倫敦山海経ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
2.1万円
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参加人数 |
12人
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サポート |
0人
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期間 |
08/09〜08/13
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●本文
香港での客の入りも好調な“香港山海経”の舞台挨拶を終えた王一家は、倫敦郊外にある──ファーナス・王の妻の実家、リューキ・王の祖父母にあたる獣人──館でしばしの休憩をとり、来るべき一本の映画を撮った、同じ釜の飯を食った仲間との再会を楽しみにしていた。
「ねえ、ダド? どうして、素直に香港で、打ち上げやらなかったの?」
まだ12のリューキが子供っぽく父親に問う。
「そりゃ、簡単だ。ヨーロッパから来る連中も居るからな、北欧から呼び寄せる連中と、アジアから呼び寄せる連中の便を考えてのことだ。ウチでやると、どうしても北欧からくる連中に一方的に割を食らわせてしまうからな」
「‥‥むー」
「というのは建前で。つまる所を言えば、お前も田舎のグランマ、グランパに会いたかっただろう? それだけだ。後、倫敦は交通の便が良いだろう?」
ま、ヨーロッパ組との交流も考えての事だ、とファーンは息子に言い切る。
次回作の映画『WarCry』は北欧を舞台にした、ヴァイキングものの活劇である。細かいセッティングなどは、詰めていないがどうにかなるだろうとファーンはいつもの如く、ハッタリだけで押し通す積もりでいる。
「ま、一度は俺の洗礼を受けた仲間だよ。とりあえず、適当な所でお互いの親睦を図るのも良い事だ。あちらの俳優で『ルーク』という向うじゃそれなりに名の売れてるやつにも、皆を会わせたいしな」
「どんな人?」
「まだ20歳そこそこに見えるが円熟した奴でな、今は大学を休学しながら、芸能活動と考古学、ぶっちゃけて言えばオーパーツ探しに邁進している。もちろん、獣人で白銀の狼男だ。とにかく魅せる男だ」
「早く会いたいね」
「ああ、全くだ。直接会うのは久しぶりだからな‥‥最近はメールでしか交流していないしな」
ファーンはそう言って、首根っこにしがみつく息子の腕を外すのであった。
──カット29スタート。
●リプレイ本文
時は8月9日、所は倫敦。
「準備は万端! いざ行かん、会場へ〜〜〜♪」
上から下までを紅で統一したMAKOTO(fa0295)が市場で買った花束を抱え、九条・運(fa0378)の愛車『スターラインGTR N1』に乗り込む。
「うわっ、フローラル!? 姉貴似合わねー!」
「──!」
マコトの鉄拳制裁が発動する前に割り込む声。
AAA(fa1761)であった。
「ハ〜イ、お久しぶりね運?」
「何だエースか? 薔薇の花束抱えて? ペアルック?」
打撃音一発。
「駄目よ、マコト。あのね、運。単に花を探しに来ていたら、出くわしただけよ、あら? おニューのシートに血が?」
「駄目よ〜運。折角、500万も貸してあげて買ったせっかくの新車を汚しちゃ」
運も同じ『駄目よ』でもここまでの温度差を感じたのは初めてであった。
「ようこそロンドンへ」
3人が招待状を示すと、ホテルマン達は笑顔を浮かべて、一同を導いた。
そして、会場に通されると──。
「げ、リー・ウェンフー!」
一瞬、運が退いたのは、映画の中から抜け出してきたかのような烈飛龍(fa0225)のダークスーツにサングラス、マントの様にはためかせているコート姿を目の当たりにしたからであった。
「久しいな」
フェイロンの野性味溢れた顔立ちに笑みが浮かぶ。
「お互い様ね。あら、リューキ?」
ようこそいらっしゃいました、と燕尾服に身を包んだリューキ・王少年の出迎えを受けて、エースが覆い被さるようにハグする。
「それと、これ。お父様と分け合って」
と言いながら、薔薇の花束を渡す。
