WarCry2−3アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 成瀬丈二
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 23.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/21〜01/04

●本文

「ねえ、ダド? リハーサル、中途半端な所で終わったけど?」
 愛用のタワーパソコンのディスプレイに向かっている父ファーナス・王に、息子であるところのリューキ・王がもたれかかる。
 まだ、服装は劇中で猪狩りを行った状況のまま、血糊もべっとりとついている。
 それを意に介せず、ファーンは──。
「なあに、あれくらいやった方が役者魂が燃えるってもんだろう」
 ?はつけずに言い切る所がファーン・クォリティ。
「本番だ。今度はクリスマスも挟んでいるから、それも兼ねて、盛大にやるぞ」
「何、パーティー?」
 違うと、リューキの言葉を打ち消してファーンは述べた。
「もちろん、半分インチキじみたアクションシーンをだ。どうせ、今回は人間形態だから、ワイヤーアクションもやりたい放題」
「合成もすごいもんね」
「ああ、コンピュータが発達した時代に生まれてきて良かったと心から思うぞ」
 という事で、また一本の名作? が出来上がろうとしている。
──カット47スタート。

●今回の参加者

 fa0225 烈飛龍(38歳・♂・虎)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa4558 ランディ・ランドルフ(33歳・♀・豹)
 fa4768 新井久万莉(25歳・♀・アライグマ)
 fa4773 スラッジ(22歳・♂・蛇)
 fa5193 ツァーリ(38歳・♂・虎)

●リプレイ本文

──自分が鍵だから親切にしてくれているのか、それとも‥‥。
 ラル‥‥燐 ブラックフェンリル(fa1163)演ずるところの謎めいた銀髪に褐色の肌というエキゾチックな外見の少女の心はパッフィンランド──若長ハロルドの治める地にても、熔ける事無く、凍てついたままであった。 そんな顔しないで──と村娘がほほえみかける。
 風向きが変わったのか濃厚な血の匂いが漂う。そちらの方に視線をやるラル。
 臓腑を抜いた猪の身体を抱えて持ってくるバルガス(烈飛龍(fa0225))と、臓腑を抜くのに失敗したのか、血塗れになって戻ってきたハロルド(リューキ・王(fz1001))であった。
 その血塗れの姿に追憶がフラッシュバックするラル。目眩を感じて倒れそうになるラル。
 そこへ、明るく呼びかける声。
「父ちゃん、凄いね!」
「お帰りなさい、あなた」
 バルガスの息子と妻である。
 息子はバルガスの腰程度の背丈しかない。
「なーに、全部若長がやったのさ、俺は持って帰ってきただけ」
 もちろん、嘘である。
「さすが、若長だな──」
 と、血の匂いを嗅ぎつけた、異国情緒溢れるアクセル(九条・運(fa0378))が現れる。
 同じく旅商人の相方、ルシア(新井久万莉(fa4768))がバルガスの奥方に向かって──。
「さて、奥さん、良い交換品が手に入ったわね。どう、バルガス、奥さんに贈る金の腕輪なんかどう?」
「どうしようかしらね? あなた」
「さて、若長の裁断を待とう」
「腕輪をふたつもらおう。ひとつはバルガスの奥方に、ひとつはラルに」
 ハロルドの声に、ルシアは──。
「ま、大まけにして、手を打つとするわね」
 と、手を伸ばす。
「おいおい、赤字だぞ?」
 とルシアの言葉にアクセルは舌を打つ。
「世の中には先行投資って言葉もあるのよ」
 続けて打ち鳴らされる鐘の音。
「里に何が!? 行くぞ、バルガス!」

