それでも猫が好き?アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/07〜06/11
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●本文
「『モンキー』どこいったの? おや、もう帰ってきたの?」
飽食の末、肥え太り。長毛種だというのに、ロクに櫛も入れさせない。そんな我が儘雄猫『モンキー』との暮らしを、生まれてこの方続けていた、リスの獣人である、8才になる駆け出し子役の少年『南 蓮也(みなみ れんや)』はマンションの自室に『モンキー』が捕ってきた──といっても動きの鈍い、この我が儘猫の事だ、落ちていたのを拾ってきたのだろう──雀の雛を見て仰天した。
「あれ、君? どうして、こんな所にいるんだい?」
茶色い眼をくりくりさせて、驚く蓮也少年に、ぱっちりと見開いた黒瞳と半ば生えそろった羽毛が可愛らしい、ひな鳥は小首をかしげるのみであった。
8歳児の蓮也少年では、いきなり獣医に連れて行くという発想は浮かばなかった。
代わりに浮かんだのは──。
液晶画面に並ぶ8人ほどの、芸能界を通じて知り合った面々の連絡先。
携帯電話で、急ぎ窮状を訴える蓮也少年は生まれて初めて覚えた切迫感で一杯であった。
──カット23スタート。
●リプレイ本文
「こんにちは、愛瀬りなです♪ 連絡ありがとうです、蓮也くん♪
皆でお手伝いいたしますから、安心してくださいね」
と、愛瀬りな(fa0244)は、ニッコリと南蓮也少年の頭を撫でつつ、励ますように語りかける。
「あ、ありがとうございます! りなさん」
と国民的演技派アイドルの彼女の美貌に驚く蓮也少年。
「まずは、雛さんの怪我の心配ですね。
あたしは詳しい知識がありませんので見守ることになるかと」
と、りなの後に続く個性的な女性7人。一体どこをどうすれば、これだけ女性ばかり集められるのか、蓮也少年の未来が心配になる今日この頃である。
「大丈夫ですよ」
と、パニックに陥りそうな彼を励ます後から、ポニーテールの元気印少女、姫乃 唯(fa1463)が今回の張本猫である長毛種雄デブ猫『モンキー』が露骨に警戒しているのを感じる一方で。
森村・葵(fa0280)はモンキーと視線を合わせると──。
「狩猟は猫の本能なので、必ずしも横暴とは言えない気もしますケド。
それにしてもおでぶ毛長種!
しかもブラッシングしないなんて、もう使い古しのモップ状態ですネ!
‥‥勿体無いですネ!
小雀や少年の世話はちと無理ですが、猫は私が何とかしてあげますネ!」
と高らかに宣言。
一方、ユイはモンキーのトロフィーである雀の雛に目をやる。
安部彩乃(fa1244)はさっそく半獣化すると──。
「えとえと、わがまま雄猫さんとゆったり雛雀さんの大冒険ですかっ‥‥?
きっとお互いに惹かれる所があったのです〜物語の一ページですっ」
和気穏笑を発動させ、場の空気も自分同様に穏和にする。
雀はティッシュの山に埋もれて不安そうにしていたが、そのストレスも取れたようだ。 小鳥の獣人としての能力で早速対話するユイ。
(大丈夫かな? あの猫さんも多分悪気があってやったんじゃないから──怪我とかしていない? 寒くない? 近づいてもいいかな?)
(うん、ちょっと寒いし、痛い。それにお腹へった)
ユイは話しかけながらゆっくりと雛に近づいていき、上着を脱ぐと、それでくるむようにして、保温を心がける。
泉 彩佳(fa1890)もそれを手伝う。
「外傷や出血はあるかな?
傷は人間用の消毒薬で感染症に対して応急処置。出来るだけ薄く塗りこむようにしよう。馴れているんだ仕事柄」
アヤはプロレスラーである。
「骨折があれば楊枝やマッチなどで添え木をって‥‥これは必要なさそうだね?
