日本演劇道中・青森編アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/07〜03/11
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●本文
こんにちわ。僕、気まぐれなことで有名な脚本家の助手を務めている者です。毎日毎日、先生の買い物やストレス発散に付き合わされて疲れてます。少しの時間でいいから、どこか旅行にでも行ってゆっくりしたいなぁ‥‥なんて思ってたら先日、先生がこんなことを言い始めたんです。
「何か、経費とかで日本全国回る方法はないものか」
突然何なんですか? どこか行きたい場所でもあるんですか?
「行きたい場所ならたくさんある。数で言えば47個ある」
全都道府県ですか‥‥。
「そうだ。だが、プライベートで日本を一周する金も時間も俺にはない。だから仕事で、しかも経費で日本を回れる方法を考えているのだ」
そんなこと考える暇があるなら、次の演劇の脚本考えて下さいよ。
「それだ! お前、良いこと言った! その手があった!」
へ? 何なんですか?
「演劇だ。日本の昔話を演劇にするのだ。全都道府県にそれぞれ伝わる昔話を、それぞれの場所に行って演劇をするのだ」
へぇ、面白そうですね。いいんじゃないですか?
「そうすれば脚本家である私は、劇団について行って日本全国を回れるじゃないか!」
あ、そっちが目的ですか?
‥‥ということで、意気揚々と昔話の資料集めを僕に命じた先生なんですが‥‥先生ー、ホントに47ヶ所も回れるんですかー? 途中で飽きるんじゃないんですかー?
「回ると言ったら回るんだ! さっさと探せ!」
探しますけどー‥‥役者さんの方はどうするんですか? こんなことに付き合ってくれる劇団なんて、そうそうありませんよ?
「探せ! 別にひとつの劇団でなくてもいいんだからな! ひとつの昔話をやる度にその県まで行ってくれる役者を探せばいい!」
もー、簡単に言わないで下さいよー。どんだけ苦労すると思ってんですかー。
先生の気まぐれって言うか、我侭にはホント困りますよ。
誰か、一緒に行ってくれる人、いませんかね?
多分先生はさっさと観光に出かけちゃうと思うんで、結構自由に演じたり、脚本のアレンジとかして構いませんから。ただ、モチーフの昔話がわからなくなるくらいのアレンジは多分怒ると思うんで、やり過ぎない程度にお願いしますね。
●日本全国演劇道中、第2弾は青森県の『けちんぼうの藤兵衛』というお話です。
昔々、藤十郎という“とんち”の名人が住んでいた木造町という所に、藤兵衛というケチな金貸しがいた。それはそれは嫌な性格の人物で、周りの人は藤兵衛に、どうにか一泡吹かせたいと常日頃から思っていた。
ある日、知り合いの祝言に行った帰りで酔っ払った藤兵衛が、両手に沢山の土産を持ってよろよろと歩いていた。それを見た町の者が、藤十郎に“とんち”であの土産を頂く事は出来ないかと相談した。藤十郎はそれを了解すると、坂の途中に西瓜を一個置いた。
藤兵衛は西瓜を発見すると、勿体無いと拾おうとした。が、西瓜はころころと坂を転げ落ち、土産を地面に置いた藤兵衛が慌てて追いかけて拾うと、西瓜の中身は空だった。がっかりした藤兵衛が戻ると、土産がごっそり無くなっていた。必死に土産を探す藤兵衛に、藤十郎がひょっこりと現れて言った。
「ああ、それはさんこ狐の仕業だ。空のスイカを置いて藤兵衛さんを化かすとはズル賢い悪狐だ」
これを聞いた藤兵衛はとぼとぼと歩いて帰ったそうだ。そしてその後、藤十郎と町の者たちは頂いた土産の美味しい料理に舌鼓を打ったとさ。
必ず決めてほしい役は、下記の通りです。
1.藤十郎
2.藤兵衛
他、町の者たちなど、自由に配役して下さい。
●リプレイ本文
●舞台裏
「‥‥‥開演です。宜しくお願いします」
裏方であるアンリ・ユヴァ(fa4892)の声に、役者達が気合を入れて立ち上がった。
●配役
藤十郎 伝ノ助(fa0430)
藤兵衛 緑川安則(fa1206)
桜 敷島ポーレット(fa3611)
熊三 ティタネス(fa3251)
吉治 鶤.(fa3351)
お春 春雨サラダ(fa3516)
