今度は戦闘だ!ヨーロッパ
種類 |
ショートEX
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
15.2万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
08/12〜08/14
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●本文
唐突だが、欧州にひとつの危機が迫っている。
人為的?
自然災害?
いや、そのどちらでもないし。どちらでもあるのかもしれない。
ナイトウォーカーという厄災──それは人智のまだ及ばぬ領域に正体がある‥‥。
WEAから、ナイトウォーカーに感染され、電子物理的に厳重に隔離されたひとつの田舎街があるとの報告がもたらされた。
その田舎街に全長20センチほどのウジ虫と野良犬を混ぜ合わせたようなナイトウォーカーがおよそ“100匹”おそらく下水道を伝わって潜入してきたらしいと伝える。
早急に対策本部が設けられ、ナイトウォーカーのコードネームも決まった“ラルヴァ”だ。
その上で、これだけのラルヴァが隔離を破って、外部に汚染を拡大するする前に、内部に突入し、完全殲滅して欲しい旨伝え、駆逐の為の有志を募った。
「ラルヴァ退治のノルマはひとり頭10から13匹だ」
田舎街に最も近くのWEA支部でこまめな情報出しが行われる。
「大きさからして、コアを潰すよりも、地道に潰していった方が早いだろう。今まで特殊能力は確認されていない──但し、やたらと身が軽く、身体の小ささも相まってどんな攻撃も有効打を入れるのは難しいだろう」
外見上は落ち着き払ったWEAの広報が告げる。
「潰した“ラルヴァ”1匹につき、円にして1万円をボーナスとして与える事を確約しよう。但し、コアの分解可能な時期に達しているかどうか不明の為、逃走経路になりうる情報媒体の持込は全て禁止する」
そして、お約束のフレーズで最後は締めくくられるのであった。
「では、諸君の健闘を祈る」
──カット30スタート
●リプレイ本文
紫煙たなびく煙草を、指でくゆらせながら、各務 神無(fa3392)曰く。
「凡そ100ものナイトウォーカーか‥‥それに関して今は何も考えまい。
私達の任は飽く迄殲滅、それに全力と最善を尽くすだけだよ」
(‥‥それに、ダークサイドと交えようとする者がこの程度で音を上げられるものか。
──倒したい奴がいる。
その力をつける為に、この圧倒的不利の状況に臨むのだから)
白子のエゾオオカミに完全獣化した、その傍らで、少女、ザジ・ザ・レティクル(fa2429)が、遠くに見えてきた死街を眺めながら──。
「そうよね、戦いは数だ、なんて言うけれど‥‥大いに同感ね♪ でも、弾代は軽くペイできそう」
「やはり‥‥腕が鳴りますな、こういうのは」
神無の高揚した気分を察してか、白銀の鱗に包まれた竜の獣人、ディンゴ・ドラッヘン(fa1886)は冷静にしていたものの、同じく血が騒ぐ女傑に触発され、彼にしては珍しくうずうずしているようだ。
ディンゴの相方を今回は務める椚住要(fa1634)は無言のままで、脳内で地図を反芻していた。本当は地図を持ち込みたかったのだが、ナイトウォーカーの移動手段となる情報媒体の持ち込みは禁じられているため、行動開始時には地図は回収されていた。
彼らをここまで運ぶ輸送車のナンバーですら塗りつぶされ、ジャミングなどという電波をまき散らすことで、ナイトウォーカーが包囲網を突破される事を防ぐため、電子的な空白状態に戦場となるべき死街はされている。
「ラルヴァ‥‥ですか。確か死者の国の使いという悪霊の名前でしたね。
二ヶ月前のダークサイドの件といい、この事件もそういったことと関係しているのでしょうか?」
つり目の美女、稲森・梢(fa1435)が誰にともなく、言葉を発した。
彼女の言葉とは裏腹に脳裏では推理が渦を巻いている。
(子犬ほどの大きさという事ですが、100体も子犬が感染すると思えませんし、下水から侵入したという話から宿主は鼠という事でしょうか?)