 ファゾルトはロングシップの上で部下の前で『長の許しが出た! 徹底的に、徹底的にやってるぞ!』と雄叫びを揚げる狂戦士ファゾルト(モヒカン(fa2944))の声に──
「今日は俺も仕掛けるぜ義兄弟!!」
 ツァーリ(fa5193)演ずるところのイワンが、その間隙を縫って叫ぶスラッジ(fa4773)が演ずるところの、ウルベルトを冷たく見下すのであった。
(──ガキに負けるような奴が大口を‥‥)
 そして、投げ込まれた油の壺が割れる音、それから漏れだした匂いの判別をするまでもなく、松明が放り込まれ、赤々と燃え上がる。狂戦士ファゾルトの鼻歌交じりの破壊の進撃である。
 飛びかかる戦士達を豪腕一閃なぎ倒すスレッジハンマーの強撃! 骨が砕け、手足がへし曲がる!
「ファゾルトだな!」
 と、バルガスが声を荒げて、自分に注視させる。
「『赤毛』の‥‥──スルトの加護にかけて、お前を焼き尽くしてくれる」
 スレッジハンマーとスパイクシールドを構え直し、山嵐の様に、巨体を戦闘体勢へと移行させるファゾルト。
 双頭のバトルアックスを構え直すバルガス。
「テュールの加護に賭け、貴様を倒す!」
 激しく打ち鳴らされる鋼と鋼!
「皆が──皆を助けないと! 早く人を集めないと」
「若長! ここで留まっていては殺された幾多の魂になんて言い訳するお積りですか、若長!
 苦しくとも、ここは一族の長として毅然としてお立ちください。
 そして、長として、誓いを。
 仇は必ず討つ、と」
「判っている──だけど、怒りでボクがどうにかなりそうなんだ」
「貰った!」
 異国からの刺客、イワンがその間隙を縫って、ホイップで打ち据える。
 咄嗟に鞘ごと、剣で受け止めると、絡みついた鞭は鞘をまるで自意識のある者であるかのように、蛇が巻き付いたような刃紋剣の刀身を露わにしていく。
「ちぃっ!」
 ロングシップに逃げ込み、ハロルドが刀身を振り下ろそうとした瞬間、防水布に隠れて船底に隠れていた、ウルベルトが槍を突き上げ、ハロルドの隣にいた戦士ひとりの臓腑を抉り出す。
「ち、しくじったか、会いたかったぞハロルド。さあ、ヘルの住む地へ案内しよう」
 尚、戦死した者の魂の行き先がヴァルハラか、フレイアの御許であり。ヘルが司るのは一般人の魂の行き着く先『ニーヴルハイム(霧の国)』である。
「ファゾルトの奴はてめーの尻と命の両方に興味があるようだが、俺は違う‥‥てめーの様な糞ガキに良いようにされて、ファゾルトからも見下され、エイリーク様からは戦士として扱って貰えない。この俺の怒りを収められるのはハロルド──てめーの血だけだ。
「言いたいことはそれだけか?」
「あ、お前耳が悪いのか!」
 絡みついた内蔵から槍を引き抜く間も与えず、ハロルドは横なぎにウルベルトを薙ぎ払う。
「ば、莫迦な、同じ相手に──2度も破れるとは‥‥」
 叫びながら海に墜ちていくウルベルトであった。

