夜歩くモノアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
成瀬丈二
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芸能 |
フリー
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
4.5万円
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参加人数 |
12人
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サポート |
0人
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期間 |
11/30〜12/05
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●本文
「精しい経緯は分からないが、この山中にナイトウォーカーに“汚染”された熊が潜伏したようだ」
と、あるCM制作会社のプロデューサーはサングラス越しに居並ぶ獣人達を見下ろす様に宣告した。
「実はこれから一週間後にその現場近くでCM撮りを行う事になっている。コスプレ喫茶の──だ。
ここにいる賢明な諸君ならば判ると思うが、メイク代を浮かす為、撮影されるコスプレイヤー達は半獣化した、諸君らの同胞だ」
そこで、プロデューサーは一呼吸置いて、皆に対して宣告する。
「ナイトウォーカーの餌は我ら獣人。牙無き獣人の為に、自らを囮にして、その“元”熊を処分しろ。金がかかっているのだ、できんとは言わさん」
山を封鎖する期間は撮影開始までの6日間と日限が切られた。
この間は一般人は入ってこない。
「最後に一言──死して屍拾う者無し。だが、生きていれば、病院の手配くらいはしてやる。データには残らないがそれもまた芸能界に身を潜めた獣人の定めだ」
カット4スタート。
●リプレイ本文
「予め必要になりそうな道具はスポンサーに準備してもらうとして、荷物は少なくまとめ動きやすい服装を心がけるのじゃ。負担になるようなら、わしが通信機は持つとしよう」
大河 静(fa2334)は年長者として、一同のまとめをする。
「班分けは、A班は──右京、終無、ゼクスト、わし、緑川、和磨。B班は、アジ、冬月、御剣、水守、九条、琢磨じゃ」
言ってタイガは一同を見渡す。
「他の者に異存が無いなら、拠点を設置し、地形の把握に1日、索敵と存在のアピールに2日、囮作戦を念頭に入れた探索に2日、アクシデントや体力の消耗が酷い者が出た場合に備えて1日フリーの日をといった感じでいきたいのう」
この時点で漸くサングラスを外す御剣緋色(fa2025)。紅玉の如き紅い瞳を覗かせる。この一団では最年少であるが、いささか年よりも大人びた印象がある。
「さすがに水は難しいか‥‥」
バックパックに依頼期間中の食料と水。それに毛布を詰め込もうとするが、水は予想以上にかさばり、断念せざるを得なかった。
竜人に半獣化した水守竜壬(fa0104)は悪態を誰にともなつく。
「熊退治は俺の管轄じゃないんだが」
しかし、本心は楽しそうに完全に獣化した一同からは見て取れる。
女のためと公言して、尚かつ周囲の女子、下は十代後半から、上は四十に至るまで、声をかけまくる等、ストライクゾーン、あるいは懐の広さを伺わせた。
そんな竜壬に声をかけられたアジ・テネブラ(fa0160)は囮作戦を提唱していた。
「キャンプ設営時は片方の班が待機して、本拠地への襲撃を防ぐようにしては?」
アジの意見は、タイガとは異なるが、最終日に両班による囮作戦で攻撃に参加。
仲間割れをしたように見せかけて囮作戦を実行するのがベターかと思われる、であった。
とは言うが、終無(fa0310)が呟く。
