吸血鬼の花嫁 toastアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 中畑みとも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 09/23〜09/27

●本文

 ――吸血鬼。
 それは長い牙を持ち、その牙で人間の生き血を吸う化け物である。
 不老不死とも蘇った死者とも言われ、見境なしに人間を襲い、血液を奪うと恐れられているが、それは伝説上の存在として一般に伝えられている、かつての吸血鬼像だ。
 現在の吸血鬼は、ある『絶対なる掟』を守り、必要以上に人間の血を求めはしない。なぜなら、それは彼らを生かし、人間との調和を目指すうえで大切な条約だからである。
 しかし、ある男がその条約を破り、人間と吸血鬼との間に戦争を起こした。沢山の犠牲者が出る中、男を止めるために一人の少年とその仲間達が立ち上がる。少年と男は戦い、そして少年が勝った。
 戦争は終わった。だが、自らを保護してくれていると思っていた組織が決して味方ではなかった事に、吸血鬼達の足場は不安定となっていた。平穏を求め、吸血鬼達は新たな環境と共に、組織を作り変えようとしていた。

 これは、それから2年後の話である。


 スタッフからの要望に出演俳優さんが応じていただけそうだと聞き、監督もやる気になったので、シリーズの後日談を撮る事に決定致しました。
 テレビで放映はされませんが、DVDボックスの特典として付く短編になる予定です。
 テーマは『新しく生まれ変わったアンバサッドや、変わりつつある世界での日常』で、新アンバサッドでの活躍や吸血鬼の存在を知る事になった人間達のお話になります。
 様々な意見を織り交ぜて行こうと思うので、俳優さん達には過去を経て自分達の役がどう変わったのかを考えて頂ければと思っております。


●キャスト
 過去のシリーズに出演していた場合
・戦争を経てどのように変わり、今はどう過ごしているのか

 過去のシリーズに出演していない場合
(どの役も、戦争を経験しているという設定)
・戦争を生き残り、新アンバサッドで活躍している吸血鬼
・戦争で吸血鬼の存在を知った人間
・吸血鬼を支え続ける花嫁 など

 主人公的ポジションや主軸のストーリーは設けず、過去のシリーズに参加していた役が中心もしくは平等となります。


●設定
 世界観の変化により、過去のシリーズより様々な部分が変更されております。変更箇所が知りたい方は見比べてみて下さい。

○セリバテール(略=CV)
 血液摂取前の吸血鬼。
 能力:人間の数倍の嗅覚、視覚、身体能力。
 体質:慢性的貧血症(3歳位から始まり、特殊な薬でのみ回復)。他、殆ど人間同等。
 補足:大抵20歳頃まではこのまま。CVで生涯を終えた者もいる。感覚で同士が判る。

○ヴァンピール(略=VP)
 血液摂取後の吸血鬼。
 能力:CV時の能力、動物への変身、翼(形は様々)での飛行、肉体及び血液の武器化、強力な再生治癒能力、個々の特殊能力。
 体質:戦闘等で失血した場合、又は1ヶ月に1回の血液摂取(400CC程度)が必要。極端に遅い成長速度。平均寿命200年、最長寿350年。
 弱点:激しい太陽光、銀。触れると熱傷が起き、対処なしだと骨まで溶ける。
 死因:弱点による全身50%の熱傷、頭・心臓の機能停止、失血死、寿命。
 補足:花嫁死亡の場合、次の花嫁の発見までは薬で凌ぐ。その間、能力の変化はないが貧血症再発。契約した花嫁の場所を感覚で調べられる。

○アンバサッド(略=AS)
 各国で吸血鬼の統括をしている機関。
 役割:VPへの仕事の斡旋や住居の提供、生活に必要な薬や太陽光対策商品の作成・販売等。
 戦闘:TVやSFの調査・消去・逮捕等。戦闘人員を『サンクシオン(略=SC)』と呼ぶ。
 斡旋:吸血鬼でも勤務可能な(人間社会での)仕事を斡旋している。
 爵位:人間には関係ないが、吸血鬼間での領地は存在する。
 補足:ASで作成された対吸血鬼・SFに関する薬や商品は病院や警察、ハンターなどの主な組織・施設に配布、販売を許可している。尚、ASに所属する限り薬は無償提供、未所属でも人間同等の健康保険を受ける事が出来る。