 しかし、その頃、ラルの運命の舵を定めようとする影。
 ルシアであった。
「ラル、私はあんたを無理に引っ張ってでも、ミーミルの首を手に入れてやらなきゃいけない‥‥探さなきゃいけない人がいるんだ。悪いけど利用させてもらうよ。
 流されてばかりじゃ‥‥‥‥何も、出来やしないんだ」
「探すべき──‥‥人?」
 ラルが茫然自失としている中、彼女の手を握り締める──強く握り締めるルシア。
(また、流されている‥‥このまま私は人のコマで終わってしまうの? それとも‥‥)
 思考する彼女の脳裏にフラッシュバックする血塗れのハロルドの姿。
(あんな未来、見たくない! 運命が決まっていてたまるものか──運命は変えられる。)
 一方、アクセルはイレーネと向かい合っていた。イレーネ(ランディ・ランドルフ(fa4558))は教会神聖騎士である素性を隠し、エイリークサイドに参陣していたため、更に男装であることを隠し通すべく、良く鍛えられた細身の身体の上から更にマントを羽織っている。
 ラルがルシアに手を曳かれて戦場を突っ切っているのを見て、バルガスも声をあげる。
「ルシア‥‥何を隠している? この際、若長と俺に包み隠さず話して貰おうか!
 言えぬとあらば、こちらもそれ相応の態度に出ざるを得ないからな!」
 そこへオーディンの祠から『鍵』を取ってきたアクセルが合流する。
「わりと楽しい事さ! 俺にとってはね」
「──‥‥」
 そこへ横合いから銀色の疾風が襲いかかる!
「エイリーク、貴様──か!?」
「やっかいなコマは潰すのに時間がかかるのでな。不意打ちをさせてもらった」
『無髭公』エイリーク、銀色の魔狼の姿がそこにはあった。
 しかし、次の瞬間、エイリークは双手にそれぞれ持ったスクラマサクスで、自らを襲うナイフの正確な投擲を、はじき飛ばす。
 しかし、3発目の短剣がエイリークの頬をかすめる。
「ハロルドか! しばし、見ない内に出来るようになったか!」
「ふ、伊達に俺と山に籠もって猪と戯れていた訳ではないからな」
 バルガスの言葉にハロルドは盾を構えながら──。
「バルガス、ここは任せて」
 同時に、長剣を抜き放ちエイリークに相対する。
「ふ、猪相手に大口の修行でもしたのか? ファゾルト、この小僧はお前に任せる手足を引きちぎるなり、オモチャにするなり好きにしろ」
 ファゾルトはその言葉に──。
「へへへへ、壊れたオモチャを捨てるときの快感知っているか坊主? 女も知っていそうにないもんな、特にオモチャを捨てるときの快感は自分で壊した時の方が格段も上だぜ。さあ、綺麗な肌を何処から剥いてやろうかな?」
 エイリークが振り返り自分のロングシップに飛び乗ろうとしたとき、かすめた刃の血を拭うと、そこから黄色い肌が広がっていったのを知るものは居なかった。
 一方、追いついてきたイレーネに対し、ルシアは向き直ると──
「商人に喧嘩売る時はよく考えなよ?」
「何を──」
「あんたの噂は情報収集済み、だがね北欧じゃあ2番目だ」
「じゃあ、1番は誰だって言うの?」
 思わず唾を飲み込むイレーネ。
「さあ? 知らない。だから、言ったでしょう、特に商人相手に押し売りは利かないからって。じゃね♪」
 と、ロングボートに乗り込む。
「これがさっきのゴタゴタに紛れて持ってきた、ミーミルの首の鍵だ」
 先に乗り込んでいたアクセルが言いながら、逃走経路(?)であるオーディンの祠にあった、一枚の木の葉を模した、銀板がルシアの手にある。煤け汚れて、とても神体とは思えない。
「さて──始めるとするか」
「バイキングの輩が!」
 イレーネが舵にしがみついたままで声を上げる。
 そんな光景を見てルシアは──。
「ああもうしつこいっ! これだから『神の声』とやらがあれば、損得考えず動く聖職者って奴はっ!!」
「主の御心を無下にあしらう蛮人め! 主は決して罰せぬ故に、我らが貴様達を断罪する!!」
「てっことは、あんただが、教会が、主は罰せぬとかいってるのに、勝手に罰して回っているって事? 教会って言動不一致!?」
「気にするなルシア、間もなく終わる。これの鍵を持って、運命の女神──ノルンの加護を受けた──あんたと一緒に沖の所にあるこの赤い岩、海底に眠るミーミルの首を祀った神殿の上で呪文を唱えるだけだ。呪文はお前が唱えろ、こいつの相手は──俺がする」
 とジャマダハルで捌きながら、打撃技主体のイレーネの隙を伺う。
「悪いが素手で挑んでくるヤツの相手には慣れてんだよ」
「怪しげな武器を」
「魔法でも何でもない──さ、ただの人間の知恵だよ‥‥行け、ルシア! 呪文を唱えろ!!」
「判ったわ、アクセル! 『アブトル、ダムラル、オムニス、ノムニス、ベル、エス、ホリマク!
 われとともにきたり、われとともに滅ぶべし』」
 次の瞬間、赤い岩から閃光が走り、一筋の柱となって天空に突き刺さった。
 アクセルはその光を背景にイレーネに宣言する。
「さあ、これが『過去、現在、未来、好きな場所を覗きたいだけ覗ける』知恵の神ミーミルの加護の顕現だ! 教会がうるさく言おうが、他のバイキング連中が何を言おうが、何だろうが──真実は曲げられない」
 イレーネが歯を食いしばる。
「異教徒め!」
 その光景を見ながらエイリークはほくそ笑んだ(ミーミル、オーディン、ロキが三位一体という事も知らぬ愚か者達が、我がそこに行くまでに僅かな未来を楽しむがいい)。
「何が楽しい、エイリーク!」
 ハロルドが出来た隙に鋭い打ち込みを入れる。
 辛うじて、捌ききるエイリーク。
「全てだよ。全てが滑稽で楽しくてしょうがない。少なくとも復讐より何乗も楽しいことさ」
 轟音と共に、海が荒れ始めた。天には雷、大地には震撃!
 かくして、ミーミルの首の封印は解かれたのであった。

