アングララビリンスアジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
7.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/02〜03/04
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●本文
「最初は只単にぼんやりしているだけに見えた」
被害者の関係者はそう語る。相手はスコット・バーナード。売れない格闘家である、しかし、実力は本物。
「しかし、突然に人と昆虫を混ぜ合わせたような外見になって──しかも腕が2本も背中から生えてきまして‥‥」
とある撮影スタジオで、ナイトウォーカーが格闘家に取り憑き、大暴れした挙げ句、たまたま空いていたマンホールから下水道に逃げ込んだ経緯をWEAの面々に対して語る唯一の生き残り。
彼は、事態の把握に努める事で手一杯で、温厚に証言を引き出す、WEAの面々に協力的であった。
「しかし、スコット・バーナードと言えば、実力は一流、人気は三流の典型でありませんか。ナイトウォーカーの潜伏先としては最悪だった訳です」
人間の体術と、ナイトウォーカーの野生を併せ持った存在はそうそういない。それだけに慎重な対処が迫られる事になる。
下水道関係は手を回して封鎖させ、隔離は完了している──時間の問題だが、しばらくはこれで凌げるだろう。
「やはり、精鋭のともがらに頼むしかないだろう」
カット13スタート。
●リプレイ本文
「アルケミスト‥‥アルミで結構‥‥よろ‥‥しゅうに‥‥」
金髪、青目の幼気な少女、アルケミスト(fa0318)が自己紹介するのに、ダン・クルーガー(fa1089)はいきり立った。、
「年端もいかん子供まで参加させるとは‥‥WEAめ!
『彼ら』‥‥闇に堕ちた同胞と戦う為の訓練のつもりか。
彼ら芸能人は、人々の心を救い癒す存在だ‥‥私とは、違うというのに」
ドゥギーは人事のように語っているが、彼も歴とした芸能人である。
「親も家族も無い私はいい。いつ倒れたとしても‥‥」
「何いってるの? ダン君。 まるで私がWEAに強制的に参加させられたかのように? 私は自分で望んでこの場所に立っているのよ。この腰に下げたCappelloM92は私のガンスリンガーとしての誇り。『私』というガンスリンガーの存在を否定するというの?」
淡々と語るアルミの口調に、未熟なれど覚悟を感じるドゥギー。
ドゥギーの怒りの源はもうひとつあった。
スコットの死体は遺族の元に返却されない。元々、天涯孤独の身であったそうだが、あくまで公式には行方不明者として扱われ、葬儀など出ないというのだ。
せめて一献の酒でも捧げてやりたい。
その想いからドゥギーはこの依頼の報酬は受け取らない事に決めていた。
深刻な想いに耽るドゥギーのシリアスさを吹き飛ばすかのように。ハヤト(fa2919)がどやしつける。反応しきれずに、肩を叩かれるドゥギー。
「ま、やたら真面目ぶったご同業の大将がいるし、ダイジョーブでしょ。
相手は無茶苦茶強そうだけど‥‥あ〜あもう! やだね〜ドゥギーちゃん!! もう人生9割損してるヨ。
ナイトウォーカーなんて、絶対滅ぼせないんだしサ。今回だって交通事故だと思えばいいじゃん。
運、不運まで他人がどうにか出来るもんじゃナイよ。
それに‥‥俺の故郷なんて、内紛と治安悪化ばっか。人間、簡単に死んじゃう。
おたくだって、見たもんは見てきたんでショ? 当然、人には言えない事もね。
背負っちゃダメダメ! あとで女の子でも一緒にナンパしよ〜ネ!!
