闇色の夢アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
フリー
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
15.2万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
1人
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期間 |
07/10〜07/12
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●本文
「諸君に集まってもらったのは他でもない」
WEAの日本支部東京支局のブリーフィングルームで、スーツ姿の男──年は四十ばかりの半獣人化した獅子人──は、短期間で実入りの良い仕事がある‥‥『ただし荒事』という条件に飛び込んできた獣人達を見下ろしながら宣言した。
「2日後、横浜港から、強力なナイトウォーカーを封印したという触れ込みのオーパーツが陸揚げされる。もちろん、これはデマだ。最近動きが活発化した闇に身を堕としたダークサイド獣人をおびき寄せる為の罠だ。これをトレーラーで筑波にある研究施設まで運ぶ『ふり』をする事を手伝って欲しい」
朗々たる声で獅子人は告げると、懐から指輪を取り出す。
明るい場所で見れば、判るが、アクリルの削りだしであった
この指輪が情報漏れした事になっているオーパーツの複製品だ、と言葉を切る。
「皆には、希望があれば、この複製品を身につけてもらいたい。もちろん、オリジナルと同じく、外見だけで何の機能もついていないが」
陸揚げの予定時間は午後8時。何事も無ければ翌朝にはトレーラーは筑波についている筈である。
情報は僅かなセキュリティホールのほころびからの漏洩という形なので、自力で情報網を持っていない小物は引っかからない。
つまり、今晩釣り上げるのは大物狙いだ。
「今回の計画の骨子は民間人を巻き込まず、ダークサイド獣人を誘き出す事にある。その為、あえてヘリは使わない、以上だ。諸君らの健闘を祈る」
──カット26スタート
●リプレイ本文
「トレーラーはヤクザバスターズの宣伝用コンテナ付きを下さい、お願いします──無いなら造れ」
と、九条・運(fa0378)が凄んだのが利いたのか、どうか、レイトショーでしか、最早お目にかかれない珍作映画『ヤクザバスターズ──氷の処刑台──』と、デカデカと描かれたトレーラーが一同の前に準備された。
水揚げした事になっている横浜から高速に乗り、ジーン(fa1137)が運転するトレーラーが夜の中をかけていく。
無論、車内から証拠を得る為、暗視機能つきのDVDレコーダーも設置済みである。
かたや、WEAにレンタカーを手配してもらった富士川・千春(fa0847)は、ラルス(fa2627)の運転の下、後方やや距離を置いて追尾し。
「やれやれ。この面倒な運搬業務も、もうすぐ終了ですね」
運転の傍ら指輪が入っているという設定の箱をいじると、ラルスはのびをする。
一方、リネット・ハウンド(fa1385)はパイレーツ1200Sに跨り、トレーラーの横に半獣化したままついていく。流石に犬面を収納できるフルフェイスヘルムはなく、半獣化したままだが、それでもフルフェイス、ライダースーツ、ライダーグローブ、ロングブーツといった出で立ちである。
反対側は椚住要(fa1634)がレンタカーで押さえている。得物をギターケースに隠し、ジーンから借りた’22口径は仲間がどうしても回避出来ない時にのみ使用する積もりだが、そんな状況に陥って果たして間に合うだろうか?
