物の影がぐあっと口を開け、サノウクを襲う。サノウクはそれを避けると、雄叫びを上げながら怪物へ斬り付けた。怪物が悲鳴を上げ、よろける。
「ぐっ! おのれぇ、人の分際で我が身体に傷を付けるとは‥‥! 許さん、許さんぞぉ!」
怪物の影がのたうち、サノウクを襲う。それを堪えながら、サノウクは怪物へ剣を突き刺した。
「うぬっ! まさか、こんな‥‥ぐあああ!」
雷鳴が激しくなり、怪物が苦しみもがくと、影がいっそうのたうつ。その影に飲み込まれ、サノウクも倒れた。
●広場
サクが真っ青な顔で首長に詰め寄っていた。首長の後ろには占い師も控えている。
「なぜサノウクなのですか! あの子に怪物退治なんてできないわ! 今すぐに連れ戻して下さい!」
「無理だ。サノウクは海に出てしまった」
「そんな‥‥サノウク!」
泣き崩れるサクに、首長が目を反らし、占い師が黙ってサクに目を向ける。そこに、チャシナがふらふらと歩いて来た。
「その話は‥‥本当なのですか、父上‥‥」
「チャシナ‥‥」
「サノウクが海に出たというのは本当なのですか、父上! どうして‥‥どうして‥‥!」
チャシナが嘆いて走り去って行く。
●海辺の崖
泣きながら走ってきたチャシナは、崖っぷちに立つと空を見上げた。
「ああ、サノウク。きっと貴方は帰って来ないわ‥‥怪物が、父上が貴方を殺してしまった‥‥いいえ、もっと早く私が父上に貴方の事を話していたら、こんな事にはならなかったかもしれなかった‥‥ああ、許してサノウク。今、私も貴方の元へ行くわ‥‥」
言って、チャシナが崖へ飛び込む。追って来た首長は、飛び降りたチャシナを見て慌てて崖っぷちに駆け寄った。
「チャシナ! 何て事を‥‥!」
●広場
空に祈りを捧げるサクの元に、ボロボロになったサノウクが戻って来る。その姿を見て、サクがサノウクを抱きしめた。
「ああ、サノウク! 無事だったのね‥‥!」
「姉上‥‥もう大丈夫だ。怪物は俺が退治した」
「サノウク、貴方という子は‥‥! 私の誇りだわ!」
歓喜に震えるサクにサノウクが微笑みかける。
「さあ、チャシナと首長に知らせなければ」
行って、サノウクが駆け出そうとした時、首長ががっくりと肩を落としてやって来る。そしてサノウクの姿を認めると、堰を切ったように泣き出した。
「チャシナが‥‥チャシナが‥‥! 海に身を投げてしまった!」
「何ですって!?」
「お前が帰ってくるわけはないと‥‥お前の後を追おうと、海に身を投げてしまった!」
「そんな‥‥チャシナ!」
サノウクが走り去って行く。それをサクが追いかけて行く。
●崖
崖っぷちへとやって来たサノウクは、下を見下ろす。
「ああ、何て事だ! 俺は生きて帰って来たのに、愛しいチャシナは俺を置いて海へ行ってしまった! 怪物を倒して、村が平和になっても、チャシナ‥‥君がいなければ俺は生きていけない。チャシナ、待っていてくれ。俺もすぐそこに行くから」
「止めて、サノウク!」
追いついたサクが制止の声をかけるが、サノウクは崖から飛び降りてしまう。サクがサノウクの名を叫び、ライトが落ちる。
●闇の中
スポットライトを浴びて、首長が現れる。
「すまなかった‥‥私が二人の愛を認めてやらなかったばかりに、こんな事になってしまった‥‥チャシナ、サノウク‥‥許してくれ‥‥」
そこに、女神がスポットライトを浴びて現れる。
「命をかけて村を守り、愛を貫き通したサノウクよ‥‥汝の思いをここに残そう‥‥」
二人のスポットライトが消え、真っ暗になる。
●幕閉じ
「翌朝、兜と剣の形をした岩が現れ、その後村には平和が訪れた。以来、兜のような岩を宝島、剣のような岩は立岩と呼ぶようになったと言う」
天羽のナレーションが入ると、ステージの真ん中にサクが現れた。
「サノウク‥‥貴方はきっと、あの岩の元でチャシナと一緒に私たちを見守ってくれているのでしょう。サノウク‥‥チャシナと二人で、幸せにね‥‥」
幕が静かに下りて行く。
●公演後
「いやあ、良かったですよー。先生も満足してるみたいでした」
にこにこと笑って、役者達に挨拶に来たのは脚本家の助手だった。その手には大きな発泡スチロールの箱を抱えている。
「それでですねー。先生から皆さんに、今回のご褒美としてこれを配るように申し付けられまして‥‥」
言って、差し出された箱の中には、新鮮な蟹が入っていた。役者達は、美味しそうな蟹を一匹ずつ貰い、劇場を後にした。