ヤクザバスターズアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 成瀬丈二
芸能 2Lv以上
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 2.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/09〜11/11

●本文

「──という訳でだ。私の番組の撮影を邪魔する輩がいる」
 とある、三流中国映画の監督はスタッフ一同に告げた。
 リアルな任侠映画を撮ろうと、わざわざ日本までロケハンに来た共産主義の申し子である。
 日本ならではのリアルさを追求しようとしたのが、裏目に出てか、緻密な取材が地元のヤクザの不興を買っているのだ。
 監督の背後には、特上寿司100人前に、20インチ・スペシャルデラックスピザ50枚の残骸が横たわっている。
 スタッフは総勢20名程度である。一同は過剰なカロリー消費をこの一週間程強いられているのだ。
「これ以上、ヤクザに撮影妨害される前に、ヤクザの事務所を叩き潰す!」
 監督は握り拳を垂直に振り下ろし、机を叩いた。
 当然痛い。
 監督は拳に息を吹きかけながら不敵な笑みを浮かべる。
「その上で、芸能界を嘗めた連中にお灸を据えてやれ──中華五千年の怒りを見せてやるのだ!」
 扇動する監督。
「ぶちのめせ! 芸能業界に逆らった報いを見せてやれ!見敵必殺! 掃滅せよ!」
 自分達が相手をするヤクザ達は、郊外のうち捨てられたボーリングセンターに居を構えているという。
 その数、十人あまり。
 連絡用に、電話線は引いておらず、各人が携帯電話を持っているようだ。
「無論、立ち会いとなれば撮影して売り出す。深夜番組だが、放映するのだから、諸君には謝礼と、怪我をした際の危険手当を出す。何──番組のタイトルだと? 野暮な事を聞くな? 今考える────決めた、ヤクザバスターズ“氷の処刑台”だ」
 そして、おもむろに監督は立ちあがると、今までの光景を写していたカメラに向かって、オッケーサインを出した。
「オッケー。これでこのカットの収録は終了だ。“メイキング映画風ドラマ”、ヤクザバスターズ、最初の掴みはオッケーだな」
 言って監督は拳に再び息を吹きかけた。
──カット3スタート

●今回の参加者

 fa0027 せせらぎ 鉄騎(27歳・♂・竜)
 fa0179 ケイ・蛇原(56歳・♂・蛇)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0722 神凪・真夜(27歳・♂・蝙蝠)
 fa1005 ポップンスクワール(17歳・♀・リス)
 fa1312 彩都(27歳・♂・獅子)
 fa1782 森宮・千尋(22歳・♀・狐)