○トレートル・ヴァンピール(略=TV)
 花嫁の掟を破る、又は犯罪(人間社会の法律に基く)を犯した吸血鬼。
 SCや警察、ハンターによって逮捕後、ASで裁判(人間社会に酷似)を受ける。
 補足:『イノヴェルチ』という組織が存在したが、現在は壊滅したとされている。

○ヴァンパイアハンター(略=VH)
 ASと協力関係にある対吸血鬼組織。協力要請(報酬有り)により動く。
 活動:TVの逮捕、SFの治癒・消去。
 補足:組織員の大多数が人間。たまにASに所属せずにハンターになる吸血鬼もいる。

○サクリフィス(略=SF)
 吸血鬼が持つウィルスが感染した人間。牙から感染する。現在は殆ど見かけない。
 ウィルス:潜伏期間は2時間。発病すると自我を失い、極度の貧血症となって人の血を求める。回復の見込みはない。
 治療:潜伏期間中の抗生物質の投与(ASから配布され、警察・病院等の組織、ハンターなども所有している)。これで助かった人間が花嫁になる事はない。

○花嫁(ヌーヴェル・マリエ)
 吸血鬼ウィルスに対する抗体を持つ人間。呼び方に性別関係なし。突然変異はなく遺伝的(隔世遺伝)なもの。第二次成長期に覚醒。
 判別方法:吸血鬼の嗅覚により、体臭(匂いは様々)で判別。
 花嫁の儀式:吸血鬼が花嫁の同意を得て首筋へ吸血行為を行うと、そこに吸血鬼の羽を模した痣が現われる。痣は花嫁の死亡か、花嫁の義務を放棄する事を吸血鬼に伝えた時点で消える。
 抗体:ウィルスを造血剤へと変える作用があり、吸血によって消費された血液は3〜6時間の間に回復する。その後、抗体は20日間ほど能力低下状態となり、その間の吸血行為は危険とされる(SFにはならないが、負担が大きい)。
 補足:吸血鬼と花嫁の関係はあくまでも契約であり、契約したからと言って恋人や家族になる必要はなく、また親兄弟親族での契約も障害なく可能。

○吸血鬼の認知度
 全世界殆どの人間が認知している。
 混血児: VPと人間の子供は50%で人間か吸血鬼にわかれ、CVと人間との子供は100%人間。混血児の血も通常の吸血鬼と同等で、純血種は数える程しかいない。
 補足:花嫁の血を引く吸血鬼の血に異変が起きる例は皆無(吸血鬼として生まれた時点で抗体は無くなると予想される)。

○花嫁の掟(全世界に認知されている)
 ヴァンピールはヌーヴェル・マリエ(以下、花嫁)の血液のみ摂取を許され、血液を提供した花嫁を守る事を約束し、何らかの要因により花嫁が血液提供の義務を放棄する場合、それに従わねばならない。又、生涯において幾人かの花嫁を持つ事が許されるが、同時期に1人以上の花嫁を持つ事は許されない。
 花嫁は契約したヴァンピールに対し、定期的に血液を提供する義務を持ち、自らの意思で血液摂取の許可否をする事ができる。又、健康保持の為、2人以上のヴァンピールに血液を与えてはならない。
 この掟を破りしトレートル・ヴァンピールは、サンクシオンの手によって逮捕され、しかるべき判断の元、厳しい処罰を受ける。

