日本演劇道中 宮城編アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
06/16〜06/20
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●本文
こんにちわ。僕、気まぐれなことで有名な脚本家の助手を務めている者です。毎日毎日、先生の買い物やストレス発散に付き合わされて疲れてます。少しの時間でいいから、どこか旅行にでも行ってゆっくりしたいなぁ‥‥なんて思ってたら先日、先生がこんなことを言い始めたんです。
「何か、経費とかで日本全国回る方法はないものか」
突然何なんですか? どこか行きたい場所でもあるんですか?
「行きたい場所ならたくさんある。数で言えば47個ある」
全都道府県ですか‥‥。
「そうだ。だが、プライベートで日本を一周する金も時間も俺にはない。だから仕事で、しかも経費で日本を回れる方法を考えているのだ」
そんなこと考える暇があるなら、次の演劇の脚本考えて下さいよ。
「それだ! お前、良いこと言った! その手があった!」
へ? 何なんですか?
「演劇だ。日本の昔話を演劇にするのだ。全都道府県にそれぞれ伝わる昔話を、それぞれの場所に行って演劇をするのだ」
へぇ、面白そうですね。いいんじゃないですか?
「そうすれば脚本家である私は、劇団について行って日本全国を回れるじゃないか!」
あ、そっちが目的ですか?
‥‥ということで、意気揚々と昔話の資料集めを僕に命じた先生なんですが‥‥先生ー、ホントに47ヶ所も回れるんですかー? 途中で飽きるんじゃないんですかー?
「回ると言ったら回るんだ! さっさと探せ!」
探しますけどー‥‥役者さんの方はどうするんですか? こんなことに付き合ってくれる劇団なんて、そうそうありませんよ?
「探せ! 別にひとつの劇団でなくてもいいんだからな! ひとつの昔話をやる度にその県まで行ってくれる役者を探せばいい!」
もー、簡単に言わないで下さいよー。どんだけ苦労すると思ってんですかー。
先生の気まぐれって言うか、我侭にはホント困りますよ。
誰か、一緒に行ってくれる人、いませんかね?
多分先生はさっさと観光に出かけちゃうと思うんで、結構自由に演じたり、脚本のアレンジとかして構いませんから。ただ、モチーフの昔話がわからなくなるくらいのアレンジは多分怒ると思うんで、やり過ぎない程度にお願いしますね。
●第4弾は宮城県の『宮千代の歌』というお話です。
昔々、松島に宮千代という美童がいた。歌をよく嗜み、時々歌を京都に送っては、宮廷の者たちに絶賛を受けていた。そんな宮千代は常々京都へ行きたい思っていたが、親代わりの見仏上人は「京都への道程は危険だから、もう少し大きくなるまで待ちなさい」と言い聞かせていた。
ところがある日、宮千代は思い余って一人ひそかに松島を出て、遥か京都を目指してしまう。そして、宮城野の里までやって来た宮千代は、そこで『月はつゆ露は草葉に宿かりて』と歌を詠むが、どうも下の句が思い浮かばない。そうして考えながら進むうちに、うっかり馬から落ちて死んでしまった。それを知った村人が宮千代を哀れに思って葬り、塚を築いてやった。するとその頃から毎夜、塚から宮千代の亡霊が出てきては悲しそうに『月はつゆ‥‥』と上の句を口ずさむようになった。
そのことを聞いた見仏上人がさっそく塚へやって来た。そして、現れた亡霊が上の句を読んだので、見仏上人が『それこそそれよ宮城野の原』と下の句をつけたところ、宮千代の亡霊は現れなくなったという。
必ず決めてほしい役は、下記の通りです。
1.宮千代
2.見仏上人
3.塚を築く村人
他、宮廷の者たちや村人など、自由に配役して下さい。
●リプレイ本文
●舞台裏
どたたたた、とダミアン・カルマ(fa2544)が小道具や衣装を手に、忙しそうに走って行く。
「いっそげー! 幕が開がるよー!」
ダミアンの声に、これまた忙しそうなスタッフが返事を返す。
ジリリリとベルの音が会場に響いて、幕が開いていった。
●配役
宮千代:タブラ・ラサ(fa3802)
見仏上人:水沢 鷹弘(fa3831)
修行僧:片倉 神無(fa3678)
お篠:ジュディス・アドゥーベ(fa4339)