あ、女の子たちもカモーン☆」
反応しないアルミ。怒気を逸らされたドゥギーの怒りが表面上収まった事で、彼女のプライドの問題も先送りにされたらしい。
「とりあえず、本気で行きますね」
と、乱反射が映り込んでいた眼鏡を外す、日向 美羽(fa1690)。ナイトウォーカーとオーパーツにこよない興味を抱いている彼女にとって、ナイトウォーカーとの戦いと聞いてしがないADの看板を外すことにしたのだ。
「まず、出発前に‥‥今回は下水道でのミッションという事ですから、明りと出来れば地下の地図が欲しいですね」
「それなら、大丈夫じゃん」
と、孫・華空(fa1712)。
ライト付きヘルメットを借り受けられないかと、WEAの担当者に交渉に当たったときに華空が合流するなら、持って行ってくれと渡されていたのである。
ライト付きヘルメットを断るドゥギー。
「私にはG−CYCLONEと絆を結んだ、このライダーヘルメットがある。心配は無用だ‥‥フッ」
「何、甘いこと言ってるの? 相手はナイトウォーカーと判っているじゃん。そんな視界を遮る装備。おまけに皆完全獣人化よ、たしかあなたオオカミ獣人だったな? ライダーヘルメットなんて前が収まりきらないぜ」
「だが、断る。私は半獣で戦う」
ドゥギーは高らかに宣告した。
「じゃあ、生き死には自分で選んだ事だから、自己責任でね」
華空は作戦の概要を地図と照らし合わせながら、一同に確認していく。
4人1組でA班、B班に分かれ、探知能力者を先頭に進む。孫はB班で鋭敏視覚を使い先頭を行くという。
下水道地図を各班に用意してもらった。
水と食料、応急手当用の医薬品を用意(戦闘時はすぐ放り出せる様鞄に詰める)。
基本的に全員完全獣化。
各班はダンが準備してくれたトランシーバーで連絡を取り合う。ただし、遮蔽物が多い下水道での性能に疑問があるので、電波が届かなくなったら届く所まで戻る。
敵は、待ち伏せ、奇襲、背後からの攻撃等の戦法を取る可能性が高く極めて用心する。
「じゃあ、2チームで地図からスキマを無くすように逆側同士から挟み込んでいければ一番いいかな。
敵の退路を断つ事にもなるし」
富士川・千春(fa0847)がつぶやく。
「下水道ね‥‥私の目覚めた力が鋭敏嗅覚じゃなくてよかったわね。でも、相手が移動し続けたら、二班じゃ、追いつめるのは無理そうね。かといって3班じゃ、分けるにも中途半端、戦闘力的にも不安が残るわね」
華空は痛い所を突かれたかのような表情を浮かべる。
「一流の実力がありながらなぜメディアへの露出が少ないか。
理由は唯一つ、彼は人間‥‥獣人じゃないからよ」
「彼にチャンスがまわってくることはなかったはずよ。
芸能界は獣人の隠れ蓑としてだけじゃなく、ナイトウォーカーを人から遠ざける目的もあるの。
でも彼は諦めずこの世界で叶えるために自分の夢を守り続けてきた‥‥。
それが逆に彼を被害者にしてしまったわ」
はるちーは自分のアイドル時代の経緯や心情とスコットを重ね合わせていた。
だが、スコットが人間であるという事以外に、そんな事実はどこにもない。WEAの様な圧力、あるいは関連団体にしても、獣人のみを厚遇して、芸能社会を作ることは出来ないのである。
芸能界の多数を占めているというだけで、人間社会においては、マイノリティーに過ぎないのだ、獣人は。
「焔君、何か勘違いしている人が多いような気が‥‥」
「だが、互いに命を掛け合う同志だ。違うか?」
一見、普通の体格に見えて、その実、筋骨たくましい焔(fa0374)はアルミを励ますように言う。ちょっとした保護者気分なのだろう。
「ごめん、また何かドジな事言っちゃった?」
はるちーがアイドル気分に戻って? 自分の頭を自分で小突きながら、舌を出す。
「この人たち‥‥」
「だが、仲間だ。アルミ、自分を信じるんだ。アルミ、仲間を信じるんだ。アルミ、仲間を信じられる自分を信じるんだ」
ホムラがアルミを励ますように言う。
銀髪の青年‥‥書類上は、実際は童顔な為、21という実年齢より、幼くみられる竜人、リュアン・ナイトエッジ(fa1308)がフォローのつもりか銀青色の目を向けて‥‥。
「大丈夫っす。自分はおいといて、ドゥギー君も、ハヤト君も超凄腕っす。腕だけなら犠牲者のスコット君と同じように、無冠の帝王っす。完全獣化さえすれば、五分以上の戦いが出来るっす」
「ならいいけど」
言って、WEAから取り寄せたスコットの写真を取り出しじっと見つめるアルミ。
まだ、広げられたままの下水道の地図の上に手をかざすと、サーチペンデュラムを下げる。
目を閉じて、スコットのイメージを脳裏に描きながら精神集中。アルミの筋肉の緊張と初期の慣性のまま、振り子は円錐状に揺れ出す。
そして、地図の上を上下左右されていく内にサーチペンデュラムの動きは止まった。
「やはり、今のスコットは、昔のスコットと完全に別物という事ね。もう、どんなに頑張っても人間じゃない‥‥ナイトウォーカー、夜歩くもの‥‥」
「被害者はさぞ無念な事すう。本人の意識は既に消滅している事も含めてっすよ。これ以上、世間に迷惑をかけないようにしてあげるのが、せめてもの供養っすね」
「供養‥‥ずいぶんと日本人めいた言葉だな」
「このナイトウォーカーという敵がいる世界っすよ? 死や、ナイトウォーカー化しての別れも、それが日常的‥‥とはいいませんっすよ。けど、珍しい事じゃないっす」
最後に沈痛な響きを滲ませるリュアン。
「おいおい‥‥可愛い女の子捕まえて、別れる切れるだの、ずいぶんと深刻な会話。大丈夫、大丈夫。多少計画に穴があったって、最後は力業でどうにかするから」
ハヤトが太陽のような明るさを強引に持ち込む。
「それより、アルミちゃん? 電話番号教えてくれない、なーに、今は駄目でも10年後を考えれば、無駄な投資じゃなかったって判るからさ? どうよ」
「あなたの言っている事まるで判らない‥‥」
「くーっ、そのクールビューティーぶりが、10年経ったらどうなるか‥‥想像するだけでお兄さん、ドキドキしてくるよ」
「‥‥10年経ったら21のガンスリンガーになるだけよ。そして、演歌歌手であり続けると思うわ」
表立って感情の起伏は無いが、アルミの心には一連のやりとりはしっかりと刻まれていた。
そこへインサートする、ドゥギーの怒声。どうやら、WEAの支部とやりとりをしているようだ。
「何、例外なくナイトウォーカーの死亡が確認されるまで、3日間の封鎖は解かない? 重傷者が出たとしても、搬送は認めない。莫迦な事を! 我々に死ねというのか!?」
電話を切って、ドゥギーは、封鎖はナイトウォーカーの死亡が確認されるまで続く事。WEAは一角獣の獣人からなる治療者達を準備しているが、封鎖が解けるまで、彼ら(男女などの構成は不明であるが)の保護は受けられないことを冷静な‥‥むしろ虚無的な口調で一同に説明したのであった。
「命をかけるのは私だけでいい。女性や、アルミの様な子供には過酷すぎる戦場だ。後方のバックアップが受けられず、戦いに挑む事は死を意味しているのだ。敢えて言おう、違約金は全て私が支払おう、この任務に命をかけるのは覚悟を決めたものだけでいいと」
「ドゥギーさん? この『私』を嘗めていません事?」
メガネを取り去り、普段とはうってかわって鋭い視線で、みはは不吉な死に神のようにドゥギーに宣告する。
「そこにナイトウォーカーがいる限り‥‥。この獣人が、このADが、この十字が、見逃せないのです‥‥ナイトウォーカーは獣としてではなく、人として葬るのですわ」
その視線に負けそうになるドゥギー。
「そこまでの覚悟があるのか? 正直、只のADではないと思ったのだが‥‥‥‥」
「言いましたでしょ。オーパーツとナイトウォーカーがある限り、私はしつこいって?」
「いや‥‥言ってないと思うが?」
「ならば、今、確かに聞いたのではないですか? 私は引いたりしません」
はるちーは流石に今ほどの決意と熱意はないが、言葉を返す。
「あら、元傭兵が相手の力量も読めないの? 同じ戦闘スタイルの格上相手に力任せじゃダメよ」
「そんな事は百も承知だ」
「ならば、自殺ショーを見物する趣味は無いけどね。ナイトウォーカーを倒す手伝いならするわよ? 蝙蝠の獣人の底力を見てみなさい、何も‥‥素手や得物で殴り合うだけが戦闘じゃない事が判るわ」
「華空‥‥私が言っても止めないのだろうな‥‥」
「我、望むは強者との戦いのみ。無駄じゃん。一言で言えば。それとも、もっと肉体言語で判るようにコミュニケーションする? 孫家極流なら、半獣化しかしていないあなたの攻撃はかすりもしないぜ。まさか、そんな半端な覚悟で戦おうという相手から覚悟云々は笑止千万!」
不敵に緊箍児柄の鉢巻を直す華空にそれ以上、言うべき言葉はドゥギーは思い至らなかった。
「アルミ‥‥」
続けて一番戦場に来て欲しくない、対象に声をかけるドゥギー。
「みはさんがナイトウォーカーに賭ける意地があるように」
言って、みはの顔を見据える少女。
「はるちーさんが、蝙蝠の獣人の底力に誇りがあるように」
言って、ほほえみ返すはるちーに、能面のような表情を向けるアルミ。
「華空さんに強者と戦おうという覚悟がある様に」
笑って、ぽむ、とアルミの頭に手を置く、華空。
それでも無表情なまま、彼女は宣告した。
「私はガンスリンガー。この言葉は決して覆らない。もし、私を外すのならば、いつか、あなたの心臓をセミジャケッテッドホローポイントの弾頭が、私に代わり挨拶するでしょう‥‥さよならの挨拶を」
セミジャケッテッドホローポイントとは銃器に用いられる弾頭の一種。
先端の一部を鉛弾頭が露出し、後は、銅のジャケットに包まれているため適度な貫通力を持ち、効率良く威力を引き出します。主に対人用として使用され、装填の際のジャムの確率もやや低下するというもの。セミのつかない、先端まで銅で覆われた『ジャケッテッドホローポイント』よりも弾詰まりしやすいが、殺傷力は上である。
「もっとも、それまであなたは生きていないでしょうけれど。今回の依頼で死ぬのだから」
朝方に人の死を告げ、鳴くというナイチンゲールの様にアルミは宣告した。
「いいのか? 本当に命がけの依頼だぞ、10万やそこいらのはした金で死に急いでいるのじゃないだろうな?」
「それ以上は言うだけ野暮ってもんでしょう」
と、ハヤト。
「アルミは守ってみせる」
と、ホムラは宣言した。
「ま、どうにかなるっすよ」
リュアンも気安く、しかし、その実、命を賭けて軽口を叩く。
みなの言葉を受け、ドゥギーは呟いた。
「お前ら本当に莫迦揃いだ」
それは最高の褒め言葉であった。
そして、一同は意を決して、幾人もの獣人が守る、下水道の取水口から、地下へと潜っていく。予想はしていたものの、異臭が立ちこめ、気分が悪くなる。
半獣化に留めて、赤いマフラーのライダースーツ、ライダーヘルムのみのドゥギーをのぞき、一同は完全獣化して、手に手に、表社会では見とがめられるような得物を持って大地の胎内へと潜っていく。
打ち合わせした手はず通りA班とB班の2班に分かれる。
「NWの宿主はかつて人間だったスコット・バーナード。
実力は一流、それに加えNWの生存欲。
過信は禁物、格闘技ならおそらくここにいる誰よりも上と思って警戒したほうがいいわね」
別れ際にはるちーが忠告する。
編成はA班にはるちー、リュアン、みは、ハヤトとなり、華空、アルミ、ドゥギー、ホムラがB班となる。
電波が届いている間は連携して、地図を埋めるように進んでいき、電波が届かなくなると、地図を敷いて、アルミがサーチ・ペンデュラムで位置を探り、A班に追従するかの様に動いていく。
A班に途絶えがちな電波が届く。
「華空だけど、今怪しい音がしたから、そちらの方に、あ、ドゥギー、な、何するの? ちょ、ア‥‥」
続けて激しい破裂音、BANG! BANG! ‥‥。
そして、ノイズ。
詳しい顛末はこうである。
怪しい音を聞きつけた段階で、一同は明かりの電源を落とした。この空間にA班がいない事は確実だからである。
腹ばいになったアルミが銃を構える。両手持ちで確実に相手に当てに行く姿勢だ。
しかし、ドゥギーが制止も聞かずに飛び出していき、真っ暗な中、彼の手にするランタンは格好のシグナルであった。ナイトウォーカーにとって。
「苦しいだろう‥‥その掻きむしるような苦しみ、私が解き放ってやる」
ナイトウォーカー汚染者に意識など存在しない。
疾走脚力に追いつける者は居なかった。しかし、物はあった。アルミの手にした拳銃である。ドゥギーが飛び出すのと時を同じくしてトリガーは引かれている。
彼女は喜劇的なまでに運が悪い、彼女がトリガーガード内に指を滑り込ませたのも、銃のシアーが欠けて、銃がフルオート状態になったのも、初陣の彼女がいきなり射線に飛び込んできた味方に狼狽し、グリップを強く握り締め続けたのも、全てはそれが悪い。
後方からの弾丸を避ける術はなく、全身から血を吹き出すドゥギー。何発かの被弾をものともせず飛び出す元スコットであったが、完全獣人化していれば、まだ戦い様はあっただろう。半獣人という姿勢、後ろからの砲火。全てが最悪のタイミングで起きた。
格好の獲物にかぶりつく元スコット。ライダースーツが抉られ、赤いマフラーがそれより尚赤い動脈からの出血で真紅にそまる。
ヒーローではなく、ピエロになったのも自己慢心と、仲間の悪運のせいであった。
「させないぜ!」
華空がアルミが落ち着いたのを確認してから、一気に模造刀を抜き間合いを詰めていく。
しかし、元スコットにも飛び道具があった。
ドゥギー自身である。
成人男性ひとり分の質量を四本の腕で軽々と投げつけてくる。人間ベースである以上、副腕を持つこと自体、並みのナイトウォーカーではありえない。
音だけでは避けきれなかっただろう。ドゥギーが懸命にランタンを握り締めていたから、その光量で余裕でかわしたのである。
ホムラは懸命にアルミを正気づかせようとしていたが、まだ放心の体である。
完全にスライドが開ききった、CappelloM92を握り締め、自分が生み出した悲劇の赤い薔薇に視線が釘付けになっている。
ホムラが軽く平手打ちをしてようやく正気を取り戻した。
「ダン君? 殺しちゃった。スコット、生きてる?」
「アルミ、みんな生きてる、だから銃は撃つな、手から力を抜け!」
(こちらA班、スコットと接触!)
みはを囮に出すまでもなく、血の臭いが後方から駆けてくる。
先頭にいたみはが反応するよりも早く。リュアンが後方にシフトする。
ハヤトも走り出し、はるちーが叫ぶ、10秒待って、と。
そうすれば虚闇撃弾を全力で叩き込めるからと。
リュアンは息を整え、ハヤトも迎撃の姿勢を取る。
はるちーの呼吸と共に虚闇撃弾が打ち出され、元スコットにしたたかな打撃を与える。それを確認する前にハヤトが足下に滑り込み蟹挟みで元スコットを転倒させる。リュアンは本来なら指一本触れる事すらかなわない相手であったが、同じ土俵に立たないはるちーとハヤトのトリッキーさの為、背中の節足を逆に取り、関節破壊、いや捩子切りに入る。
苦悶の雄叫びをあげる元スコット。
「‥‥まあ、俺の曾爺さんも爺さんも、生粋の日本人だったしな。
日本人の誇りって事で、ガキの頃から叩き込まれた柔道技、これで結構やれるんだぜ、僕ちゃん! そして!」
立ち上がりざまに掌底を心臓のあたりにぶちかます。堅い何かが砕けた音。
途端に、リュアンは全力を込めていた手足から手応えが無くなり、元スコットが肉塊に変貌しているのを見た。
たとえ、恋人だろうと、これがスコットだろうとは思わないだろう。
やがて、ホムラがドゥギーを支えて、B班が合流する。元スコット撃退の報を受けて、WEAの面々も事態の収拾に向かってきた。
全ては終わった。
「白薔薇のつもりが紅くなったな」
回収前のスコット・バーナードであった者にドゥギーは自らの血で染め上げた薔薇を捧げるのであった。