緑川安則(fa1206)はそんなコズエを見やりながら、アルケミスト(fa0318)の羽毛に包まれた頭を撫でながら、威勢良く。
「ふむ‥‥100対10の数の上では不利だが、それでも獣人の底力があればどうとでもなる。戦いに怯えるな。楽しもうぜ‥‥なあ?」
「メグさんのお兄さん、アルケミスト‥‥アルミで結構‥‥よろ‥‥しゅうに‥‥」
やーくんは、背中に降魔刀、両腰にオティヌスの銃とガバメントという装備。竜人の本性を露わにした完全獣化状態で行動であった。
本来なら迷彩服を着込んでいきたかったが、これも情報の媒体になるという事で、作戦完了後に返して貰うのを前提に、閉鎖部隊に預けていた。
「で‥‥シアーって‥‥どうやって‥‥かけるの? 判らない」
アルミの問いにやーくんは困ったような表情を浮かべ──。
「おい、自分の武器くらい責任持って扱えるようになれ。シアーっていうのは、引き金を引き放しにしても、連射しないようにするパーツの事だ。きちんと整備していれば、壊れる事なんぞないぜ」
「運‥‥悪い‥‥から。仲間を‥‥後ろから‥‥誤射した時、連射したのを‥‥シアーが‥‥壊れたから‥‥だって言われた‥‥事あるの」
「なら、0.01パーセントでも信頼度を上げるよう、正規の部品を使え。運が悪いのを自覚しているのなら、戦場に出るな。出なければいけないときは一番前に立て、誤射されれば自分の問題だけで済む」
「参考に‥‥するわね。でも‥‥ボス‥‥。デートの‥‥場所は‥‥最悪‥‥ね‥‥」
この依頼で、アルミのパートナーを務める、彼女からボスと呼ばれるグリード(fa0757)は、周囲のメンバーの体感温度を上昇させる熱血な言葉を、熊に完全獣化しても尚、つけている熊のマスクから出す。
「何もかもぶち壊せば万事解決する。それでいいだろう。手榴弾も回してくれないほど、ケチなクライアントだが、火薬で足りない分は、素手で引き裂く」
「全く」
真っ先に愛車であるジープの付属品を、ぶじおかに素手で粉砕されたやーくんがぼやく。
「ああ、アルミ。誤射でも、俺を撃ちやがったら減給ものだからな? その積もりでいやがれ」
「はい‥‥ボス」
苦笑しながら、MIDOH(fa1126)が話題を変える。
「しかし『ラルヴァ』は20センチの犬‥‥チワワか? チワワの足と顔に、同体が芋虫だったら気色悪いな。
まあ、狭い所に逃げ込まれたら探すのが面倒だな。
犬の影響で群れていたらと楽なんだけどな」
それに対し、ナイトウォーカーの情報収集に余念がない、ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)がさらりと付け加える。
「気色悪かろうガ、愛らしいトしテモ、所詮はナイトウォーカー。その命の欠片まで、存在を許し置くワケには、いきまセンわ。ナイトウォーカーには群れを為すだけの知性がないと聞くワよ。で、完璧を目指すナラ会話も慎むベキね。やつらが移動スル情報媒体には、声も音も含まれるのダカラ」
自らの蝙蝠としての獣人の姿を忌み嫌っているミカであったが、それ以上に忌み嫌っているナイトウォーカーの群れを相手にするとあって、逆に悪魔の如きこの完全獣化した姿が闘志を奮い立たせていた。
「下水道にマダ在庫が潜んでるナンテ言わナいでしょうネ?」
コズエが応えて曰く。
「可能性としては捨てきれないのでは?」
「いたら、ぶち壊せばいい。後の復興に関してはWEAに任せておけばいいだろう。俺たちは『ラルヴァ』を殲滅する為だけに雇われたんだ」
断言するぶじおか。
「ガンスリンガーは‥‥使命を‥‥果たす‥‥だけ」
アルミの呟きと共にそろそろ、事前に打ち合わせた作戦の範囲内に一同は入ってきそうであった。
皆の緊張が走る中、やーくんが──。
「いくぞ! 獣人の意地、ナイトウォーカーに見せてやれ!!」
マリアがシャウト!