おゆき:風間由姫(fa2057)
惣太:倉瀬 凛(fa5331)
鈴:天羽遥(fa5486)
綾女の君:アヤカ(fa0075)
菫の君:都路帆乃香(fa1013)
●宮廷
天羽のナレーターが流れる。
「昔々、松島に宮千代という、美しい子供がおりました。歌をよく嗜み、時々歌を京に送っては、宮廷の者達に誉め讃えられていました」
雅楽の曲が流れる中、綾女の君が短冊を手にほうっと溜息を吐く。
「やはり、宮千代の歌は良い。心の清らなること‥‥」
それに菫の君が続く。
「ほんに‥‥宮千代も京へ参ればよいものを‥‥」
「そうしたら、いつも宮千代の歌が詠めるのう」
ほほほほと、綾女の君と菫の君が笑い合う。
●見仏上人の寺・昼
上手側に向かい、お堂の中で念仏を唱えている見仏上人。そこに、宮千代が走って来て、見仏上人の後ろで正座をする。
「上人様! 私を京へ向かわせて下さい! 京に行って、歌の修行をしとう御座います!」
「なりませぬ」
見仏上人が宮千代を振り返るように身体を客席へ向ける。
「京の都への道程はとても長く危険なもの。ましてやそなたはまだ子供の身‥‥今はこの地で様々な経験を積む事に専念なさい。京へ赴くのは、もう少し大きくなってからでも遅くはないでしょう」
困ったように言われて、宮千代がしょんぼりと肩を落とす。
●見仏上人の寺・夜
梟の鳴き声が響く中、お堂の中で見仏上人が眠っている。外では荷物を首にかけた宮千代が立っている。
「上人様‥‥今まで育てて頂き、有難う御座いました‥‥このご恩は一生忘れは致しません‥‥しかし、私はもう待てないのです。ご恩を仇で返すような真似を、お許し下さい‥‥!」
宮千代が勢いよく下手へ駆け出して行く。それに、見仏上人が起き上がる。
「宮千代‥‥? まさか、独りで京へ向かったのでは‥‥」
●宮城野原・夜
暗い舞台に、こつこつと馬の蹄の音が響き、張子の馬に乗った宮千代がスポットライトに浮かび上がる。
「何処まで来ただろう‥‥月が隠れてしまってよく見えないな‥‥」
サァーッと風の音がして、舞台が少しずつ明るくなっていく。背景には雲から現れる月、そして紗幕に描かれた美しい草原が現れる。
「おお、これは何と美しい‥‥草葉に揺れる露が、まるで宝玉のようだ‥‥」
宮千代がうっとりとしたように草原を見渡す。
「月は露、つゆは草葉に宿かりて‥‥」
ふと、宮千代が口を閉ざす。その後、何度か同じ上の句を詠んでは首を傾げる。
「宿かりて‥‥うーん、なかなかいい下の句が出て来ないな‥‥うーん」
考えながら馬を進めていると、突然馬が大きく嘶き、宮千代が振り落とされる。
「うわああ!」
●舞台裏
奈落に落ちて来たタブラを、ダミアンの敷いたマットが受け止める。
急いでタブラがマットから下り、ダミアンがマットを片付けると、タブラが奈落の上に寝転がった。
舞台が暗くなるのと同時に、タブラを乗せた奈落が上がって行く。
●宮城野原・昼
宮千代が倒れている。そこへ、上手からお篠とおゆきがやって来る。お篠、慌てたように宮千代に駆け寄る。
「坊や! 坊や、しっかりおし!」
おゆき、宮千代の額に手を置いて驚く。
「酷い熱だわ‥‥!」
「おゆき、先に帰って床の準備をお願い!」
「判ったわ!」
慌てて下手へ駆けていくおゆきと、下手からやって来た惣太がぶつかりそうになる。
「わあ! どうした、おゆき。そんなに急いで」
「あ、惣太! 丁度良かったわ、お篠を手伝って! 人が倒れてるの!」
「え! わ、判った!」
おゆきが下手へ去ると、惣太が慌ててお篠へ近づき、宮千代を背負う。
●お篠の家
布団の中で宮千代が魘されている。それを心配そうに見ているお篠とおゆき。宮千代が苦しそうに上の句を呟いている。
「ずーっと同じ事を呟いてるの。何かしら?」
おゆきの言葉に、お篠が小首を傾げる。
「さあ? でも辛そうだねぇ‥‥熱も一向に下がらないし‥‥このままじゃ‥‥」
お篠が心配そうに呟くと、鈴がやって来る。
「様子はどう? 薬を貰ってきたわ」
「あら、鈴。ありがとう」
「今、近くに修行僧の方がいらっしゃって、訳を話したらわけて下さったの」
「まあ、そうなの。それじゃあ、この薬を飲めば、きっと良くなるわね」
「私、お水を用意してくるわね」