でも痛いって言ってるんでしょ? なら、打撲や内出血も考えられるし、止まり木を割り箸3本分の厚みにして、作ってみて、これにに止まれるか、どうか見てみようよ。 体の外形は左右対称か。これも大丈夫みたいだね。
じゃーん、取り出したるは使い捨てカイロ。
寒いって言ってたよね。体温が低い時か、寒くて震えているのどちらか判らないけど、ユイ、上着ちょっといいかな? 雛に直接当てないように、上着越しに当てるんだよ。
カイロが直接触れると,炎症や火傷を作るから、持つときは気をつけてね」
「でも、応急処置だけで済むかな?」
大丈夫、と武宮 美咲(fa2076)が半獣化して、額の角を露わにする。
「えっと、私は雛雀さんのケアを重点的に受け持ちたいと思います。
猫のモンキーが拾ってきた‥‥という蓮也君の証言から考えると、この雛雀は巣から誤って落ちてしまったんだと思います。
なので、おふたりの見立て通り、目に見える外傷以外にもダメージがあるかもしれないので、まずは治癒命光で応急処置を施してから、近くの獣医さんに診せに行こうかな‥‥大丈夫蓮也くん、大きな怪我もなさそうだし、獣医さんに診せれば大丈夫だよ。それでも、やっぱり親鳥さんと一緒なのが一番いいからね、何とか巣に戻してあげようね」
応急処置が進む一方、織石 フルア(fa2683)も頷くと、手製の梅干しを入れた茶を一杯、蓮也少年に差し出す。
「まずは落ち着け、蓮也」
ずずーと茶を啜ると、蓮也少年は一言。
「あ、お正月の味がする」
「そうか。自慢の梅干しだ」
雀が落ち着いた所で、ユイが小首を傾げると、アヤも頷いて──。
「じゃあ、モンキーくんの移動ケースあるでしょ。本当は鳥かごがあればいいんだけど、猫を飼っているウチじゃ、普通は置いていないよね‥‥」
と言って、手早く、ユイの上着ごとアヤはモンキーの移動ケースに詰め込んで、携帯電話を取り出すと、獣医師会のホームページにアクセスしている。
獣医さんの元に持ち込む場合、事前に連絡してから持って行くといいという判断の下の行為だ。
「野鳥を快く引き受けてくれる獣医さんをネットや野生動物救護獣医師協会、鳥獣保護担当窓口で聞いておくといいんだよね」
器用に携帯を操作するアヤを横目に、美咲がユイにアドバイスする。
「そうなんだ美咲。でも、アヤ良く知ってるね」
「いや、移動中にネットで仕入れた話だから。それに美咲さんほどじゃないけど、翼を持つ種族として、旅立ちを迎えて空の広さを知ってほしいしね☆」
東高陽が皆が獣医に行っている間に、キッチンに立ち──。
「んとんと‥‥クッキー生地が難しいですけどメロンパンもこっそり挑戦ですっ」
皆のおさんどんにクリームシチューを煮込む傍ら、パン生地を練り出す東高陽。
「駄目です。モンキーさんが狙っているのですっ!」
湯ノ花 ゆくる(fa0640)が敏感にもメロンパンの気配を察知して止めに入る。
「ゆくるはメロンパン芸人ですけど‥‥今回は‥‥メロンパンを‥‥持ってきてないん‥‥です。
気持ちは嬉しいですけど‥‥ネコさんの‥‥唾液には‥‥炭水化物を‥‥消化する‥‥酵素がないので‥‥消化悪そう‥‥らしいですから‥‥。
メロンパンの‥‥欠片でも‥‥落して‥‥それを‥‥食べられでも‥‥したら‥‥大変ですから‥‥。
今回は‥‥メロンパンは‥‥封印です‥‥絶対に‥‥持って行かない‥‥です。
‥‥ネコさんが‥‥お腹を‥‥壊したら‥‥大変ですから‥‥」
自分のアイデンティティーを封印してまでモンキーに気遣う態度に東高陽も感極まり、手を取って泣き出す。
「‥‥モンキーさんは‥‥弱っている‥‥小鳥さんを‥‥助ける為に‥‥ここに‥‥連れて‥‥来たんですよね‥‥偉いです‥‥♪」
ゆくるは頭を撫でようとするが、間合いを取って触れさせない。
一方、雀も獣医が完璧な処置に驚きつつ、これだけ人の匂いがついては元の巣には戻せないだろう、と断が下り、蓮也少年とは泣く泣く別れる事になった。
フローは戻ってきたらモンキーの事を色々聞いてみたいな。
普段の接し方、現状のしつけ具合の辺りも確認。
聞いてみると、殆ど実家を食事場くらいにしか思っていない様だ。帰って眠っている隙をついてノミ取りも兼ねてブラッシングしようとするが、それも起きた時の反撃がある。
猫のしつけはとにかく根気。
『やって欲しくない事』をきっちり決めた上で、ひとつひとつクリアしていくしかあるまい。
しかし、ハードルは高かった。
そして、食事時。あおいは勝負に出た。
(モンキーの躾ですネ。
手始めに食事の時に猫缶を出して友好的な関係を築くですネ)
ひたすらあおいを無視してむしゃぶりつく。
(動きが鈍いなら、首根っこを押さえ込んで捕獲できますネ)
激しく抵抗。そこへ──。
