当世騎士道物語ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.9万円
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参加人数 |
7人
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サポート |
0人
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期間 |
02/28〜03/04
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●本文
某氏から、物好きな発注がCM制作会社に打診された。
保険のTVコマーシャルのイメージ画像で馬に乗って甲冑をつけた騎士達が、剣と盾を手にして打ち合っている画が欲しい。
出来るだけリアル志向で行きたい。だから、甲冑は本物を使って重厚感を出したい。
馬や甲冑など小道具(?)の予算はこちらで出すので、役者を集めて貰いたい。出来るだけ殺陣は派手にしたいので、甲冑を着込んで動き回れるような体力を持った人間、いや獣人を集めて欲しい。
金は出すから、良い物を頼む。
「まあ、依頼としては投げっぱなしな類の‥‥一番楽な手合いだな」
CM制作会社の社長は、提示された報酬を見てほくほく顔である。
「まあ、流石に女性は起用できないだろうな、リアル志向って言ってるし。男臭い撮影になりそうだ」
獣人もさすがに甲冑の中で半獣人になったり、ましてや獣人になったりはできないだろう。
当世の騎士も楽ではない。
──カット15スタート。
●リプレイ本文
「依頼人氏はSCAの会員かな? それなら拘りも頷ける。
TTRPGに嵌って僕もアヴァロン入りしたい熱あったし。
就職した後は夢と消えたけどさ」
「それ一体何でしょう?」
甲斐 高雅(fa2249)がコマーシャルのコンセプトを読んだ感想を告げると、ねこひろし(fa0278)が腕を組んで虚空を見上げながら尋ねる。
「創造的時代錯誤愛好会、Society for Creative Anachronismの事さ。語弊のあるいい方をすると大真面目に考証して、17世紀以前の甲冑や剣を振り回しての遊戯をするいい大人さ、もちろん適法の範囲内でだけど」
「貴殿は博識ですね」
コミックリリーフとして出ようにも自分達が出番のあるコマ数が限られているので、ねこひろしの出番はない。
冒頭のラッパを吹いているシーンだけである。しかも兜を被って後ろ姿だけ。
それもラッパは吹き鳴らすのではなく、持っているだけで、音入れの時に陸深 志狼(fa3078)がミキシングするという。
斧槍も調達していないという理由でリテイク。
顔を見せない事に関して、監督の意見の長口舌が続く。
「さしたる演出意図も無いのに金髪の侍がいたら、違和感を覚えるだろう? 同じ事だ。黄色人種の騎士はいない。絶対いないとは言い切れないが、あるとしたら何かの特殊な事情があっての事だろう。CMに一々そんな裏事情を説明するだけのストーリー性は盛り込めない」
カイ君も一生懸命に武器や防具の軽量化を図ろうとするが、レンタルの品という事と、軽量化しては、討ち合いの重厚な音声が出ないという理由で棄却された。
しかし、制作スタッフと事前ミーティングで、絵コンテを描いて提示。愛用のノートパソコン『夜桜』で軽めのCGも用意。
BGMに『走り抜け、行くぞ〜♪』とかかりつつ話は進む。、
「まさかの時に安心ってイメージ=フルアーマーと思うけど、
実際条件合うメンツは飛呂氏さんとブローさんだけ──」
で、この2人が扮した正騎士の決闘シーンをメインに提案。
後は残る面子で道化た従者、見守る騎士、姫君、とまでは良かった。「あと、顔晒さないのって必須事項?