●今回の参加者

 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa3225 森ヶ岡 樹(21歳・♂・兎)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa5030 ルナティア(17歳・♀・蝙蝠)
 fa5757 ベイル・アスト(17歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●孤児院
 ガシャンと窓が割れ、武器を持った2人組みの男が孤児院の中へ侵入して来るのに、シスターと子供達が怯えたように隅で固まっていた。
「なあ、やっぱり隣の病院行った方が良かったんじゃねぇ? 子供攫っても、泣くわ喚くはウゼェだろ」
「病院はこの後行くって。子供は気絶させりゃあいいだろ。どうせこの村にゃ吸血鬼もハンターもいねぇんだから、のんびり遊んでればいいのさ」
 笑いながら、赤黒い刀を持った男が子供達へ近づいて来る。と、その足元に銀のナイフが突き立てられ、男が立ち止まる。現れたのはシスター姿の美琴(美森翡翠(fa1521))だった。
「そんな事はさせないわ。大事な人を、これ以上失ってたまるものですか!」
「あ? お前吸血鬼? 気配全然しなかったんだけど‥‥もしかして超弱い?」
 にたーっと笑う刀男に、美琴が一瞬で迫る。ハッとして男が刀を構え、銀の軌跡を描く短剣を慌てて弾いた。
「このやろっ‥‥っ!」
 空中で一回転する美琴に、もう一人の銃を持った男がその銃口を向けるが、美琴の投げたナイフが突き刺さる。無事に着地した美琴は、飛び掛って来た男の刀を避け、その足を斬り付けた。悲鳴を上げ、刀男が倒れる。
「なめんなてめぇ!」
 喚いて、銃男が別の銃を取り出し、子供達へ向けて引き金を引いた。美琴が慌てて駆け出すも、弾丸が発射される。やって来るだろう恐怖に息を飲む子供達だったが、その弾丸は一つの腕によって弾かれ、同時に銃男も腹を殴られて吹き飛んだ。
「やれやれ。吸血鬼と花嫁が揃って強盗とは‥‥人間も吸血鬼も大して違いはないな。そう思わないか、美琴殿」
 呆然とする美琴に、ふっと笑いかけたのはファントム(ベイル・アスト(fa5757))だった。


●アンバサッド
 バンッと派手な音を立てて分厚い書類がデスクに叩きつけられ、二・三枚の書類が風に乗って床へ落ちた。それをのんびりとした動作で拾って、セフィリス(月 美鈴(fa3366))は眉間に縦皺を深く刻んだアルベルティーア(ルナティア(fa5030))を見上げた。
「‥‥荒れてるわね、ティファ」
「何の事か、さっぱり判らないわ」
 ぶっきらぼうに吐き捨てられる言葉に、セフィリスが溜息を吐きつつ書類に手を伸ばす。
「終わったんだからもういいでしょ? 私は帰るわ」
「貴女‥‥まだあの子を探しているの?」
 何気なく言われた言葉に、アルベルティーアがバッと振り返り、殺気すら込められた目でセフィリスを睨んだ。しかし、当のセフィリスはそんなアルベルティーアの反応を予想していたのか、微かにも動じずに書類に目を落としていた。
「貴女に何が判るって言うの!? 結局、私達は都合の悪い事はあの子1人に全部押し付けてしまっただけなのに!」
 叫んで、アルベルティーアはギリギリと拳を握り締め、苛立たしげに部屋を去って行く。それに、セフィリスが肩を竦めて溜息を吐く。
「全く‥‥あれから2年も経っているというのに‥‥いつになったら落ち着けるのかしら‥‥洸耶も相変わらずみたいだし‥‥」
 呟きながら、セフィリスが見下ろした書類に、1つのサインがあった。


●診療所
 ペンでサラサラと自分のサインを書いた後、洸耶(橘・月兎(fa0470))は疲れたように眉間を指で揉み、窓へと目を向けた。
 外は天気が良く、暖かな日差しが降り注いでいる。その陽の下では1つの墓がぽつんと佇んでいた。


