悪は許さない『切る!』ヨーロッパ
種類 |
ショートEX
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
5Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
27万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/31〜09/02
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●本文
ギリシャの某山岳地帯にて、トレーニングも兼ねて山岳キャンプを張っていたレスラー親子が林の山菜摘みの際、ナイトウォーカーに襲われる事件が起きた。
2才ほどの幼児を黒い蟹の殻で覆い、左手の巨大なハサミの異形が襲いかかる、林の木立を立体的に運用した、身軽な攻撃と。実力派レスラーの本気の一打をも受け流す格闘センスに溢れたこぶし捌きでクリーンヒットは与えらなかった。
大ケガを負い、トランシーバーで救援を要請し、事情を聴取した現地警察は一笑に付したが、WEAの情報網は広い。その情報をナイトウォーカーだと断ずるのに時間はかからなかった。
収集した情報を分析した結果、トランシーバーを通じて情報生命体へと変異した可能性は皆無と言う。
早速、山への検問所を設けさせて、WEAが集めた精鋭が揃うまでの間、死守させる。 ナイトウォーカーのコードネームは『メランカルニコス(黒蟹)』とされた。
情報収集を遠方から行った時、メランカルニコスはまだ林の中にいた。しかし、いつ情報生命体へと変貌するか判らない。
WEAは精鋭が揃うのを心待ちにした。
──カット32スタート。
●リプレイ本文
ギリシャのキャンプ場にて九条・運(fa0378)曰く──。
「小型のNWが相手か‥‥OK
ヤツに再会する迄に場数の量と種類は多いに越した事は無いからな」
彼が言う『奴』とは日本で会い、苦汁をなめさせられた謎の相手の事であろうか?
「熱くなるな九条君。ふむ‥‥情報ではかなり高機動、重装甲だな。思わず『我が侭な美女』といいたくなる、白兵戦しか対応できないというのは助かるな」
緑川安則(fa1206)が、恋人の日向 美羽(fa1690)の隣で呟く。
ピントのぼけた口調でみはは。
「今回はなかなか強敵のようですね。
でも、私と緑川さんの愛のパワーがあれば‥‥なんて楽にはいきませんよねぇ。
とりあえず、まずは戦う前に下準備ですね」
言っている内にみはは、メガネを取り、きりりとした凜たる口調へと変わっていく。
「我が拳、どこまで通じるか‥‥見極めるには良き敵、ですな」
ディンゴ・ドラッヘン(fa1886)は前回のナイトーウォーカー100匹撃破ミッションでの作戦ミスを戒めとし、作戦に不備がないか再確認。
(敵を林の中から開けた場所に誘き出し、包囲、殲滅する‥‥。不備はないように思えますが、果たして‥‥敵が都合良く動いてくれるでしょうか?)
みはは鋭い口調で、ディンゴに対し──。
「あなたがそんな調子で作戦立案していましたから──ナイトウォーカーを自分の力量を計る秤程度にしか思っていないから、作戦が上手く行かなかったのでは?」
「それ以上言うな、美羽。現場に居て何も出来なかったという事では責められる対象はディンゴだけではなくなる」
ディンゴをフォローするやーくん。
運も頷きながら──。
「確か前回も敵がこっちの誘導に乗ってくれる事が前提で作戦を立てていたような──その前提が崩れて作戦自体が崩壊‥‥」
「‥‥」
ディンゴは沈黙する。
そこへ七枷・伏姫(fa2830)が本当に見えているのかどうか、怪しいほどの糸目で現れる。
「いやいや、皆様方お待たせしたでござる。拙者、件のレスラーの親子が様子をば聞きにまいったのでござるが、聞いて何とすると、WEAの者から言われまして、面会を断られたでござるよ。聞くべき情報は既に聞き、何故『縁も由緒もない、芸能人』が唐突に逢いに来たのか──獣人でない芸能人が相手となると、ままならぬ。芸能界という煌びやかな世界に隠れて生きるは獣人の性とはいえ、それも中々不自由でござるよ」
「あっそ。まあ、いいや」
ロリポップを咥えながら早切 氷(fa3126)が伏姫の言葉に適当に相づちを打つ。
「あ〜‥‥面倒な役目が回ってきちまったねぇ。まあいいや、せいぜい頑張りますか」
コーリの言葉に対し、各務 神無(fa3392)は煙草を口元から離すと、意見する。
「最終的に選んだのは自分。ここにいるのはあなた自身の意志では?
