恐怖ツンデレ女!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
フリー
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
10.4万円
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参加人数 |
13人
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サポート |
0人
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期間 |
10/07〜10/11
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●本文
台湾某所。
「な、なんですか? このタイトルは?」
脚本家が書物の山の中から引き摺り出したCDをその場でノートパソコンで解凍し出す担当。
一応、テレビ番組の撮影だが、肝心のシナリオコンセプトを監督が脚本家に一任した為、内容は担当にはまるで判らない。まあ、予算という単語の意味する事くらい考えているのだろう──きっと。
ともあれ、深夜の時間埋め番組だとしても、脚本家にはそれなりの矜持を持っていて欲しいものである。
で、CDから出てきた文章は──。
『恐怖ツンデレ女!』
『怪奇ツンデレ女!』
『戦慄ツンデレ少年!』
『驚愕ツンデレ女!』
とだけあった。無論シナリオの内容はない。
「きっとこのタイトルにインスピレーションを受けた面々が若い力でどうにかしてくれるよ! ほら、ツンデレって奴って日本じゃ受けるんでしょ?」
「つまり‥‥落としたのですね?」
「落としたのじゃない、未来に種子を託したのだ!」
開き直る脚本家であったが、このCDの内容からすると──‥‥まあ、そういう事なのだろう。
「タイトルだけ頂いて、ブリーフィングで内容を決定します! もう、時間がないのですよ」
担当は監督の下に泣きながら連絡を入れた。
若い衆を集めろ。
担当に与えられた指示はそれだけであった。
「とにかくツンデレの意味が判る人間を集めて突貫作業だ」
●リプレイ本文
巻 長治(fa2021)曰く──。
「全く、いいかげんな脚本家もいたものですね」
そもそもタイトルだけ列挙しておいて逃亡するのは自分と同じ、脚本家とも思いたくないマキさんであった。
そんな彼を、和服姿の那由他(fa4832)は、そっと緑茶を出しつつ──。
「お疲れ様ね、やっぱり仕事は若い人が早いわね」
と、配役に合わせた衣装の準備、撮影機材の手配やその運搬、撮影現場の確保、ガヤやエキストラの召集などなど、他の裏方と協力し、ひとつ、ひとつ遣り残しが無いようにスケジュール表にチェックを入れ始めた。
「はい裏方招集よ」
呼ばれてきた癸 なるみ(fa4068)はヒロインもこなすつもりだったが、さすがに主役の月鎮 律人(fa0254)と外見年齢10以上も離れていて無理が有りすぎ、更に撮影後に音響関係もやればいい、というのは甘すぎる見通しだったようだ。
ナユの見せた進行表がそれを事実として雄弁に物語る。
何をすればいいのか判らないでいたブリジット(fa3508)も、尻を叩かれる形で、スケジュール表に沿って動き始めた。
どてらを羽織った礼花(fa3043)も、エキストラで出られればいいや、などという甘い願望を捨てて、この短い時間で、如何に効率よく話を動かすかに集中するのであった。
どろどろと溶けていく──自分と世界の境界が曖昧になり、消えて失せる感覚。そして遠くから呼ぶ声。
三十路にして大学生の『星野遼一』の朝はこうして明けようとしていた。
「──お‥‥ん‥‥‥‥おじさん」
神威 桃華(fa3659)演じる姪が登下校を一緒にしようと、遼一を起こした。
なお、ももかの意向では、遼一の妹役であり、ゴシックロリータの衣装を希望していたが、それが何の意義があるのか、脚本のチェック段階で、マキさんがスポンサーから尋ねられたが、20近く歳の離れた兄妹という設定と、ゴスロリの衣装という事に関して、30分の番組の中で、説明するに値する設定かどうかという意味合いをマキさんが見いだせなかった為。マキさんの鉄則、スポンサーの声は神の声。現場の不満は単なる雑音という事に従って、伯父姪の関係と、ももかの格好は普通の女子小学生の格好というラインに脚本が修正されたのであった。
もっとも、スポンサーサイドも、ももかが実は男であるという所まで気づきはしなかったようであるが。
「すまない、寝過ごしましたね」
「なにか──いる」
「心配かけてごめんね」
「じゃなくって」
「早くしないと学校に遅れるから──」
遼一が急ぎ身仕度を整えると、朝食もそこそこにふたりは学校へと飛び出していく。
幼稚園から大学まで一環の学園のため、ふたりの進む道は概ね一緒だ。
「そこの!」
弥栄三十朗(fa1323)演ずるところの、高僧『覚真』が重々しく声を投げかける。
「すみません、宗教はちょっと‥‥」
ふたりはその場で足踏みしながら、謎の僧侶の言葉に対応する、律儀なモノだ。
「おぬし、女難の相が出て居るぞ! 危ういかな、危ういかな」
「はあ、そうですか。いそいでますので。行きますよ」
ふたりは歩調を合わせその場を離れると、覚真は深く息を吐き。
「未だ自覚なき様子。これで事が収まると良いのであるが──危ういかな、危ういかな」
覚真はふたりが飛び乗ったバスを見送るのであった。
大学の美術棟に滑り込んだ遼一は朝イチの孔雀石(fa3470)演ずるところの、美人講師、孔雀美鈴の講義にギリギリで間に合った。
「は〜い、出席取りますよ〜」
人気講義だけあって、ゼミ生以外の学生も集まっており、ほぼ満席状態である。
そこへ──。
「他に空いている席がなかったからココにしたんだからね!」
遼一の隣の席に滑り込み、突然、強気な口調で言い放つ理緒(fa4157)扮するところの『秋月理緒』であった。
(ヤバイ‥‥かなり好みから外れてる‥‥)
「僕の顔に何かついてますか?」
(やっぱりコイツいけてないです〜、オタクだよ〜。メグミの奴、自分の相手じゃないから無責任に‥‥)
「何でもないわよ!」
キッと横を向く理緒。そのこめかみに美鈴の投げチョークがヒット。
「だ、大丈夫!?」
「な、なによ? こんなの平気です!」
のんびりした美鈴の注意の声。
「は〜い、そこ。うるさいですよ。じゃ、出席を取ります、ヴァレス‥‥」
「遅れました!」
と天井からぶら下がりながら、死堕天(fa0365)演ずるところの『ヴァレス・デュノフガリオ』が颯爽と登場する。周囲の女生徒からあがる黄色い声。
「はい、遅刻ですね」
「はっはっは、しゃあないか。で、遼一〜? 俺のいない間に彼女作ったんだ? さすがゼミ最年長は伊達じゃない──ってか?」
「だ、誰が彼女ですって!? こんなのとはたまたま隣になっただけです」
ヴァレスの誤解に、理緒はキッとなる。
更にチョークが着弾。
「大丈夫?」
遼一が尋ねると、理緒は畳みかけるように──。
「しゃっきりしなさい!」
「いやー、今日は夢見が悪くって──って、相談しても仕方ないですね」
「当たり前でしょ」
そして、講義は無事終了し、理緒はどこへともなく、姿をくらました。
理緒が戻ってきた『墓場』では墓石に跨り、化粧を直している『メグミ』(宝野鈴生(fa3579))が佇んでいた。
そう──理緒もメグミは悪霊だったのだ。
「メグミ、オタクなんてやる気にならないです」
「割り切って憑きなさいよぉ。生きてる男なんてどれも可愛いもんよ、犬と変わらないって」
「まあ、呪っちゃうんだし関係ないですけど」
「そうそう、その意気。アタシみたいにイケメンを次々と呪うのも楽しいわよ。まあ、あんたみたいなイカモノ食いとは違うけど。ちなみに今晩、大学の天文部で天体観測やるの知ってる? インターネットカフェで知ったんだけど」
「そこで?」
「うん、そこで。断固憑依敢行! アタシの相手はみんなイケメンだからモテるんだけど、アタシが彼の首にまとわりついてガラスとかに映ってあげると、イケメンのオンナみーんな3日もたないのよぉ」
と可愛く笑うようなメグミ。
「奇跡はおきます! 起こしてみせます!」
と、異様にポジティブになった理緒を見てメグミはコンパクトに視線を戻すのであった。
そして、遼一が待ち合わせた姪と家に戻ろうとすると、羅刹王修羅(fa0625)演ずるところの『雅』が巫女服姿で現れた。いや、実際に神社の巫女だから、異常ではないのだが。
「こんにちは‥‥おや、憑かれてるみたいじゃなぁ?」
「またですか? ええ、僕は宗教には興味がないです、いくよ」
割り込む声ひとつ。
「待たれよ‥‥陰の気が強まって居るな。これはただならぬモノがかの者に憑こうとして居るのか?
危ういかな、危ういかな」
墨染めに編み笠の覚真が滑るような足取りで遼一達に接近するが、それを振り切ってバスに乗る遼一達。
その背後で──。
「あなたは日本で五本の指に入る悪霊払いの高僧──覚真殿とお見受けするのじゃが」
「そのような大層なものではない。拙僧は単なるお人好しでござる」
「やはり、あの者に何かが取り憑こうとしているのじゃろうか?」
黙って頷く覚真。
「──やはり」
雅は黙ってバスを見送った。
その日が夕暮れから俄に曇りだした。
遼一はそれでも天文部の天体観測の道具を携えて、街外れの丘の天辺で仲間が来るのを待っていた。
そして夜半から雨が降り出した。
「みんな──こないのかな?」
遼一が呟く中。足音が近づいてくる。
「あれ、君は今朝の?」
理緒が黙って傘をさしかける。
「べ、別に今朝の事を悪いとか、そう思っているんじゃないんです──単に大事な天文道具を雨晒しにする莫迦がいたら、笑ってやろうと思っているだけですから──」
「莫迦か‥‥そうかも。ええと、なんて呼べば良いんだろう? あ、僕は星野遼一。君は?」
「秋月理緒──」
「秋月さんでいいですね?」
「好きにしてください。大体、何でこんな雨の中、待っているんです。誰も来やしないでしょう?」
「待っているのは人間だけじゃありませんよ」
「え──?」
「星達です。曇った空もその向こうで輝いている星達が待っています。明るくなった都会では目には映らないかもしれないけど、本当は僕らの上で沢山輝いているんですよ。忘れちゃいけないと思うんです。誰かが見てくれていた方が、星もきっと寂しくないから」
「そうですね──きっと、そう」
そこまで言ったところで雨が上がった。雲がかき消えた空には満天の秋の星座。
「ほら、星達も待っていてくれた」
理緒は微笑んだ。
そこへ巫女姿の雅が傘を片手に現れ──。
「悪霊殿、そこの方から離れてはくれんか? 今ならまだ色々と間に合うと思うんじゃがな?」
「え、悪霊って? そんなものがいるわけ‥‥」
朗々と覚真の真言が響き渡り、理緒は苦しみ出す。
真言が止むと、覚真が──。
「おぬしはたちの悪い悪霊に取り憑かれて居るようじゃ。その悪霊をこのまま放置しておけば、おぬしのみ為らず周りの者にも悪しき影響を及ぼしかねぬ。此処は拙僧を信じ、ご協力頂きたい」
「悪霊だなんて、そんな‥‥でも」
「お願い、遼一になにもしないから、離さないで!」
「妾の知っている悪霊は皆そう言うのじゃ。吉事は急いだ方が良い!」
雅が強引に推すと遼一も決断せざるを得なかった。その言葉を受けて、雅が叫ぶ!
「悪霊退散!」
彼女の放った榊の枝が理緒の四方をぐるりと囲むと、理緒は苦しみ出す。
玉串を取り出し、振りかざす雅。
一方、覚真も手にした錫杖で空中に種字を描くと、理緒の姿が薄れていく。
「宗教は違えども、妾も一応巫女なのでな‥‥ご協力させていただくよ」
「や‥‥やっぱり駄目です〜!! 秋月さんは、秋月さんは‥‥っ!」
遼一はふたりを突き飛ばし、榊を全力で引き抜く。
「遼一!」
「僕の‥‥友達だから!」
そこで抱きつこうとしたものの脱力し、顔面から倒れ込む理緒。
雅は泥を気にしながら──。
「‥‥失敗‥‥みたいじゃな。でもまぁ、星野殿が選んだ道じゃ‥‥責任持って進むんじゃぞ?」
覚真は立ち上がり。
「事ここに至っては、もはや拙僧の力の及ぶところではない。好きに為されよ。
ただ、周りの者に迷惑を掛けぬような」
「はいっ!」
遼一の腕に自らのそれを絡める理緒。
星々が離れ行く人々を見守っていた。
なるみは撮影を、裏方作業と平行しながら見守っていたが、途中でシーンが完成する度に、そのシーン毎に相応しい音楽を考える(もちろん監督の意向はあったが)ので、音響に携わる者として中途半端な作業に成らずにすんだと胸をなで下ろした。
「全カット撮影終了。音入れ頼むよ!」
「はい!」
ナユのスケジュール帳は見事に埋まっていた。
無論、星々が輝くシーンなどは悪天候の為、思うように取れなかったが、アリ物の画像でどうにかなった。快晴以外の画像はどうにでもなるとは言ったものである。
「ところで監督? この10月24日から人集めの衝撃ツンデレ女! って何」
「まだ、脚本上がってないけど、きっとどうにかなるさ‥‥」
それを聞いて修羅は──。
「恐怖〜以外のは見てみたいな」
と、漏らしたのは内緒である。いや、芸能人だから『見る』ではなく『演る』と言って欲しいものだが。
ともあれ、タイトルだけの作品はこうして完成したのであった。