libertas!Festivitasアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
中畑みとも
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/12〜08/16
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●本文
資産家、大場拓郎氏の自宅に、ひとつの占有劇場が建てられた。
フィーリウス劇場。ラテン語で『息子』という意味である。
「親馬鹿っていうの? ちょっとやりたいことがあるんだって言ったら、協力するって言ってくれてね。まさか、コレクションの車を入れてた車庫を潰して、占有劇場を作ってくれるとは思わなかったけど。え? 車? ちゃんと別の場所に車庫を作ってたよ」
そう苦笑しながら、けれど嬉しそうに話すのは、演出家の大場六郎氏である。六郎氏は、大場氏の一人息子であった。
「収容人数80人の小さな劇場で、舞台機構とかそんなに充実したものはないんだけどね。それでも、自分の作った世界だけをずっと演じてくれるってのは嬉しいものだよ。本当、父親には感謝かな」
そんな六郎氏は、現在その劇場で自らの世界を演じてくれる劇団や役者を募集している。特定の劇団を持たず、様々な役者たちに自分の世界を演じて欲しい。それが六郎氏の夢であった。
リーベルタース。
『自由』の名を与えられたその世界で、一体どんなストーリーが始まるのだろうか。
(演劇雑誌『アステール』大場六郎氏インタビューより抜粋)
人間と獣人たちが平和に暮らす国、リーベルタース。
その国王である、優しい顔をした老人は、ゆっくりと窓の外を見下ろした。
城下町ではたくさんの民が行き交い、それぞれの暮らしを謳歌している。
さて今日はどんなことがあるのだろう?
人々は誰と語り合い、すれ違い、出会うのだろう?
人々は何をして楽しみ、悲しみ、笑うのだろう?
老国王は微笑む。暖かな日差しを浴びながら、人々の笑い声を聞きながら。
今日もリーベルタースの一日が始まる。
フィーリウス劇場の概略
●舞台機構
1.照明が左右に1機ずつ、中央に1機
2.美術バトン2本
3.緞帳や黒幕あり
4.他、電気音響設備など、全てコンピュータ制御
●楽屋など
劇場の隣に、楽屋・衣装室用の小屋がある
●舞台セット
1.広場
城下町の中心。遠くに城を見上げることができる。ベンチや露店などがある。
2.商店街
武器屋、防具屋、道具屋、服・アクセサリー屋、食べ物屋の5つの店先が並んでいる。
3.路地裏
ところどころにゴミが落ちている、暗い路地裏。
4.城門前
城へ入る門の前。城の周りには水路があり、橋がかかっている。
5.朝・昼・夜の空を表す背景画
美術バトンで吊るすことができる、朝・昼・夜の空の背景画。
以上の5つは既に準備され、いつでも使えるようになっています。
美術系職業の方はその他の舞台をひとつ作成することが可能です。
小道具は明らかに用意・作成の不可能なもの以外であれば、こちらで用意できます。
●資産家について
大場拓郎氏は両親が芸能活動とビジネスで得た資産を守る二代目。その息子の六郎氏は現在CMや演劇などで活躍中の演出家。二人とも熊の獣人である。
設定
●リーベルタースについて
全く事件がないわけではないが、大きな事件はほとんど起きない平和な国。
衣装や武器、外観的なものは中世ヨーロッパな雰囲気で、魔法は存在しない。
日本・中華風の服装・武器などは異国のものとして扱われる。
主な交通は馬車・船・徒歩。電気・ガスはない。
種族は人間と獣人の二つで、人間と獣人の混血として半獣人がいる。
(PCの方々にはその設定によって人間形態、獣人化、半獣人化して演技してもらいます。観客の方はメイクだと思っています)
全体の舞台の設定である城下町にはそこでずっと暮らしている者、観光に来た者、旅の途中に寄った者など様々な人間がいる。
●劇の内容
テーマを使用して頂ければ、役者の方々で相談してストーリーを考えるのでも、脚本家の方がストーリーを考えるのでも構いません。自由にストーリーを作って下さい。ただし、どのテーマでも老国王死亡などのプレイングは避け、老国王が出演するストーリーは作成しないで下さい(会話上に名前が出るだけならOKです)。同時に、老国王役は必要ありません。
●その他
