湖の音楽祭 8月アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 中畑みとも
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/13〜08/15

●本文

 緑溢れる森の中にある、湖の畔。
 町民のジョギングコースにもなっている、長閑な場所だ。
 湖の淵に沿って設置されているベンチには、散歩中の人たちが腰をかけ、静かに揺れる水面を眺めている。
 普段は風にさざめく木々の音や人々の話し声しか聞こえないこの場所だったが、最近は風に乗って美しい音楽が流れるようになっていた。
 時には楽しく、時には切なげに。様々な楽器の演奏者が集まり、誰もが知っている有名な曲から、演奏者オリジナルの曲まで、たくさんの音楽が湖の畔に広がっていく。
 ベンチにはいつしかたくさんの人が座っていた。音楽鑑賞を目的に来る人、ジョギングの休憩中に一曲聴いて行く人、曲を聴きながら読書をしている人、気持ち良さそうにうたたねをしている人……様々な人が様々な思いを抱き、様々な形で音楽を聴いている。
 美しい音楽が揺蕩う中で、あなたも一時の安らぎを感じてみませんか?


 ――ということで、演奏者を募集しています。
 今回のメイン楽器は『フルート』ですので、フルート演奏者を中心に募集しております。他の楽器演奏者の方も参加可能ですが、今回はフルートのサポートと言う形でお願い致します。
 クラシックであればどんな曲をどんな順番で演奏して頂いても構いません。
 音楽会は午前の部と午後の部がありますので、どちらに出て頂けるかを教えて下さい。もちろん、一日続けて出演して頂いても構いませんよ。
 楽器はあまりにも高価なものでない限りはこちらで用意も出来ますし、使い慣れたものを持って来て頂いても大丈夫です。
 その他、演奏者以外にステージの設置など裏方のお仕事でお手伝いして頂ける方もひっそり募集中です。
 音楽鑑賞を目的に来て下さる方も大歓迎ですよ。

 水鳥企画 『湖の音楽祭』担当、原嶋東子



設定
●水鳥企画
地方へクラシックを普及するために発足した団体。主な活動はコンサートやイベントの企画、作成など。

●今回の参加者

 fa0491 ハディアック・ノウル(23歳・♂・鴉)
 fa2172 駒沢ロビン(23歳・♂・小鳥)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)
 fa3376 桐原 芽衣(17歳・♀・蝙蝠)
 fa3920 Neiro(21歳・♀・蝙蝠)
 fa3956 柊アキラ(25歳・♂・鴉)
 fa4254 氷桜(25歳・♂・狼)
 fa4281 岡野圭祐(17歳・♂・猫)

●リプレイ本文

●音楽祭準備
 街中ではじりじりと太陽がアスファルトを焦がしている日、湖畔では別世界のように涼しげだった。日陰に位置するベンチにも、たくさんの人が座っている。その前を、氷桜(fa4254)が忙しげに走っていた。
「‥‥原嶋女史、ドライアイス持って来ました」
「ありがとう、氷桜くん」
「あ、やってるやってる」
 氷桜がステージ設営を手伝う中、やって来たのは柊アキラ(fa3956)だった。その声に振り返る氷桜に、手を振ってにこりと笑う。
「はい、これ差し入れ。湖ででも冷やして、後で食べてよ」
 そう言って柊は氷桜に持って来たスイカを渡した。氷桜がそれを受け取って主催者である原嶋東子の元に持って行く。原嶋が柊にお礼を言って頭を下げた。
「わぁ、だいぶ涼しいですね」
「そうですね」
 言ったのは、演奏者の一人である桐原 芽衣(fa3376)だった。同意する岡野圭祐(fa4281)に続いて次々と演奏者たちが湖畔へとやって来る。
「今日も宜しくお願い致します。これ、このまえと同じゼリーなんですが」
「まあ、ありがとうございます」
 豊城 胡都(fa2778)がゼリーの入ったクーラーボックスを原嶋に渡す。
「いやあ、雰囲気のいいところですねぇ。帰りに何かお土産でも買って行きましょうかね」
「それでしたら、ここからすぐ近くにお土産屋さんがありますので、演奏会が終わりましたらご案内しますよ」
 きょろきょろと楽しそうに辺りを見回すハディアック・ノウル(fa0491)に原嶋が笑うと、氷桜が近づいて来た。
「‥‥勉強のために今日の演奏をレコーダーに録音したいんだが‥‥」
「あら、そうなの? 私たちは演奏者の方々が大丈夫と言えば許可するけれど」
 言って、原嶋と氷桜が演奏者たちを見回す。演奏者はそれに笑顔で頷いた。氷桜が嬉しそうにステージに向かって行く。
「そろそろ僕たちも準備しましょう」
 岡野が言って、演奏者たちがステージへと向かう。それぞれの楽器を取り出して音あわせをしているとき、Neiro(fa3920)がペットであるフェネックをつれて、フルートの音に引き寄せられたかのようにひょっこりと顔を現した。
「あら? 演奏会?」
「そうですよ。これから始まるんです」
「OFFの日に何て偶然。ラッキーね、ライムちゃん」
 原嶋の言葉にNeiroがライムを抱いてベンチへと座る。
 そうして湖の音楽祭が始まった。