「あいよ! 一気に行くよ!」
パイレーツ1200Sで先行し、獣人の輸血用パックから血を滴らせながら、ラルヴァを集めるべく、疾走していく。
アルキメデスの火を使うべく、作戦の時刻設定が昼間な為、ナイトウォーカー──夜歩む者──である『ラルヴァ』は不活性である。それでも十数匹が集まってきた。
陽光の下で見るラルヴァは聞かされていた以上にグロテスクであった。
チロチロと滴った血を舐めている。
「いくぞ‥‥ミドウ! この間のようにな! ふん‥‥少々あざといが効率重視でいけばこれが一番なんだよな‥‥けどこいつの修理費、WEAに請求してもいいよな‥‥新車なんだぜ!」
ジープ2.7PJ−55を駆り立てそのまっただ中で『ラルヴァ』を蹂躙しようとするやーくんであったが、油断しきっていた筈の『ラルヴァ』達は身軽に車の前方から避けていく。
「早イ!」
蝙蝠の翼を広げたミカが、空中から舞い降りて掴み取ろうとするが、掠る気配もなく、『ラルヴァ』は彼女の視界外へと逃げていく。
また、アルミは獣人の能力で周囲の屈折率を操り、自らの姿を不可視にし、更に大空を行く者ならではの鋭い視覚と翼を広げて、空中から撃っても『ラルヴァ』には欠片も当たる気配がない。
「小さすぎ‥‥おまけに‥‥基本的な反射速度が速い‥‥弾‥‥ボスに‥‥貰わなきゃ‥‥これはマグレ‥‥じゃない」
一方、ぶじおかは攻めにはIMIUZIを撃ちまくり、守りには金剛力増と霊包防衣をと万全にしていたが、射線の1発たりとも『ラルヴァ』を掠る事はなかった。
「ぶった斬った方が速いな。それでも当たるか──怪しいな」
背中の七支剣を抜くと、ぶじおかは逃げる『ラルヴァ』を追おうとしたが、アルミが合流しようとするのに、気を殺がれる。
「おい、どうしたアルミ?」
ぶじおかに向かってアルミは上目遣いに──。
「ねぇ‥‥頂戴? ‥‥弾丸‥‥」
「自分の弾丸位自分で調達しろ、あ──ラルヴァを見失った、畜生」
間の悪さにアルミは肩を竦める。
一方、コズエはアルキメデスの火と、撃ち放つ火の玉で、ラルヴァを責め立てるが、アルキメデスの火は当たる端から『ラルヴァ』を逃走させ、火操火玉はダメージらしいダメージを与えられないものの『ラルヴァ』を逆上させるには十分であった。
コズエは咄嗟にクリスタルソードで噛みつきを受け止める。
その打撃はあまりにも弱々しく、完全獣化した彼女にとっては、児戯に等しかった。
(身軽でも、攻勢に弱いのかしら?)
抗しえないと知ったのか、素早く逃走に移ろうとする『ラルヴァ』を仕留めながらふとそんな考えが頭をよぎる。
カナメは空中から`44マグナムを撃ち放ち、物言わぬ肉塊に変えていく。
「チェックメイトだ‥‥」
その直下では──。
「ディンゴ・ドラッヘン、推して参る!!」
ディンゴが淀みのない動作で『ラルヴァ』に突撃し、先頭の1匹を踵落としで踏み潰そうとするが、呆気なく回避される。
続けて、その後、飛び掛ってくる『ラルヴァ』に向かい、拳の乱打で吹き飛ばそうと試みる。
「翻子拳は連打の拳‥‥その様、雨の如くなり!」
しかし『ラルヴァ』の動きについていけず、身体が泳ぐのみ。
コアを潰す余裕もない。
カナメも肉弾戦をやっている所に鉛の雨を降らす訳には行かず、拳が時々命中するものの、威力のある角なども使わない以上、破壊力の効率上昇を望めないディンゴの行動を歯がみして見守るのみ。
相手の攻撃が全く入らないのが、幸いであった。
というより、相手の攻撃にかけてはコズエが見切った通り素人同然。仮に噛みつけたとしても、威力は完全獣化した獣人の前では、無きに等しいだろう。
その混戦の中、ザジは──。
「ひとつ撃っては金の為。ふたつ撃っては人の為‥‥みっつ撃っては、ええと──やっぱり金の為♪」
自分のノルマ『ラルヴァ』10匹。所持弾数は60発。1匹に弾を6発撃ち込んで丁度トントンと、計算して。
