日本演劇道中 岩手編アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 中畑みとも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/02〜05/06

●本文

 こんにちわ。僕、気まぐれなことで有名な脚本家の助手を務めている者です。毎日毎日、先生の買い物やストレス発散に付き合わされて疲れてます。少しの時間でいいから、どこか旅行にでも行ってゆっくりしたいなぁ‥‥なんて思ってたら突然、先生がこんなことを言い始めたんです。

「何か、経費とかで日本全国回る方法はないものか」
 突然何なんですか? どこか行きたい場所でもあるんですか?
「行きたい場所ならたくさんある。数で言えば47個ある」
 全都道府県ですか‥‥。
「そうだ。だが、プライベートで日本を一周する金も時間も俺にはない。だから仕事で、しかも経費で日本を回れる方法を考えているのだ」
 そんなこと考える暇があるなら、次の演劇の脚本考えて下さいよ。
「それだ! お前、良いこと言った! その手があった!」
 へ? 何なんですか?
「演劇だ。日本の昔話を演劇にするのだ。全都道府県にそれぞれ伝わる昔話を、それぞれの場所に行って演劇をするのだ」
 へぇ、面白そうですね。いいんじゃないですか?
「そうすれば脚本家である私は、劇団について行って日本全国を回れるじゃないか!」
 あ、そっちが目的ですか?

 ‥‥ということで、意気揚々と昔話の資料集めを僕に命じた先生なんですが‥‥先生ー、ホントに47ヶ所も回れるんですかー? 途中で飽きるんじゃないんですかー?
「回ると言ったら回るんだ! さっさと探せ!」
 探しますけどー‥‥役者さんの方はどうするんですか? こんなことに付き合ってくれる劇団なんて、そうそうありませんよ?
「探せ! 別にひとつの劇団でなくてもいいんだからな! ひとつの昔話をやる度にその県まで行ってくれる役者を探せばいい!」
 もー、簡単に言わないで下さいよー。どんだけ苦労すると思ってんですかー。

 先生の気まぐれって言うか、我侭にはホント困りますよ。
 誰か、一緒に行ってくれる人、いませんかね?
 多分先生はさっさと観光に出かけちゃうと思うんで、結構自由に演じたり、脚本のアレンジとかして構いませんから。ただ、モチーフの昔話がわからなくなるくらいのアレンジは多分怒ると思うんで、やり過ぎない程度にお願いしますね。



●日本全国演劇道中、第3弾は岩手県の『鬼の手形』というお話です。

 盛岡の東顕寺という寺の裏に、注連縄が張られた三つの大石があった。この石は、岩手山が噴火したときに飛んできた石と言われ、『三ツ石さま』と呼ばれて人々の信仰を集めていた。
 その昔、村人や旅人に悪さをする、羅刹鬼という鬼がいた。この羅刹鬼に困りはてた村人たちは三ツ石さまに羅刹鬼を懲らしめてくれるよう、お願いをした。すると、三ツ石の神様が現れて、羅刹鬼を三つの大石に縛りつけてしまった。
 驚いた羅刹鬼が「もう二度と悪さはしない」と三ツ石の神様に許しを請うので、三ツ石の神様は羅刹鬼に、二度と悪さをしないという誓いの印を立てさせた。羅刹鬼は、三ツ石にペタンペタンと手形を押して南昌山の彼方に逃げ去ったという。そして、羅刹鬼が去ったことを喜んだ村人たちは、三ツ石の周りを「さんささんさ」と言って踊り回った。
 今も雨上がりの日などは『鬼の手形』らしきものが石の上に見えるそうだ。これが『岩手』の名前の由来にもなったという説もある。

 必ず決めてほしい役は、下記の通りです。
1.羅刹鬼
2.三ツ石の神様
他、鬼に悪さをされる村人や旅人たちなど、自由に配役して下さい。

●今回の参加者

 fa0430 伝ノ助(19歳・♂・狸)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa3831 水沢 鷹弘(35歳・♂・獅子)
 fa5258 壱嶋 響時(18歳・♂・兎)
 fa5302 七瀬紫音(22歳・♀・リス)
 fa5556 (21歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●舞台裏
「えーっと、これが雷の音で‥‥太鼓に笛に鈴っと‥‥あと祭りの音ね。‥‥よし、これでオッケィ」
 音響装置の前で指差し確認を行った七瀬紫音(fa5302)は、スタッフの「そろそろ開演でーす」の声に返事をして振り返ると、慌てたように部屋を後にした。
 ジリリリとベルの音が会場に響いて、幕が開いていく。