ともあれ、かのナイトウォーカー、メランカルニコス‥‥確かギリシャ語だったか。
‥‥然し、黒い蟹とは良く言った物だな──」
そこまでコーリに言ったところで、確認の矛先をディンゴに神無は変えた。
「──ディンゴ、あなたの作戦は確か、素早い者で機動を削ぎ、力のある者で捉え討つ‥‥だったか?
誤っていたら臨機応変に対処しよう。
何にせよ、討つ為には全力を注ぐよ」
血の色で赤い目の視線を、黒蟹のいる木々に注ぐ神無。
「まずはここまで誘導しないとね」
その言葉に頷く運。
「さあ、行くぜコーリ」
「ああ、もうそんな頃合い? 昼寝から起こされた所で、気持ちよく二度寝を楽しもうと──判った仕事の内」
運は鱗がショルダープロテクター状になった黄金の竜鱗に身を装うと、心身ともに高揚していく。
一方、コーリはパラディオンを発動させ、一同が予め張った落とし穴の位置を、マーキングした赤い布で確認すると、鈍く映る白い虎人の毛並みに心身を武装する。
「実はオレ、カニってあんまし好きじゃないんだよね。‥‥殻から身をほじり出して食べるのが面倒で‥‥」
「何グダグダ言ってるんだ? ナイトウォーカーの前にお前を焼き虎にして食い殺すぞ、オラァ」
運が激情をストレートに言葉にする。
「判った判った──行こう、十条君と赤川君」
「九条だっていうのが判らないのか?」
「そうだな、緑川だぞ。しかし、罠はあまり頼れんが‥‥美羽のほうが力強いとは言え、彼女守れずして何が陸自の誇りか」
やーくんが自衛隊を除隊後に落ちたという事にしている、自分本来の戦闘能力を悔やみながらもトラップ設置を確認する。
竜人の姿を露出しつつ、やーくんもナイトウォーカーの誘き出しにかかる。
「美羽──ちょっと行ってくる」
「お伴致しましょう。ドーピングは不本意ですが、こんな時でないと使う機会なさそうですな」
結局、運とやーくんが如何に俊敏な翼を持っていようが、地上のコーリとディンゴの足並みにペースを揃えて移動せねばならず、ナイトウォーカーと接触するのに時間を要してしまった。
「虎の威厳に賭けて、カニなんぞに林の中で遅れを取るわけにはいかなっ‥‥あ、ごめんやっぱムリ」
コーリは頭上のふたりに片手拝みする。
時間がかかった更にシンプルな理由として、囮が行けば、漠然とナイトウォーカーの方から誘き出されて来るであろう、という見通しの元の行動であったというのが挙げられる。つまり、どうやってナイトウォーカーを発見するのか、という根本的な問題を誰も、考えていなかったのである。
頭上を行くふたりにコーリとディンゴは──。
「そーいやナイトウォーカーが実体化した時って、あんまし媒体の元から大きく変化はしないらしいけど、でっかいハサミってのはこのナイトウォーカーの特徴なんかね? ってーと今回はだいぶ成長してるナイトウォーカーってことか‥‥? ちょっとそのあたりWEAに聞いてみたいかも」
「そうだな、珍しいサンプルかもな? だからといって持ち帰って検査するわけにはいかないというのもナイトウォーカーの研究が立ち後れている理由なんだよな」
やーくんが頭上から応える。
そこへ森の木々の狭間をバネの様に弾けながら、跳躍する影。
運の鋭い視力がいち早く、その姿を捕らえる。
──黒蟹だ。
「来たか」
「任せたぞコーリ、ターゲットだ」
「ディンゴ・ドラッヘン、推して参る‥‥」
「へ、囮じゃないの?」
コーリが唖然とするなか、ディンゴはまずは様子見の拳打。次に間合いを見計らいつつ回避に入りつつも、黒蟹が足場にした瞬間の木に拳による本気の一撃を食らわせ、敵のバランスを崩させる事を試みた。
(我が拳は木を砕く事が出来るかどうか、試させていただく!)