お篠が薬を受け取ると、おゆきが嬉しそうに立ち上がる。と、宮千代が一際苦しそうに唸り、天井へ手を伸ばす。3人が慌てて宮千代に駆け寄るが、宮千代は上の句をまた呟くと、がっくりと手を落とした。
●宮千代の塚
惣太が塚を前に屈み込んでいる。その後ろに鈴、お篠、おゆきが立っている。
「何をしていて、何をしに行こうとしていたのかは知らねぇけど‥‥可哀想に」
「あたいがもっと早く薬を持って来れば‥‥」
「鈴のせいじゃないよ‥‥」
惣太の呟きに、鈴が涙を落とせば、おゆきとお篠が慰める。
「塚を建てたことで、少しでもあの子の苦しみが安らげばいいんだけど‥‥」
鈴が言って塚に花を添えると、4人が上手へ去って行く。
舞台が少しずつ暗くなり、夜へと変わる。上手から惣太がやって来る。
「ううう、今日は冷えるなぁ。さっさとお使いを終わらせて帰ろう‥‥ん?」
塚の後ろに張られた紗幕から、ぼんやりと宮千代が現れる。悲鳴を上げて、惣太が尻餅をつく。
「月は露、つゆは草葉に宿かりて‥‥」
「で、でで、出たぁぁ!」
悲しそうに呟く宮千代。惣太が這う様に上手へ逃げて行く。
舞台暗くなり、宮千代の姿が消えて行く。
●宮千代の塚・夜
上手から修行僧がやって来る。その背中に隠れるように惣太がいる。
「む、あの塚か」
「は、はい‥‥あそこに死んだ筈の子供が現れて‥‥お願ぇします、お坊様」
「拙僧はまだ修行中の身ではあるが、迷う者がおるならば助けぬわけには行くまい」
修行僧が塚へ近づく。現れる宮千代に、惣太が悲鳴を上げて逃げて行く。上の句を呟く宮千代に、修行僧が念仏を唱え始めるが、宮千代はただ立ったままだ。
「拙僧の念仏が届かぬのか‥‥何とも哀れな子よ‥‥むむ? どこかで見た事のある顔だと思ったらこの童子、もしや見仏上人様の」
修行僧が得心したように頷き、下手へと去って行く。
●見仏上人の寺
お堂の中で見仏上人が念仏を上げている。そこへやって来る修行僧。
「上人様! お久しぶりで御座います」
「おお、そなたは‥‥どうしましたか? 何ぞありましたか?」
「上人様、実は上人様に会わせとう人物がおりまして、何卒、ご足労お願いしたく」
深々と頭を下げる修行僧に、上人が頷く。
●宮千代の塚・夜
塚の近くに見仏上人と修行僧が立っている。宮千代が現れると、見仏上人が驚いたように近づく。
「おお、宮千代! こんな姿になってしまって‥‥」
見仏上人が涙するが、宮千代は悲しそうに上の句を告げるばかり。
「そうか、宮千代よ‥‥お主はいつでも歌を詠んでいるのですね‥‥」
しみじみと頷く見仏上人に、宮千代が呟く。
「月は露、つゆは草葉に宿かりて‥‥」
「それこそそれよ宮城野の原」
見仏上人が下の句を詠んでやると、宮千代の声がぴたりと止まり、ゆっくりと顔を上げてにこりと笑うと、深々と頭を下げた。そしてフッと消えて行く。見仏上人に修行僧が近づく。
「読経でも静まらなんだ霊を一句で鎮め、成仏させるとは‥‥歌の事は愚僧、過分にして詳しく無かれど‥‥奥深きものですな」
「そうですね‥‥宮千代よ。貴方の詠んだこの美しい歌は、この地に永遠に残る事でしょう。宮城野の美しさも、また」
舞台が暗くなる。
●宮廷
綾女の君と菫の君がしょんぼりと肩を落としている。
「宮千代が京へ向かおうとして命を落としたそうではないか」
「まさかこんなことになろうとは‥‥」
綾女の君の言葉に、菫の君が涙する。
「しかし、宮千代よ‥‥そなたが最後に詠んだ句の素晴らしきこと」
「月は露、つゆは草葉に宿かりて、それこそそれよ宮城野の原‥‥」
涙声で歌を詠む菫の君に、綾女の君が笑いかける。
「のう、菫の君よ。我らも宮城野の原へ参り、宮千代の見た美しい景色で一句歌いたいと思わぬか」
「まあ、それは素晴らしきこと‥‥妾も宮千代の見た美しい景色を見とう御座います」
頷き合って、2人は声を揃えて歌を詠む。
「月は露、つゆは草葉に宿かりて、それこそそれよ宮城野の原‥‥」
幕がしずしずと下りて行く。
●公演後
「お疲れ様でーす! 観客の反応も上々、大成功ですよ!」
舞台を下りた役者たちを、ダミアンが笑顔で迎えた。その手には大きな紙袋を持っている。
「あ! さっき、脚本家の先生が来まして、皆さんにご褒美だそうです」
言って、渡されたのは仙台名物の牛タンであった。役者達はそれぞれ牛タンを受け取ると、朗らかな顔で劇場を後にした。