●配役
一神様:虹(fa5556)
二神様:壱嶋 響時(fa5258)
三神様:タブラ・ラサ(fa3802)
羅刹鬼:水沢 鷹弘(fa3831)
旅人:伝ノ助(fa0430)
静乃:都路帆乃香(fa1013)
ハル:春雨サラダ(fa3516)
茅:七瀬紫音


●村の道
 三度笠を被り、大きな荷物を抱えた旅人が上手から歩いて来る。中央より下手側には、収穫した野菜をハルが籠に入れている。と、中央の迫りから羅刹鬼が飛び上がって現れた。ステージが薄暗くなり、3人がライトアップされると、ドーンッと派手な雷の音が響く。
「がははは! その荷物置いていきな!」
「うわわわっ!」
 腕を振り上げる羅刹鬼に、旅人が慌てて逃げようとする。それを羅刹鬼が捕まえて、旅人から荷物を毟り取った。羅刹鬼は旅人を放り投げると、荷物を抱えて、ハルを振り返る。
「ガキィ! その野菜も寄越しなぁ!」
「きゃああ!」
 ハルを殴り飛ばし、落ちた野菜入りの籠を奪うと、羅刹鬼は岩の大道具の影にある迫りで奈落に消えた。ライトが戻り、旅人とハルが痛みに唸る。
「大丈夫かい、あんた!」
「ああ、ハル!」
 倒れているハルと旅人に、下手から慌てたように駆け寄ってきたのは静乃と茅だった。茅がハルを抱き寄せ、静乃が旅人を起き上がらせる。
「怖かったよぉ、茅姉‥‥怖かったよぉ」
「あいたたた、恩に着りやす‥‥あの鬼は何だったんすか?」
「あの鬼は羅刹鬼と言ってね。いつも人に悪さをしてくるのさ」
「最近は特に酷くて‥‥畑は荒らすは子供は攫うわ‥‥村の男衆は何とか羅刹鬼を懲らしめようとして全員返り討ちになってしまったし‥‥」
 溜息を吐く静乃に、茅がハルを抱き締めながら呟く。
「このままじゃ、村もお終いだ‥‥何とかならんもんかねぇ‥‥」
 静乃が言うと、ステージが暗くなり、場面が変わる。


●三ツ石の前
 三ツ石の前に、茅とハル、静乃が座って祈りを捧げている。
「三ツ石の神様、どうか羅刹鬼を止めて下さい‥‥」
「今日もおまんま、取られちまって、もう食べるもんもないだよぉ! お願いだよぅ、神様‥‥」
「お願いします‥‥お願いします‥‥」
 その祈りに答えるように、3人の神様が現れた。
「鬼が悪さして困っとるようだの。よし、何とかしてやろうじゃないか!」
「悪い子にはお仕置きが必要ね!」
「待ちなさい、2人共。物事には順序というものがある。我も手助けするのにやぶさかではないが、まずはしかるべき手順を踏むべきだ」
 意気込む男の一神様と女の二神様に、子供姿の三神様が制止をかける。3人とも裸足で、ふわふわと風に靡く柔らかな白布で作られた着物を着ている。
「しかるべき手順じゃと? 何じゃ、面倒な奴だのう」
「神と言えど、鬼を懲らしめるには力が要る。村人の協力も必要だ」
「うーん、確かにそれもそうね」
 三神様の言葉に二神様が頷けば、一神様がふんと胸を張った。
「それなら、さっさとその手順とやらをせんか」
「判っている。まずは夜まで待つのだ」
 三神様が言うと、ステージが暗くなり、場面が変わる。


●静乃の家
 真っ暗な闇の中で寝ている静乃にライトが当てられている。そこに、囲むように3人の神様が現れた。まずは太鼓の音と共に一神様が、次に笛の音と共に二神様が、そして最後に鈴の音と共に三神様がライトアップされる。
「聞きなさい‥‥鬼に苦しめられし村人よ‥‥」
「私達は三ツ石の神‥‥鬼を懲らしめたければ、私達に祈りを捧げなさい‥‥」
「祈って祈って‥‥我らに力を注ぐのだ‥‥」
 3人の神様がそれぞれ言うと、ライトが消えていく。残った静乃が不思議そうに起き上がると、ライトが消え、場面が変わる。


●三ツ石の前
 三ツ石の前で顔を見合わせている静乃、茅、ハル。
「なあ、昨日不思議な夢を見たんだが‥‥」
「静乃さんも? 実は私もなんだけれど‥‥」
「ハルも見たよ。三ツ石の神様が、祈りを捧げれば鬼を懲らしめてくれるって」
 暫しの沈黙が流れ、静乃が呟く。
「神様に力を注ぐように祈りを捧げれば‥‥」
「でもどうやってやるの? お願いだったらいっつもやってたのに」
 ハルの問いに、茅がちょっと思案して、静乃を見た。
「旅人さんなら何かご存知じゃないでしょうか」
「そうだね。聞いてみようか」
 静乃が頷いて、3人は上手の袖へ去って行く。