と思いを込めつつ拳を打ち込んだ。
しかし、木は揺れるものの、砕く様子はない。無理なようである。
その揺れにも負けない黒蟹の動きを見てディンゴは一言、
「その動き、格闘のセンス‥‥ナイトウォーカーでなければ──真っ当な場で仕合いたかった。‥‥惜しい事ですな」
などと呑気にしている内に黒蟹のターゲットは変わる。コーリである。
頭上を縦横無尽に駆け抜ける影にコーリは翻弄されつつも、見事なフットワークで一撃も与えない。
しかし、後ろに回り込まれる様な状況に陥れば、この均衡状況も崩れるだろう。つまり、前向きを維持しながら後退するという難事にコーリは挑まねばならない。
「フォロー頼む、八条君、青川君、ドンゴ君」
「それは危険」
叫ぶディンゴ。
しかし、一発食らうのを覚悟で膠着状態を打破すべく、薬を一気に飲むコーリ。
その動きが止まった隙を狙って、黒蟹のハサミがコーリの動きを封じた。
如何に俊敏な脚を持っていようとも、それが大地に付いていなければ意味を成さない。 コーリの毛皮が赤く滲む血で染まっていく。
「しまった」
運とやーくんとディンゴが異口同音になるが、ふたりが空中というアドバンテージを捨てなければ、この死神の盾は破れそうにない。
破山剣も、ポセイドンの戟も、樹間では大振りすぎて、竜の翼を広げながら、更に子供ほどの大きさもない黒蟹をコーリに当てずに倒すには不向き極まる。
「むむむむ」
ディンゴも拳の一撃を浴びせようと近寄るが、隙がない。
「まあ、いいや」
コーリは苦痛の表情ひとつ浮かべずに3人に告げた。
「俺の両親も兄、姉もナイトウォーカーの手にかかったんだ。こうして死ねばみんなの所にいけるかなって‥‥」
「この莫迦野郎!!」
竜人ならではのパワフルに腹の底を振るわせる大音量──鬼軍曹のそれを思わせる声であった──を放つやーくん。
「お前の愛する奴がお前が間抜け面して死んじまうのを待っているか! 愛する者の為に生き恥晒すのが漢ってもんだろうがっ!!」
やーくんのシャウトの連発に黒蟹が戸惑った隙を突いて、運がコーリの毛皮が裂けるのも構わず強引に引き摺り出す。
火の息を溜めて打ち出すだけの隙は流石に運も期待していなかった。この脱出劇は完全なアドリブである。
「この借りは高くつくぜ」
「まあ、いいや‥‥領収書は後で書かせてくれ。宛名は上様で良いか?」
逃げ出す4人。
しかし、コーリを抱えた運の動きは鈍い。
下に落とすことを狙うが、行動力が半減した体勢では黒蟹の攻撃を受けきれず、さくりさくりと竜鱗を突き破られ、ハサミが突き立つ。そのまま挟み込まれ、運の動きも更に半減した。
その一連の動きはやーくんの見るところ、コーリを抱えていない、というアドバンテージが在って尚、自分がどうこうできる相手ではないと知る。
自分の爪に毒を生成し、傷から染みこませたそれにより麻痺を試みるが、相手の抵抗率も高いのか、やれるだけ何度も試みるが、全て耐えきられる。
明らかにやーくんでは、力不足であった。
「ええい、参謀が前線に出てなんとする。作戦の指揮を取る者がいないではないか。何度同じ過ちを繰り返せば‥‥」
「何としてもキャンプまで辿り着けよ!」
行って皆とこの状況の展開を説明しなければ、との想いだけを頼りに運に後事を託して、林を一直線に上に抜け、翼を広げるやーくんとディンゴ。
「くそ、何が陸自の誇りと意地だ。鈍った身体で美羽を守れるのか。愛する女を守るためには力を取り戻さねばならんのだ!!」
幾ら言っても、これが真性のやーくんの実力である──秘められた力などない。
