ランチタイムクラシックアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
不明
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参加人数 |
15人
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サポート |
0人
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期間 |
10/20〜10/22
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●本文
オフィス街に並んで立っている、とあるデパート。昼時には昼食を食べにやってくるOLやサラリーマン達で賑わうデパートの1階にあるフードコートで、その曲は始まった。誰しもが耳にしたことが一度はあるだろう、有名なクラシック曲。
フードコートの一角に小さなステージを作り、その上で演奏者が奏でるクラシックを、観客達は各々で買った食事を食べながら聴いている。まるで、家でCDを聴くかのような気軽さでクラシックを感じれるそのイベントを、客はうっとりと楽しんでいた。
そんなフードコートの壁には、シンプルなイラストにイベントのタイトルが書かれたポスターが貼られていた。
『あなたも気軽にクラシックを楽しみませんか? ランチタイム・クラシック、開幕』
●演奏者募集
ランチタイム・クラシックで、クラシックを演奏して下さる演奏者の方を募集しております。
ステージは小さく、多くても5〜6人程しか入りません。ピアノなどの大きな楽器も置けないので、ヴァイオリンやフルートなどの小さな楽器がメインとなります。楽器はこちらでご用意することも、持込頂くことも可能です。勿論、声楽の方もご参加可能です。
演奏者の方には数名もしくは全員でグループを組んでもらい、2曲ほど演奏して貰う予定です。演奏する曲は皆さんで選曲下さい。
演奏者の方には報酬として「1万円」をご用意しております。
●観客の方へ
観客の方は、フードコートの一席にてクラシックを聴いて頂きます。
格式高いコンサートなどではありませんので、お友達やご家族と一緒にお気軽にご参加下さい。
フードコートの周りにはハンバーガーやラーメンなど、一般的なファーストフード店が並んでいますので、お食事をしながら聴いて頂いて構いません。(ファーストフード店の食事料金はタダでは御座いません、何かをご購入頂いた際はそれ相応の金額を頂きます。クラシックコンサート自体は無料です)
●補足
今回のイベントは、デパートと水鳥企画の合同企画で、責任者は『湖の音楽祭』で担当をしておりました原島東子がやらせて頂きます。
●リプレイ本文
帽子を深く被り、伊達眼鏡までかけたRickey(fa3846)が、か細い声でなくお腹を押さえつつやって来たのは、とあるデパートのフードコートだった。そこから聞こえてきた音に、Rickeyが目を丸くする。
「うわ、ここってクラシックの生演奏してるの? あ、イベント中なんだ、へぇー。いい時に来たなぁ」
ステージ上の演奏者を横目に見つつ、Rickeyがハンバーガーを購入し、空いている席の椅子に座った。
「何だっけ、この曲。聴いたことあるんだけどなー」
独り言を呟きながらRickeyがパクリとハンバーガーに齧り付く。
ステージでフィドルを演奏しているのは、乾 くるみ(fa3860)だった。軽快な調子のセレナーデを、楽しそうに弾いている。横ではシンセサイザーが自動伴奏を担当しており、乾のフィドルの音色を引き立てていた。
ちらりと乾が観客達の方を見る。一番最初に見えたのは、自身の音色を目を閉じて聴いてくれている男性だった。気持ちよさそうな表情に、こちらも嬉しくなってくる。その横では、アイスを零した子供の口を、母親らしき女性がハンカチで拭いて上げていた。何だかクラシックとのそのギャップに、思わず口元が緩む。
「今弾いたのは、『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』っていう、モーツァルトの有名な曲です。皆さんも聞いたことあるでしょ?」
乾がにこやかに微笑みながら言った言葉に、「あ、それだー!」と両手を打ったのは、ハンバーガーを食べ終わったRickeyだった。無意識に叫んでしまっていたらしいRickeyが慌てて口を両手で塞ぎ、帽子で顔を隠すと、周りからクスクスと笑いが漏れる。