「ありがとうございます、楽しんでいってくださいね♪」
「ヨーロッパまで来たのだから、元を取る位楽しむわよ。もっとも、リューキの笑顔だけで十分元は取れたけどね」
「3人ともそのまま会話を続けて、師弟と親子と親友同士のトリプルショットなんてそうそう撮れないし」
DVDカメラを回しているのは風羽シン(fa0154)。メイキング映像の特典に、まだまだ貪欲に打ち上げパーティーの画を加えたいらしい。
「カルテットでもいいわよ」
楊・玲花(fa0642)が優雅に近寄ってくる。映画で着用していたチャイナドレス姿である。
「今回の映画でフェイロンは存在感がありましたから、憧れる女性ファンも出るかもしれません。
ちゃんとわたしが恋人、だとアピールしておかないと、ね」
形容し難き微妙さで、微笑むリンファ。
フェイロンは照れながら。
「‥‥まあ、そういうことだ」
「何とカメラの外でそんな事が? と、驚いておこう」
シンのカメラがリンファの精彩に満ちた表情と、麗しき黒髪を収めていく。
咲夜(fa2997)がリューキに向かって。
「やっほー元気してた?」
と、七分丈の脚を少しむき出しにしたチャイナ服に身を包んで、リンファの影から姿を現す。
「とりあえず、WarCryには参加しないけど、香港山海経に、もっと早く参加出来ていたなら、もっとリンホァンを可愛く魅力的に演じれていたかもしれないよね? ちょっと唐突な感じがどうしても否めないし、ルーロンとの絡みももっと増やしたかったしね。
でも、護られるだけじゃない格好いいヒロインを演じられたから、あたしとしては満足出来たかな」
「そうだね、最初にヒロインは死ぬ、が前提にあったから、もう少し前から伏線を張っておければ、実は女の子──っていうどんでん返しももっと有効に活かせたろうね」
うなずくリューキ。サクヤはそれを確認して言葉を綴り出す。
「そういえば、ルーロンとリンホァンって映画の後どうなるんだろうね?」
「え?」
「共に危険を乗り越えた事で、今は気持ちが盛り上がって居るんだろうけど、リンホアンって結構きついところあるし、つまらないことでルーロンと喧嘩別れしてしまうってこともあり得るよね」
「う、うーん。まあ、考えてみれば親の敵だしね‥‥じゃなくってもっとミニマムなレベルでの話?」
「そうよ。でも、あたしとしては二人に幸せになって貰いたいから、もし喧嘩別れをしても何年かして運命が二人をもう一度出会わせ、また恋に落ちる、なんて展開を希望したいな。
リューキ君はどう思う?」
「うーん、実際にあと何年か経ってみないと‥‥判らないな」
「そうなんだ‥‥。で、せっかく知り合ったことだし、リューキ君と友達になりたいな。連絡先の交換とか出来たらいいね」
「9月には引っ越すから、とりあえず、サクヤの分のメアドだけ教えてくれればいいよ。こちらは決まったら、メール入れるから」
と言ってリューキは携帯電話を出し、サクヤもポケットから携帯電話を取り出した。
そこへ肩を越えるほどの、長い銀髪を靡かせた、ひとりの男の影が姿を現す。
碧色の瞳以外はスーツも含めて全身純銀ではないか? との錯覚さえ抱かせる人物であった。
思わず、シンのカメラも対象を変えてしまう。そこへ錆を含んだ声で──。
「失礼だが、俺は山海経の関係者ではないので、モブ以上に目立つつもりはない」
と、突き放し気味に挨拶する。そこへ運が──。
「て、事はあんたがルークって奴か? 俺は九条──」
「九条運だろう? 話には聞いている」
──と、ルークが返す。
とりあえず、リンファにカメラを戻そうとしたシンに──。
「おう、お疲れ様。撮影の時は大変だっただろうけど、今日はその時の疲れを吹き飛ばすぐらい楽しもうぜ」
と、マヨネーズの大袋と日本酒で両手が塞がった、もりゅー・べじたぶる(fa1267)が声をかける。
しかし、両手の物に加え、燕尾服にバンダナにサングラスと、ドレスコードを無視し放題であった。
「じゃあ、ルーク、後で聞きたい事がたんとあるんだ」
と運が声をかければ。
「──ほう?」
と、文字通り肉食獣の目つきで目を細めるルーク。
「まあ、こちらでの暮らし方についてだな。
この間、ヤクザな連中を誘き出してヤクザバスターになろうとしたら見事に返り討ちの瞬殺食らっちまったからな