ディンゴも大地を駆け抜けていく。
「緑川さん! ディンゴさん」
黒毛の額に十字斑のみはが林を抜けたやーくんとディンゴの姿を見て叫んだ。
「後から九条様と、早切様がナイトウォーカーを連れて来られます。皆様を集めてください」
伏姫と神無が集められるが、緊張した時間が続く。
純白の毛並みに血の様に赤い──まあ、白子ならば普通はそうであろうが──目の神無が居合いの構えを崩さずに、みはが大声を上げて、運を誘導する緊張に挑む。しかし、愛飲している煙草を吸うわけにも行かず、同じく居合いの構えを取る伏姫に声をかける。
「‥‥私の業をただの奇襲技、大道芸と甘く取ってくれるなよ。源流林崎の流れを汲まぬ既に名も絶えた旧き業だか、林崎の業に決して劣る物では無いと自負している。
動きが機敏と言うのなら我が足で、我が業でその身を捉えて見せよう。
俊敏脚足なら、軽業に秀でた者の回避力は得られずとも、機動力に於いては引けを取る物では無いからね。
吶喊と業の冴えで斬り断つ‥‥私の持てる力全てを駆使して戦おう。
‥‥尤も、私よりもメランカルニコスの技術が高いのであれば徒労に終わってしまうのだけどね。
だが、それでも。それが私の唯一と言うのなら。
例え一太刀しか浴びせられなかったとしても、その一太刀を最高の一撃として見せる。
必ず討ち滅ぼすと言う意志と、力が劣ろうとも決して屈さない覚悟はあるものでね。
‥‥私は負けず嫌いなんだよ」
「長口舌でござるな。拙者の流派には始祖自慢などござらん。各務殿の負けず嫌いなのは舌の長さのようでござらんか?」
伏姫が相変わらず閉じているように見える糸目のまま言葉を返す。
「単純に言うと、煙草が無くて口寂しいだけ。
まぁ、それでも業に溺れる様な真似はしないよ。
仲間との連携を優先しなければ、この強敵は倒せそうに無いからね。しかし、落とし穴ばかり掘っても空を飛べる者だけが戦う訳ではないと考えてくれなかったのかね?」
「同感でござる」
伏姫と神無はディンゴからの臨機応変な作戦変更。突入要員をも巻き込む、落とし穴地域に運を降ろさずに、キャンプ場の中心部分で戦線を展開する方向に戦いの枢軸をずらす案を直後に聞いた。
ふたりの女傑は改めてポジション取りをし、黒蟹の攻撃をみはが身体を張って受け止めるという案は只単に人質が増えるだけで、彼女たちの刃の妨げになる事もあり、マイナス面ばかりがある上、傷を負っていなくても力が及ばない、やーくんが身体を張ってみはへの攻撃を止めに行き、更に戦闘を混乱させかねない──愛で全てが片付くならば、対ナイトウォーカー戦は、カップルや血縁者だけで編成されるであろう──という事で、見送られた。
後は運が飛んでくるのを待つだけである。
黄金の竜人と、白の虎人の姿が、流れゆく血の如き夕映えをバックに発見された。
そして、運にしがみついている、黒蟹の姿に一同の戦意は高揚する。
予め、告げられた新たな戦場に、運は降り立つ。
空中から掠うように、やーくんが傷ついたコーリを連れ去る。
その瞬間から戦いは始まっていた。
運は自らの内なる炎を集中させて、魔力を以てそれを束ねんとし。
ようやく自分の危地に気がついた黒蟹が一瞬の惑いを見せたとき、鯉口を切る音が聞こえた。
「砕!!」
ディンゴが剽悍に飛びかかる。白銀の鱗が夕陽に照り映えった。
ハサミがその一撃を受け止める。
だが、その0.1秒があれば伏姫には十分であった。
黒蟹と一気に間合いを詰めて居合いを放つ。
