Last partyアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 中畑みとも
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 10人
サポート 1人
期間 10/23〜10/25

●本文

 レトロな雰囲気がたっぷりな、レンガ造りのとある洋館。
 作られてから数十年が経っていると言われるこの洋館は、長年ホテルとして使われ、沢山の人々を迎え入れてきた。
 だが、何度となく補修工事を繰り返しても、限界は来てしまうもの。沢山の人を泊まらせるホテルとして扱うには危険があるとして、閉館されることになってしまった。
 そこで、洋館ホテルのオーナーは、最後の思い出作りにと、イベントを企画した。


 場所は洋館の目玉でもあった、広く豪華な中央ホール。
 そこで繰り広げられるのは、きらびやかな衣装に身を包んだ者達が笑い合う、仮面舞踏会。

 さあ、今宵、最後のパーティーを楽しみましょう。



●仮面舞踏会
 これまでのご利用を感謝して、仮面舞踏会を開きます。芸能人の方には招待状を送らせて頂きますので、参加費は頂きません。
 沢山のお飲み物、料理をご用意しております。

●衣装
 皆様には参加する際にこちらで用意した仮面を配らせて頂きますが、着けるか否かは自由です。
(仮面のデザインは、配られるまでのお楽しみです)
 衣装はご自分で用意したものを着て頂くことも出来ますが、こちらが用意したものもございますので、よろしければどうぞ。
 こちらが用意したものは、日にちも近い為、ハロウィンに因んだものになっております。

・貸衣装
 中世時代のお姫様・王子様風衣装。魔女風、道化師風、伯爵紳士風な衣装など。

●ダンス
 舞踏会開催中は常に音楽が流れ、いつでもダンスに参加することが出来るようになっております。
 ダンスへの参加は自由ですので、踊れない方でも大丈夫です。

●今回の参加者

 fa0075 アヤカ(17歳・♀・猫)
 fa0470 橘・月兎(32歳・♂・狼)
 fa0595 エルティナ(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0607 紅雪(20歳・♀・猫)
 fa3351 鶤.(25歳・♂・鴉)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa4443 陽織(24歳・♂・一角獣)
 fa5030 ルナティア(17歳・♀・蝙蝠)
 fa5316 希蝶(22歳・♂・鴉)
 fa5812 克稀(18歳・♂・猫)

●リプレイ本文

「ようこそいらっしゃいました。仮面をどうぞ」
「ありがとニャッ!」
 二階にあるホールの入り口で、貸衣装である中世時代のお姫様風ドレスを着たアヤカ(fa0075)は、ウェイターに渡された仮面をしげしげと眺めた。仮面はヴェネチア様式の反面タイプで、猫の顔を模している。アヤカは仮面に対してちょっとだけ不思議そうに小首を傾げると、それを首に引っ掛け、意気揚々とホールの中へ入って行った。
「さぁー! いっぱい食べるニャー!」

「貴方がこういうのに参加するのって、珍しいですね」
「‥‥一人なら、来なかった‥‥」
 道化師の衣装に身を包んだ陽織(fa4443)は、顔を隠していたユニコーンを模した仮面をずらして、隣に立つ鶤.(fa3351)を見上げた。伯爵紳士風の衣装を着た鶤.は、鳥を模した仮面をつけた顔を動かさず、ぼそりと答える。
「‥‥綺麗なホール、だな‥‥」
「そうですね‥‥」
 壁際で寄り添って立つ2人の前では、沢山の客達がダンスを踊っている。そのうちに1人の女性が近づいてきて、陽織に手を差し出した。陽織がちらりと鶤.を見れば頷くので、にこやかに女性の手を握り返す。
 ダンスの輪の中に入って行く陽織の背を、鶤.は何か決意したような目で見送っていた。

「お前、ホント下手な」
「うるっさいわね! ちゃんと教えてよ!」
 ローズレッドを基調とした中世貴族の令嬢風なドレスを着て、犬の仮面を被った千音鈴(fa3887)は、縦ロールにした髪を翻しながらダンスを踊っていた。お相手は吸血鬼風の衣装を着た笙だ。にやにやと意地悪い笑みを浮かべて見下ろしてくる笙の足を、千音鈴がヒールで思いっきり踏みつける。
「いっ!」
「おほほほ! ご免あそばせ!」
「お前‥‥わざとだろ‥‥くそっ、よくこんなじゃじゃ馬に恋人なんか出来たな」
「ロリコンに言われたくないわね」
「ロリコンって言うな!」
 くるくると回りながら、お互いを罵る2人を、中世の怪盗紳士風の衣装に鳥の仮面を着けた希蝶(fa5316)と伯爵紳士風の衣装に猫の仮面を着けた克稀(fa5812)が、料理を摘みながら眺めていた。
「仲いいんだか、悪いんだか‥‥」
「‥‥悪いんだろ? それよりお前‥‥」
 ワイン片手の克稀が横を見れば、希蝶が「ん?」と小首を傾げた。その手にはぎっしりと料理の盛られた皿を持っており、頬はまるでハムスターのように膨らんでいる。
「‥‥いや、なんでもない。俺も食うか」
「ほう。ふっとへ、ふっとへ」
 もごもごと上手く喋れていない希蝶に、克稀は肩を竦めて、スィーツに手を伸ばした。

 笑いながら食事をする人達を擦り抜けて歩くのは、鴇色の女性用中国礼装に身を包んだ紅雪(fa0607)だった。壁の花を決め込んでいるブラックフォーマルスーツ姿の橘・月兎(fa0470)に近づきつつ、暑そうに顔を手で扇ぐ。
「さっき、エルティナ達を見かけたわ。結構知ってる人も来てるのね」
「そうだな」
 紅雪は自身の猫の仮面を取り外し、静かにワインを飲んでいる橘の犬の仮面を軽く押し上げ、その目を覗き込んだ。
「ねえ、踊りましょ? 舞踏会に来たんだもの。一曲くらい踊らなきゃ」
 そう言って手を差し出されて、橘は一つ溜息を吐くと、紅雪の手を取った。

「あ、見て、ルナ。所長さんが踊ってるわ」
「本当。こんな場所に出てくるなんて、珍しいわね」
「紅雪さんに引きずり出されたんじゃない?」
 色違いでお揃いのベアトップドレスを着たエルティナ(fa0595) とルナティア(fa5030)が、笑って顔を見合わせた。2人とも、蝙蝠の羽を模した仮面をつけている。
「私達はどうする?」
「2人で仲良く、壁の花を気取りましょうよ」
 2人は持っていたワイングラスの縁をかちんと合わせて、にっこりと微笑んだ。 

「鶤」
 壁に寄りかかって中央を眺めていた鶤.に、陽織が戻ってくる。その手にはワイングラスがあり、片方を鶤.に渡した。
「貴方は踊らないの?」
 言われて、鶤.が軽く肩を竦める。陽織はくすりと笑って、鶤.の横に寄りかかった。暫し沈黙が続き、ゆったりとした曲と周りの笑い声だけが聞こえる。
「話したいことがあるんだが‥‥少しいいか?」
 沈黙を破ったのは鶤.だった。陽織が小首を傾げて見上げるのに、鶤.はすぐ近くのバルコニーを指差した。
 2人がバルコニーに出て窓を閉めると、ホールの中の音が遠ざかる。2人は手すりにつかまり、外を見下ろした。
「それで、なんです? 話したい事って」
 爽やかな風に髪を靡かせる陽織に、鶤.が口を開く。
「今まで、大変迷惑を掛けたな‥‥すまない。嬉しく‥‥思っている」
「ふふ‥‥何を今更」
「それで‥‥」
 鶤.が、ゆっくりと瞬きをして、陽織へ真剣な目を向けた。
「これからもずっと一緒に‥‥俺の傍で、支えていてくれないか?」
 陽織の目がパチクリと丸くなる。そして、だんだんとその言葉を実感するかのように微笑が現われ、頬が薄紅に染まった。
「こちらこそ‥‥これからも、ずっと共に」
 微笑んで、陽織が鶤.の手を取ると、その甲に軽く口付けた。突然の行為に驚いて固まり、次にカァーッと血を顔に上らせた鶤.に、陽織が満足そうに笑う。
「折角ですから、貴方も踊りませんか?」
 そう言って差し出された手に、顔を押さえていた鶤.は、軽く苦笑して手を伸ばした。

「‥‥ねえ、蝶。まさかと思うけど、タッパーなんて持って来てないわよね?」
「馬鹿だな、ちー。俺がタッパーを忘れる訳ないだろ?」
 顔を引き攣らせる千音鈴と正反対に、希蝶はキラキラとこの上ない笑顔でタッパーを取り出した。いそいそと楽しそうにパーティーの料理をタッパーに詰めていく希蝶から、千音鈴がそろそろと遠ざかり、傍にいた克稀の腕を掴む。
「ちょっと、克稀。一緒に踊らない? この場所から他人の振りして遠ざかりたいわ」
「別にいいが、これ食い終わるまで待っててくれ」
 言われて千音鈴が見たのは、克稀が握るフォークに刺さったケーキだった。生クリームがたっぷりと乗せられたいかにも甘そうなケーキを、克稀が無表情に食べている。
「‥‥無表情なのに、幸せそうなオーラが見えるのは何故かしら」
 何だか疲れたように千音鈴が呟いた後で、ケーキを食べ終えて満足したらしい克稀が、千音鈴をエスコートしていった。

 テーブルの上の葡萄をひょいっと摘んだのは、エルティナの指だった。
「この葡萄美味しい!」
「私も食べたーい」
 その声に、エルティナが葡萄を摘んで、ルナティアの口に運ぶ。ルナティアが素直にそれを受け取り、美味しそうな顔をするのに、エルティナが少しだけ真剣な表情になった。
「あのね、ルナ。私、ヨーロッパに行こうと思うの」
「お仕事?」
 ルナティアの質問に、エルティナが首を振る。その様子に、葡萄を摘むルナティアの指が止まった。
「ヨーロッパに行って、音楽を1から勉強し直そうと思って。‥‥この間ね、ジャン先生のお家でピアノのレッスンをして貰ったの。凄く楽しくて‥‥もっとちゃんと、楽器や音楽を勉強したいと思ったの。何年か勉強して‥‥日本に戻って来たときには、そこで学んだ音楽の知識や、日本での今までの芸能活動経験を生かせるような、そんな作詞家になりたい」
 エルティナの真摯な言葉に、ルナティアの指がそっと葡萄を摘む。
「それでね、ルナ‥‥」
 続けようとしたエルティナの口を、ルナティアが軽く押し付けた葡萄が遮った。エルティナが口に入れられた葡萄にきょとんとしていると、ルナティアがくすりと笑う。
「エルがそこまで考えてるなら、私は反対しない。エルのやりたいこと、学びたいこと、いくらでもしてくるといいわ。私は‥‥日本で応援してる」
「ルナ‥‥」
「ちょっと前なら、私も一緒に行く! って言ってたところだけど‥‥私も、日本でやりたいことを見つけたの。だから、私は日本で、エルはヨーロッパで‥‥お互い頑張りましょ」
 そう言ってにっこりと笑うルナティアを、エルティナが抱きしめる。2人を祝福するように、曲が明るいものへと変わった。

「風が涼しいわね」
「汗が引く気分がするな」
「あら、あれだけのダンスで汗をかいたの? 引き篭もってばかりで、体力が落ちてるんじゃない?」
 言いながら、庭へと降りてきたのは橘と紅雪だった。くすくすと笑って先を進む紅雪に、橘が肩を竦めてついて行く。庭は程よく手入れされており、月光を浴びて、花壇の花々が煌いていた。シンプルなデザインの女性銅像を物珍しげに眺める紅雪に、橘が声をかける。それに、紅雪が困惑と嬉しさの混ざったような表情で振り返った。
「何でもお見通しってこと?」
「長い付き合いだからな。俺に何か話したいことがあって、誘ったんだろう? ‥‥留学のことか?」
 それに、紅雪が頷いて、言い難そうに口を開く。
「前にも話した通り、中国への留学の手続きはもう終わってるの。中国で楽器を学びなおして、それからは中国を中心に活動するつもり。‥‥でも、いつ日本に戻ってくるか、判らない‥‥だから‥‥」
「まぁ、元を正せば、俺達の関係もお互いの親が勝手に決めたことだったしな」
 紅雪の言葉を遮り、橘が出した言葉は、何の脈絡もなさそうなものだった。それに紅雪が軽く目を丸くさせると、橘は静かに息を吐いた。
「やりたいことがあるなら、お前の好きにやれ。今度は‥‥友達として帰りを待っていてやるよ‥‥雪乃」
 橘の言葉に、紅雪がふんわりと微笑んだ。


「一体、タッパーを何個持ってきてるの!」
「まだ三つしか入れてないよ!」
「もう充分でしょ!」
 言って千音鈴が希蝶からタッパーを取り上げ、それを克稀に渡した。
「もう少しでこのパーティも終わっちゃうし、最後くらい蝶も踊りなさい!」
「あああ、俺の一週間分のご飯ー」
 千音鈴に引きずられていく希蝶を、克稀と笙が哀れみの視線で見送っていた。
「ところで、お試し期間はどんな感じ?」
 明るい曲に合わせて踊りながら、千音鈴が聞けば、希蝶は緩みきった笑顔を向けた。
「あ、聞かなきゃよかったわ」
「えー!? 聞いて! 合格に向けて凄い頑張ってるんだから!」
 希蝶と千音鈴が笑い合う。きちんとしたステップとは言えないが、2人はいかにも楽しげに踊っていた。
「ちーも幸せになれよ!」
「当たり前よ!」
 希蝶の腕の先で、千音鈴が幸せそうな笑顔でターンを決めた。

 スィーツに舌鼓を打っていた克稀は、丁度通りすがったウェイターに声をかけた。ウェイターが持っていたワインを受け取ろうと、手を伸ばした瞬間、別の手にワインを奪われる。
「ぷはー! はあ、死ぬかと思ったにゃ」
 見れば、食べかけのケーキ片手のアヤカが、ワインを一気飲みして溜息を吐いていた。克稀とウェイターの視線に、自分が何をしたのかを察知したアヤカは慌てて誤魔化すように笑った。
「にゃはは、ゴメンにゃ。ちょっとケーキが喉につまっちゃって」
「いや、別にいいが‥‥大丈夫か?」
「にゃは、アリガトにゃ!」
 くすくすと笑いながらウェイターが差し出したワインを受け取り、克稀がアヤカの方を見やる。ケーキを早々に食べ終えたらしいアヤカは、自身のことを知っているらしい男に声をかけられ、ダンスに誘われていた。
 それをぼんやりと見送り、克稀が最後のスィーツを口に運ぶ。


 ラストパーティが、月明かりの下で終焉を迎えた。