被襲撃予定地点の3キロ先で、尾鷲由香(fa1449)が──。
「骨の一本や二本覚悟しておくよ」
と、オーパーツのオリジナルが入っているという設定のジェラルミンのアタッシュケースを抱えた、日向 美羽(fa1690)に言い置いて、翼を広げて飛び立っていく。
ラルスは苦笑しながら──。
「用心深いですねぇ。来るならとっくに来ていますよ」
「せめて幸運を」
と言い置いて、由香に幸福の力を与える美羽。
すると、どんよりしていた雲を一陣の風が吹き晴らし、由香の視界に自分と同じ、鷹の翼を広げた獣人が飛んでいるのが見える。
防弾ベストだの何だのと言った戦闘装備である。
「つけられっぱなし──って事か」
その言葉が聞えたかのように、むくりと、隅に蹲っていたアルケミスト(fa0318)は起きあがり、細工してあったハンドパペットからサイレンサー付きの愛銃を取り出す。
「過ちは‥‥繰り返し‥‥ませ‥‥ん」
キャミとミニスカだけという些か扇情的なスタイルの月影 愛(fa2814)は予想外な展開に驚いた。
その鷹人は急降下し、トレーラーの直上に来ると、一丁のショットガンを取り出し、トレーラーのエンジンに直撃させる。
ジーンの眼前でボンネットが跳ね上がり、エアバッグが膨れあがる。
しかし、不安定な体勢から、アルミが放った弾丸の半ば以上が羽を直撃し、慣性の法則のまま移動するトレーラーに、鷹の獣人は巻き込まれた。
「こんな事もあろうかと──」
美羽はアルミにも幸運を分け与え、その為、アルミは車外に振り落とされても九死に一生を得た。
しかし、一同が注意していなかった、前方からバイクがスピードを落として回り込む。 リネットは相手の注意を引こうとしつつ、闇を見通す鋭い瞳で、特徴的なものがないか、確かめようとするが、鍛え上げられた肉体の男である以上は判らない。全てが市販品であった。
しかし、特徴的な品として銀色の短剣携えていた。リネットの幅寄せを見事に回避しながらも、トレーラーの外板に突き立てる。
次の瞬間──。
まるで巨大なチェーンソーで断ち切ったかのようにトレーラーの内部が露出した。
「通常の獣人の力を越えている? オーパーツ、それとも?」
リネットがさすがにトレーラーの速度に合わせて巡航速度に落とした、相手の動きに合わせて、バイクからバイクへと決死のダイブをし、バイクの動きを封じようとする。
しかし、次の瞬間、一足早く走行中のバイク上からトレーラーの中へとジャンプする男。
「ダークサイド‥‥‥‥闇から‥‥闇‥‥。私も‥‥そう‥‥なる‥‥の‥‥?」
アルミの言葉に男は明らかに機械で変調された声で。
「パイの取り合いという言葉を知っているか?」
言って、彼女の右肩を情け容赦なく踏み砕く。
「許さねぇ! 戴天神剣を見よ!」
叫ぶ運は見事な体重移動で、ブラストナックルを男にたたき込もうとするが、短剣で手首の動きを止められる。
そのまま、腕の半ばを肩まで切り裂かれ、高速道路まで放り出され、アスファルトとキスをした。
千春は運を回収し、己の無力さを恥じる。
周囲にジーンは『来るな』と絶叫しつつ、仕込み傘を片手に影から影へと間合いを詰める。
しかし、零距離に入ってから、青月円斬を喰らわせようとするが、肺臓に銀色の短剣を叩き込まれ、肋毎吹き飛ばされた。
タメを待ってくれる程、善人ではないようだ。
自らの血の海に沈みつつ、ジーンは意識を失う。
由香がそこへ発煙筒を投げ込む。
幸い仲間の位置は血の匂いが教えてくれる。
しかし、1分と持たず、1メートルはありそうなキリギリス型のNWが飛び出してきた。
カナメはその周囲を飛び回り、口からタメを入れずに負の波動をまき散らし、相手の動きを封じる。
「NWじゃ、鉄砲が危険というのは‥‥判らないか──」
追いついたラルスが周囲の目を気にかけながらもNW目がけて38口径弾を続けざまにぶち込む。
更に、カナメがナイフで斬りかかり、何とか仕留める。どうやら、破壊力に特化しているものの、格闘能力そのものは高くないタイプだったようだ。
その間に響く、ミハの悲鳴。
ジェラルミンケースなど、紙のように切り裂かれたようだ。向こうも完全獣化出来ないようにしている筈なのに、この半獣形態での圧倒的な戦力の差はなにか。
アクリルを一目で見破り、偽物と看破すると、アイの方に向かう。意を決した彼女は零距離へと飛び込もうとするが、地力の格が違いすぎた。飛び込もうという所を軽く足払いされ、つんのめった所を両膝を砕かれる。
いい加減車内にオーパーツが無いことを確認すると、一瞬の内に男は影の中へと飛び出していく。
どうやら、非常階段の位置も計算済みだったと見え、男はそのまま闇の中へと消えていった。
一同は遅れてやってきた、WEAの一角獣保険部隊の治療を受け、何とか傷を癒していく。
生きているのが幸いな相手であった。
作戦は失敗と判断され、途中で打ち切られる事となる。
作戦を提唱した獅子の獣人は──。
「君たちが弱かったのではない。相手が強すぎたのだ──まあ、コースの選定段階で、相手に襲われやすいコースを選んだのが失敗だったのかもしれないが──君たちは生き延びたのだ。死線を越えた事で、また君たちは強くなれるだろう。あのような凶悪なダークサイドから、牙を持たぬ獣人達を守ってやってくれたまえ」
と病院で訓辞を垂れる。
とはいえ、敗北の味は苦かった。