(馴染んできたら、私とモンキーのどちらがボス格か判らせる為に、猫用櫛でブラッシングをしてあげましょうネ。
このまま泣こうが喚こうが離さないですネ)。
──思いっきり嫌がっていた。あおいはぐっと強めに押さえつけて──
「大人しくしなサイ」
と、言い聞かせるが、反撃が返ってくる。猫パンチの乱打である。
予想通りである。爪や噛み付き攻撃をしてきたら、押さえこみながら床を叩いて叱りまくるあおい。
フローも猫がして欲しくない行動をした時にはパンッと手を鳴らして音で脅かす。
慣れてしまった時対策に空き缶に小石を入れた簡易楽器も用意。
『悪い事をしたら嫌な事が起きる』事を学ばせないといけないからである。
大人しくなるまで根気強く続けるのが大事な事。
「モンキー」
叱ろうとする蓮也少年。
「駄目、絶対に猫自身を叩いたりしてはいけませんネ。
大人しくなったら、優しく撫でるようにブラッシングをしてあげるですネ。
だんだん慣れてきたら、耳の後ろや尻尾の付け根を手でやってあげるですネ。
猫はこうしてあげたら気持ち良いのですネ」
振りほどいて猫専用の出入り口から逃げ出すモンキー。
「ダイエットは専門家からそれ用のエサを買って、用法を良く聞いてやるのが一番ですネ」
「はい、獣医さんの指定したもの買ってるんですけど」
「うーん、そうなると、後は猫おもちゃで遊び相手をしてあげるのも良いですネ。
目の前でねこじゃらしをゆっくり振ってあげるデス。
これに慣れさせれば、猫じゃらしを振っただけでじゃれついて来るようになるですネ」「興味持たなくて──」
「じゃあ、後は少年が頑張るデスネ。全面降伏」
りなは手を打って、ふたりの会話に割り込む。
「モンキーはどこいったかな?」
「多分、玄関の前で待ってると思います」
「根性ないわ──」
玄関を開けるとそこに座り込んでいた。
当然の様に入ってくる。
猫獣人の本領を発揮するりな。
「どうしてブラッシング嫌がるの? こんなに気持ちいいですのに♪」
そう言っても、モンキーは距離を取ろうとする。
「痛いから」
「それは普段からブラシッングしないからですの」
「でも、やだ」
「うーん、あまり食べ過ぎてしまうと、お体に悪いですよ? 身体を壊したら、蓮也くん、今以上にパニックになってしまいますよ?」
「もっと食べたい。甘いものとか」。
「駄目ですよ。猫は猫缶とフレークを食べてれば十分なんですよ」
「猫缶もっと食べたい」
「じゃあ、雀の雛さんを拾った場所などお聞きしたいです!」
「いいよ」
夜の闇の中に消えていくモンキー。
マンションを出ると、近くのコンビニの裏手に回っていった。
「あー、いますね。ご免なさい‥‥って言ってもあたしの言葉は届かないんですか──」 モンキーが凱旋してくる。
ゆくるはその堂々たる態度を見て──。
「‥‥伝説の‥‥猫妖精さんみたいで‥‥かわいいです‥‥♪
‥‥貫禄が‥‥あります‥‥。
‥‥ゆくるは‥‥ネコの‥‥モンキーさんと‥‥一緒に‥‥遊んだり‥お風呂に‥‥入れたり‥‥ネコさん‥‥重視で‥‥行こうと‥‥思っています‥‥♪」
「え、それは勘弁して下さい。前に一度お風呂に入れたんですけど、逃げ出して乾かせなくて、全身泥まみれで帰ってきたんです」
「それは‥‥大変です。じゃあ、泉さんから‥‥譲ってもらった‥‥シークレット鼠尻尾を‥‥付けて‥‥フリフリして‥‥遊びます‥‥。
‥‥楽しく‥‥遊んで‥‥ダイエット‥‥です‥‥。‥‥ネコさんになら‥‥噛まれても‥‥引っ掛かれても‥‥嬉しい‥‥です‥‥‥‥ニコニコ‥‥しています‥‥──あれ、駄目ですか? ですから、おデブになるんですよ」
「もし良かったら愛瀬さんと二人でモンキーさんを抱き上げる機会が欲しいです〜」
東高陽の懇願にりなは通訳し、ずっしり重い、8キロはある巨体を持ち上げた。
2秒後逃げられた。
「題して飴と鞭の飴の様なそんな感じ〜なのですっ。
躾としては『拾い食いはお腹を壊します〜』とメロンパンで実演です〜──といっても紙芝居形式なのですっ、あわわ‥‥紙芝居じゃ通じないですか〜?」
興味も惹けなかった様だ。
そしてモンキーの強化特訓、並の芸能人なら、マスクマンにならざるを得ないほど、傷だらけになった一同だったが、獣化して、人化してを繰り返せば表皮の浅い傷だけなら消える。
見送る蓮也少年の腕に抱きかかえられているのは、くたびれたモンキーであった。
どうやら、ステップのひとつはクリアーしたようだ。
フローはモンキーを良い事をしたと思い切り褒める。
‥‥ここぞとばかりにぐりぐり撫でる。嫌がってるようであり、やめる事になったが。「──お姉さんたちありがとうございました」
蓮也少年は見送っていく。
そして、再び芸能界という檻が待っているのだ。
頑張れ少年、ハードな運命、おねーさん達は見守っているぞ〜。