●午前の部
 岡野のフルートが少し寂しげに鳴り響いた。ドビュッシーの『シランクス』だ。ドライアイスがふわりと漂う中、駒沢ロビン(fa2172)のピアノが物悲しさを強調し、豊城のヴァイオリンとハディアックのトランペットが静かに入って来て、桐原は透き通るような声でサブメロディをなぞる。二曲目はサン・サーンスの『白鳥』、三曲目はフォーレの『シシリエンヌ』だ。桐原がフルートを吹き、寂しさを抑えた綺麗な曲へとアレンジしている。Neiroが目を閉じ、リラックスしたように聞き入っていた。フェネックもNeiroの膝で大人しく眠っている。
 四曲目からバッハの『ロ短調BWV1030』、ヘンデルの『ト短調op.1―2』、プーランクとフルート・ソナタが続く。岡野のフルートの音色が涼しげに湖畔に広がった。六曲目にJ.デル.ローストの『四つの古い舞曲』から『メヌエット』、七曲目のペール・ギュントの『朝』でフルートの音が涼しげに響き、ハディアックのトランペットの高い音がよく通り、豊城のヴァイオリンが荘厳さを増す。
 八曲目にゴセックの『ガボット』、エルガーの『愛の挨拶』で駒沢のピアノが明るく楽しそうに跳ねる。サブメロディを歌っていた桐原がフルートを取り出し、周りのメンバーと共に賑やかにチャイコフスキーの『花のワルツ』を演奏した。桐原がフルートのソロを担当し、軽いステップを刻みながら曲を奏でる。
 午前の部最後はフォーレの『子守唄』だ。岡野のフルートが穏やかに響き、駒沢のピアノの音が観客を柔らかく優しく包む。眠りかけていた柊が慌てたように起き上がった。


●お昼休憩
「‥‥お疲れ様です。これ、柊‥‥あそこに座ってるやつから差し入れのスイカです」
 言いながら、氷桜が冷えたスイカを演奏者たちに配る。弁当を食べていた演奏者たちはそれを受け取り、ベンチに座る柊に頭を下げた。
「午後もありますからね。水分はきちんと取っておきましょう」
「あ、ありがとうございます」
 駒沢が飲み物を演奏者たちに配り、岡野が礼を言う。湖畔とは言え、日差しは強いから喉が渇く。岡野はそれをゆっくりと喉に流し込んだ。
「私、午後は皆さんの演奏を鑑賞させて頂きますね」
「それでは、午後はもっと頑張りましょうか」
 桐原が期待に満ちた目で演奏者たちを見るのに、ハディアックが笑って答える。
「豊城さんからの差し入れのゼリーです」
「皆の口にあえばいいんだけど」
 原嶋が豊城の持って来たゼリーを配る。一口食べた演奏者たちに美味しいと言われて、豊城が嬉しそうに笑った。
「‥‥そろそろ時間です」
 氷桜が時計を見ながら演奏者たちに告げる。
 午後の部の始まりである。


●午後の部
 始めに演奏する曲は午後一番の曲に相応しく、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』だ。けだるげで、それでいて気持ちのよい午後を思わせる曲に、柊が思いっきり伸びをし、大きな欠伸をするフェネックをNeiroが優しく撫でる。二曲目のJ.デル.ローストの『メヌエット』、三曲目のゴセックの『ガボット』で、踊るように駒沢のピアノが響く。
 四曲目からはフルートのための曲だ。モーツァルトの『フルートとハープのための協奏曲 ハ長調K.299』が荘厳で、それでいて可愛らしい曲を広げ、同じくモーツァルトの『フルート・ソナタ ヘ長調K.13』とクルムフォルツの『フルートとハープのためのソナタ ヘ長調』が続く。
 六曲目が終わると、豊城を残した他の楽器演奏者たちがステージを降りて行く。そして豊城が舞台の中心に進み出て、ヴェルディの『女心の歌』を奏で始めた。明るい曲を、落ち着いた雰囲気にアレンジしている。駒沢も観客と共にベンチでフルートの音を聞きながら湖畔を眺めた。
 フルートのソロが終わると、演奏者たちがステージに戻り『シシリエンヌ』と『シランクス』の演奏を始める。悲しげな曲に、楽しい曲では微笑んでいた桐原が、今度は涙ぐんでいた。そしてカルル・ドップラーの『ハンガリー田園幻想曲』が静かに湖畔に漂う。
 十曲目は『朝』、十一曲目は『白鳥』だ。岡野の爪弾くギターの音が雰囲気を醸し出し、『花のワルツ』ではピアノの連弾が映える。賑やかな曲が、夕日の傾きかけた空を飛んで行った。


●演奏会終了
「いい演奏会だったわ。あまりにもいいもので、急いで花束買って来ちゃった」
「そう言って頂けると、嬉しいです」
 Neiroが豊城に花束を渡す。満足気な笑顔を見せるNeiroに岡野が照れたように頭をかいた。桐原はNeiroの足元で丸まっているフェネックを興味深そうに撫でている。
「どう? 勉強にはなった?」
「‥‥なった」
 柊の言葉に頷きながら、氷桜がレコーダーをしまう。
「うーん、気持ちよくて眠くなりそう。程よく疲れたところだし」
「このまま帰って眠ったらよく眠れそうですよね」
 腕を伸ばす駒沢に、岡野も同じように深呼吸する。その後ろできょろきょろとしていたハディアックが、原嶋に声をかけた。
「そう言えば、お土産屋さんがあるんですよね?」
「あ、いいですね、お土産。私も行こうかな」
 ハディアックの言葉に桐原が同意を示す。少しずつ空が暗くなって行く中、楽しげな笑いが湖畔に響いた。