●リプレイ本文

「そうか? 今の食糧事情も悪くはないと思うが」
 普段は赤貧、洗うが如しのコート男、せせらぎ 鉄騎(fa0027)の言葉に、目をつり上がらせて、いきり立つ森宮・千尋(fa1782)。
 1週間も高カロリーを摂取させられ千尋の怒りは爆発寸前であった。
「もういや! これ以上食べさせられたら、ふられちゃう‥‥」
 言った彼女が視線の先に見たものは──借りてきた猫、もとい借りてきたリスの如く佇むポップンスクワール(fa1005)の姿であった。
 三本ロープのジャングルが相応しい彼女はいつもと違って、撮影の打ち合わせが出来ないため、能動的に行動できず、皆の裁断を待つばかりであった。
「だから、香港映画界所属。第7世代型対任侠決戦兵器! ヤクザバスター! っていうのが正式タイトルじゃないんですか?」
「なによ、その意味不明のフレーズは? 女をなめてると怖いんだから──って何よ運君、その格好は」
 次に千尋のやり玉に挙がったのは竜人として黄金の鱗を完全に露出させ獣人化した九条・運(fa0378)であった。
「いや、なに。監督に問い質したい事があってな。最初に確認しておきたい、何処までがフィクションで何処までがノンフィクションだ?」
「全部フィクションだ。実体験はあるがな──」
 本物の監督は手短に応える。
「何となくだが本気で彼等の業界でも下っ端な自由業の人達と抗争になってる気がするが‥‥気にしたら負けか!
 俺は全然気にせずやらせてもらうぜ!
 その証拠に全裸になって完全獣化して股間に『私は着ぐるみです』って自主規制を兼ねた丸い紙を貼っ付けておいて作業の手伝いや演技をやるからな!
 なお獣化は絶対に解除しない!」
「じゃあ、WEAに計らって貰って、年齢の方は適当に誤魔化すか、キャスティング表にダミーの名前を流すようにしてもらうか──流石に、未成年者を仮にも全裸で出していた、等という事になっては私の監督人生にも傷がつくのでな」
「じゃあ、助監督役よろしく頼むね」
「任せろ」
 俳優の監督役が鱗が盛り上がって肩当ての様になっている肩を叩く。
 運が演じるは着ぐるみ着て置物Aを演じる羽目になった助監督の役である。
 助監督とは名ばかりで、監督のパシリ以下の下僕と化してしまっている助監督の哀と怒りと激情の八つ当たりを、自由業ちっくなエキストラの方々にぶつける、というのが運の方針であった。
 そこへケイ・蛇原(fa0179)が朗々と口上を上げる。
「おはようございます! 劇団クリカラドラゴン座長、ケイ蛇原でございます。
 さて。歳のせいで体力には余り自信がございません‥‥。
 しかし任侠ものには興味があります。ヤクザというものをその身に吸収できれば幸い。
 年より10は老けて見られますし、偉そうな舞台監督役に収まりたいかな、と」
「オッケー、宜しく頼むよ、体力だけが勝負でないという事を若い連中に思い知らせてやってくれ」
 監督役の俳優が告げる。もう、カメラは回っているのだ。
「さて、皆さんは私の案通り、囮でおびき出した後、不意打ちを与えて、数を滅した所で乱入、挟み撃ちにする事になるのですね」
 舞台は変わってボウリング場。ケイさんは表の囮をしたり顔で眺めつつ。
(人数が多いからやられる可能性低いだろう)
 などと自分でモノローグを入れつつ。
 神凪・真夜(fa0722)は及び腰のふりをしつつ‥‥。
「え、そんなのスタントマンの役じゃ‥‥」
 といいながら、スタント衣装を着込み、ノリノリな面を見せていた。
「やれ」
 監督役の俳優の一言に──。
「認識した、我が主‥‥もとい監督」
 神凪は充足した様な表情をカメラ目線でしながら呟く。
「こういう荒事は嫌いじゃないんです」
 それを、笑いながらヘヴィ・ヴァレン(fa0431)も独りごちる。
「やれやれ、金の為とはいえ、トンだ事に飛びこんじまったな」
 自分の役回りは、ヤクザ対策に雇われた臨時警備員兼雑用。
 だが、前のカットで──。
「だが、貴様も男なら戦ってこい、戦って死ね!」
 などと、逆上した監督により征伐に駆り出される。
「撮られんのは本望じゃねえが‥‥ま、仕事となれば仕方無えわな」
 ボウリング場の前で千尋が操る車がエンストしたフリをして、停車するとヤクザ役のエキストラが銃刀法違反なシロモノを片手に近寄ってくる。
「どうしよぅ車が‥‥困ったわ誰か助けてくれないかしら。ああん、困っちゃった‥‥女だけじゃ心配だわ」