狙いは敵の攻撃を封じる為に左腕の間接部。黒蟹のはさみの切断を試みる。無銘の日本刀では力不足であった。それを悟って伏姫は即座に後退して距離を取り直す。
そこへ最高の一撃へと己の業を昇華せんとする神無の滑り込むような斬撃が入り込む。
しかし、その一撃とて、ハサミに受け流され、有効打は与えられない。
「我が全身全霊破れたり!!」
神無が自分の業の敗北を宣言する。
ちょうど、陽が落ちた瞬間。
運の火力が最大に高まり、その炎は黒蟹を舐め尽くす。
踊るように身もだえする黒蟹。しかし、やーくんの数度に渡る麻痺毒を耐えきったその抵抗力は必殺の一撃をも拒む。
「F×××! この一撃で灰にならないとは!! しかぁーし」
空中に一瞬跳躍し、翼を使用し一気に間合いを詰め地に降り立ち一撃に懸けた剣を見舞う。
渾身の踏み込みに拠って生じた体重移動の力を爪先、足首、膝、股関節、腰、肩、腕の順に体内で螺旋を描く様な感覚で伝達しようとし、更に全身の筋力を最大出力で発し追従させようと試み、それら全てを余す事無く剣に乗せようとして、一撃必殺の意を籠めて撃ち出す剣技を以て相対せんとする。
「これぞ『戴天神剣』が真剣の初『臥龍爪牙!』」
しかし、捨て身の剣技のもろさ。後が続かない。
胸部を斬り下げたものの、一撃必殺とはならない。
逆に残心無き隙を突かれ、身体が黒蟹のハサミに再び囚われる。
しかし、そこへ側面から──。
「‥‥」
無言で伏姫が、刀を抜いて上半身を捻り突きの構えをとる。そして真紅の目を見開くと同時に一気に突進。間合いに入ると同時に上半身の捻りによる回転力と俊敏脚足によって強化された脚力による突進力をのせた渾身の突きをコアに放とうとする。
とはいえ、あまりにも無理な体勢からのピンポイント狙いは見事に外れた。
運に逸れた刃が行かなかったのは彼女の意地であろうか?
そこへディンゴが味方の連打の最後に渾身の一打を中段に食らわせる。
命中したはいいものの、絶命させるには明らかにパワー不足であった。止めとして外殻を力任せに剥こうとするが、それだけの破壊力はなく。連続して手刀でNWのコアを抉り出して砕く事など夢のまた夢であった。
尚、コアはマグナムの直撃でも一発では破壊不能である。
「輪廻転生あらば、来世は獣人の身で生まれて来られよ。その時は存分に仕合いましょうぞ──まだ生きている!?」
美味しい所を独り占めするには力不足であった。
結局、黒蟹の動きを封じたところをタコ殴りにして、殲滅するというドラマチックな展開や、劇的といった要素の欠片も無い形で戦いの幕は引かれた。
乱戦であった為、誰が止めを刺したかは不分明である。誰に聞いても止めを刺したのは自分ではない、という返答が戻ってくるだろうが。
そして、WEAの一角獣の獣人による怪我の治療と、戦いの後始末が終わった明け方──。
「美羽おつかれさん、とりあえずホテルで疲れを癒すか?」
やーくんはそういって美羽を車へとお姫様抱っこで運んでいった。
美羽はナイトウォーカーもオーパーツも無い今、いつもボーっとした雰囲気を取り戻している。
やーくんのお姫様だっこは獣人の内だから出来る事であって、人の姿に戻れば無理そうな芸当であろう。
ふたりはギリシャでの愛の巣へと戻っていった。
ひとり、またひとりと黒蟹との戦いの跡を背後に去っていく一方、戦場跡に立ちつくしたディンゴはひとり──。
「我が武、我が拳、未だ極まらず。世の何と広き事‥‥。だが、それ故に強くなるに飽く事は無し‥‥」
と呟きながら、立ちつくすのみ。
暁は只銀色であった──。