リベンジ&今後の活動の為にも日々精進せにゃならんのでね」
「──そうか」
「ああ。シン、大分世話になったな〜〜。て事で乾杯が終わったら、駆けつけ3杯な具合な。酌はするぜ」
「おいおい、運も、もりゅーも、最初から飛ばし気味だな。肝臓を労るという事を考えろ」
そこは会場に正装で、走り込んでくるファーナス・王。
「いや、すまんすまん。インタビューに追われてしまってな‥‥主催者がこれでは皆に合わせる顔がないな。おお、ルークか。久しいな──」
「ああ、WarCryだったな。宜しく頼む」
そこにファーンに一斉に声がかかる。出演者からスポンサー、単なる関係者まで多彩な顔ぶれだ。
それを見た、御堂 陣(fa1453)も、ファーンに──。
「この映画に出会わなければ俺は三流役者で終わっていたと思う。監督やスタッフのみんなにはいくら感謝しても足りないぜ。
次の作品もオファーがあれば、もちろん出演してみたい。でも、映画にかかりっきりになると他の仕事まで手が回らなくってさ。他の仕事に色々と挑戦して見たい気持ちもあるよ。
今のところ『WarCry』にも興味はあるが、他の仕事もやりたいんで迷ってるところだな」
「迷え迷え。若いうちに迷っておく事だ。年を取ってからいきなり迷い出したら、人生を棒に振りかねないからな」
「ファーン、寂しかったわ」
と、エースが抱きつけば、ファーンは背中を軽く叩いて引き剥がす。
「で、次回作にも興味津々なの。でも、予算は大丈夫?」
「ああ、その為にこうして、派手な催しやって、スポンサーを見つけてるからな」
「そう? 山海経はある意味、身体一つである程度いけたけど、バイキングとなると話は違うわ。
ちょっと考えただけでも、船やら衣装やら、いかにもお金がかかりそうな気がするしね。
どんなイメージでやるのかなども含めて、大体の構想を聞いてみたいんだけど」
「映画の画面自体は真面目に作る。ただし、気がつけば、ハッタリだった、と。クライマックスで強引に気づかされる。そんな演出を考えている所だ」
「成る程ね。ところで、この前チャラになった乾杯の音頭だけど、監督にとってもらうのが一番いいと思うのよね」
「よかろう、では。──この度は完成した香港山海経と、胎動を始めた『WarCry』の為にお集まり頂きありがとうございました。ささやかながら、祝宴を設けましたので、どうかしばしの間、無礼講で、おくつろぎ下さい。では、皆さんの健康と繁栄を願いまして──乾杯!」
乾杯の声と共に一斉にグラスが打ち鳴らされる。
ホストとして巡り歩くファーンに、燕尾服に身を包んだ青雷(fa1889)が──。
「お疲れ様でした、そしてお世話になりましたこれからも役者として精進していきます。」
「ありがとう。君にも世話になった。最後のハッタリの進化のさせ方は見事だったよ。また、あれだけのハッタリを見せてくれるかね?」
「チャンスを掴み取り、とにかく役者として全力を尽くします、と答えさせてください」
「あれが噂のファーナス・王監督か‥‥次回作はヨーロッパで撮るという話らしいが‥‥フッ、楽しみだ‥‥」
鶸・檜皮(fa2614)はシンを見て、どうやら、ライバルは既にいるらしい。どちらが主導権を取るかが、まずは鍵になる、と踏んだ。
「まずは実力を見せつける。噂ではあのカメラマンはPV作成でその力量を認められたと聞くが、今回はその様な噂を聞いていない。何か、機会を見つけなければな‥‥」
一方、ライバルはいない、と踏んだ大神 真夜(fa4038)は積極的にファーンに話しかけ──。
「大神真夜。
スタントで日銭を稼ぎながら、メジャーになる事を目指している宜しく」
続けてまぁやは。
「顔と特技を覚えて貰えたら嬉しいな。あとは次回作への希望も一応出しておくか。まず、戦う女性として参加出来ると嬉しい。
ビキニアーマーのような露出過多は出来れば避けて、スケイルアーマーと、ローブにヘルムの重装備の戦姿や、皮鎧と外套の軽装とか体力に応じて選べると嬉しい。
バイキング物だそうなので、それっぽい衣装や武装。舞台の発表に期待している」
そこへ運が入り込んできて。
「『WarCry』にも続けて参加予定なんで次回作でも目立ちに行くぜ!