●静乃の家
 場面は変わり、静乃の家の縁側では足に布を巻いた旅人が座っている。そこに駆け寄る静乃、茅、ハル。
「旅人さん! ちょいと聞きたい事があるんだけど」
「へい、何でやすか? お世話になってる礼だ、あっしに判る事でしたら何でもお教えしますぜ」
 振り向く旅人に、静乃が祈りについて尋ねると、旅人は腕を組んで首を傾げた。
「うーん、神様への祈りの方法っすか‥‥そうでやすね‥‥確か、まず冷水で身体を清めて、夜も明けない内から篝火と供物を備えて、毎日毎日休む事なく祈ればいいって聞いた事ありやすね」
 それを聞いて、3人が顔を見合わせる。
「何か大変そうだけど‥‥それで鬼が懲らしめられるなら、ハル頑張るよ」
「そうね‥‥このまま鬼の好き勝手にされちゃあ、堪んないもんね」
「あっしも手伝いますよ。あの荷物はあっしの商売道具だったんだ。懲らしめてやらにゃ、気がすみやせんぜ」
 それに皆が頷くと、ステージが暗くなり、場面が変わる。


●三ツ石の前
 静乃と茅、ハル、旅人が、三ツ石の前で祈りを捧げている。ライトが昼から夕焼けになり、夜に変わって行くのを何度か繰り返すと、4人に疲れが見え始めて来る。と、そこに上手から羅刹鬼がやって来た。
「何だ。村に誰もいねぇと思ったらこんなとこにいやがった。やいやい、手前ら! 食いもん寄越せ! 食いもんなけりゃ、そこのガキを寄越せ!」
 ずんずんと歩いてくる羅刹鬼に、4人が慌てて下手の方へ逃げ込む。すると、太鼓・笛・鈴の音と共に、3人の神様が奈落から現れた。
「な、何だ手前ら!」
「主が羅刹鬼だな。随分と悪さをしておるようじゃの!」
「それがどうしたってんだい!」
「悪い子にはお仕置きよ!」
 神様がそう言うと、雷の音が鳴り、ステージが暗くなる。そして、羅刹鬼と3人の神様が様々な色に混ざったライトに照らされると、羅刹鬼が引き摺られるように三ツ石まで近づいていく。そして、三ツ石の所まで来ると、その身体を注連縄で縛り付けられた。ライトが戻り、明るくなる。
「何だこれは! 一体何をした!」
「まだ暴れるか」
 注連縄を解こうと暴れる羅刹鬼に、三神様が手を翳すと、羅刹鬼が悲鳴を上げる。そして、ぐったりとした羅刹鬼が泣きそうな声で呟いた。
「も、もう降参だ‥‥もう悪さはしない、許してくれ‥‥」
「ではその誓いの証として、この三ツ石に手形を残せ。もし誓いを破ったなら、再び罰が下るぞ」
 言われて、羅刹鬼が涙を拭いながら三ツ石に手形を残していく。
「こんな立派な神様が見ているのでは、もう悪さなど出来ん。俺は山へ帰る」
 羅刹鬼が言って、上手へと去って行くのを見送って、下手からこっそり眺めていた静乃、茅、ハル、旅人が嬉しそうに飛び出してきた。
「やったぁ! 鬼が山に帰って行ったよぉ!」
「これで村は救われたんだね!」
 そこに、茅が三ツ石の裏から、奪われた旅人の荷物と、野菜の入った籠を見つける。
「盗られたものも帰って来たよ!」
 旅人が荷物を受け取り、ハルが籠を抱えながら、三ツ石の周りを回り始める。それはやがて踊りになり、笛と太鼓の軽快なリズムが鳴り始めると、一神様と二神様も混ざって回り始めた。掛け声をかけながら踊り回る皆に、三神様も混ざると、少しずつステージが暗くなって行き、幕が下りて行った。


●公演後
「お疲れ様ですー。いやー、面白かったですよー。先生も満足してたみたいです」
 言って、笑顔で役者に挨拶をしに来たのは脚本家の助手だった。その手には大きな紙袋が提げられている。
「それでですねー。先生から皆さんに、今回のご褒美としてこれを配るように申し付けられまして」
 渡されたのは岩手名物の蕎麦であった。役者達はそれぞれその蕎麦を受け取ると、お互いに笑い合いながら劇場を後にした。