ラストに顔を晒すシーンが欲しい。
負けた方の顔に保険会社の商標のフェイスペイント。
この程度のお遊びが無理なら諦めるけど」
「諦めてくれ。我々はコメディを依頼したのではない」
──壁は高かった。
ヒロカ(fa2440)さんが貴婦人役を希望なら顔隠しのヴェール、と先手を打って向こうの反論を封じた。
内容自体は高く評価されたが、個々人のアイディアまで高く評価された訳ではない。特にアンブロシウス(fa3075)が大斧を振り回して立ち回りをやりたいというのは、剣戟をしたいという発注内容からは外れており、完全に駄目出しを食らった。
撮影当日。
「白と黒の甲冑で対決って、チェスみたいな感じで格好良いよねぇ」
ヒロカは3人の甲冑の着付けをしようと、外見は楽しそうに、しかし内心では焦りながら、話しかける。
その3人とは黒騎士ブローと、見届け役の銀騎士(特にリクエストが無かったので)、里見 十吾朗(fa0697)、白騎士、飛呂氏(fa1674)の3人であった。
カイ君が完全獣化して調整した、汚しも磨きも完璧な、凄みのある甲冑達に一同は息を呑んでいた。
「ふむ、人手が足りぬ時に手を煩わしてしもうて、すまなんだ‥‥」
「良い体験だと思えれば‥‥」
そういうヒロカだが、結局の所、自分の着付けもあるので途中リタイヤ。全身を喪服で覆った寡婦らしい出で立ちで現れる事になる。
「あたし、ドレスなんか、初めて着るよぉ〜! こんな役なんか、二度と回って来ないかもなぁ〜」
続きは甲冑の着付師に全身を武装されながら、
「欧州での初仕事よの。ここは、気合を入れていこうかのぉ」
先生はそう宣言するが、ブローは一言。
「叩き潰してやろう!」
まさにセメントマッチであった。
しかし、里見も自分独自の出番を造りたかったが、レンタル道具の使用期間が短い方が良い事と、細工をしようがしまいが、樹木を切り倒す事にイメージの悪化と、尺自体の短さから駄目出しをされていた。
しかし、周囲の森林を見渡しながら──。
「日本には日本の良さがあるが、欧州はこれまた別の良さがあるのぅ」
「そうでしょう、それを貴方は見栄えがいいから、という理由で破壊しようとしたのですよ」
着付師が兜の後頭部の捻子を締め終えた所で、里見は宣言する。
「それはそれ。これはこれ。
一度、中世の甲冑というものを着てみたかったのじゃ。
願いが叶って嬉しいぞぃ」
「ご満足いただけて嬉しいです」
そして、戦いは呆気なく終わった×3
両手持ちの剣を持った黒騎士目がけて馬を走らせる白騎士! 迎え撃つ鉄槌の如き一打を白騎士は盾で捌きながら、逆に袈裟懸けにする。
次のパターンは互いに衝突し合うふたり。お互いの剣が交錯し、体重で勝る黒騎士が辛うじて馬上に踏みとどまるも、馬の方が潰れてしまった。
しばしの休息後(スタッフの一角獣の獣人の処置)、ラストテイク。
黒騎士の突撃に体力で持ちこたえる白騎士。しかし、互いに馬術に不慣れな為、体力、技術共に押す白騎士が優勢となり、黒騎士を大地へと叩き落とし、喉元に剣を擬す。
「オッケー!」
「少しやらせて欲しい事がある。1分でいい」
先生はそう言って、ベールに喪服姿のヒロカに一輪の花(予め花屋で仕入れておいたのだ)を差し出す。
彼女がそれを受け取った所で撮影終了。
「おつかれさま〜!皆、スタミナ切れてない〜? はい! 差し入れで〜っす!」
ヒロカが準備しておいたスポーツドリンクを一同に渡す。
里見は甲冑を外されながら──。
「ふはーっ、甲冑はやはり重いものじゃったのぅ。じゃがいい経験が出来たわい!」
と、冷や汗を拭う。
先生は一同と労を労い合いながら──反省。
「やはり、馬上は慣れず、腰を上手く入れられなかった」
一方、カイ君はこれからが本番、データを小分けして鎧の質感、剣戟の音をシロウと拾い合う。CGには長けていても、音には微妙な点が残るカイ君にとってシロウはちょうど良い相棒であった。
こうして、ヨーロッパで放映されたCMだが、CMの事故、爆発的な反響は無かったと付け加えておく。