きちんとテーマを使っていて、かつ面白いストーリーであることが望まれます。観客の方を大いに楽しませ、いつもこっそり見に来ている大場氏を喜ばせることができたら、ボーナスが出るかもしれません。
●今回のテーマ 『夏のお祭り』
●リプレイ本文
●準備中
「元のセットを壊さないように気をつけて下さいよ。ああ、それはそっちの色に合わせて‥‥」
舞台の下から、弥栄三十朗(fa1323)がセットの組み立てを指示していた。元からある広場のセットを『夏の祭り』に相応しく、色とりどりの道具で飾り付けている。
衣裳部屋では役者たちがそれぞれの衣装に着替えていた。旅芸人一座のグラン役の氷咲 華唯(fa0142)は半獣の状態で旅芸人らしく明るい色合いの、動きやすい衣装。同じく旅芸人一座のマリア役である霧島・沙耶香(fa2385)も動きやすい衣装で、こちらは優しい色使いだ。シークリュード役のラリー・タウンゼント(fa3487)は吟遊詩人っぽい淡水色のチュニックのような衣装。
ファータ役の伝ノ助(fa0430)は完全獣化した状態でオーバーオールのような衣装を着ている。エレノワ役のフォーティア(fa2516)は酒場のウェイトレスらしく、シックではあるが装飾の多い、メイドのような衣装だ。ソニア役の宝野鈴生(fa3579)はお針子らしくシンプルな衣装である。
「皆さん、準備の方は宜しいですか?」
衣裳部屋に顔を出したのは弥栄だった。衣装を着た役者たちを見て満足そうに頷く。
「今日は宜しくお願い致します。頑張りましょう」
そうして劇が始まった。
●祭り間近の広場
色とりどりの道具が飾られた広場のセット。その真ん中でエレノワが両手にビールを持っている。
「ああ、忙しい、忙しいわ! そろそろお祭りの時期だからお客さんも多いわね」
そこに左の袖からフォータがやって来て、エレノワに話しかけた。
「やあ、エレノワ。急がしそうっすね」
「あら、フォータ。今日はどうしたんですの?」
「仕入れから帰って来たんすよ。そろそろ祭りが始まるっすからね」
そう言ってフォータが背中に背負った袋をエレノワに見せて、右の袖へと走って行く。次にやって来たのはソニアだ。右の袖から小走りに駆けて来る。
「あら、ソニア。珍しいですわね、あなたが外に出てくるなんて」
「仕事で使う布が足りなくなっちゃって‥‥買いに行く途中なんです」
ソニアがトタトタと左の袖へ駆けて行った。エレノワがそれを見送る。
「皆忙しそうですねー。‥‥あら? 今度は誰かしら」
エレノワが左の袖を見ると、そこから旅芸人の一座がやって来る。
「ここがリーベルタースかぁ。随分と賑やかなところだなぁ」
「祭りの時期ですからね。他のところからもたくさん人が来ているんでしょう。私たちみたいにね。ほら、しっかり前を見て歩いていないと転びますよ、グラン君」
「わかってるよ、セイク」
呟いたのはグランだ。キョロキョロと辺りを見回している。それをシークリュードが落ち着いた様子で窘めた。
「うーん、でもこれからどうすればいいんですかぁ?」
「そうですねぇ。どこか広い場所にテントを張る準備をしないと‥‥でも」
同じくキョロキョロとしているマリアにシークリュードが困ったように首を傾げる。
「‥‥弱りましたね。初めて訪れる街ゆえ、勝手がわかりません」
「そこら辺の人に聞けば何とかなるんじゃないか?」
「あ、グラン君!」
グランがエレノワに近づく。
「すみません! 俺たち旅芸人の一座なんですけど、ここら辺でテントの張れる場所とかありませんか?」
「まあ、旅芸人の方々ですか? ようこそリーベルタースへ! テントならあの辺りがいいと思いますよ。あそこなら広いし、人も多く来ますから」
「ありがとう!」
エレノワに礼を言って、グランがシークリュードたちの元に戻る。それに頷いて、一座が左の袖に去って行く。エレノワは一座を見送ると、嬉しそうに飛び跳ねた。
「旅芸人ですって! あとで異国の話を聞かせてもらおうっと!」
舞台の幕が下りる。
●テントを張っている旅芸人一座
舞台右でグランとシークリュードがテントの準備をしている。
「おかしいですね‥‥物資の調達に行った団員たちが戻って来ない‥‥」
「どっかで油売ってんじゃねぇのか?」
そこにマリアが焦ったように左の袖からやって来る。
「大変よー!」
「どうしたんだ? マリー」
「今、行商人から聞いたんだけど、物資の調達に行った団員たちが事故にあったって‥‥」
「なんですって!?」
驚くシークリュードに舞台が暗転する。
●酒場にて
舞台中央に設置されたテーブルに、シークリュードとグラン、マリアが座っている。
「どうするんだ? このままじゃあ道具もないし、衣装も揃わないぞ」
「どうしましょうねぇ‥‥」
「あらあら、暗い顔ですわね。どうしたんですの?」
そこに声をかけたのはエレノワだった。グランがエレノワに事情を説明する。
「そういうことなの‥‥残念だわ、あなたたちの芸を楽しみにしていたのに」
「しかし道具が揃わないと、ろくな芸も出来ませんのでね‥‥」
と、左袖からファータがやって来る。肩を落としている旅芸人たちを見つけて、ファータが足を止める。
「おや? 見ない顔っすね? どうしたんすか?」
そのファータにエレノワが事情を説明すると、ファータは自分の胸をぽんっと叩き、明るく言った。
「そういうことなら、あっしに任せてくれっす! 欲しい道具を用意して来るっすよ!」
「いいのか?」
「困ったときはお互いさまっす! ‥‥でも代わりに、後で異国の夏祭りの話を聞かせて欲しいっす。それが交換条件っす」
「そんなことなら、いくらでも話してやるよ!」
ひとつの困難が解決して、笑いあう5人。しかし、ふと首を傾げたマリアが呟く。
「でも、衣装はどうするんですの?」
「それなら、いい人材がいますわ! ソニアー!」
エレノワが言って左袖を指差すと、ソニアがたくさんの布を持って歩いて来る。
「‥‥どうかしたんですの?」
エレノワがソニアに事情を話す。すると、ソニアが少し逡巡した後で呟いた。
「私でよければ‥‥助けになりますか?」
「頼むよ!」
グランがソニアの手を握り、礼を言う。
●準備を進める一座
ソニアが衣装を繕い、グランに合わせている。
「ここでは今、襟を立てるのが流行りなんですの」
「へぇー、そうなのかー」
横ではファータがシークリュードの指示でセットを組み立てている。
「こんなもんっすかね?」
「うん、素晴らしい出来ですね」
そこにマリアとエレノワが食事を持って来る。
「ご飯ですよー!」
「うちの酒場からも差し入れ持って来ましたわ」
賑やかに準備が進んでいく。
●祭り当日
マリアがお菓子を売り歩きながら、一座の宣伝をしている。
「美味しい美味しいお菓子はいかがですかー。ほっぺたが落ちる事間違いなしですよー。広場では旅一座の大道芸も開催しますー。遠い異国から来た一座の演技を是非見てくださーい!」
だんだんと周りが暗くなり、夜の背景へと変わる。
薄暗い中、舞台の左横にエレノワとソニアが立っている。そして右横にある一座のステージにスポットライトが当たり、シークリュードとグランが現れる。
「初めての街で道具も衣装も揃わず、立ち往生していた私たちを皆様は助けて下さいました。皆様の御協力がなければ私たちの音を聞いて戴くことは出来ませんでした。本当に‥‥ありがとうございます。精一杯の感謝の気持ちを込めて‥‥」
そう言ってシークリュードがリラを弾き始める。その音に合わせてグランが歌い始めた。楽しげなその曲に、エレノワとソニアが踊り始める。マリアが舞台下の客席に下りて行き、観客たちにお菓子をばら撒いた。
そして曲が終わりに近づくと、ファータが左袖から現れる。手に持った筒を弄くると、ぽんっと軽い音がして煙が出た。それをぱたぱたと払いながら、ファータが別の筒を弄り、床に置いた。音響からひゅーっという花火の音がして、美術バトンに花火の映像が映る。
上手く行ったと喜ぶファータの後ろで、エレノワとソニアが上を見上げた。
曲がだんだんと小さくなっていく。
●祭りが終わって
舞台中央に暇そうにエレノワが立っている。その横で、ファータとソニアがテーブルを囲んで座っている。
「あーあ。お祭りが終わったら暇ですわね」
「そうっすねー。来年もあの一座が来てくれるといいっすねー‥‥」
「そうですわねぇー」
しみじみと呟くエレノワとファータ。それにソニアが立ち上がる。
「さて。お祭りは終わりましたけど、明日も頑張りましょうね」
「おしっ! 頑張るっす!」
ファータも立ち上がって、ソニアと共に右袖に消えていく。
残されたエレノワも大きく頷いた。
「よーし! 来年に向けて、私もがんばろっと。次は一座の人と一緒に旅に出たいですわね」
ビールを持って舞台奥に向かうエレノワの背中で、幕が下りる。
●劇終了後
少しずつ観客が劇場から出て行く。それを役者たちと弥栄が見送り、挨拶を交わす。と、そこに劇場のオーナーである大場拓郎氏が現れた。
「なかなかいいお話でした」
「ありがとうございます」
弥栄と大場氏が握手を交わす。満足気な大場氏に、役者たちも嬉しそうに笑った。