沙耶 都路帆乃香(fa1013)
●畑の見える道・昼
下手の方で、藤十郎と桜が畑で仕事をしていた。その横では沙耶が鞠をついて遊んでいる。そこに上手から、怒っている様子の藤兵衛と、三人の町人達がやって来る。
「ならんと言ったらならん!」
「だども、このままじゃあオラ達、暮らしていげねぐなるだ」
「‥‥何とかならねぇべが‥‥」
「金を借りたら返す! これ、常識じゃろが!? 最低でも利息分は納めて貰うで!」
頼み込む熊三と吉治に藤兵衛が怒鳴ると、お春が憤慨したように口を開いた。
「わぁ達がこうして頭下げて頼んどるのに!」
「お春、落ち着け」
噛みつかんばかりのお春を熊三が止める。それを藤兵衛は鼻を鳴らして睨みつけると、沙耶が持っていた鞠を藤兵衛にぶつけた。
「イジワル藤兵衛! ケチな金貸し! さんこ狐に化かされちまえ!」
「何じゃこの童! 金を返さん方が悪いんじゃ! ‥‥おっとまずい。お前らと話していると日が暮れちまう。早う準備して行かにゃあ」
藤兵衛は鞠をあらぬ方向へ蹴りつけ、そそくさと下手へ去って行った。それに肩を怒らせるお春と、がっくりした様子の熊三と吉治が上手へ戻って行くと、見送った藤十郎と桜が顔を見合わせる。
「相変わらず意地の悪い人だねぇ」
「まあなぁ。藤兵衛さんの言う事も、正しいっちゃ正しいんじゃけど‥‥あの性格じゃあのう」
言いながら、藤十郎が鞠を拾って沙耶へと返す。
「ま、気でも取り直して、休憩にしようか。スイカが冷えてるの。沙耶も食べるかい?」
「うん、食べる!」
元気よく返事をして、沙耶が桜に駆け寄ると、少しずつライトが消えていく。
●畑の見える道・夕方
暗転して、現れたのは畑で働く熊三、吉治、お春だった。そこに、千鳥足で大きな葛籠を背負った藤兵衛が下手からやって来る。
「あれ、藤兵衛さん。どうした? 随分酔っ払ってるでねが」
「む、お前らか。ワシゃあ知り合いの祝言に行った帰りで機嫌がいいんじゃ。話しかけるな」
熊三ににやにやと返し、藤兵衛がよろよろと上手へ去って行く。それに三人が顔を見合わせた。
「おっきな葛籠じゃったのう。何が入っとるんじゃろか」
「‥‥祝言ちゅうたなぁ‥‥じゃと、やはり土産物の料理じゃろうなぁ‥‥よほど大層なもんが入っとるんに違ぇねぇ‥‥」
羨ましそうに呟く熊三に吉治が答えれば、お春が不機嫌な顔をした。
「あんの野郎は、他の皆が汗流して働いとるのに! 昨日も酷い取り立てで、隣の娘さんを泣かしたくせに‥‥‥一遍、懲らしめてやりたいもんだ」
「だども、オラ達が何ぼ言ったところで、聞く耳持つ人じゃねぇべよ」
「‥‥したら、藤十郎さでも相談しに行くべ‥‥藤十郎なば、頭もいいから何か考えてくれるじゃろ‥‥」
「んだな。藤十郎んとこに行くべ」
三人が頷いて、上手へと小走りに駆けて行く。暗転して、場面が変わる。
●藤十郎の家
縁側に藤十郎と桜が座り、鞠をつく沙耶を見ていた。そこへ熊三、吉治、お春がやって来る。
「おお、どうしただ?」
「何、ちょいと藤十郎に相談があってな」
「今、藤兵衛の奴が知り合いの祝言から帰って来てよ。おっきな土産物抱えてえっちらおっちら歩いとるんじゃ。あの土産物、何とかしてこっちのもんにするこたぁ出来んもんかねぇ」
お春の言葉に、藤十郎と桜が顔を見合わせた。
「うーん‥‥だどもそれ、祝言の土産なんじゃろ? ちょっと可哀想な気もするが‥‥それに、人の物を取るっちゅうのはなぁ‥‥」
「いいじゃないの、兄さん。あのね人はちょっと懲らしめた方がいいわよ」
「うーむ‥‥‥確かに藤兵衛さんはちぃとケチんぼ過ぎるからなぁ‥‥そうだなぁ‥‥」
桜に言われて、藤十郎が腕組みをして思案する。そして、鞠を持ってこちらを見ている沙耶と、家の中に置いてあったスイカを見て深く頷き、膝をぽんと叩く。
「そんなら、こんなのはどだ?」
ライトが消えていき、暗転する。
●坂道
舞台の上に作られた坂の上から、葛籠を背負った藤兵衛が現れる。
「ふぅー。全く、重い土産物じゃ。こりゃあたんまり入っとるなぁ。へっへっへ。家に帰るのが楽しみじゃ‥‥ん?」
汗を拭う仕草をしつつ下を見た藤兵衛は、坂の途中に一つのスイカが置いてあるのを見つけた。
