湖の音楽祭07 Augustアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
不明
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
08/04〜08/06
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●本文
緑溢れる森の中にある、湖の畔。
町民のジョギングコースにもなっている、長閑な場所だ。
湖の淵に沿って設置されているベンチには、散歩中の人たちが腰をかけ、静かに揺れる水面を眺めている。
普段は風にさざめく木々の音や人々の話し声しか聞こえないこの場所だったが、以前はここでクラシックコンサートが行われていたらしい。
風の冷たい季節になり、コンサートが休止してから数ヶ月。暑い日差しが降り注ぐようになると、再び湖に楽器の音が響くようになった。
しかし、それはお世辞にもコンサートとは呼べない、拙いものだった。まるで楽器に触れた事のない者が、恐る恐る弾いているような。
それもその筈。楽器を奏でている者達は確かに素人で、普段は楽器と関係のない生活をしている者達ばかりなのだ。
それでも、悪戦苦闘しながら楽器に向かう姿はとても楽しそうで、見ている者も笑みが零れて来る。
そうしていると、いつしか美しい音楽が流れて来た。著名な指揮者であるジャン・ダイイのタクトに合わせ、小さなオーケストラが曲を奏で始める。そのメンバーの中には、名のある音楽家もちらほら見えた。
涼しい風の吹く中、湖の畔で、貴方も楽器に触れてみませんか?
●内容
前半部:楽器に触れよう!
後半部:オーケストラ演奏
今年の湖の音楽祭は、『クラシックに興味を持って貰おう』をテーマに活動して参ります。
普段は楽器に触る事のない生活をしている方も、楽器を弾いてみたいけど上手く行かない方も、皆一緒に楽器に触れてみませんか? プロの方が優しく楽しく指導して下さいます。
楽器を弾いてみたいという気持ちがある方でしたら、どなたでも参加可能です。
楽器は『クラリネット、フルート、サックス、ヴァイオリン、クラシックギター、アイリッシュハープ、アップライトピアノ、木琴、鉄琴』を用意しております。どれも数台ご用意しておりますので、好きな楽器を選んで下さい。
単に音を出して楽しむ他、簡単な曲が弾けるように練習をする事も出来ます。
また、プロの方でオーケストラのメンバーとして演奏して下さる方も募集中です。
今回演奏する曲は
『アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525より 第一楽章(モーツァルト)』
『トリッチ・トラッチ・ポルカ(J.シュトラウス2世)』
の2曲です。ご自分の得意な楽器でご参加下さい。
楽器はあまりにも高価なものでない限りはこちらで用意も出来ますし、使い慣れたものを持って来て頂いても大丈夫です。
クラシック楽器以外の楽器でも参加可能です。その際はどのパートで参加したいかを連絡下されば、ダイイ氏が編曲して下さるそうです。
演奏メンバーの方は、参加者の方の指導もお願い出来ると嬉しいです。勿論、演奏メンバーの方も前半部に参加者として来て頂いても構いません。
尚、演奏メンバーの方の報酬は2万円となっております。
水鳥企画 『湖の音楽祭』担当、原嶋東子
●リプレイ本文
●前半部
木陰がさわさわと揺れる中、たどたどしいチェロの音が響く。時折出てしまう耳障りな音に、弓を持つ田中 雪舟(fa1257)が情けなそうに眉尻を下げた。
「肩に力が入ってますね。もう少し弓を緩やかに持って、肩の力を抜いてみて下さい」
優しく肩に触れるマリーカ・フォルケン(fa2457)に言われ、田中がふうと息を吐いて弓を弾く。
「なかなか筋がいいですヨ、田中サン」
「いやいや。もう、いっぱいいっぱいですよ」
ひょいっと近づいて来たジャン・ダイイ(fz1036)に、田中が苦笑して頭に手をやった。