で、監督が気にしていた東洋人とかの、有色人種が多かった場合の理由付けの一案としてだけど、『何かの神に力を授かった証のひとつ』って事で良いじゃん?
白人でも黒人でも白子でも納得しやすいっぽいブラフだと思うし」
「その手もありか‥‥」
「序にそれらとは別件で何か実入りの良い仕事が有ったら連絡プリーズ!
実は衝動買いしたんだけど、持ち合わせだけじゃ足りなくて姉貴に借金したんだよ‥‥。
500万ほど‥‥。
んでちゃっちゃと返済済ませたいわけ、何時までも借りを作っておくと色々怖いからな‥‥」
「ルークも詳しいだろうが、全てをかっさらってから、メールを寄越すタイプだしな」
「ジュースを持ってきたよ、お嬢さ‥‥なんだ、リューキか」
と、陣。
「はいはい、呑むよー!」
と、サクヤが陣の手からグラスをひったくってのます。
「今は呑む事より、食べる事よ。一杯食べなきゃ大きくなれないんだから」
エースが、リューキに大盛りの皿を示す。
そこにフェイロンの声が聞こえてくる。
「今回の香港山海経は、少年が多くの仲間の力を借りて、壁を乗り越える話だったからな。
今度の話は大人の力を借りるのではなく、親友同士力を合わせ、お互いに高め合って目的を遂行するような展開にするといいかもしれないな。どのみち明確な敵を最初から提示する必要があるとは思うが」
「うーん、それには名の知れた子役が必要だからな、年を上に見積もってもサクヤを基準として、15才程度が限度か、それでも名の知れた──と、なると限られてくる」
フェイロンに応えるファーンの言葉に。
「成る程、子役の取り合いか──重要な要素だな。確かに考える必要があるな。
さて、俺としての香港山海経の総括だが、時間が足りなかったとはいえ、リー・ウェンフーの魅力を更に引き出せなかったのはやはり心残りだな。部分では主人公を喰っていたかもしれないが、観客の印象に残る役になったかはもう一つ自信が持てないしな。
リューキを主人公に据えたのは間違いなかったと思う。リューキが中心に居たから、俺たちはそれを取り巻く形で自分たちの好き勝手が出来たんだからな。そういう意味ではリューキに割を喰わせたかもしれない」
リンファも続けて。
「ヒロインの登場がもう少し早かったら、もっと話に深みが出たかもしれませんね。女性の参加者は居ましたけど、リューキ君に釣り合う年代の子はいませんでしたし、色恋沙汰よりアクションがお好きな人ばかりでしたしね。そういう意味では咲夜ちゃんの参加は有り難かったですけれど」
そこで一旦言葉を切り。
「ランファをもう少し動かせると良かったんですけれど。設定に縛られすぎたせいでしょうか? どうしても埋没してしまった感は否めないですね」
唐突に──。
「リューキー、そっち行ったらだめだー、くるっぽーの罠だー。とうふーとうふーとうふーかけふー」
ともりゅーが後ろから声をかける。どうやら、酔い潰れたようだ。
無礼講も極まってきたところで、徹夜でNG集を作ってきたシンがDVDを取り出し──。
「さて、ガチの姉弟喧嘩から、リューキの女装まで色々のプレミア映像。カメラは禁止だ」
と、上映会を始める。
宴もたけなわのようであった。