「やや、こんなところにスイカが‥‥しめしめ、儲けじゃ」
呟いて、藤兵衛が葛籠を地面に下ろし、スイカに手を伸ばす。
●舞台裏
「‥‥今ですね」
藤兵衛役の緑川がスイカへ手を伸ばすのを、アンリは上手の袖奥から確認すると、手元にあるピアノ線を引っ張った。スイカが坂の上を転がり落ちる。
●坂道
舞台では藤兵衛が、転がるスイカを追いかけていた。
「スイカめ、待たんか〜〜! ワシに食われろ〜〜!!」
藤兵衛がスイカを追いかけている隙に、坂の上に熊三と吉治が現れる。二人がよいしょと葛籠を持ち上げ、下手へと去って行くと、会場から笑いが漏れた。
そんな事には気付かない様子の藤兵衛は、やっとスイカを押さえると、それを持ち上げる。すると、スイカがぱかりと割れ、中身が空である事が判った。
「何じゃ! このスイカ、空じゃのうか! ええい、余計な体力を使ってしもうたわ! ‥‥ややっ!」
藤兵衛がスイカを地面に投げ捨て、坂の上に戻ると、葛籠がない事に気付く。
「み、土産がない! ワ、ワシの土産は!?」
焦った様子で藤兵衛がキョロキョロと辺りを見渡したり、坂に這い蹲ったりしていると、上手から藤十郎が現れた。
「あれ? 藤兵衛さん、何しただ」
「ワシの土産がなくなったんじゃ! 儲けじゃと思ったスイカは空じゃし、こりゃあどうした事じゃ!」
憤慨している様子の藤兵衛に、藤十郎が答える。
「はぁ〜なるほどなぁ。そりゃ『さんこ狐』の仕業に違いねぇ。わざわざ空っぽのスイカこさえるたぁ、ほんにズル賢い狐だな。オラも騙されねぇように気をつけねぇと‥‥くわばらくわばら」
言って去って行く藤十郎に、藤兵衛ががっくりと膝をついた。
「狐じゃと!? ワシが‥‥このワシが化かされたのか‥‥」
呟いて、藤兵衛がしょんぼりと肩を落として上手へ去って行く。
ライトが消え、舞台が暗転する。
●藤十郎の家
藤十郎が家に帰って来ると、熊三と吉治が葛籠の蓋を開け、その中身をお春と沙耶が覗き込んでいた。桜が藤十郎に気付いて駆け寄って来る。
「あ、兄さん、おかえりなさい! 見て、凄い豪華な料理!」
「こんな美味そうなご馳走を見たのは、オラ初めてじゃあ」
「藤兵衛め、わぁ達から金巻き上げて、いっつもこんな豪華なもん食ってるに違ぇねぇ! さ、わぁ達も食べるべ!」
熊三とお春の言葉に、吉治が葛籠から料理を出して沙耶に渡す。沙耶がそれを受け取り、一口食べる仕草をした。
「おいしーい!」
それに他の皆も食べ始めると、ふと沙耶が料理を下ろした。
「どうした? 沙耶。何ぞ嫌いなもんでも入っとったか?」
「‥‥何か、藤兵衛さんが可哀想じゃ‥‥今頃、楽しみにしとった土産が食えんで、しょんぼりしとるじゃろうなぁ」
呟く沙耶に、他の皆も料理を下ろす。
「そうじゃなぁ‥‥とりあえず、懲らしめてやる事は出来たしなぁ」
「それじゃ、これを分けて持って行ったらどうかしら。ねぇ、兄さん」
「そうだな。そうするか」
言って、藤十郎が立ち上がると、舞台が暗転する。
●藤兵衛の家
しょんぼりと肩を落として、藤兵衛が座っている。そこに藤十郎と桜が葛籠を抱えてやって来て、藤兵衛に話しかけた。
「あの後、うちにさんこ狐が現れての。あんまりにもお前さんが可哀想じゃて、ちょっと返してくれっちゅうてなぁ」
「おお、これはワシの土産物‥‥!」
藤兵衛が嬉しそうに葛籠を抱きしめると、熊三、吉治、お春、沙耶が現れる。
「何じゃ、藤兵衛。狐に化かされたんか」
「戻って来て良かったね、藤兵衛さん!」
お春と沙耶に話しかけられ、藤兵衛がしんみりと頷く。
「大事な物を取られるっちゅうのは、こんなにも悲しい事じゃったんじゃのお‥‥すまんかったなぁ、皆‥‥」
その言葉に、皆が顔を見合わせ、嬉しそうに笑って藤兵衛の肩を叩いた。するすると幕が下りて行く。
●公演後
「‥‥お疲れさまです。‥‥先生も満足して頂けた様子でした」
舞台を下りた役者達を迎えたアンリは、手に持った段ボール箱を見せた。
「‥‥それで、先生の助手の方から、これを受け取りました。‥‥皆さんで食べて欲しいとの事です」
箱の中には、艶々とした真っ赤なリンゴがぎっしりと詰まっていた。
役者達とアンリは、その新鮮なリンゴを、自分の好きなだけ貰って、劇場を後にした。