銃器の早撃ち技法──撃ち切った所で、落ちたハンマーを素早く空いた左手の掌で、撃つ端から起こしていく──ファニングで一掃する積もりであったが、只でさえ当たらないのに、速射性を優先して、命中率を下げるファニングでは弾薬の無駄使いに過ぎなかった。
「レティクル座の神様にお願い‥‥ってね。燃やして、焼き尽くしちゃうんだから♪」
口では脳天気な事を言っているものの、自分の早撃ちが弾の浪費に過ぎない事に気づいた所で、ミカと合流する。
ザジが上空からの慎重な狙い撃ちで『ラルヴァ』の足を鈍らせミカが舞い降りて止めをさしていく。
神無は──。
「‥‥さて。では死なない程度に全力で狩り滅ぼそうか。
“La Danza Macabra”
斯くて我等、全ての異形に等しき死を与えん‥‥ってね」
“死の舞踏”を『ラルヴァ』に宣言し、スパルトイの剣を片手に古式ゆかしい剣捌きで斬り込んでいく。
だが、程なくして、神無の背筋を戦慄が走る。
「ここまで剣を修めても尚、当たるかどうかは五分を切っている? この連中、予想以上に速い!」
しかし、相手の動きが如何に速かろうが、攻撃のセンスはない。彼女の白い肌に傷ひとつ付きはしなかった。
抜刀術が出来る状況ならば勝率はもっと上がっただろうが、剣は抜刀術に向いている得物ではない。
とはいえ、鋭すぎる自分の剣の冴えが神無を、他のメンバーから孤立させる。
(元々技を研鑽する為に来たんです。素早い相手こそ求める敵。自殺志願ではないが、20は狩る気概で積極的に臨ませて貰いましょう──しかし、速すぎます!)
「無理の代価など任務を終えてから幾等でも支払います!」
コズエが無茶な闘争は避けて退いた所で、神無の闘争は続く。彼女に向かってコズエは叫ぶ──。
「数が多いのですからあまり気を張り続けても持ちませんよ。焦らず出来ることからやりましょう?」
そこで高ぶりすぎた神無の緊張の糸が切れる。関を切った様に逃げ出すラルヴァ。
「あのままでも勝てたのですけれど?」
「それはあなただから言える事よ。他の皆は弾切れで、撤退を考えている所ですよ」
冷静になって周囲を見渡すと、戦闘らしい戦闘になっているのは神無自身のみ。
後は打撃こそ受けていないものの、既に弾薬が底を尽きかけている面子であった。「仕方がない、ここは退きましょう」
ディンゴがジープを中心に集まった一同に宣言する。
このままでは勝てない、と。
神無の様な異才こそ、戦い抜ける事が適おうが、彼女を含めて獣人達は疲労が溜まり、夜の闇に紛れて活性化していくナイトウォーカーの前に、どんどんと形勢が悪化していくのに耐えきれないだろう。
「ましてや、計画通りのツーマンセルでの行動は命取りになります」
では、どうするべきだと、やーくんが尋ねる。
「撤退して、WEAに事を任せましょう。自分たちの戦術では打ち負かす事は不可能だったと、認める他はありません。確かに各務様の様な異才はいますし、わたくしも時間さえかければ、殲滅は適いましょうが、その時間こそが最も大事な要素となってしまったのです。ヒトは無限に戦い続ける事は出来ないのですから」
「MIDOH様か、既に大半のものが銃弾を撃ち尽くしている以上、緑川様の車で早期に街を離脱して、現状のありのままをWEAに報告するしか無いでしょう。我らの認識不足でした」
神無自身もディンゴと同じような軍師肌の者であったが、今回の敗因はそういった軍師肌の人間がこぞって前線に出て(しかも皮肉な事にふたりともが、肉弾戦での打撃力に優れた、前線で欠かせない主力メンバーなのだ)、幾人かが当たらない弾をばら蒔くだけに終始した事が切っ掛けとなっているのだ。
弾丸は格闘と比べて、一発ごとに確実に消耗する品ではあるが、体術を持ってしか回避は不可能であり、更にその初速を以て、更に回避が困難となっている。
それが空からの、普通はナイトウォーカーの頭では想定しえない所からの攻撃であったというのが、射撃の力量に優れたカナメやザジの勝因であった。