「女だけか‥‥安眠妨害しやがって! 体でそのツケを払って貰おうじゃないか?」
 そこへトランクがいきなり跳ね上がる。
 近づく彼らにサプライズを与えるのは助監督もとい運であった。 照明に映える黄金の竜鱗。
「監督のボケだけならともかく、てめえらまでに、構っている暇はないぜ、地獄に堕ちろ!」
 パワーボム、ラリアット、プロレス技っぽい大暴れが乱射される。
 そこへポップンスクワールが華麗な空中技を披露する。
「リスの星と、正義とカロリー消費の為に!」
「やるわね、食らえ美術班特製、爆弾ボールよ!」
 言って千尋もボーリング玉を転がす。
 オンエア時は爆発のエフェクトが合成され、吹っ飛ぶヤクザの面々。
 それを見ているケイさん曰く。
派手にボコってる後ろでいけ、やれとだけ言っている。
「さすが“俺”のスタッフ!」
 とか抜かすのであった。
 裏に回った彩都(fa1312)は表の騒動に不敵な笑みを浮かべながら。
 役柄は『ヤクザ達に演技を邪魔されてむしゃくしゃしてる俳優』ってとこかな。
 と、自己紹介しつつも。
 一応、俺も強面ではあるので、それなりに見た目では負けない‥‥かも。
 と、自負していたが、見た目の強面ぶりはともかく、台詞の下劣さでは向こうが一歩上だった。
 だが、それでも‥‥。
 ヤクザに弾丸を撃つ振りをしてもらって、それを後にCGで弾丸を跳ね返した様に描写する。
「ほうむらん希望者は誰だい?」
 アヤは不敵な笑みを浮かべながら、握り拳状の物を金属バットで叩きつける。
 オンエア時はここでフラッシュが焚かれたようなエフェクトが合成される。
 スタングレネードという事で小道具さんに発注してもらったものだ。
「プレゼントだ」
 同じく裏に回ったヘヴィが窓を破って手榴弾(模型)を放り込み、炸裂音を聞いた頭の悪いヤクザが集まってくる所へペンキをぶちまける。
「“俺”の作戦通りだ」
 ケイさんが勝ち誇る。
「つーか、何にもしてないだろう」
 運が呟く。
 ちなみに表で銃を撃った者はおらず、彼のせっかく準備しておいた木の棒の使用は次の機会となった。
 生き残りヤクザは3人。
 鉄騎曰く──。
「勝ったら見逃す。負けたら、さようなら。だ」
 冷静にスイングアウトしたシリンダー眺めつつ、掃除を始める。一通り終わったところで、ボス格を引き摺りだして座らせる──正座で。
 次におもむろに没収した銃から弾丸を抜き、一発だけ装填‥‥するフリをしてシリンダーを回し、己のこめかみに銃口を付け。引鉄を引く。
 ロシアンルーレットの幕が上がった。
「さて、お前の番だ」
 鉄騎が差し出した銃を取ると、おもむろにヤクザは鉄騎に向かって銃を撃ち放つ。
 撃針が叩くべき、雷管は当然ない。
「悪運ばかりだな──ゲームを続けよう」
 言って、今度は一同が押さえつける。ヘヴィは冷笑したままだったが。
「た、助けてくれ」
「言う前に引金を引け──今度は俺の脳漿をぶちまけるかもしれんぞ。ああ、特別に2回引かせてやろう」
「お、お前ら正気じゃない」
 鉄騎は最後の一発まで残し脅す。
「さて、弾が出る確率は1/6から6/6まで跳ね上がった訳だが、気分はどうだ?」
「俺を殺したら──お前ら芸能界で生きていけないぞ」
 神凪はそんなヤクザに微笑を浮かべ言い放つ。
「芸能界も怖い世界なんですよ──ここがあなたの氷の処刑台です」
 そしてトリガーが引かれた。
 カチリ。
 撃針は雷管を叩く事はなかった。
 それでも、ヤクザ役は失神の演技を続けていた。
「ミッション・コンプリート」
 ヘヴィが渋く呟いたところで、ケイさんが──。
「俺の作戦通りだ、なって当然。出来なきゃお前らが無能なだけだ」
「オッケー、撮影終了」
 本物の監督の声がかかるとケイさんは態度を変貌させて。
「いやー、皆様、大変でしたね。恐悦至極でございます」
 ヤクザ役のエキストラも立ち上がり、鉄騎に握手を求めてくる。
「ホント、マジで殺されるかと思いましたよ? 知らなきゃ、ちびっていたかも」
「そうか?」
 一方で、千尋は運の服の着替えを取るべく、車を走らせるのだった。
「本当に最近の子は──」
 ヤクザバスターズ〜氷の処刑台〜放映後にこの監督の倉庫に黄金竜の着ぐるみを盗もうとして潜入したチンピラが捕まってスポーツ新聞で報道されるのはまた別の話である。
 結局、獣人という言葉は人々の口に上る事はなかった。