「それじゃあ、次はパガニーニの『24の奇想曲集』から、『第9番ホ長調、アレグレット』を‥‥」
言って、乾がフィドルを構える。軽やかな曲が奏でられ始めた。
「全く、無茶を言うわよね、ユーリも」
「だって楽しそうじゃない! 絶対楽しいわ!」
話しながら、楽器を用意しているのはEUREKA(fa3661)と千音鈴(fa3887)だった。EUREKAはヴァイオリンを、千音鈴はギターを持っている。その後ろでは、希蝶(fa5316)がチェロを運んでいた。
「まあ、確かに印象変わっていいかもしれないけど‥‥蝶なんてチェロに逃げたわよ?」
「チェロだって充分早いって! 俺はこれで精一杯なの!」
千音鈴に指を指され、希蝶がチェロを抱きしめながら反論した。
コミカルなワルツが流れる。ショパンの『子犬のワルツ』だ。誰しもが聞き覚えのあるメロディに顔を上げ、小首を傾げる。音楽に少しでも触れた者は、目を丸くして驚いた。何故なら、彼らはこのワルツを弦楽器のみで演奏しているからだ。
ピアノならまだしも、ヴァイオリンやギターでは高速と呼んでも言い過ぎではないスピードのメロディを、もう楽しくて仕方ない! といった表情で弾いているのはEUREKAだ。千音鈴もEUREKAほどではないにしろ、平気な顔で楽しそうに笑みを見せている。そんな2人に、希蝶はついて行くのがやっとだ。けれど、普段出来ないような演奏に、自然と笑みが零れる。
「凄いな、あの子達」
「本当‥‥あんな人達と一緒にステージに立てるなんて‥‥緊張します‥‥」
「その割には、落ち着いて見えるけどなぁ」
そう言って微笑みあうのは、藤緒(fa5669)と祥月 暁緒(fa5939)だ。藤緒はシックなワイン色の、カジュアルでシンプルなデザインのワンピースドレスを着ている。祥月は同じくシンプルデザインで落ち着いた灰桜色のカジュアルワンピースに、白のレースカーディガンを羽織っていた。
ワルツが終わると、2人はステージへと上がっていく。その間に千音鈴は楽器をヴァイオリンに変え、希蝶はチェロを置いて立ち上がる。EUREKAと千音鈴の前に、藤緒と祥月、希蝶が並んだ。
ヴァイオリンの音色と共に、希蝶のテノールが高らかに歌い始める。曲はヴェルディのオペラ『椿姫』から、『乾杯の歌』だ。のびのびと、それでいて優雅に歌う希蝶は、舞台さながらに身振りもつけて、観客達の目を惹く。それに続いたのは祥月のソプラノだ。希蝶の歌に賛同するかのように、楽しげに歌う。
次に歌い始めたのは藤緒だった。艶やかでいて華やかなソプラノで、観客達を魅了する。食事をしていた筈の観客達が、今やその手を止め、演奏に聞き入っていた。携帯ゲームをしていた子供も、ぽかんと口を開けてステージ上の演奏者達を見ている。
藤緒の歌に希蝶が掛け合いを初め、最後は祥月も混ざって3人で高らかに歌い上げた。3人がお互いに目線を合わせ、気持ちの良い達成感に笑みを浮かべる。終わった歌に、観客達から拍手が贈られた。
「凄い凄い! こんなのが生で、しかもタダで聞けるなんて!」
「気軽にこんな楽しいクラシックが聞けるやなんて、素敵やわー」
「ね! 来て良かったね!」
他の観客に混じって、興奮気味に拍手を贈っていたのは柊ラキア(fa2847)だ。変装にと深く被っていた帽子が、拍手する動きに合わせて少しずつずれて行く。そんな連れの帽子をさり気なく直して、自然な感じに髪を結って伊達眼鏡をかけた文月 舵(fa2899)が嬉しそうににっこりと微笑む。
「もう、ラキちゃんったら興奮し過ぎや。ほっぺたにネギがついたはるよ」
「え? 本当? 舵、取ってー」
甘えたように頼まれて、文月は身を乗り出すと、柊の頬についていたネギを自らの口で取った。その軽いキスのような仕草に、柊が本当に幸せそうな顔をして、お返しとばかりに文月の頬にキスをする。えへへ、と笑う柊の頭を、文月が愛しそうに撫でた。
そんなバカップル全開な2人であったが、周りの客達の目線はステージの演奏者達に向いていて、2人の様子に気付いた者はいない。柊と文月はお互いに幸せを感じながら、手元のラーメンを美味しそうに啜った。
ガサガサと、デパートで購入した物が入った紙袋を隣の椅子の上に置き、マリエッテ・ジーノ(fa3341)はフウと溜息をついて席に着いた。
「良かった、まだやってるみたい。どんな曲が聴けるのかしら」