「人生の最たる目的は如何に退屈を凌ぐかですしね。時に命をかけるのも悪くない。所詮人生は緩慢な自殺みたいなものですし」
その虚無的な言葉を言い替えれば──。
「要は退屈な期間を一日先延ばしにしても仕方ないでしょう」
言って、蛇腹‥‥文字通り蛇の腹だ‥‥をうねらせる。
冬月透子(fa1830)はアジに対し。
「私は前、何もしない内に他の方が事件をあっさり片づけてしまいましたけど、いつも誰かが助けに来てくれるわけではありませんし。それとナイトウォーカーに“仲間割れ”という概念が通用するほど、知性があるか怪しいです」
頭を掻きながらゼクスト・リヴァン(fa1522)はアジに向き直り──。
「何かみんなして、あんたの意見を潰している様に見えるけれど、誤解しないでくれよ」
「とにかく、今回は遠慮は要らない。見敵必殺、確実撃破だ。戦うすべなき同胞たちのためにも、確実に撃破しよう。そして愛すべき者たちのところへ帰り着こうぞ」
ビシッとした口調で、竜人に半獣化した緑川安則(fa1206)が断言する。あたかも新兵をしごく鬼教官の様な口調であった。
思わず九条・運(fa0378)も居住まいを正す。
「やっぱり、声優の本職は迫力が違うな‥‥しかし、冬眠前の掴入れ時に憑かれるとは憐れな熊だこと。
まあ、せっかくなので冬眠を通り越してそのまま遙かな眠りの旅を捧げてやるぜ!」
黄金の竜人形態のまま、運は断言する。
藍染 右京(fa0566)は一同に頭を下げる。特にタイガに対して。
「ともあれ、お世話になります。‥‥はゎっ‥‥ごめんなさい」
と、大汗を掻きながらのご挨拶。
「それにしても、熊‥‥大きいのでしょうね‥‥。
私は皆様の足手纏いにならぬよう気を付けなきゃ」
捜索にはサーチペンデュラムを使用したいと思うと、懐からブツを取り出す。
「この場合は‥‥熊を想像すればいいのかしら?」
言って、彼女はあらかじめ山に入る前に購入しておいた地図の上にサーチペンデュラムをかざして熊を探し始めた。
「上手く地図上で示してくれると良いのですが」
しかし、反応は無かった。
「これからの捜索で見つからなかった場合はキャンプ地に戻って囮作戦のようですね」
「‥‥私、囮くらいには役に立てるかしら? 1人の時間など出来る限り作ってみましょうか」
目つきの悪い、陸 和磨(fa0453)は、似たような目つきの鋭さを持つ、陸 琢磨(fa0760)に無理矢理引き摺られて、この地に立っていた。
「えっと、ねぇ、‥‥俺、囮なの!?」
と汗を吹き出し、流す滝の如き涙に返るは沈黙。カズマの口から漏れる言葉は──。
「やっぱり確定なの、ねぇ!?」
一方、沈黙するタクマは胸の中で考え事をしていた。
彼がこの依頼に参加した目的としては2つある。
1、NWに関しての再認識。
2、NWに対し自分がどれだけやれるかの再認識。
前者の理由としては自分のやるライブ等でNWが出た場合の対処法を練る為だ
後者の理由としては自分がどれだけNWに対して対処ができる物なのかが分からなければ、後々襲われた際に何処まで無茶が出来るのかが分からない‥‥。
そして、タイガの腹案通り捜索と、その下準備が始まった。
まずは地形の把握から始まり、いざ戦いとなった時にナイトウォーカーをおびき寄せる場所のピックアップと、そこまでの誘導経路の確認で1日が潰れた、そして、2日目‥‥3日目‥‥、そして4日目の夜であった。
竜壬の視界に、まるで緑色の蝦蛄を無理矢理、熊という鋳型に押し込めたような異形の存在が姿を現した。
凶暴そうな爪が印象に残る。
視線が合った──。
早速に囮部隊がちらつき、獣人を食らうものを川の近くの広場へと誘導していく。
竜壬が一番近かった以上、まずは食餌の対象は竜壬となる。
とりあえず、全力飛行で距離を取り、完全に獣人化する。
その間にアジの波光神息が刹那で撃ち込まれ、竜壬とナイトウォーカーの間合いの読み合いとなる。
