肝試しを作ろう!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 中畑みとも
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/14〜08/16

●本文

 夏。と、言えば?
「肝試しだろう」
 そうきっぱりと言い放ったのは、夏祭りの企画部長であった。
 ここは、とある町の夏祭り実行員会の会議室だ。と言ってもビルの一室などではなく、町会館の座敷であったが。
 そこにある大きな座卓を囲んで、数人の男性たちがああだこうだと話している。
「肝試しねぇ」
「いいんじゃないですか? 子供会や町の若い者に頼んで‥‥」
「そんなものでは駄目だ! もっと人を惹き付けるデカイ肝試しコースを作るのだ! それこそ、他県の者も呼べるような一世一代のものを! 遊園地のお化け屋敷以上のものを!」
「そったな、無理だべ」
「広い場所ならいくらでもあるがねぇ。そんなのは素人にゃ作れんよ」
「ならばプロを呼べばいい! プロに舞台を作ってもらって、お化けを演じてもらえばいいのだ!」
「あー、駄目だありゃ。あの人、言い出したら聞かん」
「肝試し自体は良いアイデアだと思うんですけど。廃校になってそのままの小学校もありますし」
「金どうすんだ。予算もそったにねぇべ」
「何とかしようと思えば、何とかなるんじゃないですか? 今時の大学の学園祭でも、結構上手なお化け屋敷を作るみたいですよ。それに、廃校の中身をそのまま使って、お化け役だけ頼むとかでもいいんじゃないですか?」
「それなら、アレだ。二丁目のサツキちゃん。あの子、今、東京で演劇やっとるっちゅう話でねぇが。頼めねぇべか?」
「ああ、佐藤さんとこのでしたよね? 連絡してみましょうか」


 そして。
 町会館、小劇団の団員、団長、団長の知り合いと、上手い具合に上ってきた『夏祭り肝試し企画』は今、面白いもの好きのプロデューサーの手にあった。
「へぇー、面白そうだねぇ。いいんじゃない? ちょっと協力してみようか」


 ――と、言うことで。
 肝試しの舞台である廃校で、お化けの役をして頂ける役者さんを探してます。
 興味のある方は是非。


●舞台
 舞台となる場所は、町の外れにある小学校です。生徒数の減少によって他校と合併し、別の場所に新しく小学校を建てたため、廃校となったものです。一昨年まで使っていたので比較的キレイなままですが、近年中に取り壊す予定のものですので、雰囲気が出るように汚しても大丈夫です。
 小学校は二階建てで、本校舎と旧校舎があります。本校舎は鉄筋コンクリートで、旧校舎は木造です。本校舎と旧校舎は渡り廊下で繋がっています。校舎の形は、本校舎だけでコ字型、旧校舎を合わせてロの字型になります。
 コースは、この2つの校舎の一階を使って、ぐるりと一周するようなものになります。


●お化け
 役者の方々は、お化け屋敷のお化けとなって、肝試し参加者たちを怖がらせてもらいます。主な出現ポイントとしての教室は、本校舎に『職員室・保健室・1年から3年の各教室・理科室・図工室・トイレ』、旧校舎に『4年から6年の教室・給食室・空き教室・倉庫』とあります。これらの教室を使って(全部使用しなくても結構ですが)お化けを配置して下さい。廊下はどこでも使用可能です。

●内容
 10代から20代の若者をターゲットに考えていて、他県からも人を呼び込めるような怖くて面白い肝試しになるのを望んでいます。

●今回の参加者

 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0769 凜音(22歳・♀・一角獣)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa1257 田中 雪舟(40歳・♂・猫)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa2662 ベルタ・ハート(32歳・♀・猫)
 fa2836 賈・仁鋒(23歳・♂・狐)
 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)

●リプレイ本文

●お化け準備中
「よおぉっし! みんな、今日は頑張ろうね!」
 大道寺イザベラ(fa0330)が体育会系のノリで挨拶をすると、それぞれが準備を始めた。
 髪をブルネットに染めた大道寺はミニスカート風にアレンジした着物に着替える。目に灰色のコンタクトを入れ、全身の肌を真っ白に塗った。強めのアイラインと赤い口紅で雪女が出来上がる。
 同じように、槇島色(fa0868)も古びたセーラー服と長い黒髪のカツラに着替えて、鏡の前でくるくると回っていた。
「よし、こんなもんかな。あとは客が来たら血糊を仕込めばいいや」
 満足気に槇島は頷いて、旧校舎へと向かっていく。
 本校舎の図工室では、ドレスを着た凜音(fa0769)が大工にアクリル板を鏡に見えるように加工してもらっていた。そのアクリル板の内側と床にブラックランプを置き、正面にある絵画と対になるように設置する。絵画には凜音と同じようなドレスを着た女性が描かれていた。
「お客さんに怖がってもらえるように頑張らなきゃ」
 そう言うと凜音は、アクリル板で作った箱に入って客が来るのを待った。
「では、ペンライトの準備をお願いします」
 本校舎の廊下で、主催者である夏祭り企画部長と話しているのは、用務員の格好をした田中 雪舟(fa1257)だった。足元には自作したドライアイス霧発生装置が、手には血塗れ用務員の顔のアップを事前に撮影しておいたテープがある。その後ろではベルタ・ハート(fa2662)が白のコンタクトレンズに赤いドレスを着て、廊下の壁に畜光テープを張ったアンカーをフリークライミングができる程度の感覚でランダムにつけてもらっていた。その顔には口が大きく裂けた、真っ白な猫の特殊メイクがされている。
「それじゃ、作戦通りにね」
 ベルタとハイタッチを交わした田中は、スタッフにテープと装置を任せると、本校舎と旧校舎を繋ぐ渡り廊下へ向かっていった。
 その途中で田中とすれ違ったのは幽霊メイクも終わったDESPAIRER(fa2657)だった。うろうろと校舎を徘徊し、何かを探しているようにも見える。田中が首を傾げて声をかけると、DESPAIRERはゆっくりと振り返って「‥‥ただ順路を回っているだけです‥‥」と呟いた。その手には幾つものトランシーバーがある。それを使わない教室に一つずつ置いて回っているのだ。そして最後のひとつになったトランシーバーを持って、DESPAIRERは旧校舎の空き教室へと向かった。空き教室の手前の廊下ではスタッフたちが床が軋むような細工をしており、それに頭を下げてDESPAIRERが教室へ入ると、空の掃除用具入れの近くに引っかけていた糸を持ち、軽く引くと床に転がっていた鞠が微かに動く。それを確かめて、DESPAIRERは掃除用具入れの中に潜んだ。
 本校舎の保健室の前では、ボロボロのスーツに、薄汚れて血の滲んだ包帯を巻いた、全身血糊まみれの賈・仁鋒(fa2836)が赤いペイントを血痕のように点々と落としていた。近くの廊下ではスタッフたちが天井に赤いランプを取り付けている。
「ふぅ‥‥なんか、汗と一緒に血糊も落ちそうだな‥‥まあ、それはそれで血が流れてるみたいに見えていいかも?」
 旧校舎の倉庫では鬱蒼とした竹林が広がっていた。その中で完全に獣化したZebra(fa3503)がゴロゴロと寝転がっている。
「あー、ちょっといいかも‥‥仕事忘れそう‥‥って駄目なんだけどさ」
 竹林の間には元々倉庫の中に置き忘れられていた道具たちも埋もれていた。まさに倉庫に突然竹林が生えてきたように見える。Zebraはその竹で遊びながら、客が来るのを待っていた。


●本校舎
 スタートは本校舎からだった。ペンライトを持った数人の客たちが恐る恐る廊下を歩いて来る。どこからか物悲しい手まり歌が聞こえてきて、客の恐怖を煽る。そのうち、客の一人が、廊下に赤い液体が落ちているのに気付いた。それは保健室へと繋がっている。
 客が保健室へと入って来た。そろそろと客の足が部屋の真ん中まで来たとき、カーテンの裏から血塗れのスーツの男ががばりと現れた。驚いて逃げる客に、スーツの男が真っ赤な包帯を引き摺りながら、這い寄って来る。慌てて保健室から出る客の恐怖を煽るように廊下が点滅する真っ赤なランプに染められる。縺れ合うように廊下を走る客の耳に、またどこからか手まり歌が聞こえて来た。
 保健室をクリアした客が次にやって来たのは図工室だった。教室に入った客が、壁にかけられた大きな絵画に気付く。それは白のドレスを着た若い女性の絵だった。客がその絵に近づいていく。
 すると、その絵画の正面、客が背を向けている場所がぼんやりと淡い光を放った。客が気付いて振り返ると、そこには一枚の鏡がある。その中で、絵画の女性と同じ格好をした女性が俯いて泣いていた。物悲しい泣き声が教室に響く。その声に急に寒くなったような気がして、客がそそくさと教室を出て行く。
 客が廊下に出ると、またも手まり歌が廊下に響いていた。その掠れたような声が暗い雰囲気を更に暗くする。そんな中、廊下の奥から丸い光が現れ、その光がだんだんと近づいて来た。
「あ、すみません。こちらは順路じゃありませんよ。順路はあちらです」
 そう話かけてきたのは用務員の格好をした男性だった。客を誘導し、暗い廊下の奥に持っていた懐中電灯を向ける。「足元に気をつけて下さい」と言う用務員に客が礼を言おうと振り返ると、その用務員の後ろに口の避けた猫が逆様にぶら下って、にんまりと笑っていた。客たちが驚く間もなく、真っ白の猫が用務員の肩を掴んで押し倒し、その足を引き摺って暗闇へと消えていく。用務員の物凄い悲鳴と、猫の咆哮が廊下に響き、客が慌てて逃げ出す。それを再び現れた化け猫と、血塗れの用務員が追いかける。


●旧校舎
 旧校舎まで来ると、化け猫も用務員も追いかけては来なかった。その代わり、旧校舎の入り口に古びたセーラー服を着た少女が立っている。
「ここから先は私が案内します‥‥どうぞ‥‥」
 そう言って先に立って歩く少女の後ろを、客がついていく。それを確認して、少女が口を開いた。
「この旧校舎、昔は旧陸軍の病院だったそうです‥‥かの大空襲のときもここだけは無事でしたが多くの負傷者が命を落としました‥‥」
 廊下に悲しげな手まり歌が響く。
「それ以来、ここを壊そうとしたのですが壊そうとした人達は謎の事故に遭い壊せずじまい‥‥結局、内装を換えて学校にしたのです‥‥事故に遭った人達の話では壊そうしたらセーラー服の女生徒が立っていたとか‥‥」
 言い終えて少女が奇妙な音と共に血を吐いた。驚く客に向かって、少女が廊下の奥を指差す。
「‥‥いけない‥‥早く逃‥‥げて‥‥」
 言われて、客が廊下の奥を進む。振り返ると、少女の姿は闇に埋もれて見えなかった。
 廊下を少し進むと、ざざざっと風に木々が揺れるような音がした。客がその方向を見ると、倉庫のドアが開いており、そこの中に竹林ができているのが見えた。その奥から、コーンコーンと竹を切る音が響く。と、客がそれをじっと見ていると、竹林の奥から何かがガサガサと近づいてくるのが判った。客の一人がペンライトを向けると、その光の中にカッと見開く目が見えて、客が慌てて逃げていく。
 次に点いたのは給食室だった。給食室に近づくにつれ、だんだんと風がひんやりしていく。廊下には冷たく冷えた氷柱の置物が置かれている。そしてそれを通り過ぎて給食室の前まで来ると、突然皿が割れる音が響いた。発泡スチロールの雪が舞う中、ぼんやりと白い着物が光る雪女が滑るように現れた。雪女は赤い唇を窄ませ、腕の中の人を凍らせる。
「見ぃたぁわぁねぇ‥‥あなたたち‥‥一回死んでみる?」
 雪女がゆっくりと振り返り、客を追いかける。逃げる客の横で、手まり歌が響いた。
 後ろを振り向き、雪女が追いかけてこないのを確かめた客がほっと息を吐くと、手まり歌の音が大きくなる。それに怯えた客が一歩踏み出したとき、床が大きく軋んだ。手まり歌がピタリと止み、教室からコロコロと鞠が転がって来た。客の一人が鞠の転がって来た教室を覗き込む。と、耳のすぐ後ろで歌が聞こえて、客が振り向いた。そこにいたのは長い髪を垂らした、恨めしげな女だった。
 客が悲鳴を上げて廊下を駆け抜ける。そして、もうすぐでゴールというところで、廊下の真ん中に立っている少女に気付いた。古いセーラー服を来た少女が頭から血を流しながら客を見ている。
「早く逃げてと言ったのに‥‥」
 悲鳴が廊下に木霊した。


●肝試し終了
 その後、そのお化け屋敷は一躍有名になり、たくさんの観光客を呼び寄せた。元々夏祭り期間中だけの予定だったが、今では企画部長と町長がお化け屋敷を残すか否かの相談をしているらしい。
 もしかしたら再び‥‥あの廃校に幽霊たちが呼び寄せられる日が来るかもしれない。