準備中らしいステージを見やり、マリエッテは袋の中からサンドイッチを取り出した。蓋を開け、サンドイッチに口をつける。
「今日はじっくり聞いて、自分の肥やしにしないとね」
楽しみに待つマリエッテの視線の先で、ステージに演奏者達が上がって来た。
「今日は楽しく行こうね!」
「はい! よ、宜しくお願いしますっ!」
「何緊張してんの。頑張って来なさいよ」
倉瀬 凛(fa5331) にポンッと肩を叩かれ、春野幸香(fa5483) が勢いよく頭を下げた。それにLaura(fa0964)と田中 雪舟(fa1257)がにこやかに微笑むと、相棒の様子を見に来たらしい日向葵(fa5475) が春野の背中を叩いて、ステージに押し出す。
Lauraと田中がステージの中央に立ち、その後ろで倉瀬と春野がヴァイオリンを構えた。倉瀬が春野に頷き、ヴァイオリンを弾き始める。それに合わせて春野が続くと、Lauraがヴィオラのパートを、田中がチェロのパートを歌い出した。
可愛らしく、ゆったりとした曲が流れる。ハイドンの『弦楽4重奏曲第17番、セレナードの第2楽章』だ。4人はお互いの音を聞き合い、綺麗なハーモニーを奏でて行く。その音色に、食事を買っていたカップルが振り返った。お互い何事か呟き、楽しそうな顔でステージに程近い席を選んで座る。
セレナードを緩やかに終えた4人はにっこりと微笑んで観客を見回した。そして、ヴァイオリンを下ろした倉瀬がにやりと笑うと、隠し持っていたリコーダーをにょっと出し、ピロロロッと音を出した。その音にパスタに夢中になっていた子供が顔を上げ、倉瀬の持つリコーダーを見ると、横にいた母親に「僕のと似てる!」と声をかけた。その間に、春野がヴァイオリンを片付けてヴィオラを構えると、ふと顔を上げた先で日向が手を振っているのを見つけて、春野は笑みを返した。
倉瀬はLauraと田中に楽しそうにウィンクすると、春野を軽く振り返った。頷く春野を確認すると、倉瀬がリコーダーを吹き始める。流れ始めたのはシューベルトの『アヴェ・マリア』だった。リコーダーの優しく、暖かい音色が響く。
それに入ってきたのは田中のテノールだった。伸びやかでいて迫力のある声が、観客の耳を緩やかに撫でていく。Lauraのソプラノリコーダーのような声がコーラスに入り、田中の声を引き立てると、春野のヴィオラが曲を引き締めていく。
歌われる曲に、いつしか愚図っていた赤ん坊がぐっすりと眠り込んでいた。その横にいたお疲れ気味の父親も、口を半開きにして眠っている。隣の椅子に買い物袋を沢山積み上げてある母親も、そんな2人を見て苦笑しつつ、演奏に耳を傾けていた。その様子に、Lauraと田中が顔を見合わせて微笑み、倉瀬と春野が口元を緩める。
ゆったりとした曲は、そのまま優しい時間を観客達に提供し、ランチタイムを終えていった。
「本日のランチタイムクラシックは終了致しました。このイベントは‥‥」
担当者らしい人物のアナウンスに、食事を終えた観客達がぞろぞろと帰っていく。その中で、ひらひらと手を振っている日向に、春野が駆け寄る。
「良かったよー。ちゃんとやってたじゃない」
「もう緊張したよー。皆、凄い人達なんだもん」
「本来だったら、こんな風に気軽には聞けない、凄いメンバーよね。随分贅沢なコンサートねー」
日向の言葉に、春野が実感を込めて大きく頷く。その後ろで、Lauraと田中が話していた。
「さて、コンサートも終わったことですし。私達も何か食べましょうか」
「ええ、そうですね。倉瀬さんも一緒に如何ですか?」
「ご一緒させて貰えるの? じゃ、遠慮なく!」
Lauraの誘いに倉瀬がにっこりと笑う。また別の場所では、希蝶が共に演奏したメンバーに集っていた。
「お腹減ったー。誰か奢ってー」
「よし、じゃあ年長者の私が‥‥と思ったが、よく考えれば皆私より高収入だな。自腹で食え」
「酷っ!」
藤緒に一蹴され、よよよっと泣き真似をする希蝶に、EUREKAがぽんっと両手を打つ。
「それもそうね。それじゃあ、今日は蝶君の奢りってことで」
「え!? ちょ」
「あ、それ賛成ー。私何食べよっかなー。暁緒は何するー?」
「え? い、いいんですか?」
奢りに賛成し、祥月も誘う千音鈴に、希蝶がわたわたと慌てる。そこに楽しそうに近づいてくる、乾の姿があった。
「ちょっと、君達、俺より高収入でしょうが!」
「はーいはいはい! あたしパスタ食べたいです! パスタパスタ!」
「ええー!? くるみもー!?」
希蝶が悲鳴を上げると、フードコートに朗らかな笑いが広がっていった。