そこへ終無が白蛇に半獣化したまま、日本刀を振りかざして乱入してくる。
「さて、何分割がお好みです? 盛大に、凄惨に、精彩に終幕といきましょう。永遠などは地獄でしかないのですから」
しかし、甲殻は厚く、据え物斬りとは行かないようだ。
したたかな反撃を被る。
熊の膂力にナイトウォーカーの爪の鋭さも相まって深傷を負ってしまう終無。
普段のデカダンな様子とは打って変わっての粗野な口調であった。
更に空中の利を活かした運が気合いを仕込み傘に滾らせて、核らしいふくらみがある、眉間へと突貫する。
「冥土の土産だ。内巧派の剣士が刃を執る、その意味を身体で知れ!」
しかし、急所はぎりぎりで逸らされる。全開で羽ばたいていた翼を推力にギリギリまで核を削り取ろうとしても、筋肉と甲殻に阻まれ、そうはいかない。
しかし、全力の突撃もナイトウォーカー熊の強力に振りほどかれ、運は地面に投げ出され、ナイトウォーカー熊に踏みつけられる。
カズマもクリスナイフで核を狙うが、如何せん直立したナイトウォーカー熊相手ではリーチが届かない。
手の甲で薙ぐように叩かれ、やはり弾き飛ばされる。
右京は彼らのフォローに必死に入る。治癒命光の力だ。
しかし、この力も1度使えば、肉体の治癒力が活性化している1時間はかけ直しが利かないというデメリットがある。
「良くもカズマを!」
タクマは興奮に左目尻の傷を浮かび上がらせ、激情に駆られる。
トランシーバーから声が流れる。
「各員に通告。目標確認、交戦圏内に突入。奇襲攻撃を仕掛ける。支援よろしく!」
やーくんであった。
しかし、激情に駆られたタクマには聞こえない。一点狙いの核は遙か頭上。多少ナイフでリーチが増えた程度では届く筈もなかった。刑意拳でフォローしようとしても、上背はいかんともし難い。
そこへ‥‥。
「緑川安則、推参ってな。悪いが熊公。死んでくれや」 やーくんが頭上から、アウトドアナイフを投げ、牽制した所に模造刀で空中から突貫をかます。
だが、ナイトウォーカーの頭脳には牽制に引っかかる程の知性も無かった。ナイフは弾かれる。
「くそっ‥‥私は君を護れるほど強くならなければならないな‥‥だから、これぐらいの‥‥敵にやられてはならんのだ!!」
改めて体勢を立て直し、唐竹割りに持っていこうとするやーくん。
「男児の面目、元陸自の意地、穢されようとも愛する人を護れる力、得られればよいのだ!!!」
核を逸れた一撃は左の複眼を潰す。
「QWEEEEEE!」
ナイトウォーカー熊の絶叫。
皆の一点狙いに危惧を抱いたゼクストは叫ぶ。
「皆、核を潰すよりも、相手の動きを止める方が先じゃないか!?」
「コアが生きていたら、トランシーバーの電波を媒介に逃げられる! さて、これが本当の闇夜の鴉‥‥あ、お月様出てましたってね」
トーコが手製の槍で月を背にして、頭上から飛びかかる。
しかし、軽くかわされ、体勢を崩す。振りかざされる爪、緋色が割って入ってトーコを突き飛ばす。
血反吐を吐きながら叫ぶ言葉は──。
「帰る場所があるから、こんな所でやられてらんねぇんだよ、俺はっ!」
タイガもようやく駆けつけ、見事な息のあったコンビネーションの技の組み立てで、ナイトウォーカー熊を圧倒するが、決定打に欠ける。
アジが吠える。
「でかいのかますから、みんな退いて、10、9、8‥‥」
10秒間のタメの後、凄まじい光が迸った。
「‥‥もういなくなってよ!!」
動けなくなった所で、運が刀で核をえぐり取る。
次の瞬間、熊は肉塊状の『何か』となり、儚い命を終えた。
「‥‥何の罪も無いのに‥‥」
熊の屍を見てアジは悲しげに呟いた。
こうして、1匹のナイトウォーカーは撃退され、万が一情報生命体として寄生される可能性を考えて、各員のトランシーバーは破壊され、新品が支給された。
後にこの山でロケされたコマーシャルが撮影された事は言うまでもない。