一方、やーくんは自衛隊員として訓練されていた割には射撃の力量が優れていない所へ、二丁拳銃という反動は大きい上、対多数相手に必須の弾倉交換を困難としたスタイルの為、戦果を上げられなかったのだ。
「せめて、この状態を予期して然るべきだった者の責として、わたくしは撤退の最終要員としてしんがりを務めましょう」
「それは私も同じ。ディンゴ、あなただけに咎めは負わせはしません。剣に淫したものとして、最後までこの街に残ります」
ディンゴの言葉に応じて、神無が宣言した。
そして、飛べる者は己の翼を以て、マリアは愛車を駆り、地を行く者はやーくんのジープに相乗りする形で撤退劇が始まった。
せめて、ディンゴの退却の決断が早かった事が救いで、日が暮れる前に、撤退は終わりそうな見込みである。
日が西に落ちた時、ディンゴと神無もやーくんの駆るジープで死街を後にしていた。
封鎖線を抜けた所で、WEAの要員から、やーくんに迷彩服が返され、一同は10人揃って無事を祝い合う。
「で、結局どうなるの?」
ザジが早速、関係者に尋ねるが、おそらくは今回の戦況を元に『ラルヴァ』の動きを上回るメンバーを緊急に集めて幾つかの場所に追い込んだ上で、街を無人化するために使ったガス漏れ事故の嘘を逆手にとって、ガス爆発を装って一気に殲滅することになるだろうとのこと。
街そのものに対する多少の被害はやむをえないと言うものだった。
コズエはその関係者からの説明を聞いて呟く。
「では、結局100匹ものナイトウォーカーが発生した原因は突き止める事が出来そうもないわね?」
無論、ここでおそらく翌朝に発動されるオペレーションを教えたという事は、事実を教える事で、流言飛語を流さないための、信頼されている故の情報封鎖なのだろう。
マリアはそんな事よりも己の愛車に施した改造を解除するのに忙しかった。対ナイトウォーカー戦とはいえ、大型二輪に仕込み傘の刀身と、タイヤの保護にクローナックルを取り付けたのだ。
今は昔の、毒に毒を以て制すべくヤンキー時代に培った刑法への知識があるとはいえ、EU圏でそれがどれだけ通用するかは不明である。
とはいえ、こんな改造がまかりとおるとは思いがたく、自分と仲間の命を賭け、いくつかの戦果を上げた愛車への改造も、ここで取っ払わざるを得なかった。
WEAの担当者から借り受けた分の発煙筒も回収され、最早、急を告げる用がないのだと、改めて思い知らされる。
あの街から避難した町民の未来が少々気がかりとはいえ、そこまではマリアの関与すべき領分ではなかった。
「成る程、これがWEAに任せた結果って奴か‥‥」
ぶじおかはアルミが誤射をしなかった事を一通りねぎらってやると、あてがわれた部屋に引っ込み、今回の事件を噛み締めていた。
「俺ァ、ナイトウォーカーに恨みも興味もなければ、同族の敵討ちなんて気は毛程も無い。依頼を受けた理由はひとつ。『破壊』のみだった。
獣の血、本能。血が乾く。俺の中のドス黒い獣が、破壊に飢えてる。牙が疼いて仕方が無ェ。
だが、結果はどうだ? たいした戦果も上がらずに弾切れ、代わりの面子を雇った上に街ごと爆破するだと! 俺達は用済みってわけか? ふざけやがって!」
獣とヒトの境が曖昧なまま夜は更けていった。
「ふむ、もう少し多く倒せるかと思っていましたが‥‥わたくしもまだまだですな」
戦場を離れ、近くにある出発地点の街にたどり着いたディンゴは、仲間と戦果を語り合い、自分が仕留めた『ラルヴァ』がノルマとされた1人10体におよばなかった事に少々落胆していた。
尤も、それでも10人の中では僅差の首位であり、2名は全く戦果無し――全員を合わせた戦果のトータルもまた当初確認されたNWの半数にも届かぬありさまだ。
「やはり、コアを潰す事を求めてはいけませんね。あれを潰すにはマグナムを持って連続して命中させるか、獣人の力をまとめてぶつける位の事はしないと。わたくしにはどちらも遠い道でございます」
そんな彼らの背後のテレビではガス爆発のニュース速報が流れていた。