●アンバサッド
 書類を読み終え、セフィリスが手元の紅茶を飲んで一息吐く。
「立ち止まっているのか、それとも前に進んでいるのか‥‥そこから見た私達は、どんな感じなのかしら‥‥?」
 セフィリスの視線の先にある棚には、小瓶に入れられた白い石があった。何の反応もないのを確認してセフィリスはふわりと笑うと、鳴り始めた電話へ指を伸ばした。
「はい‥‥ああ、ファントム‥‥そう、判ったわ‥‥お疲れ様。次もお願いね‥‥」
 電話を切り、セフィリスは静かに深呼吸をする。
「人間と吸血鬼の共存‥‥難しい事だけれど、でも‥‥やるだけやってみる価値はあるわよね」
 呟いて、セフィリスは再び書類へ目を落とした。


●森
 パチンと携帯電話を折り畳み、ファントムは孤児院へ押し入った2人組みの男をサンクシオンに引渡し、さてと呟いた。軽く地を蹴り、尋常でないスピードで森を駆け抜けて行く。と、その足が何かを見つけて立ち止まった。
 目を凝らすファントムに見えたのは、木々の間から見え隠れする少女の影と、数人の吸血鬼の気配。
「随分と簡単に見つかったな」
 呟いて、ファントムは気配のする方向へ走り出した。


●孤児院回想
「別件を追ってこの近くまで来たのだが、まさか君がいるとはな」
 そう言うファントムに、美琴は逡巡したように俯いた。足はいつでも逃げれるようにファントムの気配を探っている。その様子に、ファントムは困ったように笑った。
「心配せずとも、君の事は伝えぬ。確かに君の立場は少々危ないが、情状酌量の余地もあるとしてセフィリス殿が周りを抑えてくれている。私も、こうしてアンバサッドへ従属し、罪を償わせて貰っている身だ。今のアンバサッドは昔とは違う」
 その言葉に戸惑う美琴を、後ろから子供達が不安そうに見ている。それに、ファントムが気づいて微笑んだ。
「君はあの方の下で、自らの居場所を見つけようとしていたように見えたが‥‥成程、君の居場所はここにあったのだな」


●孤児院
「おねぇちゃん?」
 舌足らずな声で呼びかけられ、美琴はハッとして顔を上げた。奥ではシスター達が割れたガラスや壊れた家具を掃除している。
「‥‥ううん、なんでもないの」
 美琴は心配そうに見上げてくる子供達に笑いかけ、その頭を撫でた。しかし、子供達は眉尻を下げたまま、ぎゅっと美琴のスカートを握って来る。
「どうしたの? もう怖い男の人達は来ないわよ」
「おねぇちゃんはどこにもいかないよね? おねぇちゃんは、ぼくたちのおねぇちゃんだよね?」
 しゃがみ込み、子供より下の目線になった美琴に、子供達が泣きそうな顔で呟く。その声に、美琴は驚いたように目を見開いて、そしてゆっくりと顔を歪ませた。泣き笑いのような顔で、子供達を抱きしめる。
「行かないよ、ずっとここにいる‥‥ここが私の家だもの‥‥」
 抱きしめあう美琴達を、美琴と同じリボンで髪を縛った女性が穏やかな表情で見守っていた。


●森
 ザザザザッと木々の間を数人の山賊らしきトレートルとファントムが駆け抜けて行く。1人が斧を振り被り、ファントムへ迫るのに、ファントムは銀腕でその刃を受け止め、勢いを利用して蹴り飛ばす。次に迫って来た刀を身を捻って避けると、刀はファントムの服を裂き、その穴から錠剤の入った小瓶が零れ落ちた。しかし、ファントムはそれに気づかずトレートルを殴りつける。
「て、て、てめぇ! この女がどうなってもいいのかぁ!?」
 次々と倒されて行く仲間に、人間の少女へ長い爪を向けているトレートルが上ずった声で叫んだ。ファントムはそれに不快そうに眉を上げ、地を蹴る。恐怖に顔を強張らせるトレートルを軽々と飛び越え、その背中を蹴りつけた。悲鳴を上げてトレートルが吹っ飛ぶのと同時に、ファントムの腕が少女を抱き留める。
「あ、有難う御座いました‥‥」
 恐怖に擦れた少女の声に、ファントムが微笑み返そうとして振り向いた瞬間、ぐにゃりと目の前が曲がった。慌てて少女を放し、ファントムが木の幹へ手をつく。
「ちっ‥‥薬が切れたか‥‥」
 舌打ちしてファントムが薬を探し、服に穴が開いている事に気づいた。それに疲れたように溜息を吐いて地面に座り込んだ。
「あ、あの、どこか怪我を?」
「いや、ただの貧血だ、吸血鬼特有のな。情けない事に、薬を落としてしまったようだ。暫くすれば平気になるから、それまで待っていてくれ。君は必ず村へ返す」
 言って、青白い顔で目を瞑るファントムに、少女が意を決したように近づいた。
「あの、宜しかったら私の血を‥‥」
「何を‥‥普通の人間が血を吸われれば‥‥いや、君は‥‥」
 ふわりと漂う花のような香りに、ファントムが目を細めた。心配そうに見つめる少女の目に不安の色は見えず、少女から流れてくる懐かしいような切ないような香りにファントムが微笑む。
「‥‥自分の危険も省みず、血を分け与えられるのか‥‥まるで‥‥いや、世界には彼女の様な存在は数多くいると言う事だ‥‥」
 呟いて、ファントムが重い身体を動かし、少女へ跪く。
「血を頂く代わりに、私は君を全力で守る事を誓おう。今この瞬間から、君は私の花嫁だ」
 ゆっくりと、少女の首筋にファントムが口付けた。


●丘
 街が見下ろせる丘の上に、アルベルティーアが立っていた。強い風が吹き、アルベルティーアの長い髪を散り散りに攫っていくが、本人は気にした様子もなく、街を見下ろしていた。その目には怒りとも悲しみともつかない複雑な色が浮かんでいる。
「クロウなんかに心酔した馬鹿な奴らのせいで、貴方がいなくなって‥‥貴方は今、どんな気持ちでいるのかしら‥‥」
 アルベルティーアが胸に下げたロケットペンダントを握り締める。
「必ず、必ず探し出すから‥‥何があろうと私だけは貴方の味方よ、ディアン‥‥だから‥‥」
 呟いて、アルベルティーアが見上げた空は、抜けるような青色をしていた。


●診療所近くの墓
 ルナとシリウスという2つの名が刻まれた墓に、ひょっこりと子犬の影が現れた。影はまるで墓参りでもしているかのように墓を見つめ、動かない。
「やあ」
 そんな子犬に声をかけたのは、手に白い紙袋を持った洸耶だった。子犬の横に立ち、墓を見下ろす。子犬は薄い茶色の毛並みをしており、光が当たると金にも見える。
「戦争が終わって、世界が目まぐるしく変わって‥‥君がいなくなる前とも随分と変わった。今じゃクレーエ派も殆ど消滅したよ。代わりに、人間が吸血鬼を雇って暴れる方が多くなっているらしい。全く、どうなってるんだろうな、この世界は」
 自嘲気味に笑う洸耶に、子犬が尻尾を軽く振る。
「いつか彼女らが望んだ世界がくればいいとは思ってはいるが‥‥」
 呟いて、洸耶が目を閉じる。そして、ゆっくりと目を開け、子犬の足元へ白い紙袋を落とした。子犬はそれを咥え上げ、立ち去ろうとする。
「姉さんには会って行かないのか? ずっと探しているぞ」
 投げかけられた言葉に子犬が立ち止まる。さあーっと心地いい風が洸耶と子犬の間をすり抜けて行く。
 反応のない子犬に洸耶が静かに振り返り、子犬の背中を見る。すると、子犬はまるで『じゃあ、またね』とでも言うかのように1つ尻尾を振って。

 炎となって消えて行った。