「それより、無理を言ってしまって申し訳ありませんでした。勝手にチェロを持って来てしまって‥‥」
「いえ、構いませんよ。それほど楽器に触れたいと思って下さるのならば、こちらとしては願ったり叶ったりですし。マリーカさんも快く引き受けて下さいましたしね」
「チェロは私の得意とする楽器ですから。こちらからお誘いしたいくらいでしたわ」
田中の言葉に原嶋東子が朗らかに笑い、マリーカへ振り返えれば、子供たちへヴァイオリンの指導も行っていたマリーカは楽しそうに微笑み返した。
「それでは、先程教えた『シチリアーノ』を、ヴァイオリンの子達と一緒に曲を弾いてみましょうか」
マリーカに言われ、子供達が「おじちゃん、頑張ろうね」と田中を見上げる。それに田中が微笑み返すのに満足そうに頷き、ジャンが他の楽器グループをうろうろと見回る。
「あ! ジャン先生!」
近づいて来たジャンにパッと顔を上げ、嬉しそうな表情を見せたのはエルティナ(fa0595)だった。同時に、フルートを構えていた加恋(fa5624)も気付いて、頭を下げる。
「お2人とも、フルートがよく似合いますネェ」
「そう言って頂けると嬉しいです」
「加恋さん、とても飲み込みが早いんです。元々、音楽的な感性があるんでしょうね」
自分の事のように嬉しげに語るエルティナに、加恋が頬を染めてはにかんだ。少し遠慮がちにフルートを扱う加恋に、エルティナがにこにこと笑いながら指導している。
「‥‥どうしたら綺麗な音が出せるのですか?」
「高音を出すときは、息のスピードが足りないと綺麗な高音が出ないので、唇の形を狭くして‥‥」
涼やかなフルートの音色が響く中、近くで神代アゲハ(fa2475)へクラシックギターの指導をしていた仁和 環(fa0597)がジャンを振り返った。
「そういえば、今回のコンサート曲もテンポの早い舞曲でしたね。ダイイさんの好み?」
言って、『トリッチ・トラッチ・ポルカ』の一節を爽やかにギターで奏でる仁和を、普段使っているエレキギターとは異なる指使いに四苦八苦していた神代が羨ましげに見つめる。
「穏やかで静かな曲も湖に合っていいんですケド、ホラ、小さい子供さんも参加してるでショウ? あんまり静か過ぎると飽きて退屈しちゃったり、寝ちゃったりする子もいるみたいでネ。寝ちゃうくらいリラックスしてくれるのもクラシックの醍醐味と言えば間違ってはいないんですケド、どうせなら最後まで聞いて欲しいナっていう演奏家としての希望で、ノリ易いのを選んでるんデス。ま、確かに舞曲は好きですけどネ」
「なるほどー」
頷いて、仁和がふと、クラリネットを子供達へ指導している千音鈴(fa3887)を見る。
「はーい、皆注目ー! これが『ドとレとミの音』が出なくなっちゃったりするクラリネットよー」
「音、出ないの? 壊れてるの?」
「大丈夫! これは壊れてないからねー。ちゃんと出るわよ、ほら!」
見上げる子供達の目の前で、千音鈴がクラリネットで『カエルの歌』を弾いてみせる。
「よし! じゃあ、皆でやってみようか! 一緒にゆっくり弾いてみてね!」
千音鈴が笑って『カエルの歌』を弾き出せば、聞き知ったメロディに子供達も続いて、軽やかなクラリネットが響き始めた。
その後ろでは克稀(fa5812)がクラシックに縁のなさそうなスーツを着たサラリーマンを相手にサックスを教えている。
「彼女の誕生日にサックスを吹いて、びっくりさせてやろうかと思いまして‥‥」
「ふむ。動機は不純だが、その意気やよし。サックスは一見難しそうだが、音を出すだけなら初心者にもすぐ出来るし、指使いもリコーダーと似ているから、比較的早く覚えられる筈だ」
照れたように話すサラリーマンに、克稀が真面目に頷く。
「それじゃあ、最初は音階を覚えるために『チューリップ』でも弾くか」
「チューリップですか‥‥」
「それが出来たら、一発で女を落とせるような甘い曲を教えてやる」
その言葉にやる気を出したサラリーマンを見ながら、仁和が呟く。
「確かに。クラシックに慣れてなそうな人もいるからな。静かな曲だと寝ちゃうだろうな」
うんうんと頷き、仁和が顔を上げる。そこには弦を爪弾いては首を傾げる神代がいて。
「ん、こうか? いや、こうだな? ‥‥くそ、ギタリストがギター弾けないって何か悔しいな」
「ピック演奏とはちょっと違うからね。ほら、親指動いてないよー」
唸りながらギターを弾く神代に、ピアノの音が被さる。弾いているのはLaura(fa0964)だ。たどたどしいながらも、エリック・サティの『ジム・ノ・ペディ第一番』を弾いている。その音が、突然ぷつりと途切れた。
「あ、あれ? 指が判らなくなってしまいました‥‥」
「んー、Lauraさんは楽譜に集中し過ぎだネ。暗譜しろとまでは言わないケド、もうちょっと楽譜から目を離して弾こうネ」
指導をしている椿(fa2495)に言われて、Lauraがしょんぼりと肩を落とす。それに、椿が笑いながらLauraの肩を叩いた。
「そんなに落ちこまナイ! 何度も弾いてれば身体が覚えるヨ! ゆっくりゆっくり行こうネ!」
「はい! ちゃんとピアノを弾けるようになって、あの番組のオーディションに挑戦するんです! 頑張ります!」
言って、両の握り拳に力を入れるLauraの目線の先では、ジャンが田中の用意したグレープフルーツのタルトを頬張り、Lauraの作ったハーブティに幸せそうな笑みを浮かべていた。
●後半部
ジャンの持つタクトがふわりと上がり、勢いよく振り下ろされた。同時に鳴り出したのは克稀のトランペットだ。モーツァルトの中でも特に有名な『アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525より 第一楽章』の最初の4小節が、ファンファーレにも似て高らかに響く。
続いて椿のヴァイオリンや、マリーカのチェロなど弦楽器を中心に他の楽器も入り、曲調は穏やかなものへと変わっていく。それでも陽気な雰囲気は変わらず、再びメロディが盛り上がる部分では田中が膝でリズムを取り始め、Lauraと隣り合ってベンチに座っていた加恋が顔を見合わせて笑った。
再び、軽やかでありながら大人しくなったメロディでは、仁和の三味線と千音鈴のアコースティックギターが響いていた。2人は口元に笑みを浮かべながらタクトを振るジャンを上目遣いに見て、楽しげに目配せをした。その様子を、神代が興味深げに見つめている。
曲は有名な旋律を幾度か繰り返し、クライマックスへと向かっていく。一見、派手そうでいながら、その実それほど大きな音は使っていない陽気な穏やかさを持つ曲は、エルティナのマリンバの音色によって涼やかさも加えられ、空を切るジャンのタクトに合わせて歯切れよく終わりを迎えた。
合間、しんとした静かな空気が流れ、ベンチから拍手が起きる。そしてそれが小さくなったのを見計らい、ジャンが再びタクトを振り上げる。ジャンの口角が、楽しい悪戯を見つけた少年のように持ち上がった。瞬間、始まった曲に聴いていた子供達からワッと歓声が上がる。J.シュトラウス2世の『トリッチ・トラッチ・ポルカ』だ。
「わ! 子供にも人気がある曲なんですね!」
「運動会なんかでよく使われますからね」
テンポの速い曲に喜ぶ子供達を見て加恋が言えば、田中が楽しげに頷いた。盛り上がりを見せるメロディに、Lauraが手拍子を送り、神代の肩がリズムに乗って跳ねる。
オーケストラでは演奏者達がいかにも演奏を楽しんでいるという様を見せ付けるように、ノリノリで楽器を弾いていた。3本のマレットを軽やかに操り、エルティナが曲の可愛らしさを引き立て、克稀のトランペットが力強く響く。
椿が鮮やかに弾むようにヴァイオリンを弾けば、千音鈴のギターが元気いっぱいにコードを奏でた。それに負けじと仁和の三味線が併走すると、マリーカのチェロの音色が曲に深みを持たせる。
まるで今にも踊りだしそうな表情で演奏するオーケストラメンバー達に、いつしかベンチから立ち上がった子供達が身体全体でリズムを取るようになっていた。その様子に他の観客達も大きな手拍子を始める。
湖から吹き込む涼しい風が強い日差しを和らげる中で、弾むようなメロディと手拍子、そして子供達の笑い声が広がっていった。