●アンダチュア
「さて、中盤から後半にかけて、撮影は終わって、後はクライマックスだけだが‥‥」
 WarCry監督ファーナス・王(fz1002)がとりあえずの撮影終了を宣言すると、フェイロンは笑って。
「そういえば、去年の年末年始はヨーロッパでしたっけ?」
「そうだな、行ってもいいのだが、仕事で行った後に行ってもあまり感慨は湧かないな」「そういえば、玲花さんとはどうなったの?」
 と、ファーナスに続けて、リューキが尋ねるが、フェイロンは苦笑いを浮かべるだけであった。この程度なら遠距離恋愛の内には入らないのだろう。
 一方、運は──。
「『そういやお前等に見せるのは初めてだったな、特別だ。ファフニールの継嗣の力、存分に見せてやる!』っていう素敵台詞があったのにな、獣化は駄目?」
「前の映画はみんなで獣化する為の設定を作っていったが、いきなり伏線も何も無しに獣化されても困る」
 運が獣化しようとした所を、ファーナスが念じて、完全獣化を妨げていたのであった。「それに服が破れるだろうが──新井くんが泣くぞ」
 小道具作成は新井のセンスひとつにかかっている。
「ねえ、獣化して何か映画にメリットある? アクションシーンが派手になるけど、こう言われるよ。ああ、ファーナス・王はついに自分の作品までパクリ出したか‥‥ってね」
「リューキ、そこまで言うか?」
 情けなさそうな声のファーナスだが、メガネをかけた(ヨーロッパロケの時に遠視の気が出たらしい)リューキはあまり黙らなかった。
 燐は映画の中とは対照的に花の咲いたような笑みを浮かべ──。
「映画の中では笑えないので、大変でした。本当に笑えるの?」
「さあな、それは映画の神様に聞いてみなければ判らないな」
「大丈夫、きっと笑わせてみせるよ」
「それには自分も北欧神話の知識をつける必要があるかもしれませんね。言葉の意味も判らないでやっているのは恥ずかしいですし、簡単に検索も出来るのですから、自分で調べて損はないですよね?」
 と、メガネをかけ直す燐。一方、モヒカンは禿頭に緑色のモヒカンを被り直し──。
「やっぱり、あの台詞はまずいであるか」
「というか、子供に見せられなくなる。よい子のみんなが見られず、TV放映も出来なくなる。あの程度で満足しておけ──あれでも残忍さは伝わるはずだ。
 そういえば、聞こうと思ったのだが、8割の人間にやられた事で爽快さを与えるキャラを目指すと言っていたが、残り2割にはどういうリアクションを返して欲しい?」
「むぅ、出来れば快感を──」
「やめとけ」
 ランディもさすがにあの台詞は危ない、と思った人間のひとりである。
 別に役作りではない、単純にアクション作品としてはマイナスのイメージが強すぎると感じたのである。
「さて、よつ巴の戦いの中で只ひとり船もなければ、仲間もいないワイルドカードか?」
「というより、コンピュータRPGのモンクじゃないんだから、素手で戦うのは無理があるだろう? まあ、キャラクターを立てる上では成功しているがな。一種類の武器はひとりしか使わない。その点で素手という選択肢は有り難かった。しかし、本当に北欧ロケやっていたら、心臓麻痺で命を落としていたぞ」
「少々の無理は覚悟の上だよね。ランディ? なんと言ってもスタントマンなんだし。きっと、多少でも大丈夫だよ」
 等と言いながら、半獣化した久万莉は尻尾を振る事でバランスを取って、はしごに登りながら、巨大な樅木のクリスマス・ツリーの飾り付けをしていた。
「ミーミルの首に、オーディンオーブ、エトセトラ、エトセトラ、アーンド、ケミカル・エーックス」
 小道具担当の彼女はツリーに映画制作に当たって検討すべく作られた撮影初期の試験打ちの小道具をぶら下げて微妙もとい奇妙に怪しげな雰囲気を漂わせている。
「リューキ君? 着替え終わった?」
「あ、あ。はい、久万莉さん、着替えは終わりましたけど──」
「じゃあ、出てきて☆」
 といって出てきたのはミニの半ズボン姿というより短パン姿のサンタクロース姿をした少年であった。もちろん、中身はリューキ・王そのひとであり、当然美感上の点から髭はない。
 ひさりぶりに覗く綺麗な白い脚が眩しい、と思えるのはしばらく、バイキング姿で脚を隠していたからであろう。
「やっぱり、似合ってるわ、思った通りよ〜」
「思春期をオモチャにして〜! ぐれてやる!」
 ここまでリューキにフィットした服を作れたのも、以前のリューキが女装した時の服の型紙を流用したからである。
 そんなリューキをスラッジは肩車して強引にツリーの元に連れ戻し、ファーナスの元に下ろす。
「リューキ、誰にでも思春期はある。問題は、それをどう越えるかだ」
 スラッジはリューキの肩を力強く叩き、輪の中に押し戻す。
「メリークリスマス。リューキ・サンタ。よい子の俺にも何かプレゼントくれよ」
 今回出番の無かったイワンさん、有色人種は神の加護を受けているという作品上の設定があるが、彼の演じるところのイワンはいきなりの参加という事もあり、何の神の加護を受けているかは未定のままとなっている。
 もっとも台詞もなかったので、絡ませようがなかったというのが事実上の所だが。
「ツァーリくん、スラッジくんにも以前言ったが、単なる斬られ役を俺は求めていない。自分で役柄を考えて、自分の脚で立って歩ける人材が必要なのだ」
「そうか、監督」
 そういったきり、イワンさんは黙りこくった。
「で、ルーク」
「俺の方にばかり勢力があつまった件か? それはストップをかけなかった監督に責任がある。こちらのせいにばかりされても困ったものだとしか言い様がない」
「で、どういうオチを考えている?」
「今のところはエイリークがロキの加護でミーミルの首と完全シンクロ、未来を見た攻撃で圧倒するが、しかし、ラルの見た未来が変わることで決定された未来など無い、という様にオチをつけようかと考えている。月並みだがな」
 しかし、聖夜の晩は静かに進んでいった、大半のメンバーがアルコールで乾杯し、リューキを初めとした面々がノンアルコールのソフトドリンクが注がれたグラスをぶつけ合う。
「リューキ君、何かプレゼントくれないかな?」
 久万莉があえてオプションとしてつけた、サンタのラージサックを持って、時間的によい子はお開きの時間になると消えていく半ズボン姿のリューキ達の後ろ姿を懐かしそうに見るが、それもつかの間、運と向き合う。
「そういえば、お姉さんからの借金返せた?」
「ピ・ピ・ピ・ピ!、イッタイナンノコトデショウ? ゼンゼンワカリマセン、データエラー、データエラー」
 途端に宇宙からの電波を浴びた状況に陥る運に久万莉は憐憫の情を隠せなかった。
「まあ、これで年長者組は完全に俺の配下になったな」
 酒を呑んでいても、ほほに朱のひとつも昇らせない、ルークを前に何故か、大半を占めているエイリークの部下連中となって集っていた。
「ファーンにはああいったが、自分はハロルドを倒して、燐──いや、ラル──の身柄も手に入れて、ミーミルの首を完全に制覇するつもりでいる。もちろん、お芝居の上でだがな」
「──本気のつもりだったら物騒すぎるがな?」
 イワンさんはぼそりとつぶやく。
「まあ、アドリブが行きすぎたという事で押し通す積もりだ。
 いいか、あくまでアドリブだ。計画的なイタズラにしても、話を最初から台無しにするつもりはなかったと言い張れば、ファーンは間違いなく折れる。この俺が保証しよう、問題ない」
 ルークは唇を釣り上げて笑みを形作った。
「そう、あくまでアドリブだ」
 香港の夜は静かに過ぎていった。
 そして、時計の針通りに時は動きてゆき、2007年の最初の日を迎える事になる。
 WarCryの上映される予定の年である。
 WarCryがいかなる評価を受けるか、それは銀幕が閉まりきるまで判